《貞観念が逆転した宇宙人の軍隊でエースパイロットの俺だけが唯一男な話【書籍化決定!】》第七十八話 廃墟都市強襲(2)

穏やかな波の打ち寄せる海岸に、無數の多腳戦車が転がっていた。どれもこれも完全に破壊されており、いまだ黒煙を上げ続ける機もある。その姿は、まるで浜辺に打ち上げられた蟹の死のようだ。

「上陸急げーっ!」

「ビビってんじゃないわよ! ストライカー程度の攻撃力でこいつの正面裝甲が抜かれるわけがないでしょう!」

そんな中、接岸した皇國の強襲揚陸艦から無數の多腳戦車が吐き出されていく。強固な裝甲と高い火力を併せ持ち、なおかつ四対の腳部と反重力リフターであらゆる地形に対応できる多腳戦車は、陸戦においては欠かすことのできない兵だ。

「作戦の第一段階は終了ですね。これより陸部へ侵攻します」

その様子をちらりと確認しながら、シュレーアが言った。それとほぼ同時に揚陸ポイントの付近で大発が複數起きた。隊列に直撃はしなかったものの、風で多腳戦車がおもちゃのように吹き飛ばされる。著弾地點は輝星たちのいる場所からかなり離れているというのに、衝撃波をけてコックピットがビリビリと震えていた。

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「うわっ、大丈夫か!?」

「し、死んではいないんじゃないかな。このじなら……」

焦った聲のサキに、輝星が冷や汗を浮かべながら答えた。多腳戦車のコックピットには、ストライカーのモノと遜のないスペックの対衝撃機構が備わっている。

「機砲の長距離撃だな。要塞砲ならもっと早く撃ってるはず」

強襲揚陸艦の砲塔が音もなくき、猛烈なマズルフラッシュとともに反撃が開始される。しかし対砲兵レーダーで敵のだいたいの位置は把握しているだろうに、帝國の砲撃はなかなか途切れない。

「これでは揚陸どころではありません! つぶしに行きますよ!」

「はいよ」

ちらりと推進剤の殘量を確認してから、輝星は頷いた。ジェットアーマーのおかげでまだまだ推進剤には余裕がある。スラスターを吹かしながら砲撃地點を目指して三機は飛んでいく。その後ろには"クレイモア"の部隊も続いていた。

「姫様が自ら一番槍?」

「流石ね、ウチの殿下は」

無線に流れる雑多な聲からそんな言葉を聞き取り、シュレーアは頬を緩めた。象徴としての仕事は、今のところうまくいっているようだ。

「向こうの迎撃が來るぞ、戦闘用意!」

シュレーアの一瞬ゆるんだ気分を咎めるようなタイミングで輝星がんだ。シュレーアは慌てて縦桿を握りなおし、レーダーを確認する。しかし、それらしき機影は表示されていない。

「俺に伏兵が通用するかよッ!」

言うなり、輝星はブラスターライフルをぶっ放した。そのビームは廃墟のから飛び出してきた"ジェッタ"に直撃し、そのまま撃墜する。

「偽裝はカンペキだったのに! どうして攻撃タイミングが!?」

「構わん! 押しつぶせ!」

奇襲の出鼻をくじかれたことに面食らいつつも、帝國の伏兵がわらわらとあちこちから現れて攻撃を始める。"ジェッタ"が中心の部隊だが、大型のメガブラスターライフルを構えた重量級のストライカーも混ざっていた。

「"ウィル"だ! 裝甲が厚いぞ、気をつけろ!」

そうんだ"クレイモア"に、當の重ストライカー"ウィル"がメガブラスターライフルを向けた。通常のライフルよりずいぶんと大きな方向から、真紅のビームが発される。

「まず……ッ!」

死を覚悟する"クレイモア"のパイロットだが、直撃する寸前に輝星の放ったブラスターライフルがビームを撃ち落とす。亜速の粒子ビームを迎撃する神業にパイロットが嘆するより早く、輝星はさらにブラスターを撃ち"ウィル"のエンジンを貫いた。

「あ、あたし神様信じる」

神聖なものでも見るような目を"カリバーン・リヴァイブ"に向ける"クレイモア"のパイロットだったが、當の輝星はすでに助けた相手のことなど頭から吹っ飛んでいる。

「重裝甲とはいっても、8.5Mw級なら貫通できるか。前のあいつほど厄介じゃない」

先日戦った"ザラーヴァ"の堅牢ぶりを思い出し、輝星はぼそりと呟いた。そして地面を蹴り、マシンガンの撃を回避する。周囲はすでに帝國部隊により囲まれていた。十字砲火狀態だ。複數の"ジェッタ"がやや大ぶりなミドルマシンガンを撃ち散らし、"カリバーン・リヴァイブ"を狙っている。

「この音、大口徑のマシンガンか。星軍の裝備だ」

普段よく見るショートマシンガンとは違い、ミドルマシンガンの砲聲は腹に響くような重い音だ。

「地上戦に慣れた連中ってことか。被害が増える前に俺がやんなきゃなッ!」

対するこちらは宇宙軍の部隊だ。陸戦における練度は向こうの方が上だと考えていい。輝星は前に出ることに決め、フォトンセイバーを抜くと同時にフットペダルを踏み込んだ。

「ゼニスがこっちに來るわ! 援護を!」

「援護ったって!」

セイバーで砲弾を叩き落しながら急迫する"カリバーン・リヴァイブ"に、帝國兵が切羽詰まった聲を上げる。

「あんなのどうしろと!」

「いやーっ! 來ないでッ!」

逃げようとした"ジェッタ"の腹をパイルバンカーで背中から穿ちつつ、さらに輝星はブラスターライフルも発。ほぼ同時に二機を撃墜した。

「こいつ、"兇星"よ!」

「じょ、冗談じゃ……うわーっ!」

輝星に向けてマシンガンをしていた"ジェッタ"に、"ミストルティン"の砲撃が突き刺さった。コックピットでシュレーアがにやりと笑う。

「私を忘れてもらっては困りますよっ!」

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