《【書籍化】勇者パーティで荷持ちだった戦闘力ゼロの商人 = 俺。ついに追放されたので、地道に商人したいと思います。》22 集客の施策②

そして…

劇場オープンの2日目。

1公演目の椅子席は全て埋まり、立ち見用のスペースにまで人をれる狀況になっていた。

「凄いぞ、アルバス!」

クラリスは大興だ。

集客のターゲットを変えるという俺の施策が、それなりにハマったということだろう。

アマランシアは、ざわざわとざわめく客達の聲を聞き。し微笑みながら出番を待っている。

今日のミストリア劇場の公演には、付近の民家の家族連れが何家族も訪れていた。

そして、そのほとんどが子供連れだ。

両親に加えて、子供1〜3人。

それだけで1家族につき3〜5人だ。

十數家族も來れば、50席程度の椅子はすぐに埋まってしまう。

全員で三百軒近くに宣伝して回った上でのこの集客が、多いのかないのかは意見が分かれるだろうが。

とにかく椅子席をほぼ満席の狀態まで持って行くことができた。

立見になると知って帰る家族連れもいたが。

自宅が近いらしく、1時間後の20時からの公演にまた來てみようと話していた。

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さらに。

実は俺は、ここでふたつ目の仕掛けをしていた。

「野菜粥。一杯40マナでーす」

今日はクラリスによって、主食にもなる雑穀りの粥が売られている。

そしてその隣ではバージェスが焼きを焼いており、さらにその隣ではロロイがドリンクを売っていた。

さらにその向こう側には、公演が終わり次第俺がる予定の木人形売りの店もある。

ついでに小型の木剣とか、謎のキラキラした石ころとか、人形以外にも子供のおもちゃになりそうなものを置いてみた。

「劇場」というに馴染みがないはずキルケットの一般住民をこのミストリア劇場に呼びこむにあたって。

俺は「ここは貴族のパレードの際に出る出店が集められたような場所だ」という言い方をした。

夕飯の代わりにできるような食べ屋がいくつかあり、ドリンクや土産もある。

それらが売れるのは、俺としても願ったりだったし、出店という話であればキルケットの住人にもまだ馴染みがあるはずだからだ。

貴族の結婚パレードなど。

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そういった類のものに付隨した出店祭りが、たまにこのキルケットでも開催される。

そしてそういった人の集まる場所には、遊詩人などもよく集まる。

馴染みの薄い劇場(もの)を、馴染みのある出店(もの)として紹介する。

そう。

俺の施したふたつ目の仕掛けは『再定義』だ。

その辺りの仕掛けが、どうやら今回は思った以上にうまくハマったようだった。

俺は、ちゃんと集まってくれたお客を見て、ニヤニヤが止まらなかった。

ちなみに。エルフのシンリィはこんな時でも屋敷の掃除をしているようだった。

ただ、1箇所掃除が終わったと思ったら、何かこぼしたりぶちまけたりしてまた仕事が増える。

3歩進んで2歩下がる、みたいなじで遅々として進まないのであった。

たまに屋敷の備品をぶち壊したりして、バージェスや俺に修理を頼んできたりもした。

それでも本人はとにかく一生懸命なので、みんななんとなく、このウォーレン卿の息のかかったエルフを憎めない気持ちになっていた。

→→→→→

そして開演の時間になった。

演目は昨日同様の『斷崖の姫君』

「今は昔…ここより西の地にエルフの國がありました」

そう言って始まったアマランシアの唄もまた。

本日も大盛況のうちに終わったのだった。

飲食の店は開演前からばんばん売れて、ロロイもクラリスも、バージェスも大忙しだった。

そして人形店でも…

俺が公演の終わりに昨日同様の聲かけをした直後から、誰もいない売店に向けて子供が數人駆け出していき、親がそれを慌てて追いかけていた。

さらにその後を、壇上から降りた俺が追いかけて行って、慌てて店にった。

そして、子供にねだられた親たちにより、1200マナの木人形が何も売れて行った。

親の財布の紐がかなり緩くなっている。

出店という非日常と共に、アマランシアの唄で、親の方も『まぁ、買ってもいいか』『ちょっとしいかも』という気持ちになっていたのだろう。

呼び込んだこの地區の住人たちが、比較的裕福な暮らしをしているというのも、ポイントの1つだったかもしれない。

→→→→→

そして、20時からの2公演目。

アマランシアが演目の変更を申し出てきた。

再度定額での場料を払って2つ目の唄を聞こうとしている家族連れもいたため、俺はそれを了解することにした。

演目はアマランシアに任せることにしたため、俺も「どんな詩を唄うのかな?」とし期待しながら見ていたら…

なんと。アマランシアが2公演目に選んだ唄は『勇者ライアンの風魔龍討伐譚』だった。

それは、勇者ライアンが『勇者』の稱號を得るよりずっと前の話。若き日の勇者ライアンと、その妻の大魔師による、手に汗握る魔龍の討伐譚だ。

遊詩人の唄にされていることは今始めて知ったが、もちろん容は知っている。

何せ俺は、その時すでにそのパーティのメンバーだったからな。

容としては。

黒魔師ルシュフェルドの故郷の街が、付近で生まれた風魔龍によって荒らされ。それを聞きつけたライアンのパーティが駆けつけ、見事に風魔龍を討伐して故郷の英雄となるという話だ。

ただ、魔龍の討伐に向かう道すがら、仲間の荷持ちが途中ではぐれてしまう。

そして、ライアンたちが魔龍と會敵した際に魔力回復薬が足りなくなり。風魔龍討伐の鍵であった大魔師の魔法力が盡きてピンチに陥る。という話だ。

しかし、相當腳されている。

はぐれたというか。

俺は當時新婚ホヤホヤだったライアン達に気を遣って、ちょっと離れていただけだ。せいぜいが10m程度。

魔龍の領域に近づいたら、もちろんすぐ脇にいくつもりだったのだが。想定と全然違う場所で魔龍と會敵したせいで、ちょっと焦ったと言う話。

あと、『ピンチ』と言っても。

ルシュフェルドが魔力回復薬を使いたいタイミングに、ほんの數秒遅れたという話だ。

いずれにしろ、それまでに放ったルシュフェルドの5発の裂魔により、風魔龍はほとんど戦闘不能に陥っていた。だから、全くもって問題のないタイミングだったはずだ。

それがなぜか…

勇者ライアンが、魔力の切れた妻を守るため、通常の剣撃が通じない風魔龍を相手に大立ち回りを演じていたり。

はぐれた戦闘力ゼロの荷持ちが、モンスターの群れに遭遇して必死に逃げ回ったりしていた。

こうして事実は捻じ曲げられ。

『勇者の仲間のへっぽこ荷持ち』が誕生するのだろう。

まぁ、良いけどさ。

そしてアマランシアは、俺がその商人だってことをわかってて唄っているんだろう。

キルケットではこれだけ『元勇者パーティのアルバス』の名前が広まってるわけだし。

なんか、荷持ちが登場する部分でチラッとこっち見てきたりしてたから、もう間違いない。

ちなみにこの話は、子供達にはかなりけていたようだった。

強くてカッコいい勇者や大魔師を応援する聲と共に。意外にも、モンスターから逃げ回りながら必死に仲間達のもとに走る、その荷持ちを応援する聲とかも聞こえてきていた。

そして、その2公演目の後。

唄に登場していないにも関わらず、騎士と悪い魔の人形が売れて行った。

たぶん、『勇者』と『魔師』だと勘違いしたのだろう。

「『荷持ち』の人形はないのか?」というのを、何度も聞かれたから多分そうだ。

後でミトラに、ちゃんとした『勇者』と『魔師』と、あと「荷持ちの商人」の人形作を頼んでおこう。

→→→→→

そして、2公演を終えての売上は。合わせて約8,500マナほどにのぼっていた。

アマランシアの取り分や、各種仕れ値を差し引いても7,000マナほどの儲けが殘る。

そしてそれは、思っていた以上の収益だった。

れ値の無い200マナの木人形が、15も売れたのが大きい。

やはり、一刻も早く種類を増やしてもらおう。

「流石です、アルバス様。昨日と同じ場所だとは思えない盛況ぶりです」

2公演合わせての延べ場者120人。

その場料の1/5である650マナをけ取ったアマランシアが、にっこりしながらそう囁いてきた。

今回はほぼ全員が木札持ちの客だったので25マナの場料だったが。再場してきた客のように、劇場を気にって本來の50マナでもリピートしてくれる客がもっと現れれば…

俺たちの儲けと共にアマランシアの儲けもさらに増えるだろう。

「昨日アマランシアに発破をかけられたからな。本當は、昨日の失敗でし落ち込んでいた」

「それは良かったです」

そう言って、アマランシアはジッと俺の方を見つめてきた。

「…なんだ?」

アマランシアのような人に見つめられると、ちょっとドキッとしてしまう。

俺は平靜を裝ってそう答えた。

「やはり…、鍵は子供だったでしょう?」

ちょっとしたり顔で、アマランシアがそう言ってきた。

直後に悪戯っぽく笑いかけてきたせいで、全く嫌味なじはしない。

「たしかに、な…」

結局。唄を聞いてミトラの木人形をしがったのは、圧倒的に子供の方だった。

アマランシアの言った通り、鍵は子供だ。

「たけど、時刻は夜だぞ?」

アマランシアは、「晝間」に「子供向け」にするのが良いと言っていたはずだ。

あと…

「親と子供をセットで呼び込んだからこそ、多高額でも木人形が売れたのだろう」

やはり、高額な商品を売るための鍵は、大人だ。

「あら…、バレてしまいましたね。アドバイス料を頂こうかと思っておりましたのに」

そう言ってペロッと舌を出すアマランシア。

何度かその仕草を見ているが…めっちゃ可い。

「それなら、場料のうちのアマランシアの取り分を1/5から1/4に上げよう」

決して可さに負けたわけじゃないぞ。

「今のこのミストリア劇場は、アマランシアの腕で保っているようなもんだからな」

取り分を上げる渉をされたわけだが、それにしっかりと見合うだけの仕事をしている以上、応じざるを得ない。

と、そういうことだ。

明日以降も、気合をれて唄ってもらう必要があるから、これは必要経費だ。

「恐れります」

そう言って一禮し、アマランシアは去っていった。

「深夜に1人で、遠くの宿まで戻るのは危ないだろう?」

そういって、ミトラ達の了解のもとアマランシアにこのまま泊まっていくよう言ったのだが…

普通に斷られてしまった。

アマランシアの戦闘力なら大概のことには対処できるだろうが。

もしかして、俺が警戒されてるのかな。

いや、バージェスのほうか…

きっとバージェスだと信じたい。

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