《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》27.第七王子は皇子を鍛える
ある日の領主の館にて。
「仕事……ふえ……ふえ……ふぇええん」
『ノア様、どうしたんすか?』
「仕事おわらないのぉ〜」
書類の山に埋もれるように、俺は機の上に頭を乗っけている。
白貓のロウリィが書類の山をちょんちょん、と尾でつつく。
『また一段と書類が増えてないっすか』
「しょうがないだろ!盜賊団、なんか舎弟になって、領民がまた増えた。人が増えればその分仕事が増える……はぁん、さいあくぅ」
『まあ全部自業自得なんで、甘んじてけれるほかないっすね』
「あーもー! ストレス溜まるなぁ! ロウリィ! ちょっと球をぷにぷにさせろ!」
『いやっすよ! こう見えても自分、の子なもんで。容易く男の人にはれさせないんすよ』
「……煮干し、食べる?」
『んも〜♡ しかたないっすね〜♡ 特別っすよぅ〜♡』
ロウリィに煮干しを與える一方で、俺は球をる。
だが球ごときでは俺の貯まりに溜まったストレスは解消されない。
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さてどうするか……とそのときだった。
「のあさまー!」
ばんっ! と元気よく扉が開かれる。
ってきたのは、帝國の皇子ガルシアだ。
銀髪に銀の瞳。
白いに高貴な顔つき。
『まさにザ・王族ってじっすよね。ノア様と違って……ぐぇええ』
「よ、よぉガルシア皇子。それに、姉上も」
メイシェン姉上も一緒にってくる。
「のあさまっ、今日こそ、おけーこつけてくださいっ!」
『すっかりこの子もノア様のファンっすねぇ』
「あー、すまねえなぁ。俺は忙しくってよぉ」
「あー……そうですかー……」
しょんぼり、とガルシア皇子が肩を落とす。
結構寢覚めが悪い……がマジでそんな時間はない。
「ノア。わたくしからもお願いします。どうかガルシア殿下にお稽古をつけてくださいませんか?」
「姉上……?」
なんだかメイシェン姉上は、切羽詰まったような表になる。
なんだろうか……。
白貓ロウリィが俺の頭の上にのっかって、思念で會話してくる。
『前から思ってたんすけどノア様、どうしてガルシア様って5歳でもう結婚してるんすかね。早すぎません?』
『まあ確かにな。世継ぎを作れる年齢でもないのに、いきなり結婚ってのは気になるな。婚約者ならまだしも』
『なにかガルシア様は特別な事でも抱えているんすかね?』
『しらねえよ。帝國側のなんてよ……しかし、ふぅむ……』
せっかく皇帝の息子さんがうちにいるんだ。
これは……使わない手はないか。
「ガルシア皇子。気が変わった。俺が稽古つけてあげよう」
「えっ!? ほ、ほんとーですかっ!」
「ああ! 俺についてこい……! 本の魔法を教えてやろう!」
「わーい! やったー!」
俺はガルシア皇子とともに館を出る。
頭の上に乗ったままのロウリィが聞いてくる。
『まさかこの子を使って無能ムーヴするんじゃあないでしょうね?』
『え、その通りだけど?』
『ちょっ! あんた、こんな純粋無垢な子を悪用しようって……良心は痛まないんすかね!?』
『ぜんぜんまったくこれっぽっちも』
『なんというクズ王子……同じ王族でこうも違うとは』
『うるへー。よしやるぞ、名付けて【子供相手に大人げないですぞ、領主様さいてー】作戦だ!』
『わーシンプルな作戦名……おおかた魔法を教えるという名目で、魔法をバンバン使ってガルシア皇子を泣かし、ギャラリーからの好度を下げようって寸法でしょう?』
『その通り、よくわかってるじゃあないか。そろそろ俺を理解したかい?』
『ノア様もそろそろご自分の行が全部裏目に出るように天より定められていることを、理解したほーがいいっすよ……』
★
領主の館の裏にやってきた。
芝生の地面が広がっている。
「ではガルシア皇子。まずは魔法の基礎、魔力作からはじめようか」
「まりょくそーさ……?」
「の魔力を自在にかす基礎技だ。これができるとできないとじゃ、魔法の威力がダンチだぜ」
「そーなんですかーよーし、がんばるぞー!」
ふすふす、と皇子が気合い十分、鼻息荒く言う。
くくく……まんまと中にハマっているな。
やはり無垢なる子供はだましやすいぜ……!
「丹田、つまりへその下に魔力を生み出す仮想臓があるんだ。そっから魔力を引き出して、全に巡らせるようじ」
俺は両手を広げて、うちにめた魔力をほんのし解放する。
ごぅ……! と俺のから魔力が吹き出す。
「ひゃあ……!」
『あぶねーっす!』
魔力の波により、皇子が吹っ飛ばされる。
ロウリィが白竜へと変化し、皇子をけ止めた。
『子供相手に何マジになってるんすか!』
「すごい……とてつもないまりょくりょうです!」
「バカ言っちゃ困る。俺はまだ、全然本気を出しちゃいないぜぇ?」
「これでほんきじゃないなんて……」
ふふふ、ガルシア皇子は凹んでいるようだ。
実際に俺はまだ0.0001%も本気を出しちゃいない。
賢者(おれ)の魔力量は無盡蔵に近い。
それを見せつけることで、自信を折る作戦よ。
「さ、やってみたまえガルシア皇子ぃ」
「はい! おへそのした……ぐぬぬ、むずかし〜……」
『あのー、ノア様? 魔力作って、結構高等技じゃあないんすかね?』
ロウリィがハラハラとガルシア皇子を見上げながら言う。
『は? んなわけねーだろ。俺には呼吸するようにできるぞ』
『いやそりゃあんたが転生賢者だからでしょーが! 普通の人間は、魔力を扱うのは難しいんっすよ! モンスターや魔族と違って、魔法を扱う力が人間は弱いんだから』
『ほーん。ま、だとしたら好都合だ。魔力作が難しい技ってんならガルシア皇子ができるわけねーし……』
「できたー!」
「『ふぁ……!?』」
ゴォオオ! と皇子のから魔力が吹き出す。
それは俺がついさっきやってみせた、手加減の魔力解放と同じくらいの魔力量だ。
『す、すんげえ! なんすかこの魔力量!』
「けど……あわわ! 止め方がわからないよー!」
皇子のから吹き出す魔力量が徐々に増えていく。
『まずいっす! このままじゃ放出する魔力にがついて行けず、発しちゃうっす!』
「ったく、仕方ねえな!」
暴風のような魔力の嵐をかいくぐって、ガルシアに接近する。
俺は指をわきわきとかし、そのままえぐり取るようにして、ガルシアの腹に一撃をれる。
「カハッ……!」
パキンッ……!
「パキン? 何の音だ……?」
吹き出していた魔力の嵐が収まり、ガルシア皇子がその場にへたり込む。
メイシェン姉上とロウリィが慌てて近寄る。
「ガルシア殿下!」
『皇子! もー! ノア様さすがに子供に手を上げるのはよくねーっすよ!』
「うるせえ。魔力回路をいじっただけだ」
『魔力回路……?』
「魔力の通り道だよ。循環不全起こして暴走しかけてたから、ちょくっといじっただけだ」
『よ、よくわからねーっすけど……それって魔力の巡りをよくしたってことっすか?』
「そゆこと」
うう……とガルシア皇子が目を覚ます。
「殿下! 大丈夫ですか……」
「うん……ごめんねメイシェン……」
「いいのです……皇子が無事ならそれで……」
「……って、あれ? なんだか、が軽い……」
まあ何はともあれだ。
これで俺が、大人げない駄目領主だって姉上も見てくれていたことだろう!
これが帝國側に伝われば……くく、さすがに俺を領主から下ろせと抗議が來るに違いない!
いやぁ、楽しみだなぁ!
★
後日、俺の部屋にて。
「「ありがとうございます、ノア(さま)ー!」」
「ふぇっ!? ど、どうしたガルシア皇子……? 姉上も……」
彼らが笑顔で俺の部屋にってくる。
心なしかガルシア皇子の顔が良いように思えた。
メイシェン姉上が涙を流しながら俺に言う。
「ノア、あなたのおかげで、ガルシア殿下の病気が治りました!」
「は……? びょ、病気だぁ?」
「ええ……殿下は生まれつきがなぜか弱く、長く生きられないと言われていたのです。お醫者様は病気だろうとは言ってたのですが、原因がわからずじまいで……」
『なるほど……だから5歳なんて早い年齢で結婚したんすね。老い先短いから』
「謎の病気って……俺別に病気なんて治して……あ」
ひとつ、ガルシアの不調に、思い當たる節があった。
魔力不全。皇子は生まれつき魔力経路の通り道が狹く、機能不全を起こしやすい質だった。
『なるほど、病気の原因は魔力の巡りが悪かったから。で、ノア様が魔力経路をいじったことで、魔力の通り道がよくなり、結果、病気が治って元気になったってことっすね』
「ま、まじか……」
「ノア、あなたはこの世界最高の醫者でもわからなかった皇子の病気の原因を突き止め、治療して見せたのです! さすがです!」
「のあさま、ありがとうございます! このご恩……ぜったいわすれませんっ!」
あ、あれぇ……?
おかしい……子供相手にイキって、好度下げるつもりが……。
『次期皇帝からも気にられて、ますます有能っぷりが世間に広がったことでしょうね。よかったねノアちゃん、信者が増えるよ』
「どうしてこうなったぁあああああああ!」
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