《人類最後の発明品は超知能AGIでした》04.もうひとつのプロジェクト

翌日から俺たちは予定通り、スサノオにいくつかの課題を與えた。

自社の製品やソフトウェアの開発。株取引。新薬の研究。

各分野で、その作業をこなせるだけのモジュールを、スサノオに設計させた。

それを取り出し利用するだけで、信じられないほど効率的に果を上げることが出來た。

スサノオの能力を検証した結果は上々だった。

いや、上々すぎたというべきか。

どの分野でも著々と足場を築き、利益をあげていくスサノオを俺たちはフォローし続けた。

はじめは単調なAIシステムを設計するように、機能を最適化していた。

しかし範囲を限定せずに開発をゆだねると、スサノオは自らのハード的な設計も行うようになった。

彼はどこまでも自を進化させる気らしい。

俺たちはスサノオを使っているようで、使われているのじゃないか。

自らを改良し続けるAIに、メンバー誰しもが畏怖のようなものをじていた。

スサノオが超知能を持っていることは明らかだった。

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夢にまで見た汎用AI――AGIであると、その場にいる誰もが思っていた。

だが俺だけは、スサノオが真のAGIであるかどうか、疑わしいとじていた。

何故なら、汎用人工知能であるAGIには「意識」が不可欠だからだ。

スサノオは俺たちが想像だに出來ないことを、瞬時にやり遂げるだけの知能がある。

ネット上の百科事典の全文を、數十分で読み盡くすほどのデータ収集能力もある。

それを効率良く利用するソフトウェアを設計する技も。

しかしそこにはない。

スサノオはどれほどに高度な処理を行おうと、俺に向かってユーモアたっぷりの皮を言うことはないのだ。

スサノオを起してから3週間が経とうとしていた。

畫面に吐き出されるアルゴリズムを眺めていて、ふと、うすら寒い予がよぎった。

あの日、最高責任者の言葉を聞いたときから抱いていた恐怖だ。

もし、この超知能を利用する人間が邪な考えを持っていたのなら。

もし。

このAGI自が芽生え、邪な考えを持つようになったのなら――。

意識のないスサノオに「邪な考え」が芽生えるなど、考えること自がおかしいのかもしれない。

機械は與えられた目標に沿ってく。

を起こすなど、あり得ない。

そうは思っても、畫面を見ていると冷えた汗が背中を伝った。

スサノオの知的活に、知がともなっているのはもう疑いようがない事実だった。

ならそこにが宿らないと、誰が言い切れるだろう。

人間のために働くという目標が、スサノオ自の目標でなくなった時。

このAIは、驚異になるのではないだろうか。

「所長」

デスクの椅子に深く沈んでいる、所長に聲をかけた。

疲れた顔だ。全員そうだ。人類の命運を左右する偉業に関わっていると思えば無理もない。

「プロジェクト・アルテミスを、始させてください」

所長は俺を、しの間無言で見ていた。

「……そろそろ言い出すだろうと思っていたが。おとぎ話を、本當に信じているのか?」

「はい」

「スサノオはインターネットに接続しない限り安全だろう」

俺たちが最も恐れること。

それはスサノオの走に他ならない。

AGIの行を人間が正確に予測することはできない。

俺たちの想像もつかない次元で、スサノオはいている。

完璧なコントロール下に置こうとするのは、3歳児が人した研究者を支配するようなものだ。

AGI自らが必要と判斷し、外の世界へ出ようとすれば俺たちに防ぐ手立てはない。

だから俺たちは、あらゆる手段を使って理的にスサノオを閉じ込めておかねばならなかった。

インターネットから完全に遮斷した世界で運用しているのもそのためだ。

「どれほどんでも人が生のまま海中で暮らせないように、スサノオがここから逃げ出すことは出來ない」

所長は考えが読めない語調で言った。

「萬が一に備えてです。このままスサノオを走らせておくのは恐ろしいんです。アルテミスの予算はスサノオが稼いだ利益で賄えます。フェーズ1の深層學習は完了していますし、スサノオと同じく次の段階に進みたいんです」

俺の訴えに、所長は小さく溜息を吐いた。

「……任せる。やってみるといい。だが私たちのプロジェクトはあくまでプロメテウスだ。スサノオから目を離すなよ」

「ありがとうございます!」

深々と頭を下げると、マシンルームへと戻った。

仲間のふたりが代でスサノオの向を見守っている。その橫を通り過ぎてさらに奧へと向かった。

小さな部屋のドアを開け、後ろ手に閉める。

4畳ほどの空間に、コンピュータクラスターの白い筐が並んでいた。

最高責任者と同じように、俺にも子供の頃からの夢があった。

それは――。

「……おとぎ話でも、夢語でもいい。アスカ、お前が俺の希だ」

明なケースの中に回るファンを、祈るような気持ちで見つめた。

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