《【書籍化】左遷された無能王子は実力を隠したい~二度転生した最強賢者、今世では楽したいので手を抜いてたら、王家を追放された。今更帰ってこいと言われても遅い、領民に実力がバレて、実家に帰してくれないから…》32.第七王子は流行病を治す(in娼館)
駄馬兄の事件があってから、しばらく経ったある日の朝のこと。
「はぁ~~~~…………鬱だ」
ベッドから起き上がった俺は、一人ため息をつく。
ぐーすかと俺の隣で、とぐろを巻いて寢ているのは、白貓ロウリィ。
元々は魔神なのだが、いまは俺の舎弟だ。
『んがー……かつおぶしー……くろかんー……もうたべれないっすぅ~……』
「…………」
のんきに鼻提燈つくって眠っている貓がうらやましい……。
俺はムカついて、貓髭をひっぱる。
『ぎゃんっ! な、なにするんすかぁ!』
しゃーっ! とロウリィが牙を剝いて言う。
どうでもいいがおまえは魔神ではなかったの? 完全に作が貓なんだけど。
「おまえがのんきに寢てるのが悪い」
『え? 何か急事態でもあったんすか? それだったらすんません……』
「いや、俺が睡眠不足で悩んでいるのに、おまえだけのんきに睡しているのがむかついたから」
『謝って損した! そっちこそ謝れ! 謝罪しろーっす!』
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ややあって。
俺はあくび混じりに執務室へ行く。
「「おはようございます、ノア様!」」
部屋について椅子に座るなり、老執事とメイドが、笑顔でやってくる。
「ノア様は本日もかっこいいです! 素敵です!」
「ああ、どうも……リスタ」
このメイドはリスタ。
元々は村娘だったが、俺がひょんな事から助けたことで、すっかり俺の信者になってしまった……。
「アンニュイな表も最高です!」
『単に寢不足なだけらしいすけどね』
「なんと! 領地の將來を思って夜も眠れないなんて……やはりノア様は素晴らしい領主様です!」
俺が何か言うたび、何かをするたび、リスタの俺を見る目がキラキラと輝きを放つ……。
こわいよぉ~……。
「ノア様。こちら本日の決裁文書でございます」
ずんっ! と大量の書類の山を、老執事のセバスチャンが俺のもとへおく。
山と積まれた書類……まだ片付いてないのに、書類が追加されてしまった……!
「ノア様ならばこの程度の仕事、余裕でこなせるでしょうなぁ!」
『ちょっと前まで意地悪じいさんだったこの人も、いまではすっかり信者側とは。おそろしいっすねノア教信者』
誰がノア教だンなもん作った覚えはないよ!
ふたりが部屋を出て行き、俺とロウリィだけが殘される。
「ああ……毎日毎日つらいよぉ~……」
『まあこんだけ仕事があっちゃねえ。自業自得っすけど』
「どこが!? 俺なんかしちゃいました!?」
『やることなすことぜーんぶ裏目に出ちゃうんすもの。いい加減、無能ムーヴは封印した方がよくねーっすか?』
無能ムーヴ。つまり、俺を無能と見せることで、領民達からの信頼を下げ、この悪魔の地(カーターりょう)から出て行く作戦だ。
『もうあきらめて有能領主として働けば良いのに』
「バッカヤロウ! そんなことしたら、死ぬまで働かされるだろ! 俺は! 楽隠居したいの! アーリーリタイアしたいの!」
前世、前々世と忙しかったからな、もう二度と働きたくないのだ。
「俺はこれからも無能ムーヴするぞ……目指せ無能領主!」
『はいはい無駄な努力乙。で、今回もなんかするんすか?』
「おうよ……既に布石は打っている。まもなく來ることだろう……」
と、そのときだった。
コンコン、と部屋のドアがノックされる。
「お久しぶりです、ノア様!」
「おお、サブリーナ! 待ってたぞ!」
『あ、たしかゴブリンみたいな見た目だったけど、ノア様のおかげでおつるつるな男の娘となったサブリーナ商人ちゃんじゃないっすか』
「誰に向けて説明してるの、おまえ?」
サブリーナは俺の前までやってくると、頬を赤くし、もじもじしながら言う。
「ノア様……その、なかなかお會いできず申し訳ございません」
「気にすんな。デカい商會のトップなんだから忙しくて當然さ」
「ノア様……! うう……なんてお優しい……好き……だいてほしい……」
「え、なんだって?」
『やべーよノア様、やべーよおのまもらないと……ぐぇええ』
白貓を雑巾のように絞りながら、俺は邪悪な笑みを浮かべる。
「ところでサブリーナ、準備は整っているな?」
「あ、はい! つつがなく!」
「よし、では參ろう……!」
俺は立ち上がり、赤いマントをにつける。
『ノア様、かっこつけてどこ行くんすか? またバトル?』
「娼館だ!」
★
娼館、つまりは風俗店だ。
金を払っての子とにゃんにゃんするお店である。
『はえー……いつの間にカーター領に、娼館なんてできてたんすか?』
やってきたのは領にあるとある街。
そこには立派なレンガ造りの建があった。
「俺がサブリーナに依頼しておいたんだ。領主用達の高級娼館を作るようにと!」
『その心は?』
「遊びにあけくれるノア様さいてー、って思わせるために決まってるだろ!」
『はぁん、なるほど……だから無駄に豪華な見た目の館なんすね』
「おうよ! しかも、サブリーナのこねをつかい、全國から最高の娼婦を集めさせた、最強の娼館を作ったのだ!」
『まあ……無駄金を自分の楽しみのためだけに使うのって、バカ領主っぽいっすね』
「だろ~? よしサブリーナ、いこうぜ!」
俺はガシッ、と隣で赤くなって、もじもじしているサブリーナと肩を抱く。
「ノア様……わたしはその……」
「んだよー、赤くなって。さては貞か? 恥ずかしがることない、遠慮なく楽しもうぜ」
『ノア様……たぶんサブリーナちゃん、娼婦のお姉様と遊ぶのに照れてるンじゃないと思うっすよ?』
ロウリィが訳わかんないこと言っていたが無視した。
俺はサブリーナとともに館の中にる。
「いらっしゃいませ領主様。お待ちしておりましたわ」
俺がると、すかさず人なマダムが出迎える。
「あたくしはこの娼館の支配人として配屬になりました、【マダム・エリシオン】と申しますわ」
「おお、マダム。よろしくな!」
マダムと俺は握手する。
「さて……さっそく本題にろうか」
「ええ。さっそく嬢をご用意します。ご要があればおっしゃってくださいまし」
俺はニヤリと笑って、マダムに言う。
「全員だ。全員つれてこい」
「ぜ、全員……ですか?」
そのとおり。俺が目指すのは悪徳領主。
酒池林! これぞバカな為政者っぽい!
『その考えが既にアホっぽい……あ、らめ、しっぽをそんなふうにしちゃらめー!』
「し、しかしノア様……それはちょっと……」
「なんだ? 俺の命令が聞けないのか? いいからさっさと全員つれてこい。いいか、全員だぞ?」
マダムは首をかしげる。
……だが、ハッ! と何かに気付いたような顔になる。
「かしこまりましたわ、すぐに……ご準備いたします」
「おう! 頼むぜ。わるいなサブリーナ。おまえは二番目だ」
「は、はい! わかりました……綺麗にしておきます! おしりのほうを!」
『サブリーナちゃんはネコであったっすか……』
「あん? 貓はおまえだろロウリィ。何いってんの?」
まあ何はともあれ。
これで俺の悪評も広がることだろう。
無駄に豪華な娼館を作り、さらに出來たばかりの娼館の、全員を抱いて、無駄金を使った。
最悪領主として、領地に悪いウワサが広がることだろう。
いやぁ……楽しみだな!
★
後日、俺の部屋にて。
「「さすがです、ノア様!」」
「ふぁっ!?」
やってきたのは、サブリーナおよび、マダムだ。
ふたりが目を輝かせながら、俺の前に立っている。
「え、えっと……なんだ急に? マダム?」
「ノア様に今日は謝をと。娼婦たちの流行病を治してくださったことに」
「は、流行病だぁ?」
マダム曰く。
最近娼婦の間で、謎の病気が蔓延していたらしい。
それはマダムの経営する娼館でもそうだったそうだ。
その日、マダムは調不良な娼婦を休ませていた。
だが……。
「ノア様の治癒魔法のおかげで、病気がすっかり治ったのです! すごいですわ!」
『え、ノア様治癒魔法なんて使ってたんすか?』
ロウリィは意外とウブで、『じ、自分……外でまってるっす……ひゃー』と俺がおっぱじめる前に窓から出て行ったのである。
ロウリィと思念で會話する。
『そりゃ、治癒魔法くらい使うだろ、プレイの前に』
『どーして?』
『病対策。娼婦は結構、病持ってるからな。だからやるまえには毎回必ず浄化の魔法を使ってるわけ』
『魔法で病って防げるもんなんすね……つまり、別にの子助ける気なんてサラサラなかったと?』
『たりめえよ。俺が病かかったら嫌だからに決まってるだろ』
あ、あれ?
でもこれって……。
「さすがですノアさま!」
キラキラ……と目を輝かせる。
「苦しんでいる娼婦さんたちを助けるために、わざわざ自ら出向いて、魔法で治してあげるなんてー!」
ああなんかまた誤解を生んでるー!
あれぇ~? おかしいぞぉ?
最低だって思われるためにやったことだったのに……。
「領主様。あたくし激いたしました。娼婦はどうしても、軽蔑されてしまうなか……あなた様はあたくしたちにも慈悲をおかけくださる……なんてあなた様のような素晴らしいお方、はじめてですわ」
『マダムさんもノア教に、ご信~』
「ああもうぉお! どうしてこうなるんだよぉおおおおおお!」
お薬、出します!~濡れ衣を著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】
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