「アルバスを護る！　ロロイはアルバスの護衛だから！」

そう言って、ロロイが俺と魔の間に飛び込んできた。

「なにしてんだ！　避けろ！」

「ロロイが避けたら、アルバスに當たるのです！」

それはそうだろう。

戦闘力ゼロの俺的には、このタイミングではもはや避けられない。

走ったり逃げたりするのは人並みだが、瞬発的にいたり、反的に回避行をとるようなステータスは絶的に低い。

どこまで行っても戦闘力ゼロだ。

そしてけ切るなんても絶対に無理だ。だから今のこれは、基本的には絶絶命の狀況だ。

だが、ロロイだけなら。

今からでも本気で跳べば避けきれるかもしれない。

「鉄壁発（ガード）！」

ロロイは自分のを盾にして、俺を守るつもりのようだ。

だが、たとえ鉄壁スキルを発したロロイでも。

3人分の中級魔をいっぺんに食らって無事に済むはずがない。

「ってか、俺を殺しちゃダメだろ！？　俺の倉庫のがしいんじゃなかったのかよ！」

「あっ…！？」

相手陣営が、すこし慌て出した。

なんだこいつら！？

アホっぽいと思ってたけど、マジモンのアホなのか！？

「いや、これでいいのだ！　護衛が戦闘不能になれば、もはや我々が勝ったようなものさ！」

「くそっ！」

確かにその通りだが…

その理由、絶対に今思いついただろ！？

「ロロイ！！！」

そう俺がんだその時…

ロロイと魔との間に、1人の人影が飛び込んできた。

白いフード付きのローブを纏った人影だ。

そしてその人影が、魔を使う。

「中水流魔（ミルウラル）・壁（ウォー）」

次の瞬間、ロロイの前方に巨大な水の壁が出現した。

そしてその水魔の壁は、シルクレットの妻の放った火炎魔と水流魔とを同時に相殺した。

「加勢いたします」

深々と被ったフードで顔は見えないが、聲からしてのようだ。

そしてそれは、どこかで聞き覚えのある聲だった。

「危ないのです！！」

ロロイがぶ。

水魔の壁を、シルクレットたちの旋風魔が突き破ってきていた。

魔の相が悪いのだ。

水魔では、下位に當たる火の魔や、同等の水魔は相殺できても、上位に當たる風魔は簡単には相殺できない。

基礎屬中では最強である風の魔は、他の全ての基礎屬の魔を凌駕する。

「危ない！　避けろ！」

そうぶ俺の聲など意に介さず。

白フードのはその場に立ち盡くしていた。

そして、旋風魔がヒットする直前。

白フードのが魔に向かって手をかざした。

「アルコギラの腕(屬防・風/闇)・発（スキル）」

がそう呟いた次の瞬間、の手のひらから魔法の防陣が出現する。

そして、シルクレットの妻の旋風魔は、その魔法陣にぶち當たって完全に消滅した。

「なにぃっ！　我が妻たちの最強魔奧義が防がれたのかっ！？　こうなったらもう一度……ぶへぇっ！」

何かを喋りかけていたシルクレットは。

ロロイの放った遠隔打撃によって顔面を撃ち抜かれ、鼻をぶちまけながら後ろにぶっ倒れた。

「大火炎魔（テラフレア）…」

そこでさらに、白フードのが魔を発する。

先程の水の魔に加えての、火の魔の使用。

つまりは２屬持ち。

そして、アルコギラの腕の所持。

「そうか、あんたは…」

なぜ俺たちに加勢してくれるのかはわからなかったが。

魔師相手に、相當心強い援軍だ。

「アルフレッドの懐刀(屬魔強化・火)・発（スキル）」

その付與スキルの発により、燃え盛る炎がさらにメラメラと勢いを増していく。

そして、の『大火炎魔（テラフレア）』は、『極大火炎魔（シンフレア）』へと進化した。

「極大火炎魔（シンフレア）…」

白フードのが、極大火炎魔(シンフレア)を乗せた手のひらを前方に突き出し、その魔に対して発式を付與しようと構えている。

「ひっ…」

敵陣営から、短い悲鳴が聞こえた。

もし極大火炎魔(シンフレア)が発されれば、たとえ屬的に有利な水や風の屬であっても。中級魔程度では絶対に防ぎ切れないだろう。

相手陣営の顔が、引き攣っていた。

このが、魔師として完全に格上だということを理解したらしい。

形勢は、完全に逆転していた。

極大火炎魔の熱風に巻き上げられて、の白フードがハラリと落ちる。

銀の髪。そして尖った耳。

俺の位置からは顔が見えなかったが…

きっと瞳は翡翠だろう。

俺たちの助太刀にったは…

いつか俺の店でを買って行ったエルフの客だった。

先程このが使った。２つの付與スキル付きの武は、以前俺が売ったものに違いない。

「今のは…當たってたらアルバスが死んでたかもしれないのです！！」

極大火炎魔（シンフレア）を発しかけているの後ろで、ロロイはかつてないほどに怒り狂っていた。

「許さないから！もう、全員ぶちのめしてやるのです！！」

ロロイは無意識なのだろうが…

右手に裝備した「聖拳アルミナス」の風屬攻撃のスキルが発している。

ロロイの拳の周囲で、ぐるぐると旋風が渦巻き始めていた。

エルフのが、チラリとロロイを見て…

「それでは、ロロイさんに任せましょうか」

そう言って極大火炎魔（シンフレア）を中斷し、橫に避けた。

「がるるるるぅぅ…」

その直後。

獣のような唸り聲を発しながら、ロロイが半を引いて構えをとる。

アルミナスの周囲の風は勢いを増し、周辺に砂埃を巻き上げていく。

「ぐっ…うっ！りゃぁぁぁあーーーーーっっっ！！！」

そして、そのまま一歩を踏み込み。

ロロイは空中に向かって、全力で拳を振り抜いた。

そのロロイの拳から、音と共に風屬をまとった遠隔攻撃が放たれる。

もはや、それは「大魔」と言っても差し支えないほどの威力だ。

地面を抉りとり、周囲の建の外壁を砕きながら、目視できるほどの巨大なエネルギーの塊となってアルミナスから飛び出し…

そして、超速でシルクレットたちへと向かっていった。

そして逃げる間も與えず。

けない顔をしているシルクレットたちに直撃。

「ぎゃぁぁぁーーーー！！」

シルクレットとその妻達は、斷末魔の悲鳴をあげながら、きりもみ狀になって空中に吹き飛んで行った。

そして、そのまま見えなくなった。

ギリギリで、魔師の３人が相殺のための魔を発しているのが見えたから。

たぶん、生きているだろう。

→→→→→

俺に、ロロイが駆け寄ってきた。

「アルバス！　大丈夫なのですか！？」

ロロイはすこし息が上がっているが、先程の激しい戦闘を思えば軽い。

俺が下手を踏んでピンチに陥りはしたが、ロロイ自はまだまだ余裕だったと言うことか…

「俺はなんともない。それよりも、すごかったなロロイ」

もちろん、アルミナスの遠隔攻撃スキルのことだ。

あのレベルのスキル効果を発させるには、普通の天才でも數年はかかる。なくとも、ライアンはそうだった。

そして凡才には、一生かけても辿り著けない領域だろう。俺なんかはその類だ。

「なんか、行けそうな気がしたからやってみたのです」

それで、あの威力のスキル攻撃を放てるなら、武スキルを使いこなすための訓練という概念はなくなるな。

「とにかく、ロロイのおで助かったよ」

そこで、靜かにエルフのが近づいてきた。

澄んだ翡翠の瞳が、俺とロロイとを互に見やってきた。

「ありがとう」

まずはお禮だ。

以前このエルフがごろつきに襲われている時に何もしなかった俺たちを、今日彼は救ってくれた。

「いえ、偶然に近くを通りかかったものでして…」

「あんたの加勢がなければ、今頃どうなっていたか…」

「そこの護衛さんの力なら、ひょっとしたらなんとかなっていたかもしれませんが…」

「いや、助かった」

「でしたら、加勢にってよかったです」

そう言いながらも、エルフのがチラリと道の向こうを見やった。

つられてそっちを向くと、銀のパートメイルを著込んだ人影が、遠くから走り寄ってくるのが見えた。

夜中とはいえ、これほどの大規模な戦闘を行ったのだ。

さすがに自警団が嗅ぎつけたようだった。

…一足遅いんだよ。

「もう行くのか？　まだキチンと禮が出來ていない」

「では、4萬マナを値切った分だとでも思っておいてください」

そう言って、エルフは自警団が來る方とは反対側に走り去って行った。

「とっても、良い人なのです！　ロロイはあの人大好きなのです！」

「そうだな。あのエルフが來なければ、多分やられていたな」

護衛制を強化するとか言っていたくせに。

しばらく何事もなく過ごして完全に油斷していた。

オークションが近付くにつれ、ああいう輩がまだ出てくるかもしれない。

もうこんなことがないように。

これからは常に4人で行するようにしよう。

→→→→→

その後俺とロロイは、駆けつけた自警団に長々と事を説明してから、ヘトヘトになって帰宅した。

時刻はすでに朝になってしまっていた。

ちなみに、ロロイがアルミナスのスキルでぶっ壊した地面と建の外壁は…、黒い翼の4人がやったことにしておいた。

帰った後。

俺たちを心配して待ち構えていたバージェスとクラリスに…

2人でいかがわしいところにって、いかがわしいことをしていたのではないかと疑われ…

弁明するのに大変だった。

最終的にバージェスとクラリスは、俺から黒い翼による襲撃の話を聞いて、顔を青くしていた。

「すまねぇ、俺たちも完全に油斷してた」

「2人が無事で、本當によかった」

ちなみに。

ロロイの攻撃でどこかに吹き飛ばされていったシルクレットとその妻達については、その後の自警団の探索でも見つけ出すことができなかった。

だから多分、今もどこかで生きてを潛めているのだろう。

俺としては、あの場で奴らにとどめを刺して完全に憂いを絶っておきかたったのだが…

それでロロイに人殺しを強要するのは違う。

あくまでロロイは、俺とパーティを組んでお互いに力を貸し合っているだけで。俺の手下でもなんでもないからな。

「萬全を期したタイミングで仕掛けてきておいて失敗したんだ。まともな計算のできる盜賊なら、當然のように護衛を強化するはずの俺をわざわざまた狙うとは考えづらいが…」

なんにせよ、オークションまでもう絶対に油斷はしないと、俺は心に誓ったのだった。