《貞観念が逆転した宇宙人の軍隊でエースパイロットの俺だけが唯一男な話【書籍化決定!】》第七話 対艦戦用意!

「もう撃ってくるか」

漆黒の宇宙を、兇悪なまでの熱量を持った大出力ビームが切り裂くように飛ぶ。それを紙一重で回避して、輝星が呟いた。

「正面から行きます!」

「わ、わかった」

深く深呼吸をして、シュレーアは頷く。ちらりとコンソールの晶モニターに目をやると、ストライカーの反応が多數接近してきていた。敵の迎撃機だ。

「艦砲撃なんぞ……ッ!」

さらに一。輝星はこれをわずかな方向転換のみで回避する。ビームから発される電磁波により、レーダー畫面が一瞬ノイズまみれになる。つばを飲み込んで、シュレーアは視線を正面モニターに戻した。

「そろそろライドブースターから離したほうがいいのでは?」

ライドブースターの大推力は魅力的だが、反面運は大きく損なわれてしまう。接敵する前に分離するのが鉄則だ。

「いえ、まだ連れていきます」

「……そうですか」

輝星に常識が通用しないことはもうよく理解しているシュレーアは、その言葉に反論せず頷いた。輝星はフォトンセイバーを"グラディウス改"の左手で抜く。

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『敵部隊と戦距離にります。三、二、一……』

な聲で機AIがアナウンスした。一瞬遅れて、ブラスターライフルの一斉撃が"グラディウス改"を襲う。

ライドブースターの出力を全開にしたまま、機のスラスター小刻みに吹かして不規則な機を取らせてこれを回避する輝星。にかかるGに歯を食いしばる。

「輝星さん……」

その様子に、シュレーアが小さく言葉をらした。地球人(テラン)よりも圧倒的に強靭なを持つヴルド人にとっては、この程度のなど心地よい程度だ。それに比べて、輝星の表はかなり苦しそうに見える。

「こんないたいけな年を戦場に出して、なんとけない……!」

小さくつぶやき、コ・パイロット用の縦桿を握る手に思わず小さくらすシュレーア。

「だから自分の意志で戦場に居るって言ってるでしょーが!!」

至近距離とはいえ主機の駆音や各種の警告音で騒がしいコックピットの中で、この小さなつぶやきが聞こえているとは思っていなかったシュレーアは「うっ」と聲を詰まらせる。

「俺はねえ、ストライカーに乗って戦場を飛ぶのが大好きなんですよ!」

正確な照準で自機を捉えたビームをフォトンセイバーではじきつつ、輝星が

「勝手に哀れまれたり、お節介を焼かれる筋合いはありません! いいですか!?」

「は、はい」

シュレーアが頷くなり、輝星は"グラディウス改"自のスラスターも使いさらに機を加速させる。猛烈な加速度に、がシートに押し付けられる。

「うわわわ、近い! 近い!」

シート配置の都合上、輝星が後方に押し付けられればその頭はシュレーアのへそのすぐ前だ。彼は顔を真っ赤にした。

「不可抗力です! 完全に不可抗力です! セクハラじゃないです! ないですから!」

「うるせーッ! こっちこそセクハラでこんなことしてるんじゃねーよ! 後で訴えるなよッ!」

があんまりうるさいものだから、輝星はとうとう敬語すら投げ捨ててび返した。

「訴えませんよ! こんな役得を!」

「役得!?」

「あっ! あわわわわ」

「あわわじゃないが!」

二人がバカ騒ぎをしているうちに、敵ストライカー部隊ははるか後方へと消えていた。ブラスターライフルによる攻撃は続いているが、輝星はこれをまるで後頭部に目がついているかのように的確に回避している。

「ああもう!」

大聲で吐き捨て、輝星は背中のハードポイントから対艦ガンランチャーを手に取る。バズーカ砲にもよく似た形狀のその兵裝は、ストライカーによる対艦攻撃には欠かせないものだ。

すでに敵艦隊はすぐそこだ。敵艦の対空機関砲が吐き出す曳弾が、花火のように宇宙を照らしている。

「戦艦二隻、巡洋艦四隻……お手本のような護衛陣形ですね」

巨大な真紅の宇宙戦艦を囲むように展開する巡洋艦を見てシュレーアが呟く。

「で、どうやって攻める……えっ」

至近距離まで敵艦隊に接近したというのにまったく加速を緩めようとしない輝星に、シュレーアが間抜けな聲を上げた。

「ちょ、ちょっと!」

みるみる近づく敵巡洋艦。幾重もの対空砲火が"グラディウス改"に襲い掛かる。最小限のきでこれを回避し、回避しきれないものはフォトンセイバーで叩き落す輝星。しかし一本のフォトンセイバーだけでは防にも限界がある。數発がライドブースターの腹をこすり、その船から黒煙を吐き出し始める。

「だ、大丈夫なんですか!?」

みるみる大きくなっていく敵巡洋艦の姿と、被弾の生々しい衝撃にシュレーアが目を白黒させた。だが輝星はそれを無視する。そして敵巡洋艦の甲板に並ぶ対空機関砲の一つ一つが目視できるような距離まで接近した瞬間、輝星はライドブースターのステップを蹴って離した。

「まずは一隻!」

煙と炎を上げながら、ライドブースターは巡洋艦の艦尾……推進用のロケットエンジンが設置された區畫に衝突した。広がる炎。ここが大気中であれば、すさまじい衝撃波が"グラディウス改"を襲っただろう。巡洋艦のエンジンブロックは完全に破壊された。ドックにいれて修理しなければ航行は不可能だろう。

「ぐっ……!」

そのまま機を翻し、フルスロットルで減速する。再びすさまじいGが輝星のを襲う。しかし、それでも機縦する手は止めない。対空機関砲を弾き飛ばし、対空ブラスターカノンの砲撃を回避。

「次!」

何とか無駄な速度を殺し切り、艦隊とのランデブーを維持することに功する。そのまま加速させ、次の獲へと機を進めた。

陣形の巡洋艦と、そして巨大戦艦の持つ対空火砲は合計百門を軽く超える。それらがすべて輝星機を指向し、その莫大な火力を発揮していた。ビームと機関砲弾が織りなす弾幕はもはや壁のようだ。その絶的な空間を、回避と切り払いを武に輝星は飛ぶ。

「二隻目!」

そして間近な敵巡洋艦の背後から接近、対艦ガンランチャーを発砲した。口徑406mmの対艦ミサイルが電磁加速されて出される。対空砲火の隙間を見事にったミサイルは、狙いたがわずエンジンブロックへと命中した。間を置かず二発目三発目も続いて著弾。完なきまでにその推進機構を破壊しつくす。

「やった!」

歓聲を上げるシュレーア。しかしその背後からブラスターライフルの火線が襲い掛かる。敵ストライカー部隊が帰ってきたのだ。

「四方八方敵まみれ……上等!」

紙一重でこれを回避し、輝星は獰猛な笑みを浮かべた。

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