《貞観念が逆転した宇宙人の軍隊でエースパイロットの俺だけが唯一男な話【書籍化決定!】》第三十三話 ルボーア會戦(3)

雪が積もったような真っ白い急峻な斜面を、巨大な金屬のカニが疾走している。八本の腳部からくる安定と二基の大推力熱核ロケットエンジン、そして反重力リフターによる重力制の合わせ技により、多腳戦車は陸戦兵としては破格の運能を持っている。

「やばいやばい、ヤバイって!」

「騒いでる暇があったら反撃してよぉ!」

しかし、だからと言って四方八方から狙われて無事で済むはずもない。周囲を囲む帝國ストライカーの攻撃をギリギリで避けつつも、乗員の二人のは顔を真っ青にしていた。

「くそーっ! 當たれーッ!」

主砲の15.5cm複合砲(コンポジットガン)が吠える。ブラスターモードだ。太い線が"ジェッタ"に迫るが、ひらりと簡単に回避されてしまう。

「へたくそ! マホのノーコン!」

「火管制裝置(FCS)の補助があるとはいえ時速百八十キロで走行中に當てられるかぼけー!」

タンデム式のコックピットで罵聲が飛びう。反撃とばかりに飛んできたブラスターライフルが數発命中し、裝甲を焦がす。貫通こそしなかったが、コンデンサーが放電しきる前に追撃を喰らえば回生裝甲が機能しなくなる。そうなれば重裝甲の戦車といえど撃破は免れない。

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「こ、こちら四號車! めっちゃヤバイでーす! 増援はまだですか!」

「どこのエリアも似たような狀態なんだよ! 増援なんか來るわけないじゃないか!」

すぐ近くで同じように滅多打ちにされている隊長車に連絡をれた。しかし帰ってきた返事は無なものだった。通信ネットワークはまだ生きているため、隊長は絶的な戦況報告をいやでも聞く羽目になっていた。

「とにかく敵の侵攻を遅滯させるんだ、時間を稼ぐしかない」

「そうは言ったって!」

そんなことを言っていると、どこからか放たれた帝國側の機砲の大口徑榴弾が四號車の足もとに著弾した。破壊こそ免れるが、車が數十メートル吹っ飛ばされた。

「あうう……」

「シェイラちゃん起きて! 足止めたら死んじゃう!」

砲手のマホが前席のの肩を叩くが、彼は目を回したままだ。コックピットに鳴り響くロックオン警告。恐怖のあまりマホは失した。

「い、いやぁ……死にたくない……」

ブラスターカノンを構えていた"ジェッタ"が無慈悲に発砲した。マホは目をぎゅっとつぶる。

しかしその真紅のビームを、真上から放たれた緑のビームが撃ち落とした。続けざまに放たれた二目が"ジェッタ"のブラスターカノンを撃ち抜く。

「な、なに!?」

様子がおかしいことに気づいたマホは目を開け、天を仰ぐ。ウサギ耳のようなブレードアンテナをつけた純白のストライカーが、ブラスターライフルを片手で無造作に構えている。

「"カリバーン・リヴァイブ"……?」

データリンクにより表示されたその見慣れない機名を、マホは茫然と呟く。

「殺させるもんかよ、俺がいるのにさぁ!」

無線から聞こえてきたのは男の聲。マホは禮を言うことも忘れ目を白黒させた。戦場で男の聲など、ありえない。

「皇國のゼニス!」

「いつの間に接近されたの!?」

突然のに混しているのは帝國側も同じだ。反的にブラストーライフルを向けて発砲する機もいたが、フォトンセイバーによって弾かれる。

「遅れは取り返す!」

「まずい、全機ブレイク!」

輝星がフットペダルを蹴った猛烈な勢いで"カリバーン・リヴァイブ"が加速した。ブラスターライフルを構えると、"ジェッタ"の集団が散った。不明機とはいえゼニス、油斷せずに回避に徹する構えだ。

「な、なんで……」

しかし、輝星の放ったビームは吸い込まれるように"ジェッタ"の回避した先へと向かった。腹を貫かれ、黒煙を上げながら地面に転がる。

「け、牽制だ! 攻撃の暇を與えるな!」

隊長機の命令に従い、各々の撃武裝が"カリバーン・リヴァイブ"へ向けられる。

「よし、それでいい!」

ちらりと皇國戦車隊の位置を確認して、輝星はにやりと笑った。撃の嵐を喰らうが、斜面を蹴ってジグザグに移し回避し続ける。

「そんなきで!」

スナイパー仕様の"ジェッタ"がロングブラスターライフルを構えた。しっかりと慎重に照準を合わせ、発砲する。

「うわ……」

真紅の高収束ビームは狙いたがわず"カリバーン・リヴァイブ"へ。だが、下手に度が高い撃だったのが災いした。フォトンセイバーによって弾かれたビームはそのまま帝國側の隊長機を貫く。

「そんなのアリ……」

嘆きの聲を上げるスナイパーだったが、言葉を言い切る前に反撃のブラスターライフルによって隊長機と同じ運命をたどった。

「て、撤退するわよ! ゼニスの相手なんか真面目にしてらんないわ!」

「勝ち戦で墜とされるほど馬鹿らしいことはないよ。急いで!」

尋常ならざる輝星の腕前を察した帝國パイロットたちは泡を食って後退していく。輝星は追おうとはしなかった。今は追撃するより味方の助ける方が先だ。

「ケガはないか? 機かないようなら出してくれ、安全なところまで援護する」

ズタボロの多腳戦車に話しかける輝星。

「だ、大丈夫です!」

マホは運転席のシェイラをひっぱたいて起こしながら上ずった聲で答える。

「ところでお名前と年齢と彼の有無をお聞きしてもよろしいでしょうか!?」

「は?」

「いきなり何言ってんだいこのバカ!!」

しているのか訳の分からないことを言い始めるマホに、隊長車から罵聲が飛んだ。

「も、申し訳ないです。あとでよく言っておきますんで……。我々は自力で撤退できます。どうぞ行ってください、ヤバイ狀態の味方があちこちにいるんです」

「もちろん。それじゃ、お気をつけて」

輝星としても狀況の悪さは理解している。隊長の言葉に頷き、そのまま機を加速させた。

「隊長~!」

「うるさい! さっさときな! せっかく拾った命を無駄に散らす気かい!」

それもそうだ。マホは先ほどの恐怖を思い出してぶるりと震えた。

「わ、わかりました。シェイラちゃん、行こっ!」

「ううー、バカマホ……力いっぱい叩きやがってー……」

多腳戦車は立ち上がり、スラスターを吹かせて撤退を始めた。

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