「……やっと尾を摑みましたね」

皇帝専用機のものと思わしき噴ガスの痕跡を発見したのは、それから十分ほど経ってからだった。比較的早期に見つけられたように見えるが、真空中では噴ガスなどあっという間に観測不能なほどに拡散してしまう。探している方からすれば、十分が一時間に思えるほどの張があった。

「ガスの拡散合からみて、ここを何かが通過したのはそう前の話じゃないな」

スペクトル・センサーの算出したデータを見つつ、ヴァレンティナが顎をでた。本來は大気組などをチェックするための裝備だが、こう言った使い方にも応用できるのだ。

とはいえ、流石に推進剤の細かい分を分析できるほどの能力はない。この噴ガスがストライカーから放出されたものなのか、はたまた小型艇から出たものなのかは、流石に分からないということだ。だが、この宙域はすでに救難部隊も撤退済みであり、真新しいガスとなれば皇帝のものとみて間違いないだろう。

「……とりあえずは、追跡してみますか」

こうしている間にも、ガスはどんどん拡散を続けている。無駄な時間を浪費している余裕はなかった。せっかく発見した痕跡だ。最大限有効活用しなくてはならない。

「十分注意して進むのだぞ。ここまでは上手くいったが、皇帝も無能なではない。隙を見せれば、逆襲されるやもしれぬ」

単なる無能が並み居る姉妹たちを出し抜いて皇帝の座に収まることが出來るはずもない。これまでの快進撃は、向こうの報不足と慢心に付け込んだからこそできたことだ。この期に及んでは油斷など期待できるするだけ無駄である。むしろ、こちらが慢心すればそれに付け込まれることも十分にあり得る。

「勿論です」

シュレーアは頷き、スロットルをしだけ押し込んだ。緩い噴炎の尾を曳きつつ、"ミストルティン"が加速する。輝星らも、それに続いた。

一行は、暗礁宙域を慎重に進んでいく。噴ガスの痕跡は、バラバラになった駆逐艦や戦艦の主砲塔と思われる巨大な鉄塊などのデブリをうようにして続いていた。縦を誤れば、即座にデブリに衝突しかねない危険なルートだ。

「これは……わざわざ危ない場所を通っているように見えるな」

浮遊する大小さまざまなデブリ群を避けつつ、輝星がいた。デブリの中には椅子やベッドなどの家などはもちろん、ヘアブラシ・ペンなどの日用品まで混ざっている。大はともかくこうした小さなモノは回避しきれないため、たびたび裝甲板に衝突して耳障りな音を立てていた。

おそらく、破壊された艦艇の中かられ出したものだろう。生きた(・・・)艦艇はエアシールドの働きにより外殻にが開いても部の空気はれ出さないが、エンジンが停止すればその機能も失われる。

「向こうも追跡されていることは理解しているだろうからね。こちらを撒(ま)こうとしているのではないかな？」

「ライドブースターがしいだけなら、おとなしく損傷のない艦を探していればいいわけですからね」

探索だけが目的ならば、デブリ濃度の高い場所を選んで進む必要はない。見晴らしのいいところでレーダーや熱源センサーを使った方が、よほど早く目當てのを見つけられるはずだ。

「それもあるだろうが……しかし、それだけだろうか？　妙に、嫌な予がするのだが……」

ディアローズがそうつぶやいた時だった。"ミストルティン"の肩に、極細のワイヤーが引っかかった。その瞬間、付近を漂っていた駆逐艦の殘骸が大発を起こす。バラバラになった裝甲の破片が、散弾のようにこちらへ降り注いでくる。

「うわっ！？」

悲鳴を上げつつも、シュレーアの行は迅速だった。後ろにいた"エクス＝カリバーン"に抱き著き、輝星の盾となる。"ミストルティン"の背中に、いくつもの裝甲片が衝突した。スラスターの一部が破損し、気化した推進剤が噴出する。

「大丈夫？」

れ合った裝甲を通じて聞こえてくる破滅的な金屬音に、輝星は慌てた聲を上げた。破片のスピードは下手な弾丸よりも速い。ストライカーとはいえ、直撃をければタダではすまないだろう。

「"ミストルティン"は伊達ではありません！」

ドヤ顔になっていることがはっきりとわかるシュレーアの聲音に、輝星はをでおろした。しかし、輝星らを囲む大型のデブリのあちこちでさらなる発が起こっている。このままでは滅多打ちだ。

「あそこへ逃げ込もう！」

防姿勢を取ったヴァレンティナヴァレンティナが指さすのは、戦艦から剝離したものと思わしき大型の裝甲板だった。ストライカー三機がを隠すには、十分な大きさである。

「ちょうど良い所に……！」

戦艦の裝甲ならば、々の攻撃ではびくともしない。を隠すにはぴったりだろう、輝星を抱え込んだまま、シュレーアは生き殘ったスラスターを吹かして裝甲板へと向かった。ヴァレンティナも、後方を警戒しつつそれに続く。

「お、おい！　止めぬか！　迂闊なことをすれば……」

はっとなったディアローズが警告の聲を上げたが、もう遅い。輝星らが裝甲板の裏手に回り込んだ瞬間、そこに仕掛けられていた弾が発した。戦艦の主砲弾を改造した、即席弾だ。辺り一面を、真紅の炎が覆う……