《貞観念が逆転した宇宙人の軍隊でエースパイロットの俺だけが唯一男な話【書籍化決定!】》第二十九話 不安な機

「あ、何度もすんませんね」

コーヒー缶をけ取った作業服姿の整備員が照れたように笑う。彼は"カリバーン・リヴァイブ"の機付長で、輝星がこの機領したときに説明を行ったのも彼だ。

「だいぶお世話になってますからね、そりゃ」

輝星は笑いながら、ちらりと整備ハンガーに固定された"カリバーン・リヴァイブ"に目をやる輝星。予想通り、すでに整備は完了していた。ダメージらしいダメージはけていなかったため、行われた整備はせいぜい弾薬や推進剤の補充、あとは出撃毎の點検程度だ。

「そう言ってもらえるとやる気が出ますわ」

頬を掻く機付長。隣では彼の部下の整備員が満面の笑みで一禮しつつ缶のプルタブを開けていた。

「言っちゃなんですけどね、私らみたいなのを骨に馬鹿にしてるパイロットも結構いますから。北斗さんがそういうタイプじゃないのはありがたいですよ。ここまでしてもらうのもちょっと気が退けますけどね」

コーヒー缶を掲げつつ、機付長は苦笑した。

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「整備不良で死にかけた経験があれば、整備の人を蔑ろになんかできなくなりますよ」

「マジですか。良ければ、參考までに聞かせてもらっても?」

首筋にヒヤリとしたものをじて、機付長は思わず聞いた。整備不良。こういう仕事をしていれば、絶対に聞きたくない単語だった。

「まあ珍しくもない事故ですよ。熱伝導の定期換をサボってたらしくてね、バルブが詰まって……これまた換してなかった劣化したシールからどばーっと。敵に囲まれてる真っ最中に」

「げっ」

顔を引きつらせる機付長。興味深そうに話を聞いていた周囲の整備員たちも似たような反応だ。

それもそのはず、熱伝導は機の各所の熱を吸収して冷卻裝置(ラジエーター)へ送り込む重要なものだ。それが一気にれ出したりすれば、下手をすればエンジンである相転移タービンがあっという間に焼け付いてしまう。

「ど、どうなったんです、そのあと」

若い整備員が恐る恐るといった調子で聞いた。輝星は苦笑する。

「幸い高圧にならなきゃ出はしなかったので、だましだまし撤退しました。さすがに死ぬかと思いましたけど」

「そりゃあ……」

遠い目になる機付長。そんな狀態になれば、機はまともにけなくなるはずだ。よくもまあそれで逃げおおせたと、心してしまう。

「だからね、正直あんまり……こういう真新しいワンオフ機は苦手なんですよ。どういう不合がいきなり出てくるやらわからないじゃないですか」

まして"カリバーン・リヴァイブ"は簡単な演習を一度しただけでそもまま戦場に出した、突貫改造機だ。不安をじるなという方が無理があった。

「大丈夫! ……と太鼓判を押したいところなんですがね。私らも結構それは心配してるんですよ」

「せめてもっと実働試験ができればよかったにねえ、伍長」

若い整備員が機付長に同調する。何度もシミュレーターでは試験している者の、やはり実際にかして見なければなかなか不合などわからないものだ。彼らとしては、こんな狀態の機で実戦はさせたくないというのが正直なところだった。

「怪しそうな箇所があったら教えてほしいんですけどね。萬一の時に心構えがあるとないとでは大違い何で」

「怪しそうな箇所と言ってもねえ」

機付長が考え込む。それが分かれば苦労しないのだ。

「あー、そういや回生裝甲(かいせいそうこう)はちょっと不安っすね」

別の整備員がそんなことを言う。機付長も「確かに」と頷いた。

「もとは対デブリ用の最低限の裝甲しかついてない機だったんで……"エクスカリバー"用の回生裝甲をむりやり取り付けてるんですよ、こいつ。フィッティングはしてるんですが……余計なところに電気が流れるかも」

回生裝甲は著弾した砲弾やビームの衝撃・熱などを電力に変換し、ダメージを最小限に抑える裝甲システムのことだ。ビームでもければ突然大電力が発生するわけで、それをきちんと処理できなければ何らかの機が破損してもおかしくない。

「舊式に慣れてるんでね、そのへんは大丈夫ですわ。被弾即死のつもりで普段から乗ってます」

舊式機も回生裝甲自は搭載しているが、変換した電力をためるコンデンサーの容量がないため簡単にキャパシティーオーバーになってしまう。"ジェッタ"などがブラスターの一撃で撃墜されてしまうのもそのせいだ。

「まあでも、被弾したくて被弾するパイロットはいませんからね。整備擔當としちゃあまりに無責任すぎる発言ですが……気を付けてください」

「もちろん」

輝星は靜かに頷いた。彼とて死にたくはない。アドバイスは真面目に聞いていた。

「あとは……ほかに気になるところはあるか? お前ら」

「はいはい! ありますあります!」

お調子者そうな雰囲気の整備員が元気よく手を上げた。機付長が眉をひそめ、一瞬躊躇してから聞く。

「……言ってみろ」

「輝星さんの好きなタイプって……いたたたたっ!」

即座に機付長がお調子者の首を絞めつけた。

「テメー久しぶりに男にあったからって調子乗ってるんじゃないよ!」

「痛い! 痛いです伍長! こんなかわいい男(コ)、コナをかけない方が失禮ですって!」

「ふざけるなーっ!」

「ウワーッ! ギブギブギブアップ!」

悲鳴を上げるお調子者をしり目に、輝星は小さくため息をついた。せめて格好いいとでも言ってくれれば多はうれしいが、殘念ながら輝星の長はヴルド人の平均長である一六五センチを下回っている。周囲を見ても、輝星より背が高いものが大半だ。生來の顔もあって、からはそういう評価を貰いがちだった。

「セクハラ案件ですか? セクハラ案件ですね?」

大騒ぎしているところに聲をかけたのは、シュレーアだった。彼は輝星の助言に従い、自分の機擔當の整備士たちのところへ行っていた。輝星のもとへ帰ってきたということは、用件は終わったらしい。

「あっ、セクハラ殿下だ」

「いくら我が國に不敬罪がないからといって言っていい事と悪いことがあるのでは!?」

お調子者の言葉に一気にヒートアップするシュレーア。

「いや北斗さんが初めてウチへ來たとき思いっきりセクハラしてましたよね」

しかし思わぬ援護撃が飛んでくる。機付長だ。

「しかも普段から輝星さんに付きまとってますよね?」

「皇族の権力を用してやりたい放題しているのでは?」

「うらやま……けしからん案件ですね。誰か憲兵をよびなさい憲兵を」

「う、う、うるさいですね! 行きますよ! 輝星さん!」

周囲が同調を始めたので旗悪しと見たのか、シュレーアはあわてて輝星の手を引っ張って走り去る。格納デッキで大笑が起きた。もちろん、やっかみ半分ではあるものの本気で言っている者などいない。こうしてからかわれても怒ったりしないシュレーアは、案外これで平民たちからの人気は高かった。

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