《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》16 襲撃①

俺の劇場の案について。

アマランシアと打ち合わせをして、気付けばかなり遅い時間になってしまった。

だがあとは、帰ってミトラとクラリスの了解が得られれば、明日からでも本格的にき出せるだろう。

「ふぁぁ…」

アマランシアと別れてから、ミトラのお屋敷への道を歩いていたら。隣でロロイがし眠そうにあくびをした。

「悪いな、かなり遅くなった。帰ったら早めに寢よう」

明日から、またさらに忙しくなる。

「それよりも、ロロイはお腹が空いたのです」

「そうだなぁ」

ロロイの「倉庫」にはコドリスの香草焼きが何本もっているから、俺がアマランシアと打ち合わせをしてる最中に、こっそり取り出して食べていればよかったのに…

俺がそういうと、ロロイは「その手があったのです!」と衝撃をけていた。

そして、香草焼きを取り出して、歩きながら食べ始めた。

「歩きながら食べるなんて、行儀が悪いぞ。まぁ、別にいいけど」

だが俺がそう言った瞬間に、ロロイはピタリと立ち止まってしまった。

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「悪い悪い。そのまま歩きながら食べてていいぞ」

そんな俺の言葉に対するロロイの答えは…

「そこに、人がいるのです」

だった。

ロロイが示す先。

薄暗くなった路地の先に、4つの人影が見えた。

「ロロイ?」

「あそこの4人、し…嫌なじがするのです」

「嫌なじ? …って、どんな?」

俺がそう問いかけた瞬間。

俺はロロイによって突き飛ばされていた。

そして、直前まで俺がいた場所を。

風切り音を立てながら一本のナイフが通り過ぎ。後ろの壁に突き刺さった。

ナイフを…投げつけられた!?

「なっ…」

そして、4人の人影が一斉に走り寄ってくる。

「なんなのですかっ!? お前達は、何者なのですかっ!?」

ロロイがぶ。

明らかに盜賊の類だ。

『何者だ?』と聞かれて簡単に正を答える盜賊などいないだろう。

「ふははははは! 私はシルクレット!」

「……」

噓だろ。

いきなり名乗りやがった。

「ただし! 『史上最高のイケメン冒険者・シルクレット』とは世を偲ぶ仮の姿! その真の姿は……盜賊団『黒い翼』の一員『シルクレットと怪盜三姉妹』のシルクレットなのだ!」

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「答えるのかよ!」

しかも、この一瞬の間に4回も自分の名前を言ったぞ。

そして、その名前には聞き覚えがあり、顔には聞見覚えがあった。

確か以前、俺のを買って行った男だ。

「商人アルバス君。君の持つと…マナを全て頂こう!」

無茶苦茶なことを言い出すこの男がシルクレット。

そして後ろにいる3人が、その妻だ。

の売買をする時。

聞いてもいないのにペラペラと話してくれていた。

4人は、著した黒い裝にを包み、お揃いの赤いスカーフを巻いていた。

きっとそれが、盜賊団のトレードマークなのだろう。

そして、俺とロロイを取り囲むような陣形を取り始める。

「無料(ただ)でか?」

恐る恐る、確認してみた。

「もちろん」

「黒い翼…?」

「あぁ。君も名前を聞いたことくらいはあるだろう?」

「さぁな」

ロロイは、俺とシルクレットの間に立ち塞がって構えている。

小聲で「こいつら強いか?」と聞くと「たぶん、かなり」との答えが返ってきた。

本當にこいつらが、勇者ライアンのパーティからアイテムを盜み出して逃げおおせたという盜賊団(黒い翼)なら…

普通に絶絶命の狀況だ。

恐れていた最悪の狀況だった。

薄暗くて人通りのない道で、自警団に通報してくれそうな街人もいない。

付近の家々に閉じこもっている人々は、自分に矛先が向かぬようにと息を潛めているに違いない。

「そこの3人が妻っていうのは、設定か?」

「いや、それは本當だ。我々は夫婦4人で1つのチームなのさ」

「黒い翼には、そんなチームがいくつもあるのか?」

「流石にそれには答えられないな」

「…ふざけた奴らだ」

そんなふうに俺と會話をしながらも。

シルクレットとその妻達は、ロロイと俺を取り囲むをジリジリと狹めてきた。

そして、シルクレットはナイフを取り出し。

それをいきなりロロイに投げつけてきた。

ロロイはそのナイフを、拳のカイザーナックルではたき落とす。

が、次の瞬間には2本目のナイフがロロイの肩を掠めていた。

「ロロイ!」

「アルバスはさっさと逃げるのです!!」

凄まじい剣幕でロロイにそう言われ。

俺は相手がロロイに気を取られている隙をついて、妻達の間をすり抜けて駆け出した。

「待ちたまえ!」

そう言って俺を追おうとしたシルクレットは、後ろからロロイの蹴りを喰らってずっこけていた。

すぐに勢を立て直し、ナイフの二刀流でロロイに向かっていって、素早い連撃を繰り出すシルクレット。

そしてそれを後方から魔で援護する3人の妻達。

それら全てを、ロロイが1人で捌いている。

1人で4人の盜賊団をまともに相手する、ロロイの底知れない戦闘力には驚いたが…

どう考えても分が悪い。

押し負けるのは時間の問題だ。

ふざけた野郎だが『黒い翼』を名乗るだけあって、やはり腕は相當に立つようだ。

こんな時。

俺自が全く戦えないということが、もどかしくて仕方がなかった。

「うっ…」

ロロイが小さく悲鳴を上げた。

また、のどこかを切られたようだ。

「ロロイ!」

そうんだ俺に向かって、妻の1人から魔が放たれる。

「小火炎魔(フレア)・球(マル)!」

発生した拳大の火球が、俺に向かってまっすぐに向かってきた。

「アルバス!」

ロロイが走り寄ってきて、その火球を毆りつけてかき消した。

火は消えたが、ロロイの手は火傷を負っていた。

「今、火傷取り薬草を…」

「後でいいのです。なんとか…アルバスだけでも逃げるのです」

「そんなこと…」

できるか! と言おうとしてやめた。

ロロイ1人なら、その気になれば戦線を離して逃れることもできるが。

俺がいるせいでロロイは真正面から4対1の不利な戦闘をしなくてはならなくなっているのだ。

俺が先に逃げてしまえば…

ロロイも逃げられる。

「ロロイ、これを使え」

そう言って俺は、倉庫から取出(デロス)した武をロロイに手渡した。

『聖拳アルミナス(遠隔攻撃・風/打)』だ。

オークション出品予定の特級だが、ここで手持ちのマナとを奪われるくらいなら、多傷がつくくらいはどうってことない。

そもそもが、手にれた時すでに錆まみれだったのだしな。

「使い方は、わかるな?」

ガンドラから研磨済みのアルミナスをけ取ったあと。ロロイは一度だけ、ミトラのお屋敷の庭でその遠隔攻撃スキルの試し打ちをしていた。

使用経験はそれくらいだが。

最低限、スキルの発方法くらいは確認してある。

「大丈夫なのです! アルバスは早くバージェス達のところまで逃げるのです」

そう言って、ロロイは聖拳アルミナスを裝備した。

そして、再びシルクレット達の方に向かって走り出し…そのままシルクレットとの近接戦闘に突していた。

「ちょっとまてい!?」

アホなのか!?

遠隔攻撃スキル付きの武を裝備して、近接戦闘をするなよ。

それ、意味ないだろ!?

思わず呆気に取られたのだが…

「小火炎魔(フレ)…ぎゃっ!」

「小水流魔(ウラル)…痛ったぁっ!」

ロロイは聖拳アルミナスの遠隔攻撃スキルを巧みに使い。

シルクレットとの近接戦闘を繰り広げながら、離れた場所にいる妻達の魔攻撃を封殺しているのだった。

「小火炎(フ)…ぐぶぅっ! ぜ、全然魔が使えないー!」

「ぎゃぁっ! 痛いー! シルクレット様…助けてぇ」

「ロロイ…めちゃくちゃ強いな」

思わず。逃げるのも忘れて見惚れてしまっていた。

ロロイは普段はトボケているようしか見えないが、戦闘に関しては異常なほどに覚が優れている。

今のように新しい武を持った時でさえ、それをどう使えば良いのか。それを使ってどう立ち回れば良いのかを。おそらくは本能的なもので完全に理解しているようだった。

ロロイは、すでに聖拳アルミナスを完璧に使いこなしていた。

そしてついに、妻の1人が膝をついた。

「アニール!? 大丈……うぎゃぁっ!」

膝をつく妻に駆け寄ろうとしたシルクレットは、後頭部にロロイの遠隔打撃をけて地面に転がった。

「聖拳アルミナス…、なんか凄いのですね」

自分で使いこなしておきながら、ロロイは驚きの聲を上げていた。

聖拳アルミナスが凄いのは、當たり前だ。

それは、全世界で數えるほどしか存在しない最高級のレアスキルがついた武だ。

使いこなせれば、確実に、最強の武と呼べる代になる。

「くっ!」

シルクレットが、よろめきながら立ち上がった。

「我が妻たちよ。こうなれば我らの最強魔を使うぞ!」

シルクレットがそう言うが否や、妻たちが互いに頷き合って、一斉に魔を発した。

「中火炎魔(ミルフレア)・二線(デオライル)」

「中水流魔(ミルウラル)・二線(デオライル)」

「中旋風魔(ミルヴィラド)・二線(デオライル)」

的に放たれたロロイの遠隔打撃については、シルクレットがしてその全てをけとめていた。

「ぐふぅっ!」

らの手から放たれた3種の魔は、放たれた直後に二に分かれる。

「「「六線(ヘクサライル)!」」」

そして6つの線となって、凄まじい速度で一直線に俺へと向かってきた。

「ヤバイ…」

これは…死んだかも。

ロロイの戦闘に見惚れてないで、さっさと逃げておけばよかった。

放たれ。

すでに目前に迫っている魔に…

俺は逃げることもできずに立ち盡くしていた。

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