《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》15.魔王、領主の配下となる

ノアが特級魔族を討伐した、一方その頃。

奈落の森(アビス・ウッド)の奧地に存在する、魔王國ケラヴノスティアにて。

「なんじゃと? アウトサイドが……こ、殺された……と?」

魔王の城、謁見の間。

玉座にすわるのは、10歳くらいのだ。

赤く長い髪に、黒い角。

つるんぺたんとしたボディに似合わない古風なしゃべり方。

「おっしゃるとおりです、魔王様」

そう……この子供こそが、現魔王である【ヒルデガルド】……ヒルデだ。

ヒルデに報告したのは、部下の魔族【ツェルニ】だ。

青いショートヘアの、20代くらいの魔族である。

「ツェルニよ……まことか? アウトサイドは特級……我らのなかで最上位の強さを持つ魔族だぞ?」

「ヒルデ殿下。間違いございません。それに、彼が率いた1萬の軍勢も、冥府領の領主によって消されました」

「そうか……ふっ……」

ヒルデは玉座にふんぞり返り、ふっ……と微笑むと……。

「うわぁあああん! どどど、どうしよぉおおおおおおおおおおお!」

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ヒルデは玉座の後ろに隠れて、がたがたぶるぶると震える。

その姿はとても魔族たちの王様とは思えないほどだった。

しかたのないことだ。

はまだ若い。

「わしには無理じゃああ! 父上ー! たすけてー!」

「……お父様はお亡くなりなりましたよ。だから今、無能なあなた様が仕方なくトップに立っているのでありませんか」

「おいツェルニ! 今わしを無能と呼んだか!?」

「……違うのですか、無能な魔王……無能王(むのー)さま?」

冷ややかな目でツェルニは魔王を見下ろす。

「ヒルデ様は確かに前魔王様の直系。しかしあのお方ほどの力がなく、魔王國を統一できなかった。ゆえに、力を持つアウトサイドのような特級たちが調子に乗って、好き勝手されてしまうのですよ」

「ぐぬ……だ、だってしょうがないじゃろ! わしは……半魔なのじゃから……」

半魔。つまり、人間と魔族のハーフ。

ヒルデは完全に魔王のをひいてるわけでないのだ。

ゆえに一部の、力ある魔族たちからは馬鹿にされている。

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「……まあ、それでも死んだ父親の威厳を保とうと、必死になって魔王を演じてるところは評価ポイントですがね」

「ツェルニ!」

「……もっとも本當に力のある輩には見限られてますが」

「ツェルニぃ!」

ヒルデは部下のに飛び込む。

「わしは頑張ってるんじゃよぉお……!」

「……よしよしお可哀想な魔王様。ほんとうは口下手で引きこもりなのに、がんばって魔王ぶってるところ最高に憐れで素敵です」

「おぬし……わしを馬鹿にしてる?」

「……そんなまさか。魔王様にそんなまさか」

一切表を変えずツェルニは言う。

「……しかしどういたします? 冥府領の新領主、そうとうに厄介ですね」

「うむ……ヤバい。正直ヤバすぎる。火山亀を一撃で倒し、ひそかに領民を育て屈強な戦士にし、さらに自も特級を倒すほどの実力を持つ……」

ふっ……とヒルデは微笑む。

「あかん……勝てっこない」

「……そうですね。攻められたら魔王様なんて指先一つで頭パーンでしょうね」

「ひぅううううう! 怖いよツェルニぃいいいいいいいい!」

「……しかし魔王様、そのほかの力なき魔族たちは、もっと怖い思いをしておりますよ」

魔族は一枚巖では決してない。

全員が力を持ち、人間に恨みを持っているわけでない。

前魔王が生きていた全盛期はそうだったかもしれない。

しかし今は……あの頃からだいぶ衰退している。

戦を知らない魔族の子も増えてきている狀況だ。

騒いでいるのは、平和な世界に納得がいかない、アウトサイドのような老害どもだけである。

「いいじゃん、平和ならさぁ。みんな引きこもってコミックスでも読もうよぉ。なんで好き好んで人間と戦おうとするわけ?」

「……やはり前魔王様が人間に負けたのが、許せない層が一定數いるからでしょうね」

「よいではないか別に……戦いなんて怖いだけじゃ」

「……ええ、それはあなた様だけでなく、力ない魔族たちも同じですよ」

アウトサイドが引き連れていったのは、人間に害をなそうとする、好戦的な魔族たちのみ。

今、魔王國に殘っているのは、平和主義者で、力のない低級魔族だけだ。

「……報によりますと、【冥府の領主】は戦の準備を進めているようです」

「ノア・カーター……ボロボロだった冥府(カーター)領を短い時間で立て直した、最高最善の領主……か」

「……武、魔、戦に優れ、部下からの信頼も厚い……まさに人の上に立つために生まれてきたような仁、とのことです」

「そんなヤバいヤツがどうしてこんな田舎の領主に……?」

「……さぁ。ただいずれこちらに攻めてくるのは確実かと」

「ううむ……。……ううむ。うわぁあああああああん! 嫌じゃぁあああああ!」

ヒルデは地面に寢転ぶと、じたばたと手足をかす。

ツェルニはそんな主の姿を見てハァ、とため息をつく。

「死にたくない死にたくない死にたくないよおぉおおおおおお! ……でも」

「……でも?」

「……ここで何もしなければ、亡き父に申し訳が立たないよ」

ヒルデは腐っても魔王の娘だ。

か弱き魔族たちを守る……義務がある。

「なぁ、ツェルニ。わしが冥府の領主に挑めば……どうなるかな?」

「……死にますね、確実に」

「そうじゃな……。なあ、仮に、わしの命と引き換えになら、あやつは魔族を保護してくれるじゃろうか」

「……それは、自らの命を差し出し、その代わりに魔族の保護を訴えるということですか?」

ああ、とヒルデは弱々しくうなずく。

それ以外に、魔族が生き殘る道はない。

ノア・カーターは、単騎でも國を滅ぼすほどの力を持つ。

そんな彼が自ら育てた軍隊は、天下無雙の最強軍隊だ。

そんなやつらと真正面から挑めば、滅ぼされるのが必定。

さらにアウトサイドがケンカを売ったことで、早晩、向こうがこちらを滅ぼしに來るだろうことは確定している。

決斷するなら……今だ。

「……ツェルニ。ノアのもとへ行くぞ」

「……かしこまりました」

ヒルデの小さなが震えいてた。

は死ぬ覚悟だった。

自らの命をさしだし、降伏を宣言する。

それが……魔族の王たる自分の責務。

「……ご立派ですよ、ヒルデ様」

「うぐ……ふぐぅう……うぇええええええええええええええん!」

……かくして、魔王ヒルデガルドと、従者ツェルニは、魔族たちの保護を求めに、ノア・カーターのもとへ向かうのだった。

「なんで魔王が自分から來んだよっ!」

領主の館、ノアの部屋にて。

椅子に座っている黒髪の年、ノア・カーターがなぜか頭を抱えていた。

部屋にはノアと白貓。

魔王ヒルデと従者ツェルニのみ。

だが外には屈強な戦士や魔法使い、そして目がイッてる(リスタ)など、恐ろしい兵士達が目をらせている。

まさに、敵陣。

ヒルデはノアとの面會を求め、そして自分が魔王であることをあかしたのだ。

すると顔を真っ青にして、さっきのようにんだのである。

「どうして厄介ごとって向こうから來るのかなぁ!? ねえどう思いますロウリィくん!?」

『ヒント、普段の行い』

「うるっせえええええええ!」

ノアは白貓の頬を引っ張ってぶんぶんと縦に振る。

……その様子を見てヒルデは首をかしげる。

「……な、なあツェルニ。本當にこいつ、うわさのノア・カーターなのか?」

「……ええ、間違いないかと」

「……ウワサじゃ武勇と人格に優れた、もの凄い聖人って話じゃ?」

「……ええ。でも、なんだか、ウワサとは違いますね」

一方でノアは頭をガリガリとかく。

「くそっ! 狂信者(りょうみん)どもが暴れ出す前に、トンズラかまそうとしたらこれだよ! なに!? 俺をこの地に縛る呪いにでもかかってるの!?」

「あ、あのぅ……ノア殿?」

「んだようっせえな!」

怖い。

だが、ここで怯えてはいけない。

自分は、魔族達を守るために、ここに來たのだから。

「わしがむのは平穏じゃ……」

「おう、俺もそうだよ」

「そ、そうか……ノア殿。わしのこの命、おぬしに捧げる。だから……許してしい……」

「あ゛?」

ぎろり、とノアがにらみつける。

やはり……自分の命では足りないのだろう。

それはそうだ。

魔王は悪、そして魔族は人間と爭いを繰り返してきた……いわば仇敵。

そんな敵から命乞いをされて、はいそうですかと、人間がゆるすわけが……。

「いらねーよ」

「………………え? い、今なんと?」

「ガキの命なんざいらねーっつってるんだよ」

ノアはこのとき、純粋に、差し出そうとするヒルデの命を要らないといっただけだ。

そこに他意はないし、そもそもなぜ魔王がここに來たのかもよくわかっていない。

ヒルデが、自分の命を捧げるかわりに、魔族を保護してもらいたい、その決死の覚悟が……。

ノアには、まったく伝わっていなかったのである。

むしろ『こいつなにいきなり來て死のうとしてるの?』と首をかしげていた。

しかし……。

「ノア殿……ぐす……なんと……なんとお優しい……」

「え? え? なに? どうしたの急に泣き出して……」

どしゃり、とヒルデはその場にへたり込んで、うぉんうぉんと泣き出した。

「わしの……子供(まおう)の未來を奪いやしない。みんな……保護してくれる……そういうことなのじゃなぁ……」

「は……?」

「うう……やはり、やはりノア殿は、うわさどおりの素晴らしいお方じゃ! うぉおおおおおん! ノア殿ぉおおおお!」

ようするに、ノアは魔王の覚悟に銘をけ、無條件で魔族の民をゆるし、自分の庇護下においてくれる。

そう、魔王は解釈したのである。

「え、保護? 何言ってるのおまえ……?」

「「「さすがですノア様ぁあああああ!」」」

ばーん! と扉が開き、領民(やべーやつら)がってくる。

「敵にも慈悲をおかけになるなんて!」

「子供の命を取らないであげるなんて!」

「今までのことを水に流し、か弱きものを助けてあげるなんて!」

「「「やはりノア様は、世界最高の領主様ですぅううううう!」」」

……もう、領民(きょうしんしゃ)たちからの尊敬度は、カンストどころか、メーター振り切っていた。

「ノア殿ぉ! このご恩! 決して忘れません! 我ら魔族、あなた様の配下に降り、あなた様の領地のために働きますぅううう!」

そこに加えて、新たな領民……魔王と魔族が加わる羽目となる。

「え? ロウリィ……え、これ……なに? 俺……なんで魔王と魔族を仲間にする流れになってるの?」

『さ、さぁ……?』

一方でツェルニは冷靜に、このおかしな事態を見て……。

「ここアホしかいない、マジウケるー」

ひとりゲラゲラと、腹を抱えて笑っているのだった。

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