《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》18 エルフの奴隷
そして翌朝から。
俺は本格的な劇場開催の準備にった。
朝帰りでほとんど寢てないので、とてつもなく眠い。
だが、そんなことは言ってられない。
俺の劇場の案について、ミトラとクラリスはすぐに了承してくれた。
「では、よろしくお願いします」
「どうせ競り負けたら全部持ってかれるんだ。やれるだけのことはやろう」
ミトラによると。
今は使われていない椅子や機などが、あちこちの部屋にあるらしい。
「それをお客様用として使ってしまってはいかがでしょうか」
そう提案してくれて、俺は早速準備にとりかかった。
「倉庫収納(イロンパ)」
部屋を回って目ぼしい家を倉庫に収納し…
「倉庫取出(デロス)」
庭でぽんぽん出すだけなので、ほとんど苦にはならない。
結局は歩いてるだけだから、逆に眠気が襲ってくる。
俺が適當に倉庫から取り出した家を、バージェスとクラリスがある程度見栄えがするように並び替えてくれた。
ちなみにだが、現在ロロイは睡中だ。
空腹で貪るように飯を食った後、そのまま食堂でエネルギーが切れたかのように眠ってしまった。
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仕方がないので、俺がロロイの部屋まで運んでベッドに寢かせてやった。
頼りになる俺の護衛は、昨晩全力でその役目を果たしてくれた。
だから、今は思う存分寢ていてもらおう。
本當ならばバージェスとクラリスには、荷馬車広場でコドリス焼きを売ってほしいところなのだが…
昨日の襲撃事件を思うと、やはりパーティをバラけさせるのは得策じゃない。
護衛がいないタイミングで襲われたら、俺なんかは瞬殺だ。
昨晩の盜賊団は、明らかに俺を狙っていた。
そして護衛がなく、かつ、人気のない道を夜中に通るタイミングで仕掛けてきた。
それはつまり、俺がやつらに以前から監視されていたということを意味している。
そうなると。下手をするとこの家も監視されていた可能がある。
シルクレットたちは、昨晩のロロイの攻撃で相當なダメージを負ったはずだが。
奴らが本當に黒い翼なら、仲間はまだまだいるはずだ。
自警団にはそのことを伝えて、この家の周辺を警戒してもらうようお願いしてあるが。
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最終的に自分たちのは自分たちで守らなくてはならない。
もう、警戒は怠れない。
→→→→→
そして晝過ぎ。
ロロイがのそのそと起き出して、再びメシを要求し始めたくらいの時間。
俺がロロイのための飯を作っていると、なにやら玄関先が騒がしくなりはじめた。
「なにかあったのかーっ!?」
俺がキッチンから大聲でぶと、クラリスが走り込んできた。
「ジルベルトの使者だって言う、のエルフが來てる!」
息を切らすクラリスが、そう口走った。
「なんだって!?」
「昨晩のエルフさんですかね!? もう一度キチンとお禮を言うのです!」
ロロイが空腹を忘れて走り出し、俺も後に続いた。
だが。
お屋敷の玄関先にいたのは昨晩のエルフではなかった。
そこにいたのは、ロロイと同じくらいに背が低い。いエルフのの子だった。
多分12歳かそこらだろう。
銀の髪に、長い耳、そして翡翠の瞳。
その3つのエルフの特徴を、白いフード付きのローブで隠しながら、ここまで來たらしい。
「シンリィと申します。このお屋敷のお掃除をするようにと、お館様から仰せつかって參りました。勝手にお掃除しますので、私のことはお気になさらずに!」
シンリィは右の手首と左の手首を50cmくらいの長さの鎖で繋がれていた。
そして、鎖は右足首にもついていて、その鎖の先には重たそうな鉄球が付いている。
その鉄球にはデカデカと。このお屋敷のり口にもあるウォーレン家の家紋が刻まれていた。
まるでウォーレン卿が『これは俺のものだ』と大聲で主張しているかのようだった。
屋敷を競売で売り払うつもりのジルベルト・ウォーレンが、売り払う前に部の清掃をするために人を派遣してきた、ということらしい。
「エルフの、奴隷…」
俺が思わずそう呟くと、シンリィは恥ずかしそうに笑った。
「2年前にドジって奴隷商人に捕まってしまいまして。そしてウォーレン家に買われて以來、シンリィはずっとウォーレン家の奴隷です」
そして、捕まった時に。
「エルフの隠れ里に案するか、ここで10年働くかしたら自由にする」と言う話を持ちかけられ、10年働くと言ったらしい。
「あと8年なので、シンリィは必死に頑張ります!」
とのことだ。
貴族がそんな約束を守る気がなさそうなのは明白だが。
シンリィはそれを信じて、言われた通りの仕事を日々こなしているらしい。
「とりあえず、埃とかそういうのを綺麗にして。屋裏とか地下室とか、そういうところにある要らなそうなものを処分するようにと言われています。マナになりそうなものは持ち帰るように、とも…」
そう言って、早速シンリィは自分の「倉庫」から雑巾やらバケツやらを取り出して、掃除の準備をし始めた。
「この屋敷には、地下室も屋裏もないぞ」
「えっ、そうなんですか? でも、あるかもしれないので、シンリィは勝手に探して勝手にお掃除します。だから私のことは、どうかお気になさらずに!」
そしてなんと…
「倉庫収納(イロンパ)」と唱えて。
自らを拘束していた両手の鎖やら、足首から繋がった鉄球やらを、倉庫に収納して軽になってしまった。
「しまえるのかよっ!?」
「お館様たちには緒です。みんなはシンリィが倉庫スキル持ちだと知らないので…」
試したことはないが。
嵌められた拘束も、裝備品の一種だと考えれば倉庫への出しれが可能だろう。
自警団やお城の牢獄の鎖が、どこでも必ず壁などと繋がっているのは、この倉庫スキル持ちへの対策のためだ。
こいつ、逃げようと思えばいつでも逃げられるんじゃん…
「私のことはお気になさらずに! 皆様は皆様のやることをやってください」
そう言いながら、シンリィは盛大にバケツを蹴飛ばして床を水浸しにしていた。
「あちゃー! シンリィはドジですみません。自分で片付けるので、私のことはお気になさらずに! …うきゅぁっ!」
そして、って水に餅をついた。
「つ、つめたい! でも、お気になさらずに!」
さすがに見ていられなかったので、クラリスと俺とで水浸しになった床の掃除を手伝った。
「人間の人がシンリィの仕事を手伝ってくれるなんて、です! でも、やっぱり私のことはお気になさらずに!」
よくわからないが、シンリィはこのままオークション當日まで住み込みで屋敷の清掃をし続けることになっているらしい。
「お館様からそう仰せつかっておりますので、シンリィはそうしないとダメなんです。あと、シンリィが逃げると他の奴隷の子が酷い目に遭うから、やっぱりシンリィも逃げられないんです」
いつでも拘束を解いて逃げられるのに、逃げないのはそういうわけか。
まぁ、今のドジっぷり見るに…
例え逃げ出したとしてまたすぐ捕まりそうだ。
それに下手をすると、追跡されてエルフの隠れ里とやらの場所を探られたりもしそうだった。
酷い話だが。シンリィがこうして自ら奴隷のままでいることは、そのエルフの隠れ里にとっても良いことなのかもしれない。
しかし、そんな危うい奴隷エルフを送りつけてくるとは…ジルベルト・ウォーレンというのも相當趣味の悪い奴に違いない。
先日會ったジミー・ラディアックのクソっぷりを思い出して。俺はちょっとイラッとしてしまった。
俺が勇者パーティにいた頃。
王都などで貴族たちと謁見するのは、もっぱら俺以外のメンバーだった。
だから、俺はあまり貴族とかと直接関わったことはないのだが。どうせ貴族なんて、どいつもこいつも似たようなもんだろう。
「あ、あと。アルバスさんがお館様に送っていた手紙の件ですが、こちらにお返事があります」
そう言って、シンリィは自分の倉庫から1通の手紙を取り出した。
容を一読し、俺はガッツポーズをした。
「よし!」
クラリスたちもなんだなんだと覗き込んでくる。
手紙の返事とは、つまりはオークションの順番の件だ。
俺は、この屋敷にきたジルベルトの使者を通じて、ジルベルトに手紙を送っていた。
俺たちには、すでにそれなりの額のマナを用意できる可能が高いことを伝え。
そこにさらに、オークションで売れたの代金が上乗せになった狀態でこのお屋敷の競売に臨めれば…
最終的にだれが落札するにしろ、より高い金額での競り合いが起きる。
そうすれば、この屋敷がより高く売れるかもしれないぞ。
という話をつらつらと書き連ねた上で、俺の出す3點のを、お屋敷の競売よりも前にしてほしいと渉したのだ。
その俺の手紙に対するウォーレン卿の返事としては「競売順の件は対処した。せいぜい高く買え」というような容だった。
ちなみにだが、もう一つの本命『600萬マナを用意するから、競売へのお屋敷の出品を取り下げてしい』という方の願いについては、完全にスルーされてしまっていた。
競り合いが予想される以上。
オークションに出した方が高値で売れると見込んでいるのだろう。
ちなみにこちらのきをジミーに知られたくないので、一応それについても書いていたが。
そこもスルーだった。
ジルベルト・ウォーレンがこの屋敷をより高く売りたいのであれば、ジミー・ラディアックに俺たちのきをバラすのが正解だが…
ガンドラによるとその両家はあまり仲がよろしくないらしい。というか、ここ數年の奴隷売買でり上がってきたラディアック家は、古くからの貴族たちからは嫌いされているのだそうだ。
だからこそジミーは、大貴族の家系であるウォーレン家ののったミトラとクラリスを弄ぶことを考えて、愉悅に浸っているという側面もあるのだろう。
なんにせよ、競売順についてはこれでなんとかなりそうだった。
これでまたひとつ関門を突破できた。
ならば。
あとは當日まで、ひたすら商売でマナを貯めるだけだ。
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