《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》20 『斷崖の姫君』

『斷崖の姫君』

今から200年も前のお話です。

その頃、この大陸では人間の國とエルフの國とが激しく戦爭をしていました。

そんなある日のこと。

エルフの姫が人間の國の騎士にをしました。

ですが、姫はエルフの姫であったため、人間の騎士と結ばれることなどできません。

思い詰めたエルフの姫は、継母に相談しました。

「お母様、ご相談があるのです。実は…」

ですが、その継母は実は悪い魔なのでした。

そして、いつかエルフの國を崩壊させようと企んでおりました。

しかしそんな素振りは見せず、継母はいつも姫にも優しかったので、姫はすっかり騙されてしまっていました。

そして継母は言いました。

「きひひ…、それならばとても良い方法がある。この忌の魔を用いて、お前が人間になれば良いのだ。だが、人間となったお前は、もはやエルフの魔法の力を使うことはできなくなる。もし使えば、は石とり果てて砕け散るだろう。それでも良いのか?」

エルフの姫は迷いました。

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一度はそれを斷ったエルフの姫君でしたが。

やがて継母とエルフの王様との間に男の子が生まれると、王様はあまり姫を構ってくれなくなってしまいました。

そして、姫はついに決心をします。

「お母様、私を人間にしてください」

「いいだろう。そぉれ!」

そして人間となったエルフの姫君は、騎士の元に向かいました。

「わ…私を、あなたの妻にしてください!」

この世のものとも思えないほどにしいエルフの姫君に、騎士はすぐに心を奪われてしまいました。

そして2人は結ばれ、人間の王國の片隅でひっそりと…しかし、幸せに暮らし始めました。

しかし。

そんな幸せな生活は長くは続きませんでした。

エルフの大軍が、2人の住む人間の國に攻め込んできたのです。

実は、悪い魔が王様に噓をついたのでした。

「姫は人間に攫われてしまった。私はそれを見ておりました」

悪い魔の言葉を信じたエルフの王様は、姫君を取り返そうと、全軍を率いて人間の國に攻め込んだのです。

次々と殺し合い、を流して倒れていく人間とエルフ。

「もうやめて!」

姫君がそうびますが、始まってしまった全面戦爭はもう止まりません。

遠くからそれを眺める悪い魔は、にんまりと笑っておりました。

そして騎士と王様は一騎打ちをします。

「娘を返せ!」

「あの子は私の妻だ。誰にも渡すものか!」

なんと人間の騎士は、妻がエルフの姫君であることに気づいていたのでした。

「もう、やめて!」

姫君は大切な人同士が傷つけ合うことに耐えきれず、遂には失われたはずの魔法の力を解放します。

そして姫君の持つ大地の魔法の力は、戦場を地割れで半分に引き裂きました。

引き裂かれた大地の亀裂の真ん中で、エルフの姫君はびます。

「もうやめてください。これ以上、大切な人同士が傷つけ合うのを、私は見たくありません」

そうんだ直後。

悪い魔との約束を破って魔法を使ってしまった姫君は、魔の言う通りに石となりました。

そして、引き裂かれた大地の亀裂の中へと、真っ逆さまに落ちていったのでした。

引き裂かれた大地の左右で、人間とエルフは戦いをやめました。

その亀裂が。現在も西大陸に殘るビリオラ大斷崖であり、これは200年前に実際に起こった出來事です。

今でも、引き裂かれた大地の向こう側には、エルフたちの國があると言い伝えられています。

→→→→→

時に軽妙に、時に重苦しく唄われるアマランシアの詩は。ない観客たちの心をしっかりと摑んでいた。

アマランシアの唄の始まってすぐの頃。

俺は屋敷のり口にたたずむミトラを見つけていた。

「もっと聞きやすい場所に連れて行こうか?」

そう聲をかけると、ミトラは首を橫に振った。

「ここで大丈夫です。十分に聴こえております」

「なら、せめて座るといい」

俺は、そう言って倉庫の中に余っていた椅子を一つ取り出し。ミトラに座るよう促した。

「ありがとうございます」

手探りで椅子の位置を確認し、ミトラが椅子に腰掛けた。

「私の覚えている詩とは、し違うようです」

「そうだな…。有名な演目でも、歌い手によってしずつが出る」

この演目は、そこまで有名と言うわけでもないがな。

「継母の魔は…確かエルフに化けた『人間の』悪い魔だったかと」

「それは…、観客の聞きたい詩を唄うのが遊詩人だから、かな」

「なるほど、そういうことですか」

そう答えたミトラは、俺の言っている意味を本當に理解してくれたのだろうか。

この演目は、悲劇のヒロインである『エルフの姫君』のと悲しい運命に共して涙する話だ。

だから當然、観客たちにとっての最大の憎しみの対象は『悪い魔』になる。

そして今いる観客は全員、もちろん人間だ。

だからその魔が、エルフに化けた『人間の』魔だと言う部分を、アマランシアはわざと上手くぼかして唄っているのだった。

そういった手の込んだ細やかな修正をするあたりからも、アマランシアの歌い手としての技の高さが伺える。

多分、観客が貴族とかそーいうのばかりだったら。人間の魔が暗躍してエルフの國を壊滅させたことを、この詩における影の英雄譚のようにして語るのかもしれない。

ミトラの表は相変わらず読み取れなかったが。

ジッとアマランシアの唄に耳を傾け続けているようだった。

そしてふと…

「アルバス様は、奴隷やエルフを人だとお思いですか?」

と、そう尋ねてきた。

その質問の意図は、正直よくわからない。

奴隷だったという、ミトラとクラリスの母のことに関連する話なのだろうか?

なんにせよ、俺の答えは決まっていた。

「人、だろう。間違いなく。そうでないとする意味がわからない」

「そうですか」

ミトラは、それきり喋らず。

アマランシアの唄にジッと耳を傾けていた。

→→→→→

唄が終わり、アマランシアが大きく一禮をして壇上を降りる。

そして、れ替わりで俺が再び壇上に上がった。

そして、兼ねてからの打ち合わせ通り、終わりの口上と共に宣伝を行う。

「錬金の如き凄腕の木工細工師、ミトラによる4種類の木人形『エルフの姫君』『エルフの王様』『人間の騎士』『悪い魔』を、そちらの売店で販売しております。お帰りの際には、ぜひ覗いて行ってください」

だが結局。

1回目の公演では木人形は売れなかった。

しかしながら、アマランシアの公演を聞いた10人全員が売店をのぞいていった辺りに、俺は多の手応えをじていた。

「次だ次! 2回目の公演では売れてくれるだろう!」

そして2回目の公演。

そこには1人も客が來なかった。

「マジか…」

なので、その日はそのままお開きにすることになってしまった。

當初の目的だった木人形は全く売れず、集客すらもままならない。

劇場のオープン初日のり出しとしては、容はかなり厳しいものとなってしまった。

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