《不死の子供たち【書籍販売中】》03 見つけた re

に投されているインターフェースで、遊園地の上空を旋回していた〈カラス型偵察ドローン〉から信している映像を確認するが、周辺一帯の廃墟に変化はなく驚くほど靜かだった。

『それで、どうするつもりなの』

カグヤの聲が耳に聞こえると、私は聲に出さずに返事をする。

『まだ分からない』

視界の隅に表示されている〈汚染狀況〉を示す數値を確認したあと、私はガスマスクを外した。

「あなたは人間なのですか?」

若いはそう言ったが、彼の聲は震えていて聞こえづらかった。

「人間だよ……いや、君が人改造手けた人間を、人間と定義しない差別主義者でなければ、俺は間違いなく人間だ」

「改造手……?」

の呟(つぶや)きを無視して私は訊(たず)ねる。

「なぜ人間じゃないと思ったんだ?」

「あの……えっと、瞳が赤くったからです」

周囲が暗かった所為(せい)なのかもしれない。した瞳孔(どうこう)がわずかなを発したのが彼に見えたのだろう。眼球を覆うナノレイヤーの働きで、濃紅の虹彩(こうさい)を持つ瞳孔が金を放つことが稀(まれ)にあった。理由はわからなかったが的になると、その頻度は高まるようだった。

「連中の仲間じゃないんだろ、どうして捕まっていたんだ?」と、私は彼に訊ねる。「いや、そもそもあんたは何処から來たんだ?」

「東京の……えっと、東京の〈第十七地區防護施設〉の――」

東京?

東京は文明崩壊の混期に――詳しいことは知らないが、海の底に沈んだとされていた。は混しているのか、わけの分からないことを口にしている。

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『ねぇ、レイ。それって、いろいろと大変で急がなければいけないときに質問しなくちゃいけないような大切なことなの?』

カグヤの言葉を否定するように頭を振る。それからにあとで話を聞かせてしいとだけ言った。

「分かりました」と彼はうなずいた。

「俺は組合に所屬するスカベンジャーだ。あんたはレイダーには見えないけど、助けは必要か?」

私がそう言うと、彼は自分の手足に掛けられた鉄の枷(かせ)を煩わしそうにかす。

「……助けは必要です」

食人鬼の狂った集団に捕らわれている間に、彼がどのような目にあったのか私には想像ができないけど、顔面蒼白になりながらも彼は気丈にうなずいて見せた。恐怖からかが微かに震えていて、それ以上の言葉は出てこないようだったが。

「俺はレイラ。あんたの名前は?」

「……ミスズ」

名前を聞けば彼について何か思い出せるのかもしれない、そんな風に考えていたが、やはり彼について思い出せる記憶を持ち合わせていなかった。他人の空似なのかもしれない、現に彼も私のことを知らないようだった。

ミスズからはチグハグとした妙な印象をけた。鋭の軍人のような恰好をしていながら、一方では遠目から見ても分かるほどに現在の狀況に怯(おび)え(からだ)を震わせている。〈鳥籠〉の外に出るような勇気がある人間には到底思えないのだ。

けれど食人鬼に捕らわれていながらも、生きることを諦めていないその眼差しからは、戦士としての素質が十分にあることが窺(うかが)える。なくとも私が知る多くの臆病な人間よりも彼は勇敢なのだろう。

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ミスズを驚かせないように、なるべく穏やかな口調で彼に話しかける。

「俺はこの施設を占拠(せんきょ)しているレイダーたちと戦中だ。君を助けるために出來るだけのことはやってみせるけど、自分の命は自分自で面倒を見てくれるか?」

「助けてくれるのですか?」と、ミスズは私に問いかけてくる。

「もちろん。できるだけのことはするよ、だから自分自を守るように行してくれるか?」

「はい」

ミスズは顔面蒼白のまま、拳を強く握って見せた。

は捨てていないし素直だ。急を要する場合、無駄なことを考えず素直に指示に従ってくれる人間は貴重だし、それだけで生き殘る確率も高くなる。

「貴方が信頼できる人間なのかは分かりません、でも私はこの場所に殘る気はありません」

それもそうだ。と、私はうなずいた。

「それなら、しだけそこで靜かに待っていてくれ」それから、と私は言った。「今まで諦めずに、よく頑張ったな」

放置されたままの機械人形に近寄ると、屈みこんで機を眺めた。

問題は制チップだ。

『カグヤ、チップの場所は分かったのか?』と、私は聲を出さずにカグヤに訊(き)く。

『うん。それより彼のこと、本気で助けるつもり?』

『そのつもりだよ。いくらなんでも、こんな場所に置き去りにはできない。そうだろ?』

カグヤと話しながらミスズに視線を向ける。彼は自を守るようにしての前で組んだ両足を抱きしめ、私に視線を向けていた。まるで食獣に睨まれた気の毒な小鹿のように、彼は震えている。

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『使いになりそうに見えないけど……』と、カグヤは言う。

『そりゃそうだろう。食人鬼で溢れた場所に捕らわれて、いつ殺されてもおかしくない狀況にいたんだ。生きることを諦めていないだけ上出來(じょうでき)さ』

機械人形のを引き起こすと、背中側についている制パネルを出させるためにナイフの柄でカバーを叩く。焦れば焦るほどカバーを外せない。

『待って、そのやり方じゃいつまでたってもカバーは外せない。落ち著いて』

カグヤの言葉で私は自分の愚かさに気がつく。戦闘を想定した〈アサルトロイド〉の裝甲が、軽く叩いただけで外せるわけがない。どうやら私は自分が考えていたよりも、冷靜さを欠いていたようだ。慣れないハプニングの所為(せい)なのかも知れない。

カグヤの指示通り制パネルへのカバーを外す。メンテナンスを容易にするためなのか、思っていたよりも簡単に取り外せた。

『レイの視線を通して回路基板をスキャンするから、全をゆっくり視界にれて』

素直に指示に従って視線をかしていると、カグヤの不満そうな聲が聞こえる。

『本當に彼を助けるつもりなの?』

『この場所に彼を置いてけぼりにしたら、慘(むご)い最期を迎える。あるいは、死んだほうがよかったって思うような生かされ方をするのかもしれない』

『でも、レイの柄じゃない』

『俺をどんな人間だと思っていたんだ』

途端にカグヤは黙り込む。スキャンした畫像と、データベースからダウンロードした設計図を照らし合わせるので忙しいのだろう。

『見つけた』

しばらくしてカグヤがそう言うと、回路基板に差し込まれていたチップの郭が青の線で縁取られる。私はカグヤの指示通り細長い小さな制チップを傷つけないように基板から外した。

そして靜電気対策が施された電子機保管のための小さな容をバックパックから取り出して、その中に制チップを収める。容は丁寧にバックパックの衝撃緩和材が敷き詰められているポケットにしまう。このチップのための遠征だ。失くすわけにはいかない。

それからミスズを拘束するために使用されていた鎖を切斷するための工を荷から引っ張り出し、バックパックを背負い彼のもとに向い鉄の鎖を切斷した。施錠された建に侵するためだけに使っていた重いだけの工だったが、人助けに使えるなんて考えもしなかった。

ミスズが立ち上がるのを手伝うために手を差し出す。彼は一瞬、私の手を取るのを躊躇(ちゅうちょ)してみせたが、私は構うことなく手を握り、彼を立たせた。

「ありがとうございます……」

ミスズはスラリとしていて、意外と背が高かった。平均よりもずっと背の高い私より、頭一つ分ほどの差しかなかった。座っていたときには気がつかなかったが、足が長くスタイルがよかった。

私はベルトポケットに挿していた予備のハンドガンをミスズに渡す。

「使い方は知っているな」

私の言葉に彼はうなずく。

「そいつを持って俺についてきてほしい。指示には必ず従うように」

ミスズは慣れた手付きでハンドガンの弾倉を抜いて殘弾を確認する。

ふと思い出し、バックパックから水筒を取り出す。

「水だ、飲むか?」

私が訊ねると、彼は真っ青な顔でかした。

「飲みたい……です」

水筒をけ取ろうと腕をばすが、両手でしっかりと握られているハンドガンに気が付き、ミスズは一瞬考えたあと、思い出したように腰のホルスターに拳銃を収め、水筒をけ取った。

『この子、本當に大丈夫かな?』

『わからない』と、私はカグヤの質問に答えた。

生きてこの場所から出したいなら、大丈夫じゃなくてもやらなければいけない。

「バックアップは任せたよ」と私はカグヤに言う。

「バックアップ……ですか?」

惚(ほう)けた表で見上げてくるミスズに、私は頭を振って答えた。

「こっちの話だ」

それから崩壊している天井を睨んだ。

『なぁ、カグヤ』と、瓦礫に埋もれた機械人形を見ながら言う。『狀態が良(よ)さそうな警備用ドロイドはくと思うか?』

『確認するから、一ずつれていって』

カグヤの指示通りに、私は機械人形にれていく。手のひらにじる軽い痛みに我慢しながら、接接続によるハッキングを試みる。

手でれただけで舊文明期の裝置や、機械人形を作できる理屈は分からなかった。一度カグヤに質問したことがあって、丁寧に説明してもらったこともあったが、やはり私には理解できなかった。

舊文明期の技力は私が知る技系とは信じられないほどの隔絶があり、魔法としか思えない事象も多くあった。

を飛び降りたときに、落下の衝撃をなくすために使用した〈重力場生グレネード〉も、そういった舊文明期の技力の一端を垣間見ることのできる代だった。

とにかく、電気的な接を介してカグヤが接続してくれる。今はそれを知っているだけで充分だった。

痺れる手を何度か握っては開いて、手のきに違和がないことを確かめた。それからハンドガンの弾倉を抜いて殘弾の確認を行う。機械人形のシステムをハッキングできれば、戦力として使えるかもしれない。舊式の警備用ドロイドを起して、略奪者たちと戦わせる算段だ。

そして廃墟の遊園地に、もうひと騒を起こす。敵が集結している現狀、出のタイミングは限られている。だから使えるものは何でも使うつもりだ。

突然、天井の大から略奪者らしきの聲が聞こえる。

「馬鹿野郎! 奴の狙いは地下の武庫だって言っただろ。どうして誰も確認に來ない」

私はを低くしハンドガンを構えると、いつでもけるように近くに待機していたミスズに聲をかける。

「今から戦闘にる。できるだけを隠して、音を立てないようにして指示に従ってくれ」

「えっと……分かりました。やってみせます」

ミスズはその外見通り、それなりの戦闘訓練をしていたのか、彼きはなかなかどうして様(さま)になっている。私はミスズと共に移して、鉄筋が飛び出している瓦礫のを隠すと、外に続く天井の大に向けて銃を構える。

天井のから、地下の様子を確認する黒く薄汚れたの顔が見えた。自分自に銃口が向けられていることに気がついたは、驚きに目を大きく見開いたが、私は容赦(ようしゃ)なく発砲した。

頬に銃弾をけたは、糸の切れた人形のように前のめりに倒れると、そのまま瓦礫の上を転がり落ちてきた。撃の際、引き金は必ず二度引くことにしていた。銃弾一発で確実に殺せるなんてことは考えていない。常に、確実にことをすように努める。殺さなければ次に殺されるのは自分自になるのだから。

施設の上空を旋回していたカラスの映像を確認する。

どうやら外にいる略奪者たちは、彼らが武庫と呼ぶこの場所に集結しているみたいだった。こちらに向かって駆けてくる何人かの略奪者の姿が見えた。

と、目の前で仲間を殺された略奪者たちが出鱈目(でたらめ)な撃を行う。

私は瓦礫にを隠して銃弾をやり過ごす。略奪者たちが放った數発の銃弾は、彼らの仲間だったの死にも食い込んでいく。

「まだ待機だ、いいな?」

私はミスズの返答を待たず、今度はカグヤに質問する。

「機械人形はまだかせないのか?」

『もうし待って』

を乗り出して撃を行い、すぐに隠れる。

『急いでくれ』

『分かってる』と、カグヤが言う。

『時間をかけ過ぎだ。このままじゃ爺さんになっちまう』

ハンドガンからサブマシンガンに持ち替えると、天井のに向かって適當に掃する。握る力を加減したサブマシンガンは、撃の反で手の中で踴るようにして弾丸を吐き出していく。

威嚇撃のつもりだったが、瓦礫を伝って下りてきていた略奪者に命中する。禿げた頭部をペンキで緑に染めていた略奪者は、我々がを隠していた瓦礫の側まで転がり落ちてくる。酷い臭いのする男は肺をやられたのか、陸に引き上げられ空気を求めて溺れる哀れな魚のように死んでいった。

「またやられたぞ、一どうなってるんだ!?」

ぶ略奪者に向かって容赦なく銃弾を撃ち込む。今度は上手くを隠したのか、仕留めることはできなかった。

「糞、糞、糞! てめぇはただじゃ殺さねえからなぁ!」

略奪者たちの怨嗟(えんさ)の聲を聞きながら、私は弾倉の裝填を行う。

『接続確認。警備用ドロイドくよ』

カグヤの聲が耳に聞こえると、私はすぐにいた。

ミスズに指示を出し部屋の奧、開放したままにしていた扉の先に彼を向かわせる。敵に対する何度かの制圧撃のあと、私も奧の部屋に駆け込む。

埃っぽい部屋に顔をしかめながら金屬製の大扉の先にミスズを走らせると、扉に仕掛け弾を設置するためにその場に殘る。

バトンのような円筒をベルトポケットから取り出し、それを扉のすぐ脇にある左側の壁に設置する。壁に設置した筒の先、出っ張っている部分を引っ張ると円筒の先端と一緒に糸が出てくる。それは注意深く観察しなければ分からないほど細い糸だった。私は引っ張り出した筒の先端を扉の右側の壁に設置する。

一見何もないように見えるが、扉の前に通された糸に引っかかると同時に円筒が発し、敵を無力化してくれる仕掛けになっている。罠の設置を終えると、私もミスズのあとを追って大扉の先に向かう。重い扉を閉じようとしたが、開ききった扉はその場に固定されていてビクともしなかった。

「カグヤ、そっちはどんなじだ」

階段を駆け上がりながらカグヤに訊ねる。

『警備用ドロイドを四、敵味方問わずく生全てを攻撃対象に設定して起した。今は地下に侵してきたレイダーたちと戦中だよ』

『レイダーとまともに戦えそうか?』

『古い機だし、武は腕に取り付けられた出力の弱いテーザー銃だけだから、全然ダメだね。ある程度の時間が稼げれば上出來かな』

「行き止まりです……」と、階段の先に困り顔のミスズが立っていた。

「自開閉だったんじゃないのか」

カグヤが私の疑問に答える。

『レイダーたちが來るかもしれないから、かないように設定しといたんだよ』

「気が利くんだな」と、私は皮を言う。

『出來るは嫌い?』

「まさか」

聲に出してカグヤと話していたからなのか、ミスズが不思議そうな表で私を見つめる。私は肩をすくめ、それから上方にびるようにして開いていく出口から頭だけ出して周囲に敵がいないか確認する。

「大丈夫そうだな……。なぁ、ミスズ。この先の部屋には大量の死が吊るされているけど、問題ないよな?」

ミスズはコクリとうなずくと、黙って私のあとについてくる。

地面に埋まるようにして閉じていく出口から大きな破裂音が聞こえる。扉に設置した罠に略奪者が掛かったのだろう。

「カグヤ、今閉じた出口もかないように設定できるか?」

『もう設定しておいたよ』

「助かる」

『あっ!』

「なにか問題が?」

『警備用ドロイドとの接続が切れた。全機やられたみたい』

「役には立ってくれた」

敵のいない靜かな廊下を進み、施設の外に繋がる出口の前で立ち止まり姿を隠す。

窓から空を仰ぎ見て、雲ひとつない青い空を飛んでいたカラスを視界に捉える。そしてカラスから信する映像を確認する。

付近一帯に敵の姿はなかったが、もう一度焦らず映像を確認していく。周囲の建築に敵の姿がないことを確認すると、ミスズに合図を出し倒壊した建の一角を目指して一気に走り抜ける。

に投されているインターフェースに地図を表示させると、出するときのために事前に設定していた移経路を確認しながら、廃墟の遊園地から出來るだけ遠ざかっていった。

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