弾丸のように飛び込んできた"ガイスト・ケンプファー"のトンファーを、フォトンセイバーでけ流す。しかし當然、同時に副碗も襲い掛かってくる。白燈のをうけてギラリと妖しく輝くカギ爪に、輝星は即座に頭部機銃を撃ち込んだ。

「……左副碗破損」

12.7mmの豆鉄砲でも、ブラスターの砲口に飛び込めば部構造は滅茶苦茶になる。裝填されていた粒子ごと薬室が吹き飛び、左の副碗が小発を起こした。アイアンネイルがびくりと痙攣し、そのままかなくなる。

「損害軽微。戦闘続行可能……」

しかし、不意打ちをけたというのに無線から聞こえてくる聲はコンピューターじみて冷靜だ。両手のトンファーを同時に突き出し、竜巻じみた回転攻撃を繰り出す。

「ムッ！」

"ザラーヴァ"を超える膂力を有する"ガイスト・シリーズ"だ。直撃をければ、前機より大幅に裝甲が強化された"エクス＝カリバーン"とて、ただでは済まないだろう。輝星は即座にバックステップで後退する。

「支援撃開始」

そこへ、"ガイスト・イェーガー"のオルガン砲掃が襲い掛かった。いくら輝星でも、合計十六門の重機関砲の猛撃をセイバーで弾くのは不可能だ。彼は歯を食いしばりつつ、スロットルを全開にする。メインスラスターの噴炎が強化コンクリートの路面を焦がし、純白のストライカーはなんとか敵の線から逃れた。

「ひえ」

目と鼻の先で砕される強化コンクリートを見て、ディアローズがけない聲を上げた。破壊というよりは崩壊という表現が近いほどの、強烈な景だ。50mm八連裝オルガン砲の破壊力は、兵を名乗るにはあまりにもオーバーキル過ぎる。

「我が！　回避を！」

しかし、オルガン砲を避けたからと言って、輝星の難が終わったわけではなかった。弾けるようなヴァレンティナの聲が耳朶を叩くのとほぼ同時に、屋で撃ってはいけない出力の極太ビームが"エクス＝カリバーン"に向かって走る。

「こ……のォッ！」

路面を蹴り、ギリギリのところでビームを回避した。外れたビームは裝甲ドームを直撃し、戦艦砲の直撃にすら耐えるその裝甲板を赤熱させる。

「集中砲火をけておるではないか！　愚妹とアホ皇は何をしておるのだ！！」

「すみませぇぇん！」

「誰が愚妹だ！」

非難の聲を上げるディアローズだが、シュレーアは"ガイスト・フェヒター"を押さえるのでいっぱいだし、ヴァレンティナも輝星を援護しようとしつつも"イェーガー"や"ケンプファー"が副碗の速ブラスター砲で牽制しているため、満足にくことが出來ないのだ。

速度、パワー、火力……そして副碗による手數の多さ。輝星はまだしも、シュレーアらには明らかに手に余る強敵だった。輝星の脳の一番冷靜な部分が、退いた方が良いのではないかと訴えかけてくる。

「そういう訳にはいかないんだよな……ッ！　これがッ！」

しかし、彼は即座にその考えを打ち消し、闘志を燃やす。ここで皇帝を取り逃がせば、間違いなく彼は本國に帰還し皇國への再侵攻計畫を立てるだろう。軍の被害は甚大だが、帝國の國力をもってすれば艦隊の再建も十分可能だろう。

二度目の侵攻を押し返す力は、皇國軍にはない。資も戦費もとうに盡きかけており、戦力の再整備は極めて難しいのだ。皇國の勝ち筋は、ここで皇帝を捕らえること以外に存在していない。撤退などという選択肢は論外だった。

「一機、一機墜とせばマシになる……！」

輝星はそう呟きながら、戦場を観察した。"ガイスト・アルテレリー"は粒子カートリッジの再裝填をしている。"ケンプファー"は"イェーガー"の援護撃をけつつ、再びこちらへ接近してきていた。唯一、"フェヒター"だけがシュレーアからの猛をけて回避するだけで一杯になっていた。

「ヴァレンティナ！　シュレーアの方を援護してくれ！」

「何？　……いや、分かった」

素早く狀況判斷し、輝星は言った。一瞬逡巡するヴァレンティナだったが、すぐに頷いて踵を返した。輝星に中途半端な支援を寄越すくらいならば、シュレーアと協力してまず一機を仕留めてしまった方が良いという判斷だ。

それを確認した彼はニヤリと笑い、スラスターを吹かしてマスドライバーのレールを盾にするように回り込んだ。案の定、マスドライバーを守りたい"イェーガー"は撃を止める。代わりに、素早く"ケンプファー"が懐に飛び込んでくる。

「逃がさない」

「誰が逃げたって？」

トンファーが"エクス＝カリバーン"の裝甲を叩く寸前に、輝星は路面を蹴って真上に飛び上がった。それと同時に、背中に懸架したままの対艦ガンランチャーを発砲する。真下に向かって飛ぶ大型ミサイルに、"ガイスト・ケンプファー"はを反らしてそれを回避した。空を切ったミサイルは、そのまま路面に著弾して発を起こす。

「ご主人様！」

「わかってる！」

有効打になっていないことは明らかだ。煙幕めいて視界を遮る炎の中に、輝星はメガブラスターライフルを連続で撃ち込んだ。煙の中で、スラスター炎が瞬く。避けられたと直するのと同時に、速ブラスター砲の応が返ってきた。

マスドライバーのレールを蹴って急ターンし、これを回避する輝星。そこへ、再び"ケンプファー"が突っ込んできた。見る限り、対艦ガンランチャーやメガブラスターライフルによる損傷は負っていないようだ。

「シュレーア！」

輝星はびながらスラスターを吹かし、高度を上げた。あっという間に、マスドライバーを跳び越す。"ガイスト・イェーガー"と"アルテレリー"の三つ目がギラリとり、その砲口がこちらを向く。そしてさらに、"ケンプファー"も輝星を追いかけてきた。三機に直接狙われる、絶絶命の狀況である。後部座席で、ディアローズがひっと息をのんだ。

しかし、輝星は笑みを深くする。そして軽く息を吸い込み、言った。

「俺を撃て！」