《貞観念が逆転した宇宙人の軍隊でエースパイロットの俺だけが唯一男な話【書籍化決定!】》第五話 兇兆の星

「七機目!」

特殊重合金製の杭が、またも真紅のストライカーの腹を貫いた。糸の切れたマリオネットのように、敵機がアスファルト舗裝された路面に崩れ落ちる。

戦場はいつの間にか、荒野から市街地へと変わっていた。避難はすでに完了しているらしく、周囲に民間人の人影らしきものはない。

「集中砲火だ! 火力で圧倒しろ!」

數機の"ジェッタ"が輝星機にマシンガンやブラスターライフルを構える。それと同時に"グラディウス改"が地面を蹴った。スラスターの青い炎が晝下がりの市街の空気を焼く。

「それっぽっちの火力でなーッ!」

発砲。回避行が早かったせいで、大半のビームや砲弾は空を切り無人のビルを倒壊させた。だが、速の高いマシンガンは、そのまま照準を継続し砲口を"グラディウス改"へ向け続けていた。

「この俺がなーッ!」

飛來する大量の30ミリ砲弾を、自機に命中するもののみ選別しフォトンセイバーで叩き落す。ビームが大気を焼く音と砲弾が蒸発する音が悪夢の協奏曲めいて周囲に響き渡る。蒸気と化した金屬粒子が黒煙となって辺りに立ち込めた。

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「墜とされるわけにゃいかないんだよなーッ!」

そのままマシンガン弾を正面から切り払いつつ、手へと急接近する。

「ッ! こっのおッ!」

即座にマシンガンを捨て、肩のラックからフォトンセイバーのグリップを抜く"ジェッタ"。だがビーム刃が展開するより早く、強烈なキックがその腕を襲う。空を舞うフォトンセイバー。絶絶命のピンチに"ジェッタ"のパイロットがを固くする。

「やらせないってーのッ!」

しかし僚機が追撃を阻止しようと、フォトンセイバーを構え突撃してくる。スラスターを全開にした猛烈な突きだ。

「いいガッツしてるじゃないかッ!」

輝星が獰猛な笑顔でぶ。機をよじらせ、ビーム刃から逃れる。それと同時に相手の腕をつかみ、地面を蹴った。足裏のアンカー機構が作し、アスファルトに鋼鉄のツメを食い込ませる。

「うわーッ!」

突進のベクトルを綺麗にそらされた"ジェッタ"が吹っ飛ばされ、フォトンセイバーを蹴とばされた方の"ジェッタ"と通事故めいて衝突する。両機は破壊的な音を立てながら転がっていった。

そんな二機に目もくれず、輝星はフットペダルを蹴った。瞬時にスラスターから大きな噴炎が吐き出され、"グラディウス改"がはじかれたように加速する。

「好き勝手してッ! このォーッ!!」

ブラスターライフルを"グラディウス改"に向ける"ジェッタ"。"グラディウス改"が片足のアンカーを路面に突き立て、機をスピンさせた。

「ぐっ……!」

を襲うGに輝星が歯を食いしばる。それと同時に赤いビームが弾け、機のすぐ橫を通過した。ひるまずに再加速。"ジェッタ"が迎撃態勢をとるより早く、パイルバンカーの無慈悲な一撃がその腹を貫く。

「……ッ! はあ……」

止めていた息を吐きだした輝星は、そのまま大きく息を吸い込み機に地面を蹴らせた。同時にスラスターも吹かす。"グラディウス改"が空を舞った。

「ッシャオラァ!」

そのまま機を全力で加速させる。目標は今まさに立ち上がろうとしていた先ほどの敵機だ。機の全重量の乗ったキックが"ジェッタ"のに炸裂する。地面に猛烈な勢いで打ち付けられ、三眼式のメインカメラが砕けた。

「うっ……!」

一方を取って衝撃を殺した輝星は、そのまま機を立ち上がらせた。そして予期しない奇襲にきの止まったもう一機の"ジェッタ"の無防備な腹にパイルバンカーを打ち込む。

「よぉしッ!」

続けざまに最後の一機へとパイルバンカーをお見舞いしてとどめを刺す。完全なワンサイドゲームだった。

フォトンセイバーへの給電をカットする。ビーム刃が霧散し、殘ったグリップを人間でいえば鎖骨にあたる部分に設けられたハードポイントへと収納する輝星。

『付近の敵反応消失』

AIが無機質な聲で告げた。どうやら、この周辺に降下した敵ストライカーは全滅したようだ。

「お、お疲れ様です?」

シュレーアが意を決したように言った。

「お、思ったよりその、なかなか……ワイルドですね? 輝星さんは」

線の細い、どこか儚げな年というのが、北斗輝星の第一印象だ。それが大聲でぶわ悪鬼か何かのような大暴れをするわ、意外なことこの上ない。

「いや、だってホラ……気合で負けたら勝てる相手にも勝てなくなるじゃないですか」

荒くなった息を整え、大きく深呼吸してから輝星が答えた。

「戦場で頼りになるのは一に二に運勢、三に己の技量ってのが俺のモットーです」

「間違ってはいませんよ? 間違っては……」

「まぁ……うるさいのは事実ですよね。すいません」

そう言ってシュレーアのほうに振り向いて笑う輝星には、先ほどのまでの鬼気迫る雰囲気はみじんもじられない。どちらかといえば、守ってあげたくなるような雰囲気だった。

「うっ……」

その表に心拍數を跳ね上げたシュレーアは、熱くなった頬を隠すようにそっぽを向いた。

「い、いえ、むしろ謝るべきは私の方です。あなたのような可憐な男を戦場に出すなど、としてなんとけない……! 完全に私の不徳の致すところです」

可憐な男呼ばわりされ、輝星は頬を引きつらせた。

「いや、傭兵なんだから自分の意志で戦場にいるわけなんですが……」

「これは私の矜持の問題です! このシュレーア・ハインレッタ……一人の騎士として、あなたをお守りできるようなになるとここに誓います!」

「誓いますじゃないが」

輝星は半目になった。彼には彼のパイロットとしてのプライドがある。そんなことを言われても嬉しくとも何ともない。機から降りれば、そこらのチンピラ娘一人にも手も足も出ないのは事実だが……。

「そんなことより」

何やら「"ミストルティン"さえ持ってきていれば……」だの何だのと呟いているシュレーアを無視しつつ輝星が言う。

「まだ敵は殘ってるんですから、次へ行きますよ」

「敵? 別の戦域へ移るのですか?」

「うるさいのがまだ殘ってますからね。黙らせに行きましょう」

そう言って彼が指さした先は━━空だ。

「宇宙(そら)……? まさか、軌道撃を止めに?」

確かに、軌道上からの砲撃が著弾する遠雷のような音はいまだに聞こえ続けている。

「そのためにわざわざ対艦ガンランチャーを持ってきたんですよ。どこぞにライドブースターの一機でも転がってるでしょう? 出してください」

當然のことのような顔をした輝星の言葉に、シュレーアは言葉を失った。

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