「被害報告！」

「第八砲兵中隊、被害なし！」

「第九砲兵中隊、同じく！」

輝星の聲をけて慌てて散開した部隊から、無事の報告が次々と返ってくる。薙ぎ払うような一撃だったが、警告が間に合ったのが幸いしたのか被害は一機もない。

「ひええ」

ノイズまみれのレーダー畫面を一瞥しながらサキがいた。すさまじい大出力ビームが至近距離を通過したため、索敵機が軒並みひどい數字をたたき出している。直撃どころか軽くかすっただけで、ストライカー程度塵も殘らず蒸発するような威力であることがありありとわかる。

「砲兵隊および第三機中隊はポイントC556で砲撃用意。敵ストライカー隊が來たら適宜迎撃してくれ。牧島さんも悪いけどそっちへ。萬一ゼニスが來たらヤバイ」

「ああ！？　ほとんど全部隊じゃねえか！　そんな數であのデカブツに突っ込むつもりか！？」

「大丈夫だ、なんとかなる！　さっさと行ってくれ、二目が來る」

「ちっ、しゃーねえ！」

心配ではないと言えばウソになるが、実戦下であれこれ言いあう余裕はない。サキは機を転進させ、機砲(ライドガンキャリアー)たちとともに指定されたポイントへと向かう。

「殿下！　北斗を頼みましたよ！」

「無論です。お任せを」

自分が選ばれたことに會心の笑みを浮かべつつ、シュレーアは頷いた。サキが小さくため息を吐き、砲兵隊たちとそのまま遠くへ飛び去る。殘されたストライカーはわずか三機、"カリバーン・リヴァイブ"と"ミストルティン"……そして全のハードポイントというハードポイントに対艦ガンランチャーの弾倉を裝著した"クレイモア"だけだ。

「なかなか大膽な作戦をとりますね」

"クレイモア"のパイロットが苦笑じりに行った。軍の教本にある対歩行要塞(モビルフォート)戦は、大戦力で飽和攻撃を仕掛けるような容が主流だ。このような數で挑むなどというのは、聞いたことがない。

「大丈夫だ。俺についてくれば墜とさせなんかしない」

「もし功したら王子様(・・・)抱っこでもしてあげますよ、"兇星"さん」

「勘弁してくれ」

「リャカ尉、冗談を言っている場合ではありませんよ」

不愉快そうなシュレーアの聲に、リャカ尉と呼ばれた"クレイモア"のパイロットがくつくつと意地悪そうな笑い聲をらす。なかなか肝の座っただ。

「向こうの本増援が來る前にさっさと止めなくちゃならん。突っ込むぞ」

薄く笑いながら、輝星がスロットルを全開にする。エンジンの回転計が一気に跳ね上がった。二機もそれに続くが、ゼニスである輝星機やシュレーア機と違いリャカは量産機である"クレイモア"だ。推力の違いは大きく、距離はあっという間に離される。しかし誰もそれを気にしない。

「見えた、あれか！」

みるみる近づいてくる地表に、巨砲に手足をくっつけただけにしか見えない異形の兵の姿があった。まだ彼我の距離はそこそこあるにもかかわらず、その巨大さははっきり見て取れた。

「たった三機で來た！？　どういうことだ！」

"ヴァライザー"のコックピットで機長がんだ。この程度の機數で歩行要塞(モビルフォート)に突っ込んでくるなど、自殺行為にしか思えなかったからだ。

「將、あの白い機……噂の"兇星"では」

「なるほど、そういう事か。だがいかなエースとて所詮はストライカーだ！　この"ヴァライザー"は倒せんさ！」

足の遅さから運用に難があるとはいえ、"ヴァライザー"の裝甲と火力は規格外だ。數機のストライカーでどうこう出來るとは思えない。機長は獰猛な笑みを浮かた。

「裝填はまだか？　主砲は撃ててあと一発、面倒な機砲どもをしでも減らしておきたい」

「あと十秒！」

「いいだろう！　迎撃兵裝のコントロールを渡せ。敵機はこちらで対処するから、貴様は主砲の照準をしっかり合わせろ」

命令を下してから、機長は"ヴァライザー"の両腕を接近してくる輝星たちに向けた。指を思わせる配置で裝備された四連裝粒子速砲《ラピッドブラスターガン》二基八門が同時に火を噴く。

「うわ、撃ってきた」

「この程度の弾幕でなーッ！」

殺到してくる弾幕にシュレーアとリャカは回避したが、輝星はフォトンセイバーを抜くと弾を弾き飛ばしながら突っ込んでいった。

「クソッ、なんだヤツは！？　裝填は！？」

「五秒！　もうすぐ打てます！」

砲手のその聲が聞こえていたかのようなタイミングで、輝星がんだ。

「全門撃てッ！」

その瞬間、小星軌道上で砲撃態勢に移行していた機砲部隊が30Mwブラスターカノンを発砲した。実に十八門もの一斉だ。緑の線が"ヴァライザー"に集中する。

「その程度の豆鉄砲で！　構わん、撃て！　反撃で消し飛ばせ！」

しかし、その攻撃はすべて斥力偏向シールドにより拡散・偏向されあらぬ方向へと飛んでいく。"ヴァライザー"は無傷だ。機長は會心の笑みを浮かべたが、それと同時に輝星がフォトンセイバーを衝角のように突き出して突撃してきた。

斥力偏向シールドが機を弾き飛ばそうと作するが、先ほどの砲撃により負荷がかかっていたため所定の能を発揮できず"カリバーン・リヴァイブ"は"ヴァライザー"の懐へと侵を果たした。

「しま……ッ！？」

機長が悲鳴じみた聲を上げるがもう遅い。輝星が縦桿のトリガーを引くと、右手で構えていた対艦ガンランチャーから大型のミサイルが白い尾を引いて発される。狙いたがわずミサイルは"ヴァライザー"の左ひざに命中。ダメージこそ與えられなかったが、歩行要塞(モビルフォート)の巨が揺らぎ、それと同時に巨砲が吠える。

「間に合った……！」

著弾の衝撃で起きた照準のズレは極小だったが、広大な宇宙空間ではその程度でも致命的だ。超出力のビームは目標である皇國砲兵隊にかすりもせず、漆黒の宇宙へと飛び去る。

「三発目は撃たせない！　ここで終わりだッ！」

にやと笑って、輝星は対艦ガンランチャーを構えなおした。