「くそっ、懐に……ッ！　味方のストライカーは何をしているんだ！」

「砲撃に巻き込んじゃマズイからって護衛を退かせたのはアンタでしょうがッ！」

「ああもう、滅茶苦茶だッ！　早く援護に來い、貴様ら！」

"ヴァライザー"のコックピットは完全に修羅場と化していたが、そんなことはお構いなしに輝星は対艦ガンランチャーをぶっ放した。自迎撃システムが作し、腹部に裝備された無數の40mmガトリング砲が火を噴いた。しかしその火線をうようにして大型ミサイルは飛翔し、狙い通り腕部の速砲へと命中。四連裝の砲を吹き飛ばした。

「この……好き勝手してッ！」

縦桿を握る手に力を込めつつ、砲手が吠える。その怒りをけたように、殘されたもう一基の粒子速砲《ラピッドブラスターガン》が発された。連していたガトリング砲とともにすさまじい火力が"カリバーン・リヴァイブ"を襲う。

「自照準頼りではなァ！」

輝星はスラスターを吹かし、"ヴァライザー"の下をくぐるようにしてこれを回避する。

「そう來ると思ったよッ！」

だが機長はこのきを予測していたようで、ちょっとした巡洋艦ほどもある大きさの腳部ユニットが見た目に反した軽やかなきで"カリヴァーン・リヴァイブ"に迫る。キックといっていい技だが、大きさが大きさだけにほとんど艦艇による當たりに近い。

當たり判定の大きさから極めて回避が難しいその一撃を、しかし輝星は軽やかなきで紙一重の回避を見せた。さらにそれと同時に頭部機銃が発され、裝甲の隙間に小さな銃弾が殺到する。

「第二十番油圧ホース破斷！？　コイツ、この一瞬でッ！」

サブモニターに表示された警告を見て機長が驚愕した。腳部ユニットを駆する油圧系は他にも経路があるため作不良こそ起こさないものの、パワーもスピードも低下は避けられない。

「機長、機を回してください！　こいつ対空砲の死角へ死角へり込んで……ああっ！？」

「そこだッ！」

一瞬の隙を突かれ、殘るもう一基の速砲も対艦ガンランチャーによって破壊される。コックピットに嫌な振が走った。

「馬鹿、こんな時はミサイルだ！　何のために高い高機ミサイルを山のように搭載していると思ってるんだ！」

「も、申し訳ありません！」

慌てて砲手がミサイルの発ボタンを押すと、機底部のミサイルハッチが解放された。しかしその部から弾が発されるより早く、いくつもの緑のビームが針を通すような度で飛んでくる。いつの間にか武をブラスターライフルへと持ち替えていた輝星の攻撃だ。

「なにぃ！？」

ミサイルの発口が火を噴いた。弾薬庫がしたのだ。小威力の対ストライカーミサイルのため"ヴァライザー"自に大きなダメージがることはなかったが、ミサイルランチャーの多くが使用不能になってしまった。

「なんてヤツだ！　だが……」

それでも、生き殘ったランチャーからは次々とミサイルが飛び出す。その數數十、かなりの數だ。それらは束になって"カリバーン・リヴァイブ"へと向かう。

「おっと！」

白煙を上げて殺到するミサイルを、輝星はひらりひらりと軽業のようなきで回避していく。命中しそうなミサイルもあったが、著弾する前に新裝備の対ミサイルレーザータレットがすべて撃ち落としてしまった。

「機付長も良い仕事をする……！」

「な、なんてことを」

主要な対空火をいくつも失い、砲手は茫然とした様子で呟いた。自型のガトリング砲もけなげな抵抗を続けているが、ブラスターによる反撃で次々と撃破されていく。

「え、ええい！　いっそ無視しろ！　主砲は裝甲化されているし、ストライカーの武裝で本機のバイタルパートを抜くのも無理だ！　致命的なダメージはけない！」

すでに護衛の帝國ストライカー部隊も付近に戻り、皇國軍機との戦が始まっている。ストライカーの相手はストライカーにさせるべきだと機長は考え直した。

「それより敵砲兵隊の排除はできんのか！　目下一番の脅威はアレだ！」

斥力偏向シールドと強固な裝甲をもつ"ヴァライザー"からすれば豆鉄砲でしかない機砲だが、いまだに撃は続き小星の地表付近で戦っている護衛部隊が一方的なアウトレンジ攻撃をけていた。ゼニスである"ミストルティン"が大暴れしていることもあって、とてもではないが護衛部隊は"ヴァライザー"の援護に回る余裕がない。

「駄目です、機砲の護衛にゼニスが居て……まともに接近できません！」

皇國砲兵隊へ攻撃を仕掛けていた部隊の隊長からの通信に、機長は思わず歯を噛み締める。

「帝國艦隊からの増援は！？　本隊の戦力ならばこの程度のコバエ、すぐに摺りつぶせるハズだ！」

「接続宙域を皇國の部隊が封鎖しています！　さらに付近に皇國の本隊もいるらしく……」

ＦＴＬ(超速)アウト直後を狙って総攻撃を仕掛ければ、多の戦力差があってもひっくり返すことが可能だ。まともな覚を持っている指揮であれば、封鎖されている星系に無防備に部隊を投したいとは思わない。

まして、この星系は"ヴァライザー"がいるとはいえ帝國側の防衛設備はない。ヴァレンティナとしても決戦の地としてここを選んだりはしないだろう。皇國の主力が近くにいるなら、無理な攻撃は行わないハズだ。

「くそっ、どうすれば……」

そして、機長がそうして迷っているスキに輝星がいた。さっと機の踵を返し、斥力偏向シールドの展開距離のギリギリへ。

「いまだ、殿下！」

ぶなり、輝星はワイヤーガンを発する。その狙いの先に居たのは、"ミストルティン"だった。

「やっと出番ですか！」

獰猛な笑みを浮かべながらシュレーアが答える。"ミストルティン"がワイヤーガンの先端を躊躇なくつかむと同時に、"カリバーン・リヴァイブ"がパイルバンカーを地面に刺しつつワイヤーの巻き取りを開始した。

斥力偏向シールドが異を排除しようと作するが、カーボンナノチューブで編まれたワイヤーが命綱となって"ミストルティン"がはじき出されることを防いだ。こうして二機目のストライカーが"ヴァライザー"の懐へ侵した。

「わわわっ！　こっちも早くしてください！」

殘されたリャカから通信が飛んでくる。一般量産機でしかない"クレイモア"では、多數相手に持ちこたえるのは難しい。周辺に展開した護衛機から飛んでくる集中攻撃をなんとか回避している狀況だ。

「今やる！」

再びワイヤーガンが発され、同じように"クレイモア"が斥力偏向シールドの傘の中へとってくる。こうなれば逆に"ヴァライザー"の防裝置がこちらを守ってくれるようになった。

「ま、まずいですよ機長！　いったんシールドを解除して護衛機に追い払ってもらいましょう！」

「うっ……」

一瞬迷った機長だったが、相変わらず降り続く皇國砲兵隊の撃を見て決斷した。

「いや、まずはあっちを狙う！　ストライカーの豆鉄砲と違って、機砲は"ヴァライザー"にもダメージがるかもしれない」

本來、"ヴァライザー"の裝甲があれば斥力偏向シールドがなくとも機砲程度の攻撃は耐えられる。しかし輝星によっていいように翻弄されてしまった機長はもう彼を相手にしたくない気分になってしまっていた。故に、もっともらしい理由をつけて輝星との対峙を避けてしまう。しかし、それは大きな判斷ミスだった。