《【書籍二巻6月10日発売‼】お前のような初心者がいるか! 不遇職『召喚師』なのにラスボスと言われているそうです【Web版】》第181話 約束された勝利者

き出す江良P。

「あああもうっ! どうなってるのよぉ!!」

神永タワー。ジェネシスオメガオンライン運営のオフィスに苛立った聲が響いた。

タッグデュエルトーナメントを乗っ取ったプロデューサーの江良は悔しそうに椅子をガチャガチャ揺らす。

『弱すぎるな。ゲーマーを舐め過ぎだ』

爪を噛む江良Pの脳裏に、神永総帥から言われた言葉が蘇る。

(どういうことよ。総帥はこうなることがわかっていたってことぉ?)

「江良さんの用意したスタープレイヤー、今のところ全敗ですね。申し訳ないですが企畫の方は失敗では?」

悔しがる江良Pの様子を覚めた目で見つめていた羽月は、冷たい聲でそう言った。

「ふ……フン。まだよ。そうね。キャラ能を引き上げるだけじゃ、慣れた連中には搦め手でやられる。それがよくわかったわ」

言って、立ち上がる。

「江良さん、どこへ?」

「スターたちの控え室よ。直々に激飛ばしてくるわ!」

サングラスの奧からウィンクして、江良Pは部屋を出て行った。

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(面白いじゃない。でもね……こっちにはまだ切り札があるのよ)

江良Pはニヤニヤしながら、アイドル・久留井咲と若手優・病院坂ふみの居る控え室へと向かった。

***

***

***

スタジアム裏の待機所には、一回戦最終試合を控えたゼッカとギルティアが試合開始の時を待っていた。

二人だけではない。

親友であるミュウも一緒だ。

戦うのはゼッカとギルティアの二人だが、ミュウも二人が勝ち上がるためのサポート協力を惜しまなかった。

夏休みにってから。

このトーナメント優勝を目指し、三人で頑張ってきたのだ。

「いよいよ決勝トーナメントだね、二人とも!」

「アタシら以外のGOOプレイヤーは全員勝ち上がり……負けられないわ」

「うん」

「大丈夫。二人なら負けないよ。ゼッカはヨハンさんと。ギルティアはお兄さんと。ガチ勝負がしたいって、夏休みの間ずっと頑張ってきたんだから。絶対大丈夫だよ」

ぐっと手を握りしめて、ミュウは力強く言った。

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「ありがと」

「アンタに言われると自信が出るわ」

「あ、そろそろ試合みたい」

主催のピエールが焦った様子で手を振っている。

「それじゃ……行ってくるわ」

「うん。ミュウも応援よろしくね」

「任せて! 舞臺袖で応援してるから」

「心強い!」

決意をに、ゼッカとギルティアはバトルフィールドに向かっていった。

***

***

***

時はし戻って。

神永タワーゲストフロアーにある個室型の控え室。

共にタッグを組むアイドル・久留井咲と優・病院坂ふみは同じ蕓能事務所に所屬している。事務所のマネージャー原をえ、3人がこの場に居た。

「うへぇ……外人さんたちまさかの敵前逃亡!? 滅茶苦茶だよぉ~」

第三試合の訳のわからない展開に涙目になる病院坂ふみ。

一方咲は異様な集中力でGOOの攻略サイトを読み込んでいた。そんな咲を心配して、マネージャーの原が聲を掛ける。

「咲ちゃん。そろそろ試合だし、もう休憩した方が……さっきまで仕事してたんだし」

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その言葉に咲はキッとマネージャーを見て、そしてため息をついた。そんな咲に完全にビビってしまったマネージャーはおどおどとしてしまう。

「さ、咲ちゃんが必ず勝ちたいって気持ちはわかるけど……その。えっと。あまり気合いをれすぎても良くないと思うの!」

そんなマネージャーの様子を見て、咲はため息をついた。

「はぁ。いいですか原さん。勝ちたいじゃない。勝たなければならないんですよ」

「それって何か違うの?」

「大違いです。私たちが勝てば、うちの事務所に神永からの仕事が沢山るようになります。弱小のうちが大手と戦えるようになる最初で最後のチャンスなんですよ?」

それが、優勝したときに咲がむことだった。

咲の所屬する蕓能事務所【ワリープロダクション】は弱小事務所である。公式サイトの所屬タレント一覧を見ても、一般的な知名度があるタレントはほとんど居ない。

現在ようやく軌道に乗ってきたのがアイドル業を行う咲で、安定して小さ目の仕事を獲得しているのが優業のふみだけという狀態だ。

「えっと。でもね。今までのうちからすれば、今は奇跡みたいな狀況なのよ? 咲ちゃんとふみちゃんが頑張ってくれているから、私も毎日楽し――」

「私は満足していませんっ! 私はもっと上に行きたい。この事務所を大手にだって負けない強い事務所にしたいんです。もう……あんな思いは二度としたくないですから」

「咲ちゃん……」

何を思い出したのか、をかみしめる咲。そんな咲に「出番前に噛んじゃ駄目だよ~」と注意しようと思ったふみだったが、出番とはいってもVRゲームだったと思い出す。

「それならお菓子たべちゃおう」

とふみがテーブルのお菓子に手をばした時。ゴンゴンと、控え室の扉が強く叩かれた。

「権力者が邪魔するわよ~」

そして、中の許可を待たずにズカズカと江良Pが扉を開いた。

「ちょっと――タレントの控え室ですよ……非常識過ぎますっ」

「なぁに? 文句あるのぉ?」

毅然と文句を言う原マネージャーだったが、ギロリと江良Pに睨まれ、萎してしまう。

「江良さんじゃないですか! どうされたんですかぁ? もしかして私たちの激勵にきてくれたんですかぁ?」

そんな原マネージャーの前に出たのは咲だった。さっきまで悔しそうな顔をしていた咲は一瞬でその表も態度も営業モードに切り替え、江良Pに対応する。

「そうなのよぉ、アンタたちの前の連中が揃いも揃って不甲斐なくて。困っちゃうわよねぇ。ただのプレイヤーが勝ち上がったって、數字とれないんだから~」

「安心してください江良さん。私たちがみんなの分も頑張りますから!」

咲がぎゅっと可いポーズをとった。後ろのふみが「ブフォ」と笑っているが、咲は気にしない。

「あらあら、流石咲ちゃんだわ~いい子いい子。でもねぇ、このゲームの連中は意外と小狡いっていうか。素人相手に妙な技を使う連中が多いのよ~」

「あーまぁゲームやってる人って多かれなかれ格悪そうですからねぇ~」

そんなことは思っていない咲だったが、相手を気分良くさせるための言葉を選ぶ。咲の思通り気を良くした江良Pは聲のトーンを張り上げながら指を立てる。

「そーなのよぉ! だから二人のためにワタシがとっておきの【裏技】を持ってきたの。咲ちゃんのアカウントにインストールしておいたから、使って頂戴♪」

「……裏技?」

その言葉の不穏な響きに、原とふみの二人は訝しむ。咲も心怪しんだが、それは決して表には出さなかった。

江良Pの機嫌を損ねないよう可らしく首を傾げながら、無知っぽく疑問を口にする。

「そう裏技よ。メニューに【裏技】って項目が追加されてるから、試合が始まったら発してちょうだいな♪」

「はぁい。それで、使うとどうなるんですか?」

「相手の二人のキャラクターが一切けなくなるわ!」

「――へぇ!」

「正確に言うと、キャラクター作を封じるプログラムなの。後はけなくなった相手を一方的にボコボコにしてやれば、楽勝よぉ! 本當はこんなの使いたくなかったんだけど……貴方たちには絶対に勝ってほしくてね」

楽しそうに語る江良P。一方、原マネージャーは怒った様子だった。

「ちょっと待って下さい! うちの久留井はここ數日、このゲームの練習をずっと行ってきました。こんな卑怯な手を使わなくたって勝てます」

そんな原をギロっと睨んだ江良Pは、その表はあえて崩さずにこやかに。

「もう。ちゃんと使ったらゲーム側の不合ってことにしてあげるのにぃ。まぁいいわよ、別に使わなくても。勝ってくれればそれでね。でもね。もし負けたらどうなるかわかってるわよねぇ?」

「……くっ」

「こっちは天下の神永よぉ? ワリープロダクションなんて弱小、アタシの手に掛かれば存在しなかったことにすることなんて簡単。それだけじゃないわ。所屬タレントの子たちだって全員――」

「もう怖いですよ江良さ~ん」

原を脅す江良Pに、貓なで聲の咲が言う。

原さんも怖がり過ぎぃ。江良さんはそんなことしないですよ、優しいから。それに、せっかく江良さんが用意してくれた裏技なんですから……ちゃんと使わないと~」

「ふふ、わかってるじゃな~い。いい子ね咲ちゃん。それじゃ、よろしく頼むわよ~」

***

***

***

江良Pが去った後の控え室。

「咲ちゃん……貴方なら、あんなズルしなくてもプレイヤーの人たちに勝てるんじゃない?」

「無理ですよ。一回戦と二回戦を見ていて思いました。彼らは本気でやってます。そんな人たち相手に、たとえチートみたいなステータスのキャラ渡されたところで、勝てるわけがない」

「で、でも……」

原さん優しいな~。裏技みたいな勝ち方した後の私の評判を気にしてるんでしょ? 大丈夫。私たちのバックについてるのは神永ですよ? 神永。神永とそれに連なる者に不利益な発言をしたら生きていけない。業界じゃまことしやかに囁かれていることじゃないですか」

現に最近も神永製ゲームの炎上を煽った畫投稿者のチャンネルが消えたことがあった。

い人形をやってさえいれば、江良Pは味方だ。そういったフォローは強いだろう。

「で、でも……私は……咲ちゃんには正々堂々とした道を歩いてしいのよ」

「あはは~。正々堂々……正々堂々かぁ。この業界にはありえない。ありえないことなんですよ原さん」

「咲ちゃん……」

咲は一年前のことを思い出す。

デビューして間もない頃。

ネット配信限定のアイドルクイズ対決という番組に出た時のことだった。

競技クイズ形式で行われるアイドル同士のガチクイズ対決。

弱小事務所出でまだ無名の自分でも目立つチャンスと、咲は寢る間を惜しんでクイズで勝つための知識をにつけた。

まだ無名だったからこその時間の使い方だった。

そして挑んだ當日。

勉強の果もあり、無雙と言えるほどに正解しまくった咲。優勝は確実だった。

『困るんだよね~そんなに正解されちゃうとさ。空気読んでよ空気』

「え……?」

『君が優勝しちゃってどうするの? 優勝すべき子はこっちが用意してるんだから、君は適當にボケて、馬鹿やって。さっさと負けて帰っていいから』

番組のお偉いさんに呼び出された咲は、正解し過ぎと注意をけた。そして、さっさと負けろと言われたのだ。

「で、でもこの番組は本気の戦いだって……私ずっとこの番組大好きで……だから」

『はぁ……番組ってのはね、筋書きがちゃんとあるの。誰が勝って誰が負けて笑い取ってって全部決まってるの。お金出してくれている人のみ通りの展開を自然に作ろうとみんな努力してるわけわかる? あの子たちは勝つ側。そして君は負ける側。人には役割があるの。君もこの業界でやっていくなら、理解してよね』

「……そんな。私、この日のために必死に努力して」

『あ~そんな努力しても無駄無駄。無駄~。あっち側に行きたいなら……勝たせて貰える側に行く努力をしないとね』

「勝たせて……貰える側……」

『ほら出番だ。ささ、引き立て役、頼むよ』

その日、咲はわかる問題全てを間違え、無事敗退した。

対戦相手がなかなか正解しないから、勝たせるのにとても苦労した。

『やった~勝った~!』

『いやぁ危なかったねぇ。相手の子が馬鹿で助かった』

『プッ。も~う馬鹿なんて言ったら可哀想ですよぉ』

舞臺袖から消える前。

自分が勝たせた大手事務所のアイドルと司會のタレントの様子を……咲は燃えるような瞳で睨んでいた。

あれから一年。

どんな仕事でもやった。

今度は自分が勝たせて貰える立場になれるように。

唾を吐きたくなるような汚い連中にびてびて。びて。

そして、ようやくチャンスがやってきたのだ。

(やっと……やっと私がこちら側に立った。勝つと定められた側に……ふふ。ようやく……!)

怪しく笑いながら、咲はVR機を起。GOOにログインした。

試咲先生による「お前のような~」コミカライズ一巻が4月5日についに発売となります!

小説版では描かれなかったキャラクターたちの姿を先生の素晴らしい絵で見ることもできるので、是非お買い求めください!

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