《貞観念が逆転した宇宙人の軍隊でエースパイロットの俺だけが唯一男な話【書籍化決定!】》第三十六話 ルボーア會戦(6)

「これで最後か……」

を隠しつつ、輝星はブラスターライフルのマガジンを換した。圧粒子を封したその箱型のマガジンは、見た目には舊來の歩兵用突撃銃の弾倉とほとんど変わらなく見える。そしてその用途も似たようなものだ。

「悪い、余ってるマガジンないか? 予備弾倉使い切っちまった」

話しかけたのは近くに居た"クレイモア"だ。現在、戦況は拮抗狀態。輝星らの活躍もあって、皇國はなんとか制を立て直せていた。しかし、それでも狀況は良いとは言い難い。輝星たちは敵陣と味方の陣地を行き來しつつ、遊撃をしていた。

「正直、余ってるマグはないっすけど……」

"クレイモア"のパイロットは、一瞬躊躇してから答えた。この辺りは激戦區だ。弾薬に余裕などない。

「だから、アタシの分を持って行ってほしいッス。アンタとアタシじゃ、一発の価値が隨分と違うみたいッスから」

そういって"クレイモア"のパイロットは、自機のマガジンラッチに裝著された予備マガジンを"カリバーン・リヴァイブ"へ押し付けてきた。

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「……助かる。でも、弾切れで戦場をうろつくのはマズイ。いったん引いて補給をするべきだ」

辭退はしない。向こうも相応の覚悟を持ってマガジンを寄越したのは理解できるからだ。

「まさか。デクノボーでも居ないよりはマシッス。ここを抜かれたら後方の陣地が滅茶苦茶にされるッスからね」

そう言ってフォトンセイバーを抜く"クレイモア"。

「幸い、この辺りはり組んでるッスから剣だけでもなんとかなるッスよ」

「いいだ。頼んだぜ」

"クレイモア"の肩をたたき、輝星は機をジャンプさせた。スラスターを斷続的に焚き、斜面を蹴るようにして進む。周囲の敵機から火線が集中するが、軽々と回避していく。

「……っと!」

ふいに、輝星は敵機もいない空中にライフルを放った。緑の線が昏い夜空に走り、一瞬遅れて発が起こる。そしてその數秒後、後方で斷続的な発が起こった。敵艦からの間接砲撃だ。

「ひぇっ……怖い怖い。やっぱマグあげて正解っぽいッスね」

後方に居た先ほどのパイロットがコックピットで獨り言ちる。砲撃の発は、見事にこの周囲だけを避けていた。當たりそうな砲弾のみ輝星が迎撃したからだろう。

「兇星どころか、吉兆の星ッスね。アタシらには」

そう言って"クレイモア"のパイロットは苦笑した。

「本當に數が多いなあ! 次々増援が來る!」

とはいえ、輝星も余裕では居られない。四方八方敵だらけだ。回避できる攻撃は回避しつつ、フォトンセイバーによる迎撃も駆使しつつ反撃を続ける。練度自は高くない部隊のようで、撃墜自は極めて容易だ。輝星のノーロック撃にまともに対応できず次々と落ちていく。

「突っ込め突っ込め!」

「引いたら後ろから弾が飛んでくるぞ! 突撃するんだ!」

しかし、墜としても落としても敵が盡きることはない。後方から次々に新しい部隊がやってきて、前進もままならないような狀況だ。

「輝星、この敵おかしいぜ」

すぐ近くにまで飛んできたサキがショートマシンガンで牽制撃を撃ちながら言う。

「"ジィロ"だ。結構な舊式機だぞ、金満の帝國がこんなのを前線に出すとは思えねえ」

サキの言うように、敵部隊には"ジェッタ"のみならず見慣れない機も多く混ざっていた。三眼式のメインカメラは"ジェッタ"と同じだがずんぐりむっくりの形で、見るからにきが鈍い。舊式機の"ジィロ"だ。

すでに正面戦闘を行うような任務から外され、機砲の運用や前線での補給や修理、それに作業用などの雑多な後方任務に使用されているはずの機だった。

「敵の策ですね……! 撃破されても被害のない部隊をぶつけて、こちらに消耗を強いるつもりでしょう」

「いやー、相手からずいぶんと評価されてるみたいで嬉しいなあハハハ!」

「笑ってる場合かー!」

いくら舊式とはいえ、武裝はしっかりしている。油斷をすればゼニスといえど撃墜されかねない。狀況はよろしくなかった。

「とはいっても……ここに部隊を集中させているぶん他は手薄なはずだ。仕事は果たせてるわけだから上々上々!」

そう言うと同時に、再び空に向かってブラスターを撃つ輝星。またも空中で発が起こった。続いて周囲で大発が複數起こる。被害はないものの、弾丸のように飛んできた小石が裝甲を叩く嫌な音が聞こえてきた。

「しかし支援砲撃は厄介だな! なんとかなんないんすかねえ、殿下!」

「ミサイル艇の部隊に支援を頼んでいます。もうすぐ、敵艦のいるあたりに到著するハズ」

そう言ってサキに答えるシュレーアの言葉に、輝星は一瞬渋い表を浮かべた。フットペダルに足をかけ、周囲を伺いつつ一瞬考え込む。しかし彼が行に移すより早く、遠くで火柱が上がった。

「ぐっ……!」

輝星は反的にマイクをオフにし、苦しげにいた。顔に冷や汗が浮かび、膝にぽたぽたと垂れる。しばし歯を食いしばってから、そっと息を吐く輝星。

「間に合わねえよなあ! クソが!」

"カリバーン・リヴァイブ"のきの変化に、シュレーアはちらりと心配そうな目を向けた。だが、それに気づかなかったサキが歓聲を上げた。

「あの発、巡洋艦クラスの弾薬庫がしたか! しめた、これで楽になる!」

「……近くに他の帝國艦はいないようだな。後ろの味方も安全になる」

マイクのスイッチをオンにして、輝星は極力冷靜な聲でサキにそう答えた。

「……とはいえ、まだまだ踏ん張りどころです。消耗は抑えていきましょう」

資的にも、そして神的にもだ。ルボーア星系に到著する前に輝星が言っていた話を思い出しつつ、シュレーアは厳かな聲で言った。輝星は皇國の切り札だ。余計なダメージを與えるべきではない。なかなか難しい戦になると、シュレーアは険しい表をうかべるのだった。

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