《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》10 エルフのお客様②

遠巻きにしていた商人や街人たちから、嘆の聲がもれた。

エルフに対してだ。

このエルフは、今俺たちの目の前で火と水の2つの魔法屬を扱った。

それは、相當に珍しいことだ。

実は、それはエルフが人里に降りてくること以上に珍しい。

基礎屬と呼ばれる、基本となる魔には、

「火、土、水、風」の4つがある。

この基礎屬は4大魔法屬と呼ばれている。

そして1人の人間が自らの力で発することができる魔は通常、この基礎屬のうちから1つのみだ。

その主たる屬はもはや生まれ持った天賦の才能なので、天賦スキル同様に後からはどうすることもできないとされている。

さらには、俺みたいに「主屬なし」で。

どれだけ修練を積もうが、1つの魔すらも扱えないという者が世の中の大半だ。

ゆえに、1つでも主屬を所持し、修練によりその系統の屬を発することができるようになれば、それでもう『魔師』を名乗れる。

また余談だが、応用屬と呼ばれる「、闇」の、霊の力を借りて発する特殊な魔法屬も存在する。

Advertisement

これらは基礎屬の魔を習得した者が、さらに厳しい修練を積むことで初めて発可能になる。そしてその境地に至れば、それはもはや『大魔師』を名乗って良いレベルだ。

大火炎魔(テラフレア)を扱う、魔法剣士バージェスの主屬は間違いなく「火」だろう。

そしてさらには、霊の力を借りる「」の応用屬をも使用することができると思われる。

それはもはや、バージェスが魔師として大魔師級の実力者だということを意味していた。

このエルフに話を戻す。

このエルフは先程、魔書も用いずに火と水の2つの基礎屬を発した。

それは、本來はあり得ないことだ。

だからそれが、周りの商人たちの驚きをっているのだった。

ちなみに俺は過去に1人だけ、このエルフの他にも2つの屬る人に會ったことがある。

というかそいつと15年も一緒に旅をしていた。

勇者パーティの黒魔師であったルシュフェルド。

は「火」と「土」の2つの主屬を持った魔師だった。

Advertisement

→→→→→

そのエルフは、うめき聲を上げるごろつきたちを一瞥した後、俺の店の前まで進んできて立ち止まった。

さっき口を出したことについて、何か文句を言われるのだろうか?

もしかして、俺も今からあのごろつき達みたいに焼かれるんだろうか…

ロロイは。

エルフのすぐ脇で、すでにカイザーナックルを裝備して構えている。

「アルバスにさっきのをやろうとしたら、ロロイが許さないのです!」

このエルフが魔を使用するそぶりを見せれば、その瞬間にロロイが毆りかかるだろう。

俺の命は、護衛のロロイの実力にかかっていた。

「可い護衛さんだこと。…でも、先程火だるまにした方々よりは、よほど腕がたちそうですね」

「やるのなら…」

「護衛さん、拳を納めてください。私は爭うためにここまで來たのではありませんから」

そしてエルフは、俺の方に向き直った。

売りのアルバス様。なにか、良いものはございませんか?」

このエルフは、なぜか俺の名前を知っていた。

ガンドラとの一件以來、そこそこ名前が売れているのは確かだが…

エルフの隠れ里とか、そういったところにまで話が及んでいるとは、流石に驚いた。

「良いもの…とは?」

「あなた方がアース跡の最深部から発掘したという、古代の…」

つまりこのエルフは。

俺たちのトレジャーハント功の噂を聞きつけて、始めから俺の店が目當てでこの広場へ來たということらしい。

的に、どんなものを探している?」

とりあえず、有無を言わさず焼かれることはなそうだったので。俺はし強気に出ることにした。

「魔法系統の屬スキルのついた武。もしくは、失われた魔法屬の…古代の魔導書などを」

「そんな貴重なものを、ここで出す気はない」

「今ここに、50萬マナがございます」

そう言って、エルフのが腰の袋から、いくつかの封霊石を取り出した。

確かに、50萬マナ分程度はあるようだった。

「いかがでしょうか?」

そう言って、翡翠の瞳がすぅっと細められた。

たしかに50萬マナもあれば、十分に特級の相場に手が屆く。

実は…

俺は特級は全てオークションに出品する気でいたのだが、それは無理らしかった。

ガンドラによると「出品枠」というものがあるらしい。

そのため、初參加で貴族でもない俺が、手持ちの全ての特級をオークションに出すのは、まず無理だろうとのことだった。

どんなにうまくいっても2〜3枠程度の出品枠を確保できるかできないかというところらしい。

セット売りという手もなくはないが。

寄せ集めのようなセット品となると、おそらくは値段が付きづらい。

で、あれば。

相手が本気で買う気があって、それなりの金額を提示してくるのであれば、ここで特級を売ってしまうのも有りだ。

「なるほど…。本気なのはわかった」

ならば、こちらも本気で相手をしよう。

殺し合いではなく商談であれば、それは商人(おれ)の領分だ。

「今、鑑定が済んでいるもので、それに當てはまりそうなのはこの辺りだな」

そう言って俺は、4つの武と2つの魔導書をに見せた。

『アルフレッドの懐刀(屬強化・火)』

『キュレルの短剣(屬付與・水)』

『アルコギラの腕(屬・風/闇)』

『ガトラントの魔法の脛當て(屬・闇) 』

『古代の魔導書(失われた氷雪魔)』×2枚

『古代の魔導書(失われた雷電魔)』×2枚

は全て、鑑定士ガンドラによるアイテム鑑定に加え、スキル鑑定まで済ませただ。

周りの商人たちが、ざわざわとざわめいた。

魔法系統の屬スキル付きの武は、間違いなく特級に分類されるだろう。

そして、基礎屬でも応用屬でもない古代魔法屬の魔書も。相當に貴重なものだ。

今俺が出したものを全て合わせれば、どこで売ったとしても間違いなく50萬マナは超えるだろう。

そのエルフは「ここまできた甲斐がありました」とそう言って…

『アルフレッドの懐刀(火屬強化)』

『アルコギラの腕(屬・風/闇)』

『古代の魔導書(失われた氷雪魔)』

『古代の魔導書(失われた雷電魔)』

を選んだ。

「この4つで、おいくらになりますか?」

「そうだな。49萬マナ…だな」

俺は、懐刀は20萬マナ。2屬スキルの腕は25萬マナ。そして魔導書は各2萬マナだと、に説明した。

懐刀は相場で考えると15萬マナ程度だろうが。

火の屬魔法を扱う目の前のにとって、多高くても手を出したい代だろう。

々高くはありませんか?」

「俺が魔導書類の価値を高く見積もっているのだろう。これは、使い方によっては化けるはずだ」

わざと、懐刀とは違うところについての話を振ってみると、が食いついてきた。

「ですが、雷電と氷雪の魔導書は、他の跡からも度々発見されているものではないですか?」

「なら、他の商人から買えば良いだろう」

そのエルフは「ふっ」とし笑った。

「初めに手持ちを見せたのが間違いでしたね」

「何の話だ?」

俺は平靜を裝ってそう答えたが、

確かにの言う通りだ。

あれで俺は『このは50萬マナまでなら出す気がある』とわかった上での値決めができた。

本當なら、さらに上をふっかけて様子を見たかったところだが…

「では、全て合わせて45萬マナでいかがでしょうか?」

そこで、がいきなり4萬マナも値切ってきた。

魔導書分まるまるじゃねーか!

「あんたな…」

流石にそんなには引けないぞ?

そう言いかけて、やめた。

エルフのの、翡翠の瞳が真っ直ぐに俺を見據えている。

最初に5萬マナほどふっかけていたので、実は45萬マナでもまだ、俺の考える相場よりは高い。

このは…

おそらくは俺のふっかけた金額まで全部承知の上で、4萬マナを値切ってきている。

そうじた。

その上で、つまりは『1萬マナ分は花を持たせてやる』と、そういう事だろう。

言われるがままの話に乗るのは非常に癪ではあったのだが。

俺の5萬マナのふっかけを、ここであまり大聲で話されるのも合が悪い。

これで、お互いに気持ち良くしいものが手にるならば、まぁそれも良いだろう。

「わかった、商談立だ」

俺は、そこの金額で折れることにした。

「ありがとうございます。良い買いができました」

そう言って。

口元を隠したエルフは、翡翠の目を細めてにっこりと微笑んだ。

そうしてその日。

俺はスキル付きの武2點、魔導書2點と引き換えに、45萬マナを手にれた。

そのエルフは、購した武と魔導書を一通り検品した後、代金分のマナを置いて去ろうとしていた。

「未鑑定のはまだまだある。そちらにまだマナがあるなら…また日を改めてくれればそれらも紹介できるかもしれない」

去り際のエルフに、俺はそう聲をかけた。

俺がエルフの値引き渉をれた1番の目的はここだ。

出品數に制限のあるオークションで、全てのを売り捌ける訳ではない。

そうなれば。

50萬マナをポンと出せるような客は、エルフだろうと何だろうと、貴重な上客に違いない。

ここでマナにこだわって決裂するより、次に繋げる方が何倍も価値がある。

エルフはそれには答えず。

小さく一禮をして去っていった。

何人かのごろつきが後を追いかけようとしていたが…

エルフに睨まれて引き下がっていた。

→→→→→

「ふぉぉぉぉおおおおーーーっっ!!!!」

そして、ロロイ大興だ。

「よくわからなかったけど、すっごく高く売れたのです!?」

「よくわからなかったのかよ!?」

思わず聲に出して突っ込んでしまった…

「屬スキル付きの武なんて、初めて見たぜ」

「くそぉっ! 俺も今からアース跡に挑戦するかぁっ!?」

周りの客達も大興だった。

人里に現れたエルフの話と共に。

俺のの販売金額がかなり大きな話題となっていた。

俺は勇者パーティにいる時に、中央大陸で何度も特級の売りを経験していたので。

の相場観は持っていたのだが…

キルケットの商人たちからすると、その金額はかなりの高額に思えたようだった。

→→→→→

その夜。

「マジ…か」

本日の売りの金額である45萬マナの1/3である。15萬マナ分の封霊石を手渡すと、クラリスのけ取る手が震えていた。

「600萬マナを貯めるんだろ? 15萬マナくらいでビビっててどうするよ」

「あ、あぁ…」

ロロイは、バージェスとクラリスに向かって。

何度も何度も俺とエルフの娘とのやり取りについて話していた。

はなしながら思い出して、また興度が高まっている様だった。

ロロイ大興再び、だ。

だが今日の一件では、実は俺もかなりの手応えをじていた。

スキル未鑑定のはまだまだある。

ガンドラの鑑定と共にスキルの鑑定が進めば、まだまだ価値のあるものが見つかるはずだ。

そうすれば…

ここで稼いだマナを元手にして、さらにでかい商売を始められる。

稼ぎ出せるマナの額によっては、キルケットで土地や建を買って自分の家や店を持つことだってできるかもしれない。

そんなことを考えていて、その夜はなかなか寢付けなかった。

    人が読んでいる<【書籍化】勇者パーティで荷物持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください