「第七階層突破されました！」

「防衛システムの四十パーセントが奪取されました。隔壁作しません！」

「なにやってんのよ、もうっ！」

輝星たちの快進撃の裏側では、帝國の要塞司令が額に青筋を浮かべて部下たちを叱責していた。司令と言っても、まだ十代前半のだ。なにはともあれ一騎打ちを求められるヴルド人の將は、年若い上位貴族が務めることも多い。

「防衛隊はどうなってるの？　向こうも大した數じゃないのよ、防衛有利のはずのこっちが押されてるなんておかしいじゃない！」

「そ、それが……」

金髪ツインテールを振りしながら怒りを振りまく司令に、部下が言いづらそうに答えた。

「敵にあの"兇星"が居るという話が広まっていまして、士気がひどい有様で……平民の部隊など、戦する前から降伏する者すら出ている模様です」

「やーくーたーたーずー！！」

司令は地団太を踏んだ。參謀が何とも言えない表で彼を見るが、文句は言わなかった。気分としては同だったからだ。

「だから平民なんか嫌いなのよ！」

彼はそう言うが、それは仕方のない事だろう。防衛戦爭ならまだしも、侵略戦爭では平民の兵士がやる気を出す意味はあまりない。組織にも國家にも著のない彼らは給料分しか働かないし、旗が悪くなればすぐに降伏する。もともと士気も練度も期待できないのが、ヴルド人の平民部隊というものだ。それでも、數を揃えればそれなりに使えなくもないのだが……。

「第一、第二地下港のゲートが破されました！　海側から皇國の工作部隊が侵していた模様！」

「え、な、なんで！？　地下港は新造なのよ！？　皇國がゲートの場所を知ってるはずがないじゃない！」

地下要塞には、海へとつながった大規模な港が整備されていた。地上戦が発生した際にかに潛水艦や宇宙艦の整備や補給を行い、そして要塞陥落時の出経路として利用するためだ。當然その出り口は最大級の機であるはずなのだが……。

「おおかた、降伏した部隊がらしたのでしょうな……」

古老然とした容姿の參謀がボソリと呟く。

「なんでこう、わたしの部下には無能しかいないのよっ！」

司令がびつつ、頭をガリガリと掻きむしった時だった。突然指令室にアラートが鳴り響く。

「通信がジャックされました！」

オペレーターが迫した聲で報告する。司令が叱責の聲を上げるが、すでに手遅れだ。指令室のメインモニターが明滅し、シュレーアの顔が表示される。

「おほん……帝國の皆様、聞こえていますか？」

「あーあー聞こえなーい！」

「聞こえております」

司令はそっぽをむいてんだが、気まずそうな表で老參謀がシュレーアに答えた。

「シュレーア・ハインレッタ殿下ですな？　用件は……まあ、降伏勧告でしょうな」

「話が早くて助かります」

シュレーアはそういってにっこりと笑う。

「我々は要塞最深部まで到達しました。あとは陸戦隊を突っ込ませるだけで、そちらの指令室を制圧できます。ですが、お互い余計なは流したくないでしょう？」

ストライカーならばコックピットを傷つけずに制圧することができるが、生での戦闘ではそうはいかない。まして戦場が閉所ともなれば、大勢の死者が出てもおかしくない。

「今のうちに降伏するならば、將も兵も末には扱いません。捕虜として淑的に扱いましょう。いかがです？」

「ふん、わたしは次期ミスラ侯爵なのよっ！　そう簡単に降伏なんてけない真似なんかできるわけないじゃない！」

「その通り」

司令の言葉に、老參謀が頷く。周囲の幕僚の反応はそれぞれだ。これから起こる慘劇を予想し顔を青くするものもいれば、司令に同調して気炎を揚げるものもいる。シュレーアが口をへの字にして唸った。

「……致し方ありませんね。では」

「待たれよ」

通信を切ろうとしたシュレーアを、老參謀が止める。

「しかし、無駄な人死にを減らすのも將の役目。要するに、名譽が守られれば良いのです。そうでしょう？　司令」

「えっ？　そ、そうね？」

何のことやらわからないといった様子で、司令はまじまじと老參謀を見た。そのしわくちゃの老婆は、悪戯っぽい微笑を浮かべながら司令の視線を正面からけ止める。

「大將どうしの一騎打ちを行いましょう。勝っても負けても我らが司令殿の名譽は守られます」

「ま、待って？　わたし將なんだけど？」

「それは言葉のアヤですぞ、司令」

アホの子を見る表を一瞬浮かべた後、老參謀はシュレーアの方へ視線を戻した。

「そちらが勝てば、我々は潔く降伏いたしましょう。そしてこちらが勝てば、佐以上のものの出は見逃していただく。如何かな？」

「ふむ。まあ、そう來るとは思っていました」

こんな狀況で一騎打ちを仕掛けてこない司令など、貴族としては失格だ。優勢な側であるシュレーアとしてはあえてける必要もないのだが、ここで勝てば味方の士気が上がることは間違いない。

「先に言っておきますが、代理人はナシですぞ。皇族ともあろうものが、傭兵なぞの後ろに隠れるような真似はいたしますまい？」

「無論です」

せっかくなのだからしっかりと一騎打ちに勝利して、輝星に格好いいところを見せたい。シュレーアはニヤリと笑って頷いた。

「か、勝手に話を進めないでよっ！」

「將の義務ですぞ！　逃げることはまかりなりませぬ！」

老參謀の剣幕に、思わず司令は一歩下がった。

「べ、別にしないとは言ってないでしょ！」

「結構。では、場所は第一地下港で。あそこならば、ストライカーでも十全に飛び回れましょうや」

視線で老參謀が通信オペレーターに指示を出す。シュレーアの方へ要塞のマップデータが送信された。

「ふむ、すぐ近くですね。いいでしょう」

出経路としても使われる都合上、第一地下港は指令室から徒歩で向かえる位置に設けられていた。皇國側のマップと送られてきたマップを見比べて罠がないか確かめつつ、シュレーアは頷くのだった。