《貞観念が逆転した宇宙人の軍隊でエースパイロットの俺だけが唯一男な話【書籍化決定!】》第六十二話 ディアローズの憂鬱

皇國主力艦隊が皇都を進発したのは、アオが"レイディアント"にやってきた日から一週間後のことだった。戦線は相変わらず停滯していたが、こんな狀況が長々と続いても不利になるのは地力の弱い皇國の方だ。早急に打破すべしというのが、參謀部の出した結論だった。

「さてさて、皇國の駄犬どももやっと重い腰を上げたようだな」

手元のタブレット端末で報を確認しながら、ディアローズは自信に満ちた表でそう言った。

「ゲリラどもをぷちぷち潰すだけのつまらん日々もこれで終いだ。くくく……楽しみだとは思わぬか、我が妹よ」

「しかし、勝てますか」

楽しげなディアローズの聲に対し、ヴァレンティナの返答は至極冷たく短かった。ディアローズのきがピタリと止まり、虎目石(タイガーアイ)を思わせる合いの瞳同士が空中で差する。

「戦力はわが方が優位とはいえ、前回の戦いほど圧倒的ではありません。それほどの狀況下で一度敗北しているのですから……」

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「敗北?」

その言葉を聞いて、ディアローズの心臓が跳ねた。甘い痺れが脳髄に広がる。

「姉上?」

「な、なんでもない。続けろ」

「はあ」

疑いの目でディアローズを見つつも、ヴァレンティナはそれ以上追及はしなかった。まさか姉がタチの悪い癖を開花させているなど、予測できるはずもない。せいぜい、調でも芳しくないのかと的外れな想像が頭に浮かんだ程度だ。

「なんにせよ、今の我々の先の作戦時ほどの戦力はありません。ルボーア星系で主力艦隊は摺りつぶされ、その上占領地でのゲリラ活も活発化していますから」

「確かに、各地に配置した戦力を出するのは下策であろうな」

帝國に占領された舊皇國領の主要な軍事基地や都市は、軌道撃でほぼ壊滅狀態にある。しかしそれでも生き殘った皇國軍殘黨や武を持った市民などが、執拗な抵抗を続けていた。

下手に駐屯した部隊を引き上げたりすれば、せっかく占領した星系が側から奪い返される羽目になってしまうだろう。ディアローズとしてもそれは避けなければならない。

「本國に要請した増援はどうなっておるのだ? そろそろこちらに到著しても良いころだが」

もっとも、戦力が減じているのはあくまでカレンシア派遣艦隊だけの話だ。ノレド帝國は大國なのだから、本國には無傷の部隊がいくらでもある。

「それが……どうやら、要通りの部隊は承認が得られなかったようです。送られてきた部隊はあまり多くありません」

「……容は? 申して見よ」

目つきを険しくしてディアローズは幕僚に聞いた。國貴族・皇族との折り合いもあるし、帝國自皇國の他にも戦國を抱えている。要が完全に通るとは思っていなかったが、しかし現狀の戦力では厳しいのも事実だ。

「ストライカーが七個戦隊七百機。運用するためのストライカー母艦(キャリア)もセットです」

「ストライカー母艦(キャリア)? 平民の部隊ではないか……」

ストライカー母艦(キャリア)とは、いわば空母のようなものだ。大型で幅広の艦に大量のストライカーを搭載している。しかし、そこに配屬されるパイロットは原則として平民出者ばかりだ。

有能なエースはさっさと騎士に敘任され中型以上の巡洋艦や戦艦に配屬されるため、その出がらしともいえるのがストライカー母艦(キャリア)の部隊だ。練度にしろ士気にしろ推して知るべしだろう。

「……他には?」

「偵察艦隊と突撃艦隊がいくつか。リストを送ります」

「ほう、やっとまともなのが來たな」

作戦會議室のメインモニターに表示された艦名リストを確認しながら、ディアローズは笑みを浮かべた。広域での戦闘においては偵察部隊はいくらあっても足りないくらいだし、対艦ミサイルをたっぷり搭載した突撃艦は大規模な艦隊決戦が発生しても頼りになる。

「して、主力艦はどうだ? 損耗したのはそちらなのだ。戦艦はあと四隻……いや、最低二隻はしい」

「ありません」

「は?」

「一隻も派遣されていません……」

「なるほど。戦艦は、ということか。大型裝甲巡を代わりに回してきたのであろう。うむ、まあ仕方ないか」

「いえ、大型巡洋艦もです。主力艦は一隻たりとも増援はナシです」

ディアローズの顔に冷や汗が浮いた。幕僚は叱責を恐れてめたが、ディアローズは無言だった。

「か、代わりと言っては何ですが、戦略級兵が送られてきました。戦艦一個戦隊に匹敵する戦力とか」

「……ほう、面白い。言うてみよ」

「歩行要塞(モビルフォート)"ヴァライザー"です」

そう言って幕僚はメインモニターにその兵の姿を表示させた。すさまじい大きさの大砲から手足が生えたようなデザインの、艦艇でもストライカーでもない兵だ。隣に戦艦のCGが表示されているが、それと比較してもかなりの大きさに見える。相當な巨大兵だ。

「……面白い兵であるが、なんだか妾(わらわ)嫌な予しかせぬのだが」

こんな大きいだけの代で、あの異様な戦闘力を持った傭兵が本當に止められるのだろうか? ディアローズは渋面を浮かべながら唸った。

「し、しかし朗報もあります! 四天が、帝國最強の四人がこの戦域にいらしているのです!」

「ほう!」

「なんだと……?」

ディアローズとヴァレンティナが、同時に驚きの表を浮かべた。

「なるほど、最初から斷られるつもりで要を出していたのだが……やけに追加戦力が乏しかったのは、このせいだったか! 連中が來てくれたのならば、話は別だ」

ニヤリと笑うディアローズの目には、明らかに自信のがあった。

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