《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》13.領民、何もしない領主の深い考えを読み解く

その日、第七王子ノアが不在の中。

首脳陣達で重要な會議が開かれていた。

領主の館の、會議室にて。

「これより、會議を始めます。座長はこのわたくし、婚約者のサラが勤めます。議題は……ノア様の件です」

集まっているのは領民を代表してリスタ。

騎士団長ディーヴァ、魔導師長のライザ。

暗殺者ヨナ。

そして……。

『首脳陣っつーか、狂信者の集まりじゃねーっすかこれ……』

魔神ロウリィが、窓際に座って、會議を見守っている。

ひとりだけ呆れた顔をしている一方で、首脳陣たちの表い。

ちなみにセバスチャンは不在だ。

リスタは彼たちを見渡して言う。

「皆さまご存じの通り、ノア様は先日から部屋に引きこもっております」

「ああ! もう1週間もだ……こんなこと一度たりともなかったぞ!」

「ヨナ、のあさま、しんぱい。おなかでも、いたいのかなぁ〜……?」

ノアの不在。

それは領民達に不安の影を與えていた。

一方で、ロウリィだけが真実を知っている。

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『いや、あのね。単純にあの人、引きこもってのんべんだらりんしているだけだから』

【俺もうなんもしない! だって何かすると裏目にでるんだもん! なら引きこもってやる、ぜーったい働かないもんねー!】

と、上記の理由でノアは引きこもっている。

……ロウリィのみが真実を知っているのだが。

領民達、そして首脳陣はそれを知らない。わからない。

だからこそ、なぜ彼が引きこもっているのか。

たちは理由を考える。

「くく……愚かなやつらよな。我が眷屬である、ノアの考えがわからないなんて……」

「なんだとライザ! 貴様、ノア様のお考えがわかるというのかっ?」

「うぇっ!? う、も、もちろん! 我は……くく……闇の魔法使いだぞ。知らないわけがない……闇だから我……」

とはいうものの、ライザを初めとして、誰も彼の真意を知らない。(ロウリィ除く)

頭を悩ませていると、フッ……とサラが一人微笑む。

「あらあら……ノア様の意図を理解しているのは……どうやらわたくしだけのようですね」

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「「「「な、なに!? 意図とは!?」」」」

「ノア様は……この領地の未來の行く末を、考えておられるのですよ」

盛大な勘違いを起こすサラ。

ロウリィは呆れていた。そんなわけないだろうと。

だが……領民達の表は明るい。

「「「確かに!」」」

『いやあの人まじ、領地のことなんて一ミリも考えてないっすよ……』

「ですがサラ様、行く末を考えるとは、的にどんなことをお考えなのでしょう?」

リスタの言うとおりだ。

たちの視點で見れば、ノアは最高の領主。

常に領民のためになることを考え、行している……と勘違いしている。

そう、普段からそう思考しているので、わざわざ引きこもる必要がない。

だがサラは、こう勘違いしていた。

「おそらくノア様は……大規模な作戦をお考えなのでしょう」

「「「大規模な作戦、とは?」」」

「……奈落の森(アビス・ウッド)の攻略。つまり……魔王の討伐です」

「「「「魔王の討伐ぅ!?」」」」

『いやいやいやいや、どうしてそうなるんすか!?』

サラはうなずいて杖を取り出す。

の魔法を応用し、會議室の上空に奈落の森の地図を取り出す。

広大な森の奧地には、【魔王國ケラヴノスティア】という文字が書かれていた。

魔王國。

つまり……魔王の治める國。

「皆さまご存じの通り、この世界は奈落の森を挾んで、人間達の暮らす世界と、魔族達の暮らす世界とで分かれております」

「わかっているぞ! 勇者は幾度となく魔王を倒そうと攻めるが、奈落の森のモンスター達が強くて攻めるに攻めきれないでいるのだ!」

「そのとおり。つまり奈落の森は実質魔王のテリトリーということ。……ようするに、森に隣接するカーター領は、常に魔王の脅威にさらされているということです」

「! そ、そうか……! わかったぞ! ノア様のお考えが!」

騎士団長(ディーヴァ)をはじめ、首脳陣たちも、サラの言わんとすることを理解した。

つまり、魔王がいる限り、カーター領民には、心の平穏は訪れない。

だから、ノアはその元兇を斷つ。

魔王を倒す……と、考えているのだ。

がたん、とカーター領民代表のリスタは

その場に崩れ落ちる。

「おお……なんて……なんてお優しいのですか……ノア様……ノア様ぁあああああああ! うわぁああああああああん!」

「くっ……我が闇の眷屬よ……ぐすん……一人でそんなことを考えていたなんて……」

「のあさま、ぱねー。ゆうしゃよりかっけー」

『いやいやいやいやなんでそうなるんすか。多分あの人魔王とか存在すら知らないっすよ!?』

ロウリィの突っ込みも、しかしその場に集まっている人たちの耳には屆かない。

すでに彼たちの中では、ノアは魔王を倒すため、孤軍闘している最高領主だとストーリーが出てきている。

盛大に勘違いしている中で、ロウリィだけが冷靜だった。

『第一ほんとに魔王を倒そうとしてるなら、さっさと実行しているんじゃないっすか? あの人無駄に強いわけだし?』

「そう、そこですわ。ノア様は天下無雙の力を持つ……なのに攻めようとしない」

「なるほど! 深いお考えがそこにある、ということだな!」

『いや単に面倒ごと避けてるだけのような……』

領民達が考え込む。

ノアが魔王討伐作戦を考えているのだとして、実行しないで部屋に籠もっている理由を。

必死に考えていることは、とてつもなく無駄なことだとロウリィだけが理解していた。

「ああ! 私……わかってしまいました!」

「ほんとうですの、リスタさん!」

「はい! ノア様は……領民達を思っているのです。つまり、魔王國へ単攻め込んだとき、その間に、領地は無防備になってしまうと!」

「「「それだぁー!」」」

つまりは、彼が不在の間、領地をがらあきにして、その間にモンスターなどに攻められたらどうしよう……。

領民を救うためには、領民を殘して敵地に行かねばならない。

その苦悩、葛藤があるからこそ……攻められないのだと。

「くそっ! 悔しいぞ……! 我々は……ノア様の重荷になっているなんて!」

「ふっ……ノアめ。我々がお荷だというのか……良い度だな……」

『うわぁ、剣・最強(バカ)と魔法・最強(バカ)のダブル馬鹿が、やる気出してるっすぅ……』

ディーヴァとライザの目にやる気の炎が宿る。

たちは決意する。

「ノア様が魔王國に行っている間、このディーヴァ、および騎士団が、領民を死ぬ気で守ってみせるぞ!」

「ふっ……莫迦(ばか)を言わないでちょうだいな。ノア様の大切な領民達を守るのは、このライザと魔道士団に決まってるでしょう……? 」

「なんだと! 領民を守るのは剣と盾、つまり騎士! ノア様のお役に立つのは我々だ!」

「魔法の前ではどんな理攻撃も無意味。魔道士こそがノア様が求める者」

バチバチ……! と騎士ディーヴァと魔道士ライザの間で火花が散る。

しかし結局は、どちらがノアの役に立てるかで張りあっているだけという。

なんともしょうもない理由だった。

それにをかけて、ノアが一ミリたりとも二人にそんなこと期待していないところが、悲しすぎた。

さてそんな姿を見ていたリスタは……。

「待ってくださいお二人とも。はたして……ノア様は、そんなことお考えでしょうか」

『お、おおー! ここに來て狂信者(リスタ)だけが冷靜になって、ノア様が実は何も考えてないって気付いて……』

「ノア様は、首脳陣だけでなく、領民達にも自ら、領地を守るように仕向けたいのではないでしょうか?」

『前言撤回なにも気付いてねえええええええええ!』

リスタは言う。

領民がただ、騎士や魔道士たちに守られているだけで良いのかと。

彼ら自も強くならねばいけないと。

「領民も強くならないと、ノア様が安心して、魔王國にいけないんですよきっと!」

『いやそもそも魔王國になんて行く気がないだけなんすけど……』

「「「なるほどぉおおおおおおお!」」」

『この領地バカしかいなんすかっ!?』

サラはなるほど、と深くうなずく。

ライザたち首脳陣、そして、領民代表のリスタも……。

ノアの考えを、100%理解した(と勘違いする)。

「結論を言えば、ノア様はあえて引きこもっていると。魔王國に攻める準備をする一方で、領民や部下達に自主をうながし、長させようとしていると」

「なんと深いお考えをお持ちなんだ! さすがノア様だ!」

「くく……これは我が眷屬であるノアの期待に応えねばいけないわね。ディーヴァ」

「ああ! 騎士団と魔道士団、力を合わせ、領民を鍛えるぞ! ノア様とこの土地のために!」

ガシッ、とディーヴァとライザがく手を結ぶ。

サラは全員を見渡す。

の目はキラキラと輝く。ノアへの尊敬のため。

一方でその目は燃えている。ノアへの期待に応えるため。

「皆さま、がんばりましょう。敬すべき、ノア様のために!」

「「「ノア様のために!」」」

『はわわ……とんでもないことになってるっすよ……ノア様に知らせなきゃ……!』

ロウリィは一人會議室から飛び出ると、まっさきにノアの部屋へとやってくる。

どんどんどん!

『ノア様ー! やべーっすよ! 領民が暴走してるっすよー! 早くどうにかしないと手遅れになるっすよー!』

『うるせー! 俺は絶賛ひきこもり中なんだよ! 聲かけんじゃねーよ!』

『ああもう! わたし知らないっすからねー!』

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