《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》05.第七王子はスパイを見抜く(不本意)

俺、ノア・カーター!

二度も英雄を経験し、今度は第七王子として転生!

もう二度と働いてなるものか、と固い決意を元に、必死で無能を演じてきた!

しかし追放された先の領民に、俺の実力がバレて、しかも実は前も隠し切れていなかったことが判明!

どうする、俺!?

……ということで、俺はカーター領の領主の館へとやってきた。

「鬱だ……」

最初に通されたのは、領主の部屋。

これまたオンボロかと思いきや、意外と裝がしっかりしている。

「失禮します」

ドアを開けてってきたのは、白髪のじいさんだった。

「誰だ、あんた?」

「……チッ。ウワサ通りの失禮なガキだ」

ぼそっ、とじいさんがつぶやく。

「失禮。わたくし、代々カーター家に仕える筆頭執事、【セバスチャン】と申します」

「ほー、執事。使用人たちのとりまとめってことか」

セバスチャンとやらは、スーツを著込んだ60くらいのじいさんだ。

鋭いまなざしを俺に向けてくる。

「お噂は聞き及んでおりますよ……【王家の恥さらし】【無能王子】【バカ王子】と」

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にやり、と笑ってセバスチャン。

その目には明確な、俺に対する侮蔑が籠もっていた。

「ちょっとセバスさん! 失禮ですよ!」

なぜか一緒にくっついてきたリスタが、聲を荒らげる。

なんで君いるの、ねえ?

ちなみにロウリィは貓のフリして俺の肩に乗っている。

「新しい領主様は、我々を守ってくださった優しい、素晴らしいかたです!」

違います(にっこり★)

一方でセバスチャンはフッ……と小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

「何をバカな。こんな見るからにやる気のなさそうなガキに……領主が勤まるものですか」

おや?

もしかして、このじいさん……。

俺のこと……嫌い?

「わたくしが領主として認めているのは、前領主【ムノーダ・カーター】様ただひとり!」

『ムノーダって名前からして無能はんぱないっすけどね』

貓が突っ込みをれる、俺は無視する。

そうか……そうかそうか!

このじいさん……前の領主のほうがいいんだ!

俺のような若造は、認めたくないタイプの、いじわる執事ってことだな!

「わたくしはノア様、あなたを領主として認めたわけじゃありませんからね」

「セバスチャン……!」

俺は飛び上がって、彼に抱きつく。

「ありがとう! 大好き!」

「は……?」

俺はうんうんうん、とうなずきながら言う。

「そうだよな、こんなクソガキ領主に向いてないよなぁ。そうそう、俺、無能王子。代々あんたが仕えてきた誇りある領地を任せるに足りる人じゃないよな、なぁ!?」

「お、おう……そ、そのとおりでございます!」

俺とセバスチャンで意見が合致していた。

『なんすかこの狀況……。まあ、気持ちはわかるっすけどね。ノア様は無能って思われたいわけっすから、あんたを追い出したいこのじいさんと利害は一致してるわけだ』

そのとおりだよロウリィくん! 100點!

よしよし、見えてきたぞ!

第一村人(リスタ)には実力がバレてしまった。

しかしこのじいさんは、最初から俺に対する疑いのまなざしを向けている。

ならば、使わない手がない!

このじいさんを使って、俺が無能だと、領民にも知らしめるのだ!

「ノア様は……それでいいのですか? この人を近くにおいて?」

リスタが首をかしげて言う。

「ああもちろん。代々この領地に仕えてきてるってことは、現狀をよーく知ってるってことだろ。手元に置いといて損はない。よろしくなセバスじいさん」

「ふ、ふん! 勘違いするなよ小僧。わたくしは貴様と仲良しごっこをしたいわけじゃないんだからねっ!」

「わーかってるって。仲良くしようぜ」

今後のために。

「だからなれ合うつもりはないと言ってるだろうが!」

『やれやれ、波の幕開けっすね』

領主の館、ホールにて。

とりあえず使用人たちにアイサツすることになった。

「こほん、みな、傾注。新しいクソガキ……もとい、領主様のご紹介だ」

セバスじいさんが俺に敵意むき出しなじで言う。

いいぞもっと言ってくれ。

俺が無能だと喧伝する係だからね君。

「どーもどーも」

俺も俺で頑張って、軽薄なガキを演じることにしよう。

「王家から追放されてやってきた、無能王子ことノアだ。みんなテキトーによろしく」

俺の挨拶に、使用人たちは困している。

「ハッ……! まともにアイサツできないとは、さすが無能王子」

セバスじいさんが俺を馬鹿にしてくる。

「サンキュー!」

「ほめてなぁい!」

顔を真っ赤にするじいさん。照れるなって。

さて一方で……。

「あれが新しい領主様……?」

使用人達は、當然困していた。

たぶん俺が來ることは事前に告知されてたのだろう。

とは言えこんなのが來るとは思ってなかったに違いない。

よしよし、さっそくマイナスに思われているな。

だがもっと無能っぷりをアピールしないと。

『ノア様、またバカなこと考えてるんすよね?』

肩の上に乗っているロウリィが、呆れたように俺を見てくる。

ちなみにこいつは思念を飛ばしている。

『バカとはなんだ失禮な。今どうすれば無能をアピールできるか考え中だ』

俺もまた思念で會話する。

『そうだな……そうだ! リストラだ! 無能と言えばリストラ。有能そうなヤツをクビにする上司! これぞ無能』

『いやまあ……有能そうなヤツなんて、わかるんすか?』

『は? 當たり前だろ、見てろよ』

俺はザッ、と使用人を見回す。

「おいセバス、あいつとあいつと、あいつ……」

俺は使用人達を一人ずつ指さしていく。

合計10名。

「全員、クビにしろ」

「なっ!? 何をいきなり言っているのだ!?」

顔を赤くするセバス。

「今貴様が指さしたのは、この領地を支えてきた、有能な幹部陣だぞ!」

よーしよし、やっぱりな!

俺の勘も冴えてるぜ。

「はん? だからどうした。そいつらは俺の邪魔をしようと、心の中で企んでやがる」

俺は無能ムーブしたいんだよ。

有能なやつがいちゃ、邪魔なだけ。

ふふ……これで理不盡な理由で部下を追放した、駄目王子として嫌われることだろう!

「「「「な、なぜわかった!?」」」」

「「は……?」」

俺もセバスも、目を丸くする。

一方で、俺が指さした使用人達が……いきなり変を解く。

そこにいたのは……。

「ま、魔族!?」

そう、そこにいたのは魔族だったのだ。

「ばかな!? なぜこの領地に魔族が……」

驚くセバス。え、なにそんな驚いてんの?

別にいいじゃん、魔族くらい。

てゆーか、どうして魔族は人間に変裝しているのかなって気になってたんだよね。

「くそ! 計畫がバレた!」

「人間界に潛伏し、じわじわと侵略していく計畫が!」

「こんなガキにバレただと!?」

『わー、計畫自らばらしてるっすよこいつら。アホっすね』

え、あれ……?

魔族ってこの時代だと、悪者扱いなの?

『だから言ったじゃないっすか、ノア様が転生した先は未來の世界で、事は昔と異なってるんすよ』

え、え、うそ?

そ、それじゃあ……。

『魔族の謀を一発で見抜いた、すごい領主って思われるッすねこれ』

し、しまったぁああああああああ!

「なんということだ……長く仕えてきた使用人らが……魔族だったなんて……」

がっくりと膝を突くセバス。

一方で魔族たちは、揺していた。

「ど、どうする……?」

「あの王子……ただものじゃないぞ……」

「我らが挑んでかなうのか……?」

と、とりあえず……とりあえず!

クビは取り消そう!

うん、このままじゃ有能扱いされちまう。

「あー、諸君。さっきの言葉は撤回しようじゃないか」

俺は魔族たちを見渡して、にこりと笑う。

「仲良くしようぜ、これからも……なぁ?」

にっこり。

「「「ひぃいいいいいいいい!」」」

魔族が怯えて逃げていく。

え、なんで!?

『どーみても脅されてるようにしか見えなかったっすよ』

マジで!? なんでだよ!

魔族は泣きわめきながら逃げていった。

「え、ええっとぉ……」

この後どうしよう……。

すると……。

「さすがです、ノア様!」

一部始終を見ていたリスタが、目を輝かせて言う。

「魔族の謀を見抜き、あの兇悪な魔族を、一睨みするだけで追い払うなんて!」

キラキラした目でリスタが俺を見てくる。

『完全に信者の目っすよこの子やべえ……』

ドン引きしているロウリィ。俺もだよ!

すると……。

「す、すごい……!」

「新しい領主様は、すごいかただ……!」

殘された使用人達もまた、リスタと同じ眼をしだしたのだ。

「このお方におれはついていくぞ!」「わたしも!」「きっとカーター領はより発展していくに違いない!」

うんうん! と確信めいたじでうなずく使用人たち。

『やったねノア様、信者が増えたっすよ』

「おいやめろ!」

いらないだよ信者なんて!

「くっ……! 確かに、魔族がスパイとしてり込んでいたことに、ムノーダ前領主様は気付いておられなかった……」

セバスじいさんが悔しそうに言う。

「だ、だが! わたくしは認めたわけじゃないからな! 貴様の事なんて、ぜーったい認めないんだからねっ」

びしっ、とセバスじいさんが俺に指を突き立てる。

「その意気だ! がんばれセバスチャン! 君だけが頼りだ!」

「いやなんで貴様が応援してんだよおぉ!」

……こうして俺は、新しい領地に著任したのだった。

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