『FTL(超速)アウト完了。巡航モードに移行します』

AIが告げる聲がコックピットに響くが、メイン・モニターに映るサイケデリックな虹の星空はそのままだ。現在、"カリバーン・リヴァイブ"は件のレイス星系の外縁部を速の九十九パーセントというすさまじい速度で航行している。もちろん、スラスターで加速したのではなくFTL(超速)ドライブを応用した特殊な方式を使っている。

「おっとり刀で出てきた甲斐がありました、先手をとれましたね」

そう言ってニヤリと笑うのは、｜バイク型ブースターユニット《ライドブースター》にまたがった"ミストルティン"に乗ったシュレーアだ。レイス星系には、輝星ら三機のゼニスを含む二百機以上もの大部隊が展開していた。

その上、周囲の星系に敵部隊の反応はない。偽裝された伏兵が多いる可能はあるが、足の速い部隊だけで出撃しただけあって敵主力の増援より早くレイス星系に到著することができたのだ。

「第七七、七九ストライカー戦隊はマガ星系への接続宙域を封鎖！」

シュレーアの指示をけ、銀を背負った無數のストライカーが輝星たちの集団を離れて進んでいく。統制の取れたきだ。それもそのはず、連れてきたのは皇國最鋭の部隊だ。ここで歩行要塞(モビルフォート)を完全に潰しておかなければ皇國の侵攻計畫はその時點でとん挫する。

そして輝星たちの周囲に殘ったのは、數十機程度の數だった。しかも、そのほとんどがライドブースターの代わりにバイクを思わせる形狀に変形した機砲(ライドガンキャリアー)に搭乗した砲兵部隊だ。これから要塞攻略をしに行くには、あまりに戦力がないと言わざるを得ない。

「さて、包囲網は作りました。あとは獲が網にかかっていればいいのですが……」

とりあえず退路はストライカーの大部隊でふさいだものの、すでにこの星系から歩行要塞(モビルフォート)が居なくなってしまっていれば元も子もない。

「しかし、姿の見えない敵ってのは厄介っすね。偵察艦隊の連中ですら発見できなかったってんだから……」

「地表への走査を行っている最中に奇襲をけたのでしょう。流石にあの巨、小星程度の質量で隠しきれるものではない」

「なるほどな。撃たれる前に撃てと判斷した訳っすね」

サキが唸った。攻城砲並みの威力の主砲で先制攻撃をけたりすれば、大部隊とはいえ大きな損害をけるのは避けられない。

「おい、北斗。敵の位置ってわかるか」

「わかる」

「マジかよ」

駄目もとで聞いたにもかかわらず、當然のような口調で帰ってきた答えにサキは絶句する。

「アクティブステルスでは殺気は遮斷できないワケよ。　大丈夫だ。連中、まだあの小星に居る。さっさと片付けよう」

「便利なことこの上ないな……あいあい、援護は任せとけ」

こうして、別隊は小星b1へと向かう。亜速の速度をもってすれば、目標の星はすぐ近くだ。あっというまにジャガイモのようなデコボコした形狀の小星がメインモニター上に現れ、どんどんと大きくなっていく。

『重力影響下にりました。巡航モード解除。通常航行に移ります』

自で亜速航行が停止し、各機の背に展開していた銀のリングが消失した。

「敵は……さすがにこの距離では目視確認は無理ですか。學迷彩を裝備している可能もある。注意しなくては」

「殿下、先頭は俺が。悪いけど、今回の作戦は俺に指揮を任せてほしい。たぶん、この中で歩行要塞(モビルフォート)やりあったことがあるのは俺だけのはずだから」

「問題ありません、任せました」

取り回しが悪く、建造費もかさむ歩行要塞(モビルフォート)はかなり貴重な兵だ。地方のいち小國でしかないカレンシア皇國に、そんなものと戦した記録は建國以來一度もなかった。ここは経験者に任せるべきだと判斷したシュレーアは、即座に許可を出す。

「男の指揮下で戦うなんて！」

砲兵隊のパイロットが侮蔑もあらわに吐き捨てた。輝星は果を上げているだけあって、皇國軍ではある程度評判がいい。しかしその別を理由に嫌うものもまたなからずいた。

「じゃあいい！　俺に指示されたくない人は勝手にいてくれ！」

とはいっても、輝星としてもこの手の反応は慣れたものだ。ニヤリと笑ってそう返すと、しばし砲兵隊が騒がしくなる。しかし、さすがに実戦下で喧嘩別れするような愚を犯すものはいなかった。

「し、失禮しました。あとでこの馬鹿には謝らせておきますので」

話をまとめた砲兵隊の隊長がこほんと咳払いし、申し訳なさそうに言った。

「なんであたしが謝らなきゃ……」

「馬鹿！　子供じゃないんだからわがまま言わないでよ！」

「重ね重ね申し訳ない……」

「ごちゃごちゃ言ってる場合か！　距離五萬、そろそろ敵のキルゾーンだ……」

業を煮やしたサキが文句を言った瞬間だった。突然、輝星の鋭い聲が飛ぶ。

「全機散開(ブレイク)ッ！」

次の瞬間、漆黒の宇宙に真紅のビームの奔流が走った。