《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》22.駄馬兄、弟を迎えに行くがもう遅い
ノア・カーターが王家を追放されてから、しばらくたったある日。
ノアの兄、ダーヴァは、馬車に乗ってカーター領を目指していた。
「早くしろこのポンコツ! ノアのもとへ急ぐんだよぉ!」
「だ、ダーヴァ様。いったい、何をお急ぎになられてるんですか?」
馬車を運転していた者が、不思議そうに聞いてくる。
「ノアだよ! あいつを連れ戻すためだよ、くそ!」
「の、ノア様を……? いったい、どうして今になって……?」
「知るか、くそっ! 父上の命令だよ。あいつを連れ戻せってよぉ!」
ダーヴァは父の命令に釈然としない思いを抱いていた。
ノアを連れ戻せという命令。
それはノアが優秀だから、らしい。
確かに、ダーヴァにも思い當たる節は多々ある。
ノアが出て行った後、數多くの要人たちがやめていった。
騎士団長、宮廷魔導士長、そしてノアの婚約者であるサラも王宮を去った。
どうやらノアは相當されていたらしく、城からいなくなったと知ると、その日のうちに城を出て行ったのだ。
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そんなふうに、次から次へと、ノアがいない、ノアはどこだと、彼を求めて要人たちがやってきては、追放を知ると出て行った。
ダーヴァからすれば、見下していた弟が評価されて、とても悔しい思いをしていた。
そこに、父からの連れ戻せという命令。
「ほんとはいやだった! 悔しくてしかたない! だが……父上の命令だ。可及的速やかに、ノアを連れ戻せと。できなきゃ……おれも……」
がたがた、とダーヴァはを震わせる。
もしもノアを連れ戻せなかった場合、自分もまた追放されてしまう。
弟を認めるのは死んでも嫌だったが、命令に背いて王子の位をはく奪されるのはもっといやだ。
それならば、気持ちを押し殺して、ノアを連れ戻したほうがいい。
「まもなくカーター領に到著します……よ……って、なんだこれぇええええ!?」
「どうした……って、えええええええええええ!?」
……ダーヴァは目を疑う。
そこにあるはずなのは、うち捨てられた村。
奈落の森(アビス・ウッド)。
それは、兇悪な魔が跋扈する、死の森。
カーター領はそこにうち捨てられた、死にゆく大地だった……はずなのだが……。
「ど、どうしてこんなとこに、城塞都市があるんでしょうか?」
それは立派な外壁のある都市が目の前にあったのだ。
「……わからねえ。ただ、ノアが何かしたんだ。くそっ! あいつめ……! どんなインチキをしたのか、直接問いただしてやる!」
ダーヴァは歯がみしながら、領主の館へ行く。
そこにはしい庭園を持った、緑かな領主の館があった。
ダーヴァはずんずんと進みながら、ドアを開けて、領主たる弟ノアを見る。
「おい、ノア!」
……書類の山のなかに、死人のように橫たわる年がいた。
彼こそが、弟にして、実力を隠していた無能王子、ノア・カーター。
「んが……なんだ……駄馬兄さんか。どったの?」
「だ、誰が駄馬だ無禮者!」
ダーヴァは肩を怒らせながら、弟の元へ行く。
懐から羊皮紙を取り出して、勅命を突きつける。
「父上からのご命令だ! ノア、貴様を王家に連れ戻す!」
「俺を……実家に……」
ぷるぷる……とを震わせるノア。
「ああ。非常に腹立たしいことだが……ぶぎゃ!」
ノアは渾のストレートを、兄の顔面めがけてたたき込む!
「ぶげぇえええええええええ!」
魔力で強化された拳は、ダーヴァの顔面につきささり、そのまま壁の外まで吹っ飛ばす。
「な、なにをするんだ……!」
と、そのときである。
「お客様、だ、大丈夫ですか……?」
しい村娘……リスタが、心配そうにこちらをのぞき込んでくる。
「あ、ああ……」
そのしさに見惚れるダーヴァ。
ほっ、と安堵する姿も、またしかった。
「ノア様に何かご用事ですか?」
「ああ、あいつを連れ戻そうとやってきたのだが……」
ぷるぷる、とリスタがを震わせる。
「どうした?」
「み、みんなぁあああああああああ!」
リスタが突如として聲を張り上げる。
「大変です! ノア様が、連れ去られてしまいますぅううううううううう!」
その瞬間だった……。
どどどど! と土埃をあげながら、數多くの領民達がダーヴァに向かって駆けつけてくるではないか。
あっという間に、ダーヴァは取り囲まれてしまう。
「ふざけんな!」
領民の一人が憤怒の表を浮かべて言う。
「おれたちの領主様を……ノア様を譲ってなるものか!」
領民の中には、出て行った騎士や、そのほか重要人達の姿もあった。
「ノア様は村の救世主なのです! 彼を連れて行くというのなら……容赦しません!」
全員懐から、杖だの銃だのを取り出す。
「ただの平民が武裝している……なんだこれは……!?」
そこへ、ふわりとノアが著地する。
「ノア様!」
「どけ」
ノアは怒りを拳に込める。
「てめえよぉお……」
弟のから怒りの炎が湧き上がる。
「迎えに來るのがぁあああああ! 遅ええええんだよぉおおおおおおおおお!」
怒りの鉄拳がダーヴァの顔面に再び突き刺さる。
「ぶぎゃぁああああああああああ!」
ぐるぐると回りながら、ダーヴァがすっ飛んでいく。
「てめえが來るのが遅いせいで! もうめちゃくちゃたくさんの人に、俺が有能だってバレちまって、引くに引けなくなったじゃねえかこの野郎ぉおおおおおおお!」
……かくして、無能王子として追放されしノア・カーターは、辺境の地で領主をやっている。
民を助け、悪人をさばき、モンスターから民を守る……。
史上最高の善良領主として、カーター領の歴史に名を刻む羽目となってしまったのだった。
「やめてぇえええ! 休みてぇえええええええ!」
【※読者の皆様へ】
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