「敵部隊は戦艦二隻、中型巡洋艦四隻の高速打撃艦隊のようです」

大型スクリーンに映し出された真紅の宇宙戦艦を指さしながら、オペレーターが言った。

ここは地下深くに設置されたこの星の防衛隊の総司令部だ。赤く暗い非常燈に照らされた十數名のオエペレーターや指揮たちが、忙しそうに働いている。

「現在敵艦隊は本星に軌道撃を続けており、ストライカー部隊の降下も確認しています」

「クッ……完全に當たりをつけての襲撃ですね。敵に悟られないようわざわざ辺境星で接見したというのに……」

「大方、あの新型をたどって來たんでしょうな」

駐機場の白い人型機兵の姿を思い出しながら、輝星がうなった。殘念ながら、當の新型は敵の艦隊の軌道撃により輝星が一度も搭乗しないまま永遠に失われてしまった。

「ええ。索敵網に引っかからなかったということは、相手はそこそこ以上のステルス・システムを裝備しているはず……。そしてこのタイミングの良い攻撃、敵指揮はかなりの切れ者でしょう」

厄介なことですと、シュレーアは歯噛みしながら腕を組んだ。定期旅客船の著陸を待ち、確実に基地にターゲットがいるであろうタイミングで撃ってきたのだ。運が悪ければ二人とも最初の攻撃で死も殘さず死していた可能も十分にある。

「殿下、本星系の防衛隊ではこの規模の敵部隊を退けることは不可能です！　増援は來ないのでしょうか」

指揮らしき軍人が、シュレーアに伺いを立てる。

「ヴィスラ星系に第三艦隊を待機させてあります。萬一の場合はすぐに救援に來るよう申し付けていますが……」

「ヴィスラ！？　足の速い巡洋艦でも半日はかかる場所ではありませんか！　持ちませんよ、そんなには！」

ヒステリー気味の指揮の聲に、シュレーアは額に手を當てた。確かにその通りだ。敵に自分のきを気取られないためにわざと遠くに部隊を配置したのだが、完全にそれが裏目に出てしまっていた。

「まあいまさらそんなこと言ってもしょうがありませんよ、指揮殿」

輝星がフライトジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、不敵に指揮に笑いかけた。

「とりあえず俺が何とかします。ストライカーを一機貸してください」

「ストライカー？　出せる機はすべて出しています。余っている機なんて……」

「大佐、"グラディウス改"があります！」

オペレーターの一人が立ち上がり、大聲で言った。大佐と言いつつ、その目は輝星のほうを見ている。

「舊式訓練機を無理やり戦闘用に改造した間に合わせ機でしょう！　そんなモノで何ができるというのです！」

「いやいや、十分ですって。ないよりマシってもんです。さ、早く機のところに案してください」

「はっ！　このエルカ・ラダーソンがただいま案させていただきます！」

ギラギラした笑みを浮かべつつ、例のオペレーターが輝星のもとに駆け寄る。急時だというのにどうしてこう張がないのか。指揮は頭を抱えた。

それから十分後。自前のパイロット・スーツに著替えた輝星は格納庫に移していた。

「なるほど、確かに急造機だ」

彼の目の前には、青い金屬製の巨人が佇んでいた。全高は十二メートルほど。スリムといえば聞こえはいいが、どちらかといえば頼りなく見えてしまうような貧弱な機に、無理やり不格好な裝甲板が溶接されている。

「ん、だがそれがいい。嫌いじゃないぜ、こういうの」

ここまで案してくれたオペレーターに笑顔で頷いて見せる。彼は顔を真っ赤にしてコクコクと首を上下に振った。

「で、何で殿下までパイロットスーツに？　機はコイツしか殘ってないって話では」

シュレーアのほうに目をやる輝星。彼はラバー風の素材でできた、にぴったりと著する煽的な服裝に著替えていた。これはストライカーのパイロット用として広く普及しているスーツであり、輝星自も同様の白いスーツを著ている。

「もちろん、あなたに同乗するためです」

「同乗ぉ！？」

渋い表を浮かべる輝星。

「訓練機上がりならば、複座のはず。あなたが噂通りのパイロットならば、そのコックピットはこの星で一番安全な場所でしょう？　私もここで死ぬわけにはいかないですから」

「なっ！」

オペレーターが非難がましい聲を上げたが、シュレーアは無視した。それに、これはあくまで建前だ。

シュレーアは今まで、男のパイロットなど見たことも聞いたこともない。それがいきなり目の前に現れたのだから、正直なところ半信半疑である。彼自ストライカー縦の心得はある。いざとなれば自分がコントロールを奪う算段だった。

「ええ……」

輝星としては勘弁願いたいところだが、彼は雇い主だ。あまり強くも出にくい。

「仕方ないですね……」

彼の不信も理解できる。輝星は不承不承頷いた。オペレーターがすさまじい表でシュレーアを見る。

「ま、ゴチャゴチャやってる暇はなさそうですし。さっさと行きましょう」

言うなり、二人は整備用のガントリー・クレーンのカーゴへ乗った。作盤をいじり、部にあるコックピット・ハッチの前へ。狹いハッチをくぐり、二人はコックピットへとった。

「くっそ、狹いなぁ……」

十二メートルというストライカーのサイズは人型をしているために大きく見えるが、人が搭乗する機兵としてはかなり小柄といえる。當然コックピットに使えるスペースは狹く、まして複座ともなればほとんどタコツボの様相だ。

上下に分かれた上のコ・パイロットシートにシュレーアが。そして下のメイン・パイロットシートに輝星が座る。スペースが狹いため、シュレーアのぐら近くに輝星の頭があるような狀態だ。やりにくいことこの上なかった。

「ふ、複座機など久しぶりのことですから、忘れていました」

赤面しつつそんなことをのたまうシュレーア。

「も、申し訳ありませんが……さ、ってしまっても不可抗力ですよ！　セクハラではありません、不可抗力です！」

「そんなこと言ってる場合ですか！」

ため息じり輝星は眼前のコンソールを作した。コックピットハッチが閉鎖し、計に火が燈る。

『ハロー、パイロット。これより起シーケンスにります』

年聲のAI電子音聲がそう告げた。コックピット全面に裝著された晶パネルが明るくなり、周囲の映像をフレームレスで表示する。

『システム起。ならびに相転移タービンを始します』

甲高い回転音がかすかにコックピットに伝わる。主機に火がったのだ。

『……ゼロポイント・ゲート確立。相転移タービン、臨界に達しました。運転に問題なし』

「よーしよし」

ニヤリと笑って、輝星が左右の縦桿に手を載せる。

『システムチェック問題なし。機チェック問題なし。武裝チェック問題なし。I-con接続。機コントロールをパイロットへ譲渡します』

「おーし。問題ないっすよ、いつでもいけます」

コンソールを作して、通信を指令室につなぐ。

「了解了解」

通信に出たのは、いつの間にか指令室に戻っていた件のオペレーターだった。

「敵ストライカー部隊が本基地に接近しています。當地域への軌道撃は休止中、リフトで地上に出しますから、輝星さんはこれを迎撃してください」

「りょーかい」

「ああ、そういえば……」

輝星の肩をシュレーアが軽くたたいた。

「例の武裝はそちらのコンテナにっています。使いますか？」

彼の指さした先には、薄汚れた赤いコンテナがあった。

「ああ、それじゃ有難く」

頷いた輝星はコンテナに近づき、それを開封する。細く鋭い杭が裝填された、武骨な作業機械のようながそこには安置されていた。

「パイルバンカー……"兇星"の代名詞的な武裝ですね」

「これで結構合理的な武なんですがね。俺以外が使ってるのは見たことないですが……」

ぼやきつつ、輝星はパイルバンカーを左腕のハードポイントに裝著した。

「他に武は……」

「対艦ガンランチャーしか殘ってないですね。ま、何とかしますよ」

対艦ミサイルを発するバズーカ型の武裝以外は軒並み出払っていた。十分な補給が屆いている部隊であればこんなことはあり得ないのだが、殘念ながらここは辺境の防衛部隊の基地だ。対ストライカーに使うにはあまりに取り回しと命中率に難のある対艦ガンランチャー以外はすべて先発部隊が持って行ってしまったのだろう。

だが、輝星は文句も言わず輝星は腰のハードポイントに対艦ガンランチャーをマウントする。予備弾倉も忘れず別のハードポイントへ。

「よっし！　それじゃあ、行きますか」

そう言って輝星は両手で自分の頬を叩いて気合をれ、"グラディウス改"の歩をリフト乗り場へと進めた。