皇帝専用機、"ラー・グルム"は、ひどく大柄な機だ。一般的なストライカー全高はおおむね十二メートル前後であるにもかかわらず、"ラー・グルム"は十五メートル近い巨軀を誇る。サイズとしてはごく一般的な"エクス＝カリバーン"を駆るディアローズから見れば、巨人を相手にしているような威圧がある。

「ちぃっ！」

メガブラスターライフルの撃を回避しつつ、ディアローズは応をかける。大出力ビームが漆黒の宇宙を切り裂いて飛んだが、"ラー・グルム"が回避するまでもなく火箭は明後日の方向へ飛び去った。しっかりロックオンして発砲したとは思えない外れっぷりだ。

「ずいぶんと下手くそな撃だなあ？　まったく、我が胎から出て來たとは思えぬ無様さよ！」

「ぬう……っ！」

見えいた挑発だが、ディアローズには効果てきめんだった。顔を真っ赤にして怒鳴り返そうとしたが、ふと輝星の黒い頭が視界にる。彼はいまだに意識を取り戻していないようで、シートにぐったりとを預けていた。

今、輝星を守れるのは自分だけだ。そう思うと、自然と頭に昇っていたが降りてくる。ディアローズは深く息を吸って、ゆっくりと吐き出した。

「……ロックオン頼りの撃に、技量が関係するはずがなかろう！　大方、撃(FC)レーダーでも誤魔化しておるのだろうが……！」

コンソールのタッチパネルを叩き、撃関係の設定をいじる。的に言えば、撃前の測距をレーダー式からレーザー式へと切り替えたのだ。撃度はやや下がるが、これならばそう簡単には誤魔化されない。

そのままトリガーを引くと、今度はしっかりと狙った位置へビームが飛んでいく。やや慌てた様子で、"ラー・グルム"がをひるがえした。

「やはりな！　汚い手を使ってくれる……皇帝がこんな卑劣なことをして、恥ずかしくはないのか！」

「貴様にだけは恥ずかしいだのなんだのは言われたくないわッ！！」

自分の癡態を大勢に大公開することに比べれば、この程度のことの何が恥ずかしいというのか。皇帝は聲を大にして主張したい気分になった。

「どっちもどっちですよね？」

「腐ってもわたしの親なのだから、二人ともしは自重していただきたい！　こちらが恥ずかしくなってくる！」

「なんだとぉ……！」

外野から飛んできた罵聲に皇帝が反応したのだから、もうめちゃくちゃだ。ディアローズは苦い表で息を吐いた。

気勢は削がれてしまったが、とにかくディアローズ一人で皇帝を倒さねばならないという狀況に変化はない。飛んできたビームをデブリを盾にすることで防ぎつつ、かのじょは思案する。

「安易な白兵は避けた方が良いな。パワーは向こうの方が上だ……」

"ラー・グルム"も伊達や見栄で大型に設計されたわけではないだろう。當然、その巨軀に見合った膂力は持ち合わせているはずだ。パワーの差をひっくり返して勝利できると考えるほど、ディアローズは自分の剣の腕に自信が持てなかった。

ならばどうするか。一瞬だけ思案して、ディアローズは腳部にマウントされていた対艦ガンランチャーの予備弾倉を引っ張り出した。片手で持つにはやや巨大なそれを、隠れているデブリの隙間へと押し込む。

「逃げても無駄だ！」

そこへ、"ラー・グルム"が回り込んでビームを撃ち込んできた。即座にデブリを蹴って線から逃れた。

「ちょこまかと避けているだけではじり貧だぞ？　ン？」

毒の籠った聲音で皇帝は嘲笑する。安い挑発だ。ニヤリと笑って、ディアローズは言い返してやる。

「撃戦が苦手なら、貴様の得意(・・)なレンジで戦ってやろう！」

ぶなり、皇帝は腰から剣を抜いた。片手剣だが、なにしろ機が大きいのでシュレーアの使うツヴァイハンダーと遜ないほど刀は長い。その巨大剣を構えるなり、"ラー・グルム"はスラスターを全開にして突っ込んでくる。

スラスターの噴炎は、とんでもない推力を生み出していることが一目でわかるほどの異様な巨大さだ。加速は鋭く、大型機ゆえの鈍重さなど微塵もじさせない。

「何が得意なレンジだ……！」

きつつメガブラスターライフルで牽制撃を試みるが、機を巧みにる皇帝はビームをひらひらと回避してしまう。もはや撃による阻止は不可能だと悟ったディアローズは、即座にライフルを捨てて左手でフォトンセイバーを抜く。五人目のクローン兵の攻撃で、右腕はかせない狀態になっている。なんとか片腕でしのぐほかないのだ。

「ぬうううーっ！？」

弾丸のような勢いで飛び込んできた"ラー・グルム"による大上段からの振り下ろしを、なんとかフォトンセイバーでけ止めるディアローズ。ビーム刃が一瞬目に見えてたわみ、そしてそれがもとに戻ろうとする反発力で機が吹っ飛ばされた。円筒狀のグリップがスパークしたかと思うと、小発をおこしてビームの発振が止まる。

「冗談ではない……！」

このセイバーは、カワシマ・アイアンワークスの製品の中でも最もハイエンドなモデルである。四天機や皇族専用機が相手であっても、十分に渡り合えるだけの能がある。それが一撃をけただけで破壊されるなど、尋常ではない。

全の姿勢制スラスターを吹かしてなんとか態勢を整えつつ、ディアローズは役立たずになったグリップを投げ捨て、二本目のセイバーを抜く。

「ハハハハ……！　なんたる無様か！」

哄笑をあげつつも、皇帝は再度の突撃をかけ始めた。ディアローズの額に冷や汗が浮かぶ……。