《【書籍化決定】ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~》本名みやび、襲來
【お知らせ】
いつも本作を読んで頂いてありがとうございます。
本作につきまして、近いうちにお伝えする事があります。
嬉しいじの容です。「コ」から始まる奴です。
よろしくお願い致します。
「お邪魔するっすー!」
元気な聲と共に、南米あたりに生息していそうな派手な鳥と見紛う髪のみやびちゃんがリビングにやってきた。みやびちゃんが歩くたび、黒とオレンジの奇抜な頭がゆらゆらと揺れて、なんだか見ているだけで楽しい気持ちになりそうだった。事前連絡もなしに訪ねてきた理由が分からない以上、楽しい気持ちになることはないのだけれど。
「蒼馬さんお久しぶりっす!」
「いらっしゃい、みやびちゃん。急にどうしたの?」
蒼馬會で出た食を洗い終え、最後の食を水切りラックに差し込むと俺はリビングに戻った。みやびちゃんは俺が許可するまでもなくダイニングテーブルに著いていて、そのリラックスしきった表には「最初からここが私の定位置でした」と言わんばかりの貫祿があった。
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ちなみにマンションの玄関口でインターホン越しに聞いた容によると、どうやら靜の部屋番とうちの部屋番を間違えてしまったらしいのだが、「蒼馬さんでもいいかられてしいっす」という口ぶりから察するにどうやら靜に用事があったという訳ではないらしい。時間も遅いしこれは何やら事がありそうだなと思い、俺はみやびちゃんを招きれる事にしたのだった。エプロンを解いて向かいに座ると、みやびちゃんが口を開く。
「実は一緒に住んでる兄貴と喧嘩して家を飛び出して來たんすよ」
「…………喧嘩? 家出してきたってこと?」
「簡単に言うとそんなじっす」
俺のイメージでは家出というのはかなり大事なんだが、みやびちゃんはあっけらかんとしていた。まあ態度はともかく事は俺が想像していたものと當たらずも遠からずといった所だったので、とりあえず家にあげたのは正解だったか。こんな夜遅くに、恐らく未年のみやびちゃんがひとりで外を出歩くのはあまりに不用心だ。
「つまり、みやびちゃんは靜の家に泊まりに來たって事でいい?」
言いながら、頭の中でそれは達されないだろうなと突っ込む。靜の部屋を最後に掃除したのは先週。果たして人が住める狀態になっているのか…………想像するまでもなく答えはノーだ。
「その通りっす! まだ連絡してないっすけど」
「まだ連絡してないんだ…………」
この前のオフコラボの件といい俺がVTuberになった経緯といい、みやびちゃんは後先考えず行するタイプらしい。薄々じてはいたが今確信に変わった。
「それなら早めに行ったほうがいいんじゃない? もしかしたら寢てる可能もあるしさ」
時刻は既に深夜帯。専業配信者である靜の生活リズムは謎に包まれているが、普通の人なら寢ていてもおかしくない時間帯だった。返信が帰ってこなければ最悪俺が合鍵を使うという選択肢も無いではないが、合鍵を持っていることをみやびちゃんに知られるのは々と面倒な事になりそうだし出來れば避けたい。となれば急ぐに越したことはなかった。
もう直接訪ねたほうが速いだろうと席を立つ俺を────みやびちゃんは衝撃的な言葉で呼び止めた。
「大丈夫っす。今日は蒼馬さんちに泊めてもらう事にしたっすから」
◆
「…………ドウシテ?」
揺を顔に出さないように注意しながら…………考えるのは條例の事。未年を泊めるのは大丈夫なんだっけ。大學生とか平気で外泊してるから多分大丈夫だよな。家出というのが妙に犯罪臭を醸し出すが、年齢的には問題ないはずだ。
「え…………もしかしてダメっすか…………?」
みやびちゃんは驚いた表を浮かべた。斷られる事など全く考えていなかったんだろうか。
「ダメというか…………みやびちゃんはそれでいいの?」
「全然いいっすよ? 蒼馬さんに聞きたい事もあるっすし」
俺が想像している不安や気遣いなど頭に無いんだろう。ケロッとした顔でみやびちゃんはそう言った。きっと靜の家に泊まるのも俺の家に泊まるのも同じだと思っているに違いない。そこには大きな違いがあるはずなんだが。
「…………分かった。みやびちゃんが良いなら俺は構わないけど」
「やったっす! じゃあ早速お風呂借りてもいいっすか? 気でベトベトなんすよね。あと服も貸してくれると嬉しいっす!」
「…………服?」
よく見ればみやびちゃんは手ぶらだった。喧嘩して飛び出してきたという話はどうやら本當らしく、ヘンテコな貓が描かれたシャツと寢間著のような緩い生地のショートパンツ姿のみやびちゃんは、服の側に著替えを隠し持っているという事もなさそうだった。あとはもう寢るだけ、という狀態で喧嘩した事が想像できる。
「飛び出してきたっすから、スマホしか持ってないんすよ。一応さっき家でお風呂ったばっかっすから下著は借りなくても大丈夫っす。パジャマだけ貸してしいっす」
「はいはい、ちょっと待っててね」
…………風呂にっていなかったら下著も借りるつもりだったのか…………?
余計な事を考えないように頭を振って、俺はパジャマを見繕った。俺とみやびちゃんは長が20センチ以上離れていそうだから勿論サイズは合わないんだが、まあデカい分には問題ないだろう。みやびちゃんはそれをけ取ると、勝手知ったるという態度で風呂場に消えていった。
…………そう言えばいつの間に俺は名前で呼ばれるようになったんだろう。前回會った時は天さんと呼んでいた気がするが。
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