《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》13 人形の部屋

その夜。

俺はミトラの部屋を訪れていた。

別に夜這いとか、そんな類のことをするためじゃない。

ただ単に呼ばれただけだ。

ジミー・ラディアックの訪問をけて以來。

夜の作戦會議でもまともな言葉を一言も喋らなかったミトラは…

なぜか深夜に俺の部屋を訪れて、俺を自室へといざなった。

薄暗い廊下を、燈りもつけずにスタスタと歩いて行くミトラ。

ミトラにとっては、晝も夜も変わりないのだろう。

「…どうぞ」

そう言って招きれられたミトラの部屋には、異様な景が広がっていた。

「これは…」

小さなランプの燈りに照らされた部屋の中は、見渡す限りの人形細工が鎮座していた。

それなりに広い部屋の棚や機の上、果ては床までも。所狹しと木や石膏のような素材でできた人形が並べられている。

「ああ…これらは、お気になさらないでください。ずっと1人で部屋にこもっておりますと、ほかにあまりやることがありませんので…」

「そうか…」

よく見ると、人形の作りはかなり巧だ。

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これを盲目の娘が削り出したと言うのなら、それはそれで神業のような技だ。

「それで、話とは何だ?」

窓際に佇むミトラに。

俺は、単刀直にそう尋ねた。

や心が読みづらいミトラの相手をするのには、変に確認したりするよりはその方がいいと思ったからだ。

「アルバス様は、なぜこのお屋敷を買おうとされるのですか?」

「それが聞きたくて、俺をここに呼んだのか?」

質問を質問で返してしまい。

ミトラは、そのまま黙り込んでしまった。

「悪い…。俺がこの屋敷を買うためにマナを稼ぐことを決めたのは、バージェスにせがまれて、おだてられて乗せられたからだ。あいつが『お前なら出來る! だから頼む』なんて言うからな…。だから、禮を言うなら俺じゃなくてバージェスだ」

あと、競売でジミー・ラディアックに競り勝てるかどうかは、全くわからないから。

禮とかを言うなら全部終わったあとだな。

「そんな理由で、600萬マナもの大金を使うと言うのですか?」

「変か?」

そう、ミトラに尋ねながらも…

なくとも俺は、それが変だと思っていた。

きちんとマナの損得が計算できるやつは、そんな選択をしないだろう。

「いえ…。ただ、私が話に聞いたことのある商人には、そのような方はいませんでしたので」

人並外れてダメな商人だと言われているようで、その言葉は心にグサリときた。

「まぁ、商売としてり立ってはいないな。もし俺がこの屋敷を買い取っても。そこから新しい商売が生まれるわけでもないから、たぶんそのマナは払い損だ」

「では、なぜ?」

「さっきも言っただろ? バージェスにおだてられたからだ。それ以上の理由は特にない。まぁ他に何か理由をつけてしいのなら…、クラリスとあんたに恩を売っておいて、そのうちにキルケットの大貴族、ジルベルト・ウォーレンとお近づきなれたら得だと考えてる。ってくらいかな」

あとはまぁ。

俺に、本當にそんなことができるのか。俺自それを試してみたくなったと言うのが割と大きくなり始めている。

「恩など売られても、お返しできるものは何もありません。ウォーレン家との繋がりなど、今の私(わたくし)たちにはほとんど存在しないようなものですから」

それは、そうだろう。

まともな流があれば、住んでいる屋敷をオークションに出されたりはしないはずだ。

「今の私(わたくし)に自由になるのは、このひとつくらいのものです」

「ならば、それを貸してもらおうか」

ミトラのが、ピクリと強張った。

ちょっと表現を間違えたが、決して変な意味じゃないぞ。

「いや、その…。変や意味じゃなくてだな。この人形はかなり良くできているから。もし良ければこれを俺に売らせてしい。仕れの分のマナは、キチンと払う」

「そういう事でしたら…」

そう言って、ミトラがホッと息をついた。

「マナなど要りませんので、今あるものはいくらでも持って行ってください。そろそろ置き場に困っていたところですので」

「追加の製造なども可能なのか?」

「多お時間をいただくかもしれませんが、いくらでも作れます。ただ、後もうふた部屋が同じように人形で埋まっていますので、そうそう足りなくなることはないかと思いますよ」

「わかった。追加は売れ行きを見て、また依頼する」

「はい」

そう言ってミトラは椅子に腰掛けた。

そういえば、ずっと立ち話だった。

「ところで、この人形には何か、モチーフなどがあるのか?」

「はい…。ずっと昔に一度、このお屋敷に招いた遊詩人の唄を父と母と3人で聞きました。その時の唄の登場人です。確か演目は『斷崖の姫君』と…」

「なるほど。その話なら、俺も聞いたことがある」

そこまで有名な話ではないが、この地方に住む人間であれば地名や容にそれなりには馴染みがあるはずだ。

この西大陸の、西のはずれにあるビリオラ大斷崖と呼ばれる大きな亀裂。

その亀裂のり立ちに関わる話だ。

大まかには、エルフと人間の戦爭の話だったはず。

「それで『エルフの王様』と『エルフの姫君』、そして『人間の騎士』か…」

「そちらの方には『人間の魔』もございます」

よく見ると、この部屋にある全ての人形が、その4種類のどれかだった。

デフォルメのされ合や、巧さ、サイズ、材質などは様々だが、全てがそうだった。

「『斷崖の姫君』以外をモチーフにした人形はないのか?」

「ええ、それ以外の唄を。私(わたくし)は聞いたことがございませんので」

「……」

い頃に聞いた唄を、繰り返し繰り返し思い返しながら…

同じモチーフの人形をひたすらに作り続ける。

そんなミトラの姿を想像して、俺はミトラの心の闇を垣間見た気がした。

扱える商材がひとつ増えはしたが…

俺にはミトラという人が、さらによくわからなくなっていた。

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