《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》11.第七王子は有能な商人を雇う(うっかり)

ミスリル銀の鉱脈が見つかって、しばらく経ったある朝。

俺の寢室にて。

『なんか外がうるさいっすね』

ロウリィが俺の肩から降りて、ぴょん、と窓の枠に腰を下ろす。

俺も近づいて窓の外を見やる。

馬車が何十臺ととまっていた。

『誰の馬車っすか、あれ? ずいぶんな數っすけど』

「くく……來たか……! 待っていたぞぉ!」

『あー、またノア様がバカやろうってしてるんすか……?』

「やかましい。あれは俺が呼んだ商人たちの馬車だよ」

『は? 商人? どうしてこんなへんぴな田舎に?』

「あいつらには、領地にミスリル銀が見つかったと俺が報を流したんだよ。で、味い商売に一枚かみたいってことで、商人達はカーター領に押し寄せたって訳」

ミスリルは貴重な鉱石だ。

魔力をよく流すので、武にしてもよし、魔道の材料にしてもよし、という超優秀鉱石。

そんな便利アイテムを生み出すミスリル銀、商人達はから手が出る程ほしがる。

『でもノア様、やつらに報を流してなんのメリットが? 婚約者のサラ様も商會をもっているんだから、彼にミスリルを託す方が金になるのでは?』

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「ふはは! そこだよロウリィくん。いいか、今回の俺の作戦、名付けて【悪徳商人と手を組んで悪いことしようぜ】作戦だっ!」

『まーたこのひと自分からそこなし沼に顔突っ込んでる……どうせ裏目に出るのに……』

「だまらっしゃい! 俺は集まった商人のなかから、特にヤバそうな商人を見つけて、そいつと悪だくみする! そうすりゃ俺の評判が下がるって、寸法よ」

『へー』

「なんだその適當な、へー、は?」

『いやぁ、別に。ま、悪人と組んで悪いことするってのはわかったすけど、果たしてそれくらいでリスタたちヤバい領民たちが、ノア様に失しますかね?』

「そこだよ、だから、中途半端な悪黨じゃだめだ。もう、聞いただけでドン引きするような悪事に荷擔したい。だから、凄まじい大悪黨を厳選しないといけないわけよ」

『そんな凄まじい悪黨なんて、いるんすかねぇ』

「まあ見とけ。俺は眼には自信があるんだ」

『その曇りきった眼でなにを見るのやら……』

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悪徳商人を探すための、面接が始まった。

領主の部屋に、一人ずつ商人を呼ぶ。

「よし始めるぞ面接を。おいセバス、一人目だ」

「かしこまりました。エントリーナンバー1、【チョーイーネ】様です」

ってきたのは30くらいのおっさんだ。

なりはぴしっとしており、常にニコニコしている。

「初めましてノア様。わたくしは……」

「うん、帰れ」

「なっ!? な、なぜです?」

「顔が気に食わん。出て行け。こっちは時間ねえんだ。帰れ。おまえじゃ力不足だ」

チョーイーネは歯がみすると、きびすを返して出て行く。

暴にドアが閉められると同時に、セバスが馬鹿にしたように言ってくる。

「おやおやノア様、なにをバカなことしてらっしゃるのですか? あのお方は【金商會】という、大陸でも名が通っている大商會のギルマスだったのですよ〜?」

「おお、そうだったのか」

「おーやおやおや、ノア様ともあろうおかたが、あんな有能な人材を取り逃がしてしまうなんてぇ。やはりあなた様では領主は務まりませんなぁ!」

おや、おやおやおや、いいぞこれ。

こうやって商人を適當に追い払っていれば、それはそれで俺の株が下がる。

有能な商人を取り逃がした愚かな領主ってなじでな。

くく……いいぞ、俺の評判を下げつつ、悪徳大商人を探すことができる。

この作戦を考えついたやつ、ひょっとして……天才なのでは?

『そっすね、ある意味ノア様天才っすよ。逆にね』

「うるさい。よしセバス、じゃんじゃん連れてこい! 全員面接するぞ。見極めてやるよ……この俺の慧眼でな!」

その後も俺は商人相手に面接し続けた。

【ゼンリョー】だの【ユウアイ】だの【ヘイワーダイスキー】だの【ラブアンドピース】だのと。

次から次へとやってきた商人を、俺は一蹴していく。

「ノアさまぁ、そんなにたくさんの有能かつ有名な商人を、ロクに面接せず第一印象だけで追い払うなんてぇ、さすが無能王子ですぅ」

「まじぃ? もー、セバスってばぁ、お目が高いんだからぁ」

「「わはははははっ!」」

『この人らってほんとはめっちゃ気が合うんじゃねーっすか……?』

そんなふうに商人を追い払い続けること數時間。

すっかり日も暮れてきた頃になって、【そいつ】がやってきた。

「次でラストでございます。ただ……ノア様」

「あん? なんだよ?」

「次の方はその……しょうしょう、ショッキングな見た目をしているので、ご忠告をと思いまして」

「ショッキングな見た目ってなんだよ。良いからさっさと連れてこい」

セバスがうなずくと、部屋に商人を呼び出す。

おいおい結局最期まで、俺の眼鏡にかなうやつはいなかったな。

やっぱ、ハードルあげすぎたかな?

しょうがない、ちょっと妥協して、後日改めて商人を呼ぶか……。

と思っていたのだが。

「失禮いたしま……」

「採用……!」

そいつがってきた瞬間。

ぴんっ、と來たね。

こいつこそが、俺の探し求めていた、人材だと!

『う、うわぁ〜……の、ノア様……やばいっすよこの人。に、人間じゃねーっす。ゴブリンっすよ』

「バカヤロウ! 確かにも緑で、出しているが出來でボコボコしてるし、耳も尖ってて、まさにゴブリンって外見している……だが! それがいい!」

「え? え……? え……?」

「君、採用! 是非うちと仲良くしてくれ!」

改めて、ってきたヤツを見やる。

長はやや低い。

別は、わかりにくいな。ズボンはいているし。

だがロウリィが言うとおり、人間だろうに見た目が完全にゴブリンなのだ。

いうなれば、ゴブリン商人ってところか。

俺にはわかる。

こんな兇悪な見た目をしているんだ。

さぞ、裏社會では、有名な悪の親玉に違いない!

「君、名前は?」

「さ、【サブリーナ】です。【サブリーナ・エチゴーヤ】……」

「エチゴーヤ! 素敵な名前じゃないか!」

なぜかわからんが、とても悪いやつの名前に聞こえる!

名前といい見た目と良い……ザ・大悪黨ってじでグッド!

「俺は君みたいな人材を求めていたんだ! 実に良い! 特に顔が素敵だ!」

「うぐ……ぐす……うぇええええん…………」

『あーあー、いーけないんだー。ノア様がなーかしたー』

「こんな……こんなこと……言われたの……はじめてでぇ〜……」

よくわからんがゴブリン商人がグスグスと涙を流し出した。

どうしたんだろうか……?

そうか、新しい金づるが見つかって、うれし涙を流しているのだろうな!

そうかそうか、ミスリル銀は金になるからなぁ!

「ノア様……私、頑張ります。あなたみたいな、心清く、お優しい方のために……一生懸命、がんばります!」

「おお、そうか! 期待してるよ!」

「はい、必ずやノア様のご期待に添えるよう、全力を盡くします!」

かくして、俺はゴブリンっぽい見た目の商人サブリーナ・エチゴーヤと手を組むことにした。

くく……いいぞ、やっと俺の無能ムーブが上手く行きそうだ!

後日。俺の執務室にて。

「さすがですノア様ー!」

「どうしたリスタ、慌てて急に」

「今朝の朝刊です! 見てくださいこれ!」

リスタが持っていた朝刊を、機の上に広げる。

俺とロウリィはそれをのぞき込む。

「『商人いっせい摘発……! 裏社會の闇商人、次々と捕まる』……だとぉ!」

『【チョーイーネ】【ゼンリョー】【ユウアイ】【ヘイワーダイスキー】……そのほか諸々。これってノア様が面接して、追いかえしたやつらっすね全員』

「さっすがノア様! 悪徳商人の魔の手から、我々領民をお守りなさってくださったのですねー!」

リスタが眼をキラキラさせる。

天の川ですかってくらいだ。

ま、眩しすぎる……だがその眼は曇ってるんだよ!

「や、ヤバいぞ! 悪徳商人が摘発されたってなったら、あのゴブリン商人まで捕まったって事じゃないか! 計畫がご破算だ!」

『あれ、でもノア様。サブリーナ・エチゴーヤさんの名前、乗ってないっすよ、新聞に』

「なんだとっ? ……確かに。くく、なるほど……さすがエチゴーヤ。騎士ごときじゃ捕まえられないほどの大悪黨だったってことか……くくく! エチゴーヤ、おぬしもわるよのぉ」

と、そのときである。

「あ、そうだ。ノア様。お客様です。とっても人な」

人な客だと? 知らないな……まあいい、通せ」

「失禮いたします、ノア様! ああ、お會いしたかったですー!」

ってきたのは、とんでもないだった。

エメラルドグリーンの長い髪の

雪のような真っ白い

ほっそりとした手足に、整った顔。

「誰きみ?」

「いやだなぁ、サブリーナですよノア様!」

『まじっすか!? あのゴブリン商人が、こんなに!?』

ロウリィが驚くのも無理ない。

あのとき見たゴブリンみたいな見た目の商人とは、180度違うんだからな。

「ノア様から友好の証にもらった、クリームのおかげです! おかげであの呪われたはすっかり治って元通りです! ありがとうございます!」

『そーいやノア様なんか帰りがけに渡してたっすけど、クリームって。これもう変レベルっすよ』

「そ、そうか……良かったね。て、てゆーかあんただったのか」

「え? 私は男ですよ?」

なっ!?

なんだとっ。

こ、こんなが……男だとぉ!?

『まああのゴブリンな見た目じゃ、別不明だったすからね。けど……どう見てもなのに男って。あれか、男の娘ってやつっすね』

「ノア様のおかげで私、自分に自信が持てました! 【銀(ぎんおう)商會】頭取、【サブリーナ・エチゴーヤ】、全全霊をかけて、ノア様の領地を発展させていただきます!」

「ぎんおう……? なんか……聞いたことあるような……」

『世界トップの超有名・超優良商業ギルドっすよ』

なっ……!?

ゆ、優良ギルドだと!?

リスタが眼をキラキラさせる。

「さすがノア様! 見た目に左右されず、真の輝きを持った才ある商人様を見抜かれるなんて! すごいです!」

「私を素敵だと褒めてくれたかたはあなた様が初めてです。しかもの病気まで治してくださり……謝してもしきれません! このご恩は一生忘れません!」

なんということだ……大悪黨かと思ったら、めっちゃ優良件の年だったとは……。

どうして……こうなるんだよぉお……。

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