ヴルド人の用禮服には、いくつかの種類がある。地球から輸・複製されたドレスに、伝統的な軍服などだ。だが、男向けはどうかというと、選択肢はない。地球式の男用禮服は"可くない"ためにヴルド人からは不評なのだ。

では一、ヴルド人男はどういった禮服を著るのかというと、話は簡単だ。今、輝星の目の前にあるものがソレである。

「やっぱこれはないわ」

むやみやたらにあちこちスリットのったワンピースとしか表現できない代を半目で睨みつつ、輝星が文句を言う。布地の量は多いのに、なぜか足やら二の腕やらがチラチラと出してしまう破廉恥極まりない服なのだ。出狂のケがない輝星には、とても著用する勇気はない。

「く……殘念です」

心底そう思っている表でシュレーアがく。いつの間に用意されていたこの服は、彼が輝星のためにこっそり発注していたモノだった。だからこそ、輝星が著用を拒否したと知った時の落膽はひとしおだ。

「いいじゃないのこれで。似合ってるかどうかはさておき、無難なんだからさ」

そう言う輝星が纏っているのは、向けのものを若干改造したカレンシア皇國の儀禮用軍服だった。青地に金モールをふんだんに施したそのデザインは、やや華なきらいはあるもののよく洗練されている。

「い、いや、それで似合っていないだなんて言ったら、多方面から叩かれますよ」

ゆるむ頬を見せないようにそっぽを向きつつ、シュレーアが言う。

「しかし裝の麗人か……そういうのもアリだな……というか何著ても百點満點じゃないか、この人……」

「裝と言われるとそれはそれで恥ずかしくなるなあ！」

微塵も嬉しくなさそうに輝星がび、そして大きくため息を吐いた。

「ま、支度は終わったんだからさっさと行こうよ。弟さん、待ってるんでしょ？」

「え、ええ。そうですね。こちらへどうぞ」

輝星の手を取り、シュレーアは更室代わりの小さな個室を出た。そのまま向かった先は、貴賓室だ。

二人は今、巡洋戦艦"レイディアント"が停泊する軍港から車で半時間ほどの場所にある皇都の中央庁舎に居た。目的は単純で、安のために今日"レイディアント"を訪れる予定のシュレーアの弟……アオ皇子の出迎え兼顔合わせといったところだ。

「こちらです」

地球の役所とそう変わらない様子の庁舎の中を進むこと十分。輝星の前に現れたのは重厚な木製の扉だ。シュレーアがノックすると、中から「どうぞ」という聲が返ってくる。

「ああ、姉さん！」

出迎えたのは、白髪の小柄なしい年だった。輝星が著用拒否したものに似たデザインのワンピースを纏った彼は、シュレーアに向かって弾けるように走り寄る。

「元気だった？　ケガとか病気とかしてない？　ちゃんとご飯は食べられてる？」

泣きそうな表でマシンガンのごとくまくしたてる年に、シュレーアは苦笑した。予想通りの反応ではあるため、困はしない。彼が出征する直前にも、彼はこうしてひどく心配していたのだ。

「大丈夫ですよ、アオ。姉は元気ですとも」

震えるアオのを抱きとめ、頭をやさしくなでるシュレーア。そうすることでやっと年は落ち著きを取り戻したらしく、恐しながらを放す。

「ご、ごめんなさい、姉さん。ちょっと転しちゃって」

「構いませんよ。ただ、すぐ隣に人がいるのですから、挨拶くらいはしましょう」

「あっ……」

今さらに輝星に気づいたようで、二人の視線が差する。アオは小柄な輝星よりもさらに長が低く、彼は久しぶりに誰かを見下ろすことになった。

「どうも、お初にお目にかかります。傭兵の北斗輝星です」

そう言って輝星が笑いかけると、アオは湯気でも上がりそうなほど顔を真っ赤にしてぶんぶんと頷いた。

「あわわ……ア、アオ・ハインレッタです……！」

なんとか一禮を返してから、アオはシュレーアに困したような目を向かた。

「ね、姉さん！　男の人が來るっていってたじゃないか……！　こんな人さんが來るなんて、聞いてないよ……！」

「えっ、いや、服裝はたしかにモノですが、彼は男ですよ」

「ええっ！？」

アオは輝星の顔をまじまじと見て、それから更に頬の朱を濃くして目をそらす。

「う、噓だ。の人にしか見えないよ」

「そうですか？　私には男にしか見えませんが……」

二人分の疑問の表を向けられ、輝星は何とも言えないような表になった。

「不思議とね、男からはに、からは男に見られがちなんですよ、俺ってば。でも確かに男ですとも、ええ」

「そんな……」

何故か絶したような表になって、アオは目をそらす。しかしすぐに首を振り、「いや、別の差なんて……」と小さな聲で呟き、笑顔を作って輝星を見る。

「そ、その……申し訳ありません。失禮なことを言っちゃって」

「慣れてますよ、お気になさらず」

苦笑しながら答える輝星。実際、この手の問答はよくあることだ。今さら怒りもわいてこない。

「ありがとうございます。……今日は、護衛をしていただけるのでしたよね？　よろしくお願いします」

表を改めて手を差し出してくるアオに、輝星も深く一禮してその手を握る。

「もちろん、お任せを」