《貞観念が逆転した宇宙人の軍隊でエースパイロットの俺だけが唯一男な話【書籍化決定!】》第八十八話 寢起きと盜撮者

"カリバーン・リヴァイブ"のコックピットで、輝星が寢ていた。シートを限界まで倒し、掛布団代わりにいつものフライトジャケットをかぶっている。整備デッキは工の作音や整備員たちの聲で騒がしいものの、すやすやと穏やかな寢息を立てて安眠している様子だった。

「……」

コックピットハッチの向こう側から、機付長がひょこりと顔を出した。彼はぐっすりと寢ている輝星の顔を見て「おお……」と小さく聲をらし、懐から出した小さなカメラのレンズを向けた。

「ちょっとくらい……ちょっとくらい撮ってもいいよね……?」

震える指で、シャッターのスイッチを押す。カシャリという微かな音がコックピットに響くと同時に、突然大きな聲が機付長の背後からかけられた。

「おーい、北斗ー!」

「うわーっ!」

驚きのあまり機付長はしりもちをつき、整備用クレーンのバスケットに後頭部を強打した。

「痛ァ!」

「な、何やってんだよ」

"カリバーン・リヴァイブ"の足元で聲の主……サキが呆れた表を浮かべている。機付長はカメラを懐に隠しつつ、ヨタヨタと立ち上がって頭を掻いた。

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「いやあ、ははは」

「……まあいいや。北斗、そこに居るんだろ?」

「ええと」

コックピットの中をちらりと確認すると、輝星はまだ目をつむったままだ。かなりの大騒ぎをしたというのに目覚めもしないあたり、眠りの深さが伺われる。機付長はほっとでおろした。

「お休みみたいです」

「こんな時間に晝寢かよ。もうすぐ晩飯だぞ」

「疲れてるんじゃないですかね?」

「ここしばらく何もやってねえからな、あたしら。疲れるもクソもねえよ……すまないが、起こしてやってくれ」

「はいはい」

改めてコックピットに侵した機付長は、もう一度輝星の顔をまじまじと見た。

「こういうのも、役得なのかね」

サキに怪しまれない程度に寢顔を堪能してから、彼は輝星の肩を揺すった。

「起きてください、もう夕方ですよ!」

「……ん? あ、おはよう……」

まもなく目を覚ました輝星は、目をゴシゴシとってから大きくびをした。それからあくびをして、機付長をまじまじと見る。機付長は照れた様子でそっぽを向いた。

「夜間照明になってる? 今何時です?」

「六時半です。現地時間で」

「うわ、三時間も寢たのか」

げんなりとした表で、輝星はため息を吐いた。本來、一時間ほどで起きるつもりだったのだ。

「牧島中尉が呼んでますよ?」

「えっ、本當? 不味いな……」

慌てて輝星はコックピットから飛び出し、クレーンを作して床へ降りた。出迎えたサキは、何とも言えない表だ。

「こんな時間まで寢てたら夜寢られなくなるぞ、オマエ」

「姉さんみたいなこと言うね」

「うるせえ」

サキがベシベシと輝星の頭を叩いた。もっとも、その手付きは優しく叩くというよりはほとんどでるような作に近い。

「しかし、悪いね。もしかして滅茶苦茶待たせた?」

當然だが、いまだに輝星には艦を一人でうろつく許可は出ていない。今回はサキが護衛について來てくれていた。一応、仮眠を取る前に一聲かけていたのだが……。

「いや、それはいい。あたしも護衛はソイツに任せて、自分の用事をしてたんだ」

サキはちらりと機付長の方を見た。

「ま、ずっと"カリバーン・リヴァイブ"に張り付いてる訳ですからね。不埒な輩は近づけさせませんよ」

機付長はを張って答えた。自分がその"不埒な輩"になっていた事実はおくびにも出さない。

「あ、そうなんだ。ありがとうございます」

機付長にペコリと頭を下げた輝星は、サキに視線を戻した。なんとなく、機嫌がよさそうな表をしている。ふと興味を惹かれて、聞いてみた。

「……ちなみに、用事って何?」

「"ダインスレイフ"を磨いてたんだ。もうピッカピカだぜ? 後で見てみろよ」

「お、いいねえ。俺も一回、こいつを洗ってやらにゃ……」

背後の"カリバーン・リヴァイブ"を振り返って見る輝星。もちろん、帰還毎に整備員たちによって十分な洗浄はされているので汚れているわけではない。それでも細かい部分に汚れはたまっていくし、機が綺麗になるのは気分がいいものだ。

「やめとけやめとけ、お前がやったら裝甲の上でスッ転びそうだ。手が空いた時にあたしがやってやる」

「あ、手伝いますよ。この頃出撃もありませんし、手は空いてるんです」

「お、悪いね」

サキと機付長は一瞬目を合わせ、笑いあった。そしてふと表を改め、輝星に顔を向ける。

「そういや、聞いたか?」

「何を?」

「今日の晩飯の獻立。また牛丼だってよ」

「ええ……」

その言葉に、輝星は渋い表になった。資が欠乏気味なこともあり、この頃の食事のメニューは極めて単調なものになっている。食べられるだけ有難いというものだが、そうはいってもやはり飽きも出てくるのは仕方がない。

「また牛丼? 晝も朝も牛丼だったじゃないか」

「ついでに言えば昨日も三食牛丼でしたね」

がすぐれないのは機付長も同じだ。安くて腹に溜まる牛丼は軍人の食事としては一番ポピュラーなものだが、だからと言って毎日出てくるのはやりすぎだ。

「流石にカンベンだろ? 六食連続なんてさ。だから考えたんだよ」

「何を?」

「要するに、味いメシを隠し持ってそうなヤツにタカればいいんだ。というわけで、あの捕虜の貴族サマの所へ行くぞ」

悪そうな顔で、サキはそう言い切った。

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