「まずはこの厄介なシールドを破壊する」

対空ガトリング砲の火線を軽やかに回避しながら、輝星が決斷的に言い切った。機長の推察通り、ストライカー三機の火力では"ヴァライザー"に致命的なダメージを與えるのは不可能だ。

「斥力ジェネレーターを破壊するつもりですか。なるほど、だから私を……」

ニヤリと笑ってシュレーアは頷いた。"ミストルティン"は火力特化のゼニスだ。破壊力には自信がある。

「一點突破だ。斥力ジェネレーターは構造上重裝甲にはできない！」

輝星はそう言いながら、弾數の減った対艦ガンランチャーを"クレイモア"のリャカ尉に投げ渡した。彼は當然のようにそれをけ取り、代わりに弾薬がフルロ－ドされた別の対艦ガンランチャーを返してくる。相手が相手だけに、リロードの時間すら惜しいのだ。わざわざリャカ尉を連れてきたのは、弾薬運搬とこのようなサポートを頼むためだ。

「了解、行きます！」

"カリバーン・リヴァイブ"と"ミストルティン"がスラスターを吹かし、一気に加速した。目指すは歩行要塞(モビルフォート)"ヴァライザー"の尾部だ。

殘りない対空ガトリングが弾幕を張るが、戦開始時と比べればあまりにも頼りない火力しか殘っていない。そしてその數ない火點も、三機の反撃によって次々と破壊されていく。

「あそこですね」

シュレーアが指さした先には、メッシュ狀の防弾カバーで覆われた円筒形のユニットがあった。大きさはストライカーよりもやや大きいくらいか。斥力で防シールドを形する場合、その発振は外部に暴されている必要がある、完全に防することは難しいので、ああいったカバーをつける以外に方法がないのだ。

「破壊します！」

"ミストルティン"の全火力が一気に発揮された。肩のブラスターカノンに、腕で保持したヘビーマシンガン。そして腰と腳に取り付けられたミサイルランチャーが同時に目標に向かって飛ぶ。輝星もそれに続き、対艦ガンランチャーを連する。

猛烈な撃にされた防弾カバーは、巨大要塞の弱點を守っている割にはあっけなく破壊された。ビームによってぐずぐずに溶かされた表面に弾丸の雨が降り注ぎ、中の斥力ジェネレーターごとスクラップ未満の鉄くずと化す。

「斥力ジェネレーター、破壊されました！」

「ア゛ア゛ーッ！！　あのハエ共！！」

機長が真っ赤な顔でぶがもう遅い。輝星が鋭い聲で命令を下した。

「砲兵隊！　十秒後に歩行要塞(モビルフォート)に全門斉！」

「了解！」

サキらの戦によりいまだ健在の砲兵隊からは、頼もしい返事が返ってきた。輝星ら前衛部隊は誤を避けるために"ヴァライザー"から急いで離れた。帝國ストライカー隊が妨害するべくブラスターを盛んに撃ちかけてくるが、輝星はフォトンセイバーでそれらをすべて弾き飛ばす。そしてお返しとばかりに対艦ガンランチャーを発した。

「そんなノロマ弾で！」

帝國パイロットはにやりと笑いながらそれを回避したが、その避けた先にり込むようにして二発目の対艦ミサイルが飛來する。

「うわーっ！」

対艦ミサイルの威力はストライカー相手にはかなりオーバーキルだ。下半を引きちぎられるようにして喪失した"ジェッタ"が悲鳴を上げながら吹き飛ばされていく。

「全機、撃(テ)ェ！」

砲兵隊の隊長の鋭い聲が無線から聞こえてきたのはその時だ。大量の太いビームが"ヴァライザー"の上部をしたたかに打ち據える。

「被害報告！」

「損傷軽微！　ほぼ無傷です！」

しかし、"ヴァライザー"の裝甲は強固だった。表面が赤くなり、やや抉れているものの貫通には至らない。砲兵隊員の幾人かが落膽のため息を吐いた。

「流石"ヴァライザー"だ！　なんともないぞ！」

一方ご満悅なのは機長だ。満面の笑みでコンソール・パネルを叩き、快哉をぶ。

「北斗さん！」

「大丈夫だ！」

心配そうなシュレーアの聲に、輝星は自信ありげな表で再びリャカ尉と対艦ガンランチャーを換する。そのまま小星の地表を蹴り、一気に上昇した。

「やらせるな！」

護衛の"ジェッタ"がそのきを阻止すべく弾幕を張るが、輝星はセイバーでその撃を叩き落すことでスピードを落とすことなく"ヴァライザー"の真上まで到達した。

「く、くそっ、化けめ！　何をする気だ！」

「こうするんだよッ！」

機長のびに、輝星は無線もつながっていないというのに答えつつ対艦ガンランチャーを連した。マガジンに裝填された弾薬をすべて撃ちきる。そして、きの鈍い"ヴァライザー"にそれを回避する方法はなかった。すべての対艦ミサイルが、今だに赤熱している先ほどの砲撃の被弾痕へと命中した。

「ちぇすとーッ！」

対艦ガンランチャーを投げ捨てるなり、輝星はフォトンセイバーを両手で握りなおしスロットルを全開にして"ヴァライザー"に突っ込んだ。

「うわっ！　誰か止めろ！」

ぶ機長だが、輝星を止められるものなどどこにも居なかった。緑の刃が被弾でボコボコになった裝甲に突き刺さる。溶斷により一瞬で粒子コンデンサの中を使い切ったフォトンセイバーがビームの発振を止めると輝星はそれを投げ捨て、代わりにその出來たばかりの小さなにブラスターライフルの砲口を當てた。

「これで終わりだッ！」

発砲。裝甲さえ抜ければ、あとはビームを阻むものはない。高圧粒子が"ヴァライザー"のエンジンを撃ち抜き、高速回転していた相転移タービンが破滅的な音を立てつつ停止する。

「メインエンジン停止！　これでは主砲が発できません！」

「あ……あ……」

砲手からの報告に、機長は思わず絶句してしまう。サブエンジンのおかげで完全に電源が切れたわけではないが、これではまともに移も攻撃もできない。そうなれば、"ヴァライザー"など巨大な棺桶に過ぎない。

「お、終わりだ……なにもかも」

機長ががっくりとうなだれると同時に、皇國軍から歓聲があがった。

「ウオオオーッ！　"兇星"バンザーイ！」

「やった！　やりました！　さすがは私の輝星さんですっ！」

「聞き捨てならない発言が聞こえたんだが！？」

口々に喜びの聲をぶ皇國兵だったが、輝星は鋭い目つきで天を睨みつけた。

「油斷するな、次が來る！」

輝星が警告したのとほぼ同時に、猛烈な撃が"カリバーン・リヴァイブ"を襲う。輝星はこれをスラスターを全開にして回避。空を切った真紅のビームが"ヴァライザー"の裝甲を叩く。

「殿下とリャカ尉は砲兵陣地まで後退！　手練れが來た、俺がやる！」

「なっ……敵！？　封鎖が突破されたのですか」

「く、行きましょう！　殿下！」

困するシュレーアだったが、はほとんど反的に縦桿を作していた。敵の増援が來たのなら、早く退かねば砲兵隊が危ない。リャカ尉もそれに続く。

「ザコを逃がしましたか。いい判斷デス」

公開回線(オープンチャンネル)で、先ほどの攻撃を仕掛けてきた敵機から通信が飛んでくる。目を向けると、そこに居たのは大型の拳銃を両手に攜えた青いストライカーだった。

「初めましてデスね、"兇星"サン。ワタシはノラ・アルケイド。帝國最高戦力、四天が一人━━」

青い帝國機のコックピットで、グレーのショートカットが嗜的な笑みを浮かべつつ言葉を続ける。

「二つ名は"轟天(ゴウテン)"。ワタシとこの"ザラーヴァ"が、あなたの相手デス」

一騎打ちの口上のようにノラは朗々とした聲でそう言い切り、大型拳銃(ブラスターマグナム)を輝星に向けた。

「さあ、お手並み拝見と行きマスよ！」