《貞観念が逆転した宇宙人の軍隊でエースパイロットの俺だけが唯一男な話【書籍化決定!】》第七十一話 天轟(3)
「俺をッ!」
もうもうと上がる黒煙の中、緑の刃が唸る。飛來した真紅のビームが、まるで野球ボールのように弾き飛ばされた。
「誰だと思っているッ!」
跳ね返されたビームは、まるで逆再生されたように手の元へと返っていった。衝突した右肩部の裝甲が吹き飛び、部の油圧シリンダーがになる、
「こンの……化けがッ!」
だがしかし、"ザラーヴァ"はまだく。ノラも戦意を失ってはいない。彼はフットペダルを踏み込み続け、自らも黒煙の中へと突っ込んでいく。
「最高だな、アンタはッ!」
輝星は心底楽しげにこれを迎え撃った。突き出されたブラスターマグナムの砲口を最小限のきで回避しつつ、フォトンセイバーを真上に投げる。そしてもう一のマグナムを銃剣でいなしてから、予備マガジンをライフルに叩き込む。
「命綱を手放したなッ!」
右足のアンカーを作させながらノラが笑う。煙幕の中とは言え、至近距離ならばおぼろげに姿を捕らえることが出來た。そして彼は訓練でも実戦でも、この手の煙の中で戦闘する機會は極めて多かった。視界のすぐれない中でも的確に戦えるだけの経験がある。
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「喰らえっ!!」
急制によって機のバランスが崩れる。しかしそれこそが彼の狙いだった。遠心力を利用した薙ぎ払うような蹴りが"カリバーン・リヴァイブ"を襲う。
「っと!」
輝星はこれをバックステップでギリギリ回避する。だがノラの攻撃はこれで終わりではない。流れるようなきでマグナムを振るい、発砲。
「速い、だが!」
地面を蹴る輝星。小星の微弱重力を振り切るようなハイジャンプで銃撃を回避しつつ、ワイヤーガンで空中のフォトンセイバーを回収した。
「ちょこまかと!」
自らも飛び上がろうとする気配を見せた"ザラーヴァ"だったが、輝星はそのままスラスターを吹かして地表へと戻る。
「くっ!」
著地の隙を狙おうと反的にマグナムを向けるノラだったが、薄くなってきたスモークの中で輝く緑のビーム刃を目にして思いとどまる。中途半端な撃では牽制にすらならない。
「剣の振れない距離で撃ち殺すッ……!」
フットペダルを蹴り飛ばし急加速した。同時にコンソールのキーを叩き、部グレネードランチャーの発弾をスモークから対裝甲榴弾に変更する。
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「そうこなくちゃあな!」
弾丸のような勢いで薄する"ザラーヴァ"に、輝星はブラスターライフルを撃ち込む。
「"ザラーヴァ"はそのくらいじゃ墜ちないんデスよ!!」
が、ノラはこれを回避しなかった。ビームは"ザラーヴァ"の腹部裝甲に命中し、そのまま弾けて消えた。裝甲表面からは塗料の焼けて白煙が上がっているものの、貫通はしていない。素晴らしい防力だ。
「思い切りが良い! はははっ!」
二目を撃ち込む余裕はない。一瞬にして"カリバーン・リヴァイブ"と"ザラーヴァ"の距離は裝甲の小傷まで視認できそうなほどまった。ノラはマグナムを短剣のように軽快に振る。斬撃の代わりに飛んでくるのはビームだ。
「うっはは、早い早い!」
銃剣を使うにはあまりに間合いが近すぎる。左のマグナムから発されたビームをステップで回避し、さらにほとんど同時に放たれる右のマグナムの銃剣をフォトンセイバーでけて線をそらす。太いビームが裝甲から數十センチほどの空間を通過し、白い塗裝が飛散粒子によって泡立った。
「まだデスよっ!」
ノラの指がトリガーを引く。グレネードだ。だがそれと同時に"カリバーン・リヴァイブ"の頭部に據え付けられた二の機関銃が火を噴いた。"ザラーヴァ"の部で発が起こる。グレネード弾が撃ち落とされたのだ。
「うっ!?」
突如コックピットを襲った激震に、ノラは目を白黒させた。その隙を逃す輝星ではない。フォトンセイバーのグリップを握ったまま、ストレートパンチの要領で拳を突き出す。
「くっ……そ!」
その腕部に裝著された黒りする杭を目にして、ノラは間一髪で機のをずらした。腹部へ當たるはずだったパイルバンカーの狙いはややそれ、左肩の付けへと突き刺さる。
「ああっ!?」
左腕が完全に吹き飛び、ブラスターマグナムを握ったまま宙を舞う。まき散らされた作油が二機の裝甲を汚した。
「でも……捕まえた!」
目の前には腕をばした無防備な"カリバーン・リヴァイブ"が居る。この距離であれば攻撃の回避は極めて難しいはずだ。
「これで終わりデスよッ!」
殘る右手に持ったマグナムを振り下ろす。この距離なら、銃として使うより短剣として使った方が速く攻撃に移れる。
「させるかってのッ!」
しかしこの攻撃も読んでいた輝星はライフルとセイバーを捨て、銃剣を真剣白刃取りにした。大重量の金屬同士がぶつかり合う壯絶な衝撃が僚機のコックピットを襲う。
「ちっ!」
耳を刺す警告音に輝星が舌打ちした。過負荷による油圧系の圧力異常だ。両腕がミシミシと異様な音を立てている。
「片腕のパワーか、これが!」
"ザラーヴァ"の異様な膂力に、"カリバーン・リヴァイブ"は完全に押されていた。回転計はすでにレッドゾーン。エンジンは猛烈なタービン音を奏でているというのに、刃はじりじりとこちらに迫ってくる。パワーに任せてこのまま押し切るつもりなのだろう。
「皇國のポンコツストライカーに乗っているのがアナタの敗因デスよ……ッ!」
「それはどうかな!」
輝星の指がトリガーを引いた。頭部機銃が"ザラーヴァ"のメインカメラを吹き飛ばすと同時に、わざと足の力を抜く。
「なっ!?」
次の瞬間、"ザラーヴァ"は宙を待っていた。投げ飛ばされたと理解したのは、大巖に衝突して機のきが止まってからだ。輝星は即座にワイヤーガンでブラスターライフルを回収し、ノラが回避運に移るより早くその右肩を撃ち抜く。裝甲を失っていた肩部は容易に吹き飛ばされ、右手が明後日の方向へと飛ばされていった。
「両腕とも……くっ! まだ!」
ほとんど反的にグレネードランチャーの発トリガーを引くが、サブモニターに無慈悲な『グレネード使用不能』の赤文字が點燈する。どうやら先ほど迎撃された際にランチャー自が壊れてしまっていたらしい。
「あ……ああっ!」
背中に氷塊をねじ込まれたような覚を覚え、ノラはをこわばらせた。ほとんど無傷の"カリバーン・リヴァイブ"がブラスターライフルの砲口を向けている姿が、彼の眼前のメインモニターには大寫しになっていた。メインカメラが破壊されたせいでその映像は極めて荒いものだが、逆にそれが恐ろしさを増幅させている。
このままでは殺される。そう自覚した瞬間、彼は失した。間に広がる暖かくも気持ちの悪い覚に、ノラは背筋を震わせた。
「……迎えが來たみたいだぜ」
しかし輝星はそういうと、無造作にライフルを下げた。それと同時に、二機の間にランスを構えた黒金のストライカーが降り立つ。
「ノラ特務大尉、大丈夫か?」
「で、殿下」
ヴァレンティナのゼニス、"オルトクラッツァー"だ。ヴァレンティナは油斷なくランスに蔵されたブラスターガンの砲口を輝星に向けつつ続ける。
「將の救出は完了した。任務は完了だ、撤退しよう」
もともと、ノラの任務は輝星の足止めだ。その隙にヴァレンティナたちの部隊を突させ、擱座した"ヴァライザー"の機長を回収する。機長は將のため、皇國の捕虜になると戦爭犯罪者として裁かれる可能があった。なにしろ、帝國は民間人の殺をやらかしているのだ。
「……了解しました」
輝星に撤退を阻止するつもりはないらしく、ライフルは下げたままだ。なんとか腕を使わずに立ち上がり、飛び立つ。ヴァレンティナもそれに続いた。気づけば、周囲に帝國の部隊はいなくなっている。すでに撤退を開始しているようだ。
「くそ……」
小さくなっていく小星をちらりと見ながら、ノラは吐き捨てる。その眼には涙がたまっていた。のすっかり冷えた尿のと、生き殘れてよかったという安堵がないまぜになって彼の神を苛む。こんな屈辱は生まれて初めてだった。
「くそっ! 許さない! 次は殺す!」
大粒の涙をぽろぽろとこぼしつつ、赤いメッシュのったグレーのショートヘアを振りしてノラは大聲でんだ。
「絶対に許さない……!」
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