《不死の子供たち【書籍販売中】》027 醫療組合 re

醫療組合の本部は大通りに面した賑わいのある區畫に建てられていた。

ほかの多くの建が廃材で建てられた不格好な掘っ立て小屋であるのに対して、醫療組合の本部は、舊文明期以前の廃墟を改裝した五階建ての建だった。

ジャンクタウンにある數ない高級宿と同じような作りだ。文明崩壊の混を生き延びた難民たちの手が加えられた建だと言われている。舊文明期の建築には遠く及ばないが、廃材で建てられた寄せ集めの街では、充分に立派な建だった。

その建の玄関先には誰もいなかった。警備員や用心棒の類(たぐい)もいない。不用心に思えたが、もしもの時に世話になるかもしれない醫療組合を襲撃する人間などいない。という自信が彼らにはあるのかもしれない。

用心棒の代わりに私を迎えたのは、香水のきついの生々しい臭いだった。付があるロビーには數人の娼婦(しょうふ)がいて、彼たちにべったりとくっついている男たちがいた。醫療組合の薄青のドクターコートを著た男たちは、この世界ではほとんど見ることのない形だった。太って腹が出てしまっている男たちは、娼婦の満な房に抱かれ下品な笑みを浮かべていた。

「ご用件はなんでしょうか」

付に座る男は端末に何かを力していて、私の顔を見ようともしなかった。

「組合長に會いに來た」と私は言った。

「面會の約束はありますか?」

「警備隊長のヤンからの使いだ」

「……それで」と、男は言葉を繰り返した。「面會の約束はありますか」

「ヤンから話がきているはずだ」

は舌打ちすると、そこで初めて顔を上げて私のことを見た。

「いい加減にしろ。何度も言っているが、組合長は忙しい」

「奇遇だな。俺も醫療班拐に関しての調査をしている。手が貸せるかもしれない」

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「そんなことで忙しいんじゃない」

『そんなこと?』カグヤは私と同じ疑問を口にした。

「組合員が大勢、廃墟の街で拐されて殺されているのかもしれない、そんな狀況よりも厄介な問題が組合にはあるのか?」と、私は努めて冷靜に訊(たず)ねた。

「部外者には関係のないことだ」

「そりゃそうだ。けど拐の件は別だ。警備隊の協力要請を無視するのか?」

「無視などしない、忙しいと言っているのだ」

私はそっと息を吐きだして、気持ちを冷ます。

『どうするの、やっちゃう?』

「なにもしないよ」

カグヤの言葉に頭を振ると、付の男に背中を向けてロビーに屯(たむろ)していた連中の視線を無視して建を出ていく。そしてそのまま建の裏手にまわり、梯子(はしご)が下ろされていない非常階段につながる外壁を眺める。

周囲に視線を向けて人がいないことを確認すると、壁を蹴るようにして一気に飛び上がり、非常階段の縁にぶら下がる。腕の力だけで(からだ)を持ち上げると、非常階段のり口から侵を試みることにした。

「カグヤ、扉を開けられるか?」と、私は小聲で言う。

『任せて』

施錠されていた扉の橫に設置してある端末にれると、手のひらに靜電気にも似た痛みが走る。すると扉がわずかに開くのが見えた。私はその扉を開いて建る。

人気(ひとけ)のない靜かな廊下で、人間の姿は見えない。まだこんな高級なものが殘っていたのかと、思わず心するほどの絨毯が敷かれている。舊文明期の施設では目にすることがあっても、ジャンクタウンの建で見られるとは思っていなかった。その歩き心地のいい絨毯を歩いて目的の場所を探す。

『組合長は何処にいるんだろうね』

カグヤの質問に小聲で答える。

「最上階だと思う」

ジャンクタウンでも珍しい高い建だ。それを所有していることで得られる優越(ゆうえつかん)、あるいは客人に対しての権力誇示(こじ)のためなのかもしれない。醫療組合の長(おさ)が噂に聞くような金と権力に溺(おぼ)れている人間なら、きっと俗的(ぞくぶつてき)な考えを持っている。利便(りべんせい)を考えるなら、一階が好ましいが、そういった類(たぐい)の人間は高いところから他者を見下ろしたがる。

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最上階へと向かう途中、何人かの組合員とすれ違ったが、彼らは私に興味を持っていないのか、ただ単に忙しいのか、目を合わせることもしなかった。人に會わないようにコソコソと移していたが、いらない心配だったのかもしれない。

組合長の部屋の前には退屈そうにしている壯年の男がいた。

彼は面會にきた人間のために用意されているソファーを手れしていた。私に気が付くと、彼は付の機に向かいゆっくり座った。

用件はなんでしょう」

彼はそう言うと、ソファーの手れに使用していたブラシをコトリと機に置いた。

「警備隊の人間だ。組合長との面會予定だったが、連絡は來ていないか?」

私の言葉に壯年の男は、薄茶の瞳を隠すように瞼(まぶた)を閉じたあと、頭を橫に振った。

「予定はあったのかもしれない」

付の端末を作しようとしたが、彼の手が端末にれる前に、それを遮(さえぎ)るように私の手が端末にれる。

「時間がない、急の要件だ」

私の言葉に男は迷そうな表をみせる。

「それでもアポイントメントの確認は必要です」

端末にれていた私の手のひらに、接接続による痛みが広がる。私は端末を作してくれたカグヤに謝すると、端末から手を離した。

「お名前を伺(うかが)っても?」と、男は端末を作しながら言った。

「レイラだ」

「レイラさまですね」そう言うと男は頭をひねる。「……たしかに組合長との面會の予定がありますね」

彼はやっとのことで重い腰をあげた。椅子の側を離れ、壁に設置された端末に何かを力すると扉が開いた。私は頭を下げていた男の橫を通って部屋にる。

換気のされていない部屋は、タバコの煙と酒の匂い、それに男とわる生々しい空気が混じり合った不快な臭いが漂っていた。部屋の隅には武裝した男がを潛めるように立っていて、カーテンで隔(へだ)てられた部屋の奧から聲(きょうせい)が聞こえる。カーテンに映る男の影を眺めていると、二人のきが止まった。

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「誰だ」

若い男の聲だ。傲慢な響きを含んだ聲でもあった。

「警備隊の人間だ。醫療班の拐の件できた」

「警備隊だと? 聞いていないぞ」

「警備隊の隊長から話が來ていると思ったんだが」

「ヤンからだと……あぁ、あの件か」

カーテンの奧にぼんやりと見えていた影がき、こちらに近付くとカーテンを橫に引いた。そこに立っていたのは、この世界の男にしては清潔な印象をもった青年だった。

整った顔立ちをしていて、青い瞳は輝きには艶があり、髭はきちんと剃られていた。金の髪は彼のきと共にサラサラと揺れて、上半には何もに著けていなかった。しかし下著をに著けているだけ、彼の後ろに隠れていたよりはまともな恰好に見えた。の狀態でソファーにもたれかかっていた。

「忙しいみたいだが」と、私はちらりとに視線を向けながら言った。「廃墟の街で行方不明になった醫療班についてし話を聞きたい」

青年は舌打ちすると、を隠すようにカーテンを引いた。

部屋の隅にいる武裝した男からの不快な視線をやり過ごしていると、カーテンの奧から青年が出てきた。彼は服をにつけていて、苛立(いらだ)っているように見えた。彼は部屋の中央に置かれたソファーにドカリと座ると、タバコに火を點けた。

「誰がお前を部屋に通した」と青年は言う。

「レイラだ」

「あ? なにか言ったか?」と、青年は私を睨む。

「名前だ。お前じゃない、レイラだ」

「そうか。で、それに何の意味がある」

私は頭を振ると、青年に対して禮儀を求めることをやめた。

「意味はないさ、お前の名前にも意味がないようにな」

青年はを鳴らすと、絨毯に痰を吐いた。その行は私に対して何かしらの意思表示を行うためのものだったが、私には伝わらなかったし、高級な絨毯が汚れてしまうことも気にならなかった。そもそも、その絨毯は私のモノではなかった。

「誰がお前をこの部屋に通したんだ」と、青年は我慢強く言った。

「一階で付していた男だ。ほかに誰がいると思った」

彼を小馬鹿にするように素っ気無く言った。

青年は私を睨むと、部屋の隅に立っている男に聲をかけた。

「おい、付のクズを連れてこい!」

からぬっと前に出てきた大男は、青年に頭を下げると、重たそうな足音を立てながら部屋を出ていった。見慣れないインプラントで(からだ)を派手に飾った男は、さえも弄(いじ)られたのか、終始、無表だった。

「それで――」と私は切り出した。「レイダーギャングに拐された醫療班のこれからについて知りたい。組合は何か策(さく)を講じているのか」

青年は私の言葉を無視すると、低いテーブルに載せられていたウィスキーボトルを手に取った。そしてグラスにを注いで一気に呷(あお)る。それから顔をしかめると、タバコの煙を深く吸い込んだ。

『イヤな奴』

カグヤに同意すると、辛抱強く青年が話し出すのを待った。けれど彼は黙り込んだままだった。しばらくすると、派手に人改造された大男が、一階で付をしていた男を連れて戻ってきた。

「く、組合長、なにか用でしょうか?」

は不安からか、おどおどした態度を見せた。私と話をしていたときにじた嫌味な態度は一切なかった。

「今日は誰も通すなと、そう言っておいたはずだが」

青年の言葉に付の男は混する。視線が泳いで私と目が合うと、彼はハッとして急に喚(わめ)き立てる。

「組合長! 私は誰も通してなんかいません。その男のことは、たしかに追い返しました」

「なら、なんでここにいる?」

「それは……分かりません」

「そうだろうな。そもそも組合が発行したパスワードを持つ者がいなければ、扉を開くことすらできないんだから。もちろん、誰かの手引きがあれば別だけどな」

「手引きだなんて、そんな……。組合長、私がそんなことをするわけないじゃないですか?」

「どうだろうな、私には分からない」

青年は大男に一言「やれ」と言った。短い言葉だったが、男が死ぬには充分な言葉だった。人改造で手にれた自慢の義手で男の後頭部を毆った。鈍い音がすると男は頭蓋骨が砕けて、を撒き散らしながら絨毯に倒れた。痙攣し小便を垂れ流し、そして死んだ。絨毯にとって厄日だったに違いない。

私は哀れな絨毯から視線を外すと、青年に顔を向けた。

「それで」と、私は繰り返した。「醫療組合は拐された人間を救うためにくのか?」

青年はウィスキーのボルトを手に取ると、私に向かって投げた。ボルトは私の顔を掠(かす)めて飛んでいくと、壁に衝突して割れた。

付をしていた男の死に全く揺しなかった私に対して、青年は苛立ったのだろう。

「よく聞け、レイアだかレイラだが知らないが――」

「名前は呼ばなくていい」と、私は青年の言葉を遮(さえぎ)る。「もちろん覚える必要もない。組合が何か行を取るのかだけ話せ」

「話せ……だと、お前はいったい誰と話していると思っているんだ?」

青年は日に焼けていない白いを怒りに赤く染めて私を睨んだ。

「生きるための苦労をしたことのないガキに話している。ほかに誰に話をしていると思ったんだ?」

「……いいか、今すぐにこの部屋から出ていけ。お前が警備隊の人間でも容赦はしない。それ以上、私を侮辱(ぶじょく)するなら――」

「そう言うのは必要ないからさ。早く話して」

青年はポカンとした表で私を見て、それから気狂いのように笑い、そして真顔になると大男に指示を出した。

「おい、そいつを殺せ」

『させないよ』と、カグヤのやわらかい聲が頭に響いた。

振り向くと、拳を降り上げた狀態できを止めた大男の姿が目にる。どうやったのか分からないが、カグヤが大男のインプラントの機能をハッキングして、大男の作権限を奪ったのだろう。彼はきを止めたまま、赤くる義眼をかし私を見つめる。その顔には驚愕が浮かんでいる。

「悪趣味な覗き魔だと思っていたけど、は人並みにあるみたいだ」

大男を皮(ひにく)ったあと、青年に視線を戻した。

「何をしている、早くそいつを殺せ! 殺すんだよ!」

青年はオモチャを取り上げられた子どものように喚(わめ)き出した。

『何でこんなのが組合長やってるんだろうね』

『なんでなんだろうな』と、私はカグヤに答えながら青年が落ち著くのを待った。

『うるさいね。なにか音楽を流そうか?』

カグヤの言葉に私は溜息をついた。

のホルスターからハンドガンを抜くと、テーブルにそっと載せた。銃と一化するように取り付けられた消音が、その兇悪な存在を誇示(こじ)しているように見えた。青年は拳銃を見つめたままピタリと口を閉じた。

「大男の彼はもう何もできない。だから諦めて人間らしく會話をしてくれ」と私は言う。

「警備隊風が私を脅(おど)すのか?」と、青年は気丈に私を睨んで見せた。

「まさか。俺は脅されるのが嫌(きら)いなんだ。自分が嫌(いや)だと思うことは他人にしないようにしている」

「なにがみだ」

「さっきから何度も訊(き)いている。醫療組合は拐された者たちを救助するための人材を出すのか?」

「出さない」と青年は頭を振った。

「どうしてだ。組合にとっては貴重な人材だろう?」

「ふん」青年は鼻を鳴らした。「レイダーギャングの襲撃だぞ。もう誰も生きていないだろう。金と人間を使って探しに行って、そいつらが帰ってこなければどうする。誰が組合の損を補填してくれる? 鳥籠の警備隊か? それとも議會か?」

「リスクが分かっていて余所(よそ)の鳥籠に醫療班を派遣したんだろ?」

「レイダーどものきが活発化していて、廃墟の街で派手に暴れていることは知っていたさ。けどな、リスク以上の利益が得られるかもしれないのに、どうして何もしないでいられる」

「そうだな、過ぎたことを話しても仕方がない。俺は経営者じゃない、だからそれについて、あんたにとやかく言うつもりもない。ただ知りたいんだ。どうして醫療を専門とする組織が、そんな簡単に命を諦められるのかを?」

「慈善事業をやっているつもりはない、命にだって値段はある」

「當然の言いだ」と私は言った。「けどな、先代の組合長は弱者に救いの手を差しべることができる人間だった。俺はそう聞いている。その証拠にジャンクタウンには多くの診療(しんりょう)所が建てられている」

「爺さんがやったことになんの意味があった? 底辺の貧乏人を付け上がらせただけじゃないのか?」

青年の言葉に私は頭を振る。

「わからない。けど尊敬(そんけい)は得られた。なくとも金を払って娼婦を囲い込む必要がないくらいに、彼には多くの友人がいたと聞いている」

青年はテーブルを力任せに叩くと、ソファーから立ち上がった。

「お前に何が分かる!」

「さあな」

私はテーブルに載せていたハンドガンをホルスターに収めて、それから立ち上がる。青年は銃を手に取った私に驚いたが、すぐに冷靜さを取り戻した。

「どうするつもりだ?」

「友人を救いに行くよ」

『カグヤ、もうそいつを開放してやってくれ』

私が聲に出さずにそう言うと、カグヤは大男のインプラントの制権を手放した。大男は急にくようになった自の腕を不思議そうに眺めていた。

「友人を救う? レイラ、お前も所詮(しょせん)は爺さんと同じ偽善者(ぎぜんしゃ)じゃないか。結局、友人が拐されたから行しているだけじゃないか」

「それの何がいけない?」

「いけなくはないさ。だがな、こんな場所にまで乗り込んできて、爺さんのことに関して俺に説教しておいて、結局は自分のことしか考えられない人間じゃないか。爺さんが診療所を建てた? だからなんだ。なら、どうしてお前は皆を救わない。ほら、どうした。レイダーの被害者なんて鳥籠には大勢いる。そいつらも救ってみせろよ!」

私は立ち止まって青年の顔をじっと見つめたあと、素っ気無く言った。

「どうした。なにをヒステリックに喚(わめ)いている」

「喚いているだと? ふざけるな! 助けに行くなら勝手にしろ。組合は一切金を出さない。いいな、先に言っておくぞ。醫療班を助け出したところで、報酬なんてものは期待するな。組合にそんな余裕はないからな」

青年の青い瞳を見ながら言った。

「はじめからそのつもりはない。醫療組合の金は、と遊ぶために取っておいてくれ」

「私が遊んでいると?」青年は頭を振った。「いいか、レイラ。私は所詮(しょせん)、組合の飾りなんだよ、爺さんの名前を利用して私腹をやそうとする人間たちの。組合の金で遊んでいるのは幹部どもだけだ」

「どうでもいいさ。本當に問題があると思っているのなら行すればいい。さっきもそこでひとり殺してみせただろ?」

私は哀れな絨毯のことを思い出す。絨毯からは死んだ男の小便の臭いがした。

「幹部どもの小間使いなんてどうでもいい。問題は幹部連中だ。私では殺せない。ベアーの脳に埋め込まれたチップには、幹部たちに手が出せないように複雑なプログラムが組まれている」

「なら、お前がやればいい」

「私に人を殺せと……?」

青年の白い手に視線を向ける。細く長い綺麗な指は、繊細な蕓品のようにひどく心細く見えた。

「殺せないだろうな。なら、こうしよう」

私はベアーと呼ばれた大男の肩に手を置いた。大男は赤に明滅する義眼を私に向けると、抵抗することなく大人しくする。

『カグヤ、やれるか』

『問題ないよ。彼が使ってるパーツは見かけだけはゴツいけど、実際は舊式のパーツの寄せ集めだから』

接続による痛みをじると大男の肩から手を離した。

「問題はなくなった。あとは好きにしろ。幹部を殺すなり、彼らと一緒に遊ぶなり、これからお前は自由だ」

私の言葉に青年は困した。

「どういうことだ、なにをした?」

「プログラムの異常を正した。これでベアーは自由に行できる」

「……どうしてそんなことができる?」

「知る必要があるのか? お前がしたいことはほかにあるんじゃないのか」

青年は何かを口にしようとして、それから頭を振って言葉を飲み込んだ。

青年に背を向けると、扉に向かって歩いた。いい加減この部屋を離れたかった。死んだ男の小便の酸っぱい臭いが鼻について困る。

「待て、レイラ。私の名くらい聞いていけ」

「必要ない。俺たちは気が合わないようだし、俺はお前が嫌いだ。もう會いたくもない」

クッションが飛んできて、私の背中にぶつかる。

振り向くと、ソファーにもたれかかっていたが青年の側に立っていた。赤髪はれていて、類もに著けてはいなかった。それでも何故かだけは片方の手で隠していた。

は手に持ったクッションを持ち上げた。するとやわらかな房が揺れる。

「イヤな奴」

は吐き捨てるようにそう言うと、手に持ったクッションを私に向かって投げた。それは見當違いな方向に飛んでいく。

の艶かしい肢(したい)を一瞥してから、何も言わず部屋を出た。

イヤな奴だって? それはお互いさまだろう。なんだって俺だけがそんな風に言われなきゃいけない?

『どうしてだろうね』と、カグヤの聲が聞こえた。

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