《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》06.第七王子は魔の脅威を取り除く(結果的に)

俺ことノア・カーターは、何の因果か辺境で領主をすることになった。

無能と思われて楽隠居するつもりが……。

「ノア様! 館のお掃除、完了いたしました!」

領主の部屋にて、メイド服にを包んだリスタが笑顔で言う。

なんか知らないけど、この子、うちで働くことになったらしい。

要らないっていったんだが、人が抜けたので人材が必要でしょう!? って押し売りしてきたのである。この子怖い。

「そ、そうか……ありがとう。別に頼んでないけどね」

俺、別に使用人に掃除なんて一切命令していない。

しかし……。

【新しい領主様が住むのに、こんなボロボロの見た目は駄目です! 掃除しましょう、補修しましょう!】

とリスタが使用人達をたきつけて、掃除を始めたのだった。

『ノア様やべえ人にバレちゃいましたね、実力』

ふぁあー……と魔神ロウリィが、貓の姿であくびをする。

いやほんとだよ……なんだよこいつ……頼んでないことやらなくていいんだよぉ。

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「それでノア様、次はなにをすれば良いですっ? 何でも申しつけください!」

目をキラキラさせながら、リスタがずいっ、とを乗り出してくる。

「い、いや……特にない、かな。うん、君もそんな熱心に働かなくて良いよ」

どうせ働く気ないし俺。

「なるほど……! そういうことですね!」

リスタが目をさらに輝かせる。

え、どういうこと?

「【領主である俺がみんなを幸せにするから、領民たちはそんなに頑張らなくていいよ】……そういうことですね!」

何をどう聞いたらそう解釈できるんだよ……

『耳でも詰まってるんすかねこの子……まあは盲目って言いますし。良いように解釈しちゃうんでしょうね』

そういうの要らないからマジで……。

「ところでノア様……ひとつ、お願いがあるのです」

「え、な、なに?」

俺はお願いなんてノーサンキューなんだけど……。

「実は村の結界をどうにかしてしいのです」

「はぁ……結界? なんだよ結界って」

と、そのときだった。

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白髪の老執事がってきた。

俺の唯一の味方、セバスチャンだ。

「さすが無能王子! 領地の事を知らずに、のこのこ著任されるなんて!」

「お、セバスチャンもそう思う? だよねー」

「だからなんで貴様は……! くっ、まあいい……わたくしが説明しましょう」

セバスは機の上に地図を広げる。

「ここ、カーター領は、隣に【奈落の森(アビス・ウッド)】と呼ばれる、魔が跋扈する広大な森を有しているのです」

「ほーん。奈落の森ねえ」

カーター領の一部は森の中にっている。

さらに街のほとんどが森に隣接していた。

「え、やばくね? 戦える一般人がいなきゃ、この領地あっという間に滅びるじゃん」

俺にとっちゃ萬々歳なんだけど、潰れていない現狀を鑑みるに、何か防止策があるのだろうな。

「我々の街には、いにしえの勇者様が施してくださった結界があるのです」

リスタがうなずいて続ける。

「勇者様は慈悲深く、この地に住まう我々が魔の脅威に怯えぬようにと、各村、外部へ繋がる主な街道に、強力な結界を施してくれたのです」

「あー……あれね」

來る途中にじた魔法の気配はそれか。

なるほど、魔払いの結界が張ってあったから無事だったと。

「しかし近年、その結界にほころびが見つかっているのです。各地で」

セバスチャンが地図上の村を指さしていく。

「いったいどうして急に……」

リスタが首をかしげる。

え、何言ってるんだ?

「まあいくら強力な結界魔法だろうと、魔力供給が途絶えたら壊れるからな。來るとき見たじじゃだいぶ経年劣化してたし、壊れるのは當然……って、どうしたんだよおまえら?」

ぽかんとするリスタとセバスチャン。

『あーあ、ノア様またやっちゃったー』

「え、俺何かやっちゃった?」

するとリスタが目を輝かせて、俺の手を握る。

「さすがですノア様! 勇者様の結界の仕組みを、見抜くなんて!」

え? なに?

それってそんなすごいこと?

「くっ……! 宮廷魔導師にわざわざ出向いてまでもらって調べても、結界の仕組みも、壊れていく原因も一切不明だったというのに……この王子は、見抜いたというのか」

悔しそうなセバスチャン。

ちょっ、え!?

「結界の仕組みなんて、魔法の基礎教養だろ?」

『だからー、ノア様、ここはあんたが元賢者だったときから未來の世界なの。いろいろ衰退してるの』

そ、そうだったー!

『アホすぎるだろ、この王子……ウワサはマジもんね。バカみたいな力持っているだけ厄介ですけど……ぐぇえええ!』

失禮な魔神は魔法で黙らせておいた。

「ノア様はお強いだけでなく、大海のごとく深い知識をお持ちになっているのですね! すごい! さすがノア様!」

「あ、いや……そんな大したこと、ないよ?」

『そっすよー。こいつ力持ってるただのバカだから……ぐぇええええ!』

リスタはバッ……! と頭を下げる。

「お願いですノア様! わたしの村……アインの村の結界を、直していただけないでしょうか!」

アインの村というのは、かつていにしえの勇者がこの領地へ來たとき、最初に助けたのがこの村だったらしい。

だから、そういう名前が付いたそうだ。

アインの村は、奈落の森に隣接していた。

「リスタ、どうしたんだその格好?」

村長らしきじいさんが、リスタの姿を見て目を丸くする。

「村長! 聞いて、新しい領主様が、壊れた結界を直してくださるんですよ!」

「な、なんと! そちらのお若いかたが……領主様?」

村長が俺を見て、そして疑いの目を向けてくる。

まあ、こんな若造が急に來たら、そりゃ疑うよな。

「どーも、無能王子のノア・カーターですっと。それで、結界ってこれな?」

頭上を指さす。

のようなものが村を覆っていた。

だがところどころひびやが開いている。

「はい。最近壊れた箇所が増えてきて、困っております……」

村長の顔を見るに、マジで困っているんだろうな。

村人もどこか疲れてる。

寢ずに見張りでもしてるんだろう。なんと効率の悪い。

だが……好都合だ。

「なんとかしてくださいますか?」

「ああ、俺に任せなさい!」

どんっ! と俺はを叩く。

「必ず、絶対! 100%! この俺、無能王子が、結界を直しみなに安寧をもたらしてやろう! ふはは、大船に乗った気でいたまえ君たち!」

「「「おお……!」」」

村長だけでなく、他の村人達も俺の挙に注目する。

ふふ、よしよしいいぞぉ。

『ノア様何考えてるんすかー?』

頭の上でロウリィが首をかしげ、思念で會話してくる。

『無能のフリしたいのに、直すなんてあんな自信満々に言っちゃってさ』

『ばか。無能ムーブだよこれも。いいか、よく考えろ? こんだけ自信たっぷりに俺が直すという。で、失敗すればどうなる? 期待が大きかった分失は大きくなる。俺が無能だってウワサが立つ! どうよ!』

完璧な作戦だった。

『あー、はいはい、そっすねー。完璧っすねー。で? 失敗するって的にどうするんすか?』

『簡単だ。結界がなくて困っているんだろ、こいつら? なら……』

俺はニヤリと笑って、右手を前に出す。

空間を、摑むように五指を閉じる。

そして、ねじると……。

パリィイイイイイン!

「「「なっ……!?」」」

リスタたちが目を剝いてぶ。

「け、け、結界が壊れたぁああああ!?」

村人達が驚愕の表を浮かべる。

よしよし!

「いやー、まずったー。結界なおすつもりが逆に壊しちまったー。おかしーなー。俺のやり方なら絶対直せると思ったのにー」

『いや、勇者が何世紀にわたって張った、やべえ結界を一瞬で壊すなんて。やべえよこの王子。敵に回さなくてよかったす』

うるさい魔神はさておき。

ふふ……結界を壊して見せたぞ。

これなら、さすがに俺を無能だって思ってくれるだろう。

「みなさん、誤解しないでください! これはあえてです!」

「ふぁ!? リスタさん!?」

リスタがとても真剣な表で、村人たちにうったえる。

「領主様はこうおっしゃりたいのです。【いつまで勇者の結界などと言う過去のに頼っているのだ。今は俺がいる。このノア・カーターが魔を退治して見せよう。結界など不要】そうおっしゃっているのです」

「「「な、なんだってぇえええ!?」」」

俺と村人の聲が完全にシンクロした。

何を言ってるんだこいつ!

は盲目どころじゃねーっすねこいつもヤバいっすね……』

いやほんとだよ!

「リ、リスタ……さすがにそんなの、信じるわけが……」

「そういうことかっ!」

村人が歓喜の笑みを浮かべて言う。

「そうだよ、領主様が倒してくれるんだ!」

「でなきゃ結界を壊すなんてことしないもんね!」

「おれたちの新しい領主様は、なんて頼りになるんだ!」

なんでそうなるんだよ!

『ノア様の周りまともなの誰もいねーすわ……』

くっ……。

だ、だがまだだ。

これで俺が魔と戦って、負ければ無能だって思ってくれる、はず……!

「ノア様はこの辺りの縄張りのボス、火山亀すら倒してしまうほどの強者! 奈落の森のザコモンスターなど一瞬ですよ!」

ん?

んんっ?

「あ、あの……リスタ? どういうこと?」

「え? 何がですか?」

「あ、いや……火山亀がどうとかって……」

「だから、あの火山亀ですよ。奈落の森の西域をとりまとめる頭目(ボスモンスター)じゃないですか」

あ、あんな弱いのが、ボスだって!?

『いやSランクは普通に強いっすよ?』

初級魔法【火球(ファイアー・ボール)】ごときで死ぬようなモンスターが!?

『いやそれできるの化け(あんた)だけっすから……』

そんな……バカな。

モンスターのレベルも落ちてるだと!?

ここまでとは……。

と、そのときである。

「おおい! 聞いてくれぇみんなぁ!」

奈落の森の方から、弓を持った若者がかけてくる。

「村長、なんだあいつは?」

「この村の出で、冒険者の子でございます。森のモンスターの間引きを任せております」

はぁはぁ、と荒い呼吸を整えながら、冒険者は言う。

「モンスターが、撤退していったぞ!」

「「「はぁあああああ!?」」」

またもシンクロする俺と村人。

どういうことだよっ。

「火山亀がいなくなったからだ! ボスがいなくなったから、取り巻きの雑魚達が去って行ったんだよ!」

『なるほど……ま、そりゃそーっすね。ボスを一撃で倒す、やべー化けが近くにいるんすから、そりゃ逃げるわな』

誰だよ化けって!

くそっ、邪魔しやがって! そいつぶっ殺したい!

『いやあんたっすからあんた』

なには、ともあれだ……。

「さすがです、ノア様!」

がしっ、とリスタが俺の手を摑んで、キラキラした目を向けてくる。

「我々を魔の脅威からお救いするだけでなく、こうなる展開を予想して、火山亀を倒してくださっていたのですね!」

いや、単にうざったいなって思って火山亀を倒しただけだし……。

この辺りのボスだなんて知らなかったし……。

「しかも領民であるリスタも救ってみせた! 一度の行いで3つも困難を乗り越えて見せるなんて! すごい……なんてすごい領主様なんだぁ!」

村長が大げさにぶ。

村人達が涙を流しながら、俺の前に跪く。

「われら一同、あなた様に死ぬまでついて行きます! 若き領主様ぁああああ!」

……はぁ。

どうして、こうなったぁあああああ!

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