《貞観念が逆転した宇宙人の軍隊でエースパイロットの俺だけが唯一男な話【書籍化決定!】》第十五話 圧倒

「その機の最大の持ち味をッ! 瞬発力を生かせッ!」

「このーッ!」

「撃破二十九回目! 駄目だ、いくら速くとも直的なきではッ!」

「畜生ーッ! 次こそはッ!」

「いいぞ、そのガッツだ! が、駄目! 撃破三十回目だッ!」

「グワーッ!」

耳朶を叩く剣呑なのか呑気なのかわからないような喧騒に、シュレーアは半目でため息をついた。模擬戦が始まって三十分以上たつが、いまだにサキは輝星から一本もとれていない。ほとんど一分に一回のペースで墮とされているのだから、よくもまあ食い下がれるものだという気にすらなってくる。

「あの、そろそろ私も參加してもよろしいでしょうか?」

「ま、待ってくださいよ殿下! 一回、一回勝ったら変わりますんで」

「何十年も待てませんよ」

切り捨てるような言い方のシュレーアにサキは表を引きつらせる。実際のところ、自分でも実力差は理解していた。だが、負けっぱなしでいるのは彼のプライドが許さないのだ。

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「二機で戦います。それでも勝てるかは微妙ですが」

「男に二機!? そんな、卑怯ですよ!」

「卑怯なものですか! 強力な敵は囲んで棒でたたく、鉄則です!」

「そんな雄々しい真似をあたしにやれと!?」

雄々しいの妙な使われ方に輝星は半笑いになった。特に憤慨をしたりはしない。この程度で怒っていてはヴルド人に混ざって仕事などできないし、慣れもあった。

「確かにけない話です。男一人に、大の二人で戦うなど……。ですが、輝星さんの実力は本です。だとか男だとか、そんなことに拘っていて立ち向かえる相手ですか?」

「くっ……確かにコイツがクソ強ェのは認めますが……」

「時には恥を忍んででも自らを磨く。そうして強くならねば騎士の……の本懐は遂げられません。今はを借りるつもりで訓練に臨みましょう」

「……わかりましたよ」

シュレーアの説得に、サキは意外と素直に応じて見せた。この慘敗っぷりには、さしもの彼も思うことがあったらしい。

「おい、オマエ! 今日のところは、あたしの方が弱いってことを認めてやる! でもな、そのうち絶対勝ってやるからな!」

「當然! 負けてそのまま諦めるようなタマじゃないだろ? 何度だって戦おう」

ニヤリと笑って答える輝星。非常に楽しそうな表だった。

「申し訳ありません、輝星さん。彼が失禮なことを」

サキに聞こえないよう、個別回線《プライベート・チャンネル》でシュレーアが謝った。男を軽んじるような発言の多いサキに腹を立てているのではないかと思ったからだ。

「失禮? いやいや、全然。いいパイロットじゃないですか。あの食い下がりようはなかなか好ましい」

三十連敗してなお戦意が挫けなかったのだ。そのは尊敬に値すると輝星は考えていた。

「それに、口は悪くとも悪意はないタイプでしょ、彼。俺に突っかかってくるのは単純に男が……守るべき対象が戦場に出るのが嫌だから。そういう雰囲気をじますね」

「た、確かに彼はそういう傾向がありますが……よくわかりますね」

シュレーア自、麾下の艦隊のトップエースであるサキとは長い付き合いだ。ともに戦場に立ったことも幾度もある。だからこそ彼の考えは理解していたが、ほとんど初対面に近いであろう輝星がこうもピタリと言い當ててしまうと困してしまう。

「直には自信がありますから。ストライカーに乗ってる間だけはね」

強気な笑みを浮かべる輝星に、シュレーアは「そういうものですか……」と頷くことしかできなかった。

「おい、何緒話してるんだよ? 二対一で模擬戦やるんだろ、さっさとやろうぜ」

結局、二人の會話は不機嫌そうなサキの言葉で中斷した。

「はいはい……そういや、殿下もゼニスなんですね」

輝星がシュレーアの機を見て言った。肩に大型のブラスターカノンを裝備した、藍の重裝型のストライカーだ。手には大型のヘビーマシンガンを持ち、のあちこちにミサイルランチャーを裝備している。かなりの重火力機だろう。機側のデータでは"ミストルティン"と表示されている。輝星の知っている量産機にはない名前だった。

「それはもう、皇ですから」

を張って答えるシュレーア。平民出のサキがゼニス・タイプに乗っていて皇のシュレーアが量産機では格好がつかない。見栄も張れなくなった貴族に部下はついてこないという事もある。

「ゼニスが二機、ふむ……じゃあ、やりましょうか」

「いいでしょう。お飾りなどではないことをご覧にれます」

シュレーアは好戦的な笑みとともに答えた。

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