《【書籍化決定】にTS転生したから大優を目指す!》80――ひとりの年の長
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午後からの実力テストは、多分ケアレスミスがなければ満點が取れてるぐらいの出來だった。小學校で習う容の復習問題だからね、ところどころ難しい問題が混ざっていたけど特に問題なく解くことができた。
放課後から仕事だったのでC組のはるかに一緒に帰れないことを伝えに行くと、なんと自分も見學と稱して一緒に行くと言い出した。帰って勉強した方がいいのではと控えめに言ってはみたのだけど、『実力テストなんだから、普段の実力でけないと意味ないでしょ』と不思議そうな表をしていた。
いや、まぁ確かに一理あるんだけどね。先生達もひとりひとりの學力が大どれくらいなのか知りたいから、こういうテストを行うのだろうし。試があったのにわざわざこんな事をするのかと思う人もいるだろうけど、試は學校にるための基準を満たしているかどうかを見るものだから、し見るところが違うんじゃないかな?
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友達で一緒に寮で生活する仲間でもあんまり口うるさく言うのもどうかと思うので、迎えに來た洋子さんにはるかも同行しても大丈夫か尋ねると『今回はいいけど、これからは前もって言っておいてよね』と叱られてしまった。それはそうだよね、急に言われても洋子さんも対応できることとできないことがあるだろうし。
はるかとふたりでごめんなさいと謝ると、洋子さんは仕方がないわねと苦笑しながら私達ふたりの頭をポンポンとでた。社會人として報連相するのは當然だからね、今回は突然はるかに言われてのお願いになったけれど、今度からは前日にはるかと放課後の予定をちゃんと話し合っておかないと。
とりあえずりの時間もあるので、車に乗り込んで撮影スタジオに向かった。バブルが弾けてしばらく経ったけれど、最初はスタジオにセットを組んでこれまで通りに撮影するドラマが殆どだった。でもしずつ影響が出てきてスポンサーさん達からのお金が減ってきたり、そもそものスポンサーさんの數が減ったりでこれまでよりない予算でドラマを作らなきゃいけなくなってきたみたい。
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そんな低予算なドラマを撮影するのに、ハウススタジオの先駆けみたいなものが最近出來始めたらしい。前世ではコスプレの撮影でも利用できるスタジオがたくさんできていたけれど、こんな時期から似たようなものがあったんだね。元々スタジオの中に家も設置されているし、小もいちいち用意しなくてもいいし。元に戻すなら家の配置を変えても大丈夫なので同じスタジオを使って撮影したドラマでも、視聴者の人達に違和を與えずに済むみたい。ただ小とかは同じものだと既視を與える可能があるので、変えたりするそうだけどね。
今回のドラマは従來のセットを組み立てての撮影で、私は殘念ながら主演ではなく脇役だ。高校生・中學生・小學生の三姉妹がご近所で起こった事件を解決する、本格的な探偵要素よりもどちらかというと人間ドラマに主眼を置いた作品になっている。私は三ちゃんの友達役で呼ばれていて、三を演じる子役は小學5年生という役とぴったり一致する年齢なのだけれど、私は中學生になっても子役時代と似たような役で呼ばれたりする。『偽小學生に溢れていてバレバレじゃない?』と洋子さんとはるかに聞いてみたら、むしろ小學生にしか見えないから大丈夫だとズバッと一言で斬り捨てられてしまった。ぐぬぬ、背が切実にしい。何故か最近長たくましい囲よりも、縦にびてくれないものかと悲しくなってくる。
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「お、すみれじゃん!」
そんな事を考えながらお手洗いから楽屋に戻ろうとしていると、廊下で聲を掛けられた。誰だろうと振り向くと、そこには以前教育ドラマで共演したゆっくん――逢坂祐太が立っていた。
「久しぶりだな、秋以來か?」
「うん、前に草野球の応援に行った時に會ったきりだよね」
ダニーズ事務所は運神経がいい男の子達が集まっているので、草野球とかサッカーとか々とチームを作っているんだって。去年の秋にいきなりゆっくんが寮に電話を掛けてきて、お弁當持參で応援に來てしいと面倒くさいことを宣ったのが事の始まりだった。勝手なことを言うなぁと思いつつも、私のことを自分の彼呼ばわりしているゆっくんに一言申したい気持ちもあったし、まぁ友達なのは間違いないのだからお弁當作って応援に行ってやるかと思って、はるかと一緒に出掛けていったのだ。
「あの後、先輩達にもめちゃくちゃ怒られて反省したんだ。本當にごめんな、すみれ」
「もういいよ、電話でも何度も謝ってもらったでしょ。必要以上に何回も謝るとゆっくんのごめんなさいって言葉がどんどん軽くなって、本當に謝ってるのかなって疑われたり誤解されちゃうよ?」
私がゆっくんの顔を見上げながら言うと、何故だかしだけ顔を赤くしたゆっくんがスッと私から視線を逸らせた。なんだろう、私の顔に何かついてる?
不思議に思って頬をむにむにと両手の手のひらででていると、ゆっくんが『いや、汚れてたりしてねーから』と呆れたように言った。しかし教育ドラマを撮影していた頃は同じぐらいの背丈だったのに、いつの間にやらニョキニョキとびているのが妬ましい。顔もちょっと可いじからイケメンに長する途中経過を見ているようで、さすがダニーズに所屬しているだけはあるなぁと思った。
何故ゆっくんが私に謝るのかというと、以前からダニーズ所屬の男の子達と仕事をする度に聞かされていた『祐太の彼』という呼び方について、その日初めてしっかりと自分で抗議したからだ。遅すぎるぐらいだったんだけどね、もっと早く言うべきだったと自分自にも悪いところがあったなと反省しきりだった。
あの日は草野球の試合ということで控えメンバーも含めて1チーム15~20人ぐらいのダニーズのアイドル達が集まっていて相手チームもダニーズの別チームだったから、バックネットだけが設置された寂れたグラウンドが30~40人のイケメンが集まるキラキラしい空間になっていた。はるかは瞳を輝かせていたけれど、私としてはかっこいい男の子達に囲まれても特になんとも思わないんだけどね。
さすがにそれだけの人數に『誰だ?』『祐太の彼だって』なんていう噂を周囲でされれば、溫厚な私でもイラッとくる。地面に敷いたシートの上で早く弁當をよこしてくれとばかりに手をばしていたゆっくんに、私は彼じゃなくて友達だよねと暗に訂正するように圧をかけた。
そしたらゆっくんは、『あれだけ撮影の時に世話してくれたんだから、すみれはオレの事が好きなんだろ? だったら彼にしてやったら喜ぶと思って』と宣った。すごい上から目線で何様のつもりだろうというのが最初に浮かんだ想で、怒りの後にやってきたのはため息をつきたくなるぐらいの呆れだった。
「友達としては好きだけど、付き合いたいとは思ってないよ。撮影の時にゆっくんの世話を焼いたのは、一般応募の子達と一緒に作品を作り上げていこうってじだったのに、ゆっくんは全然やる気がないじだったでしょ。それだと失敗する未來しか想像できなかったから、できる限り手助けしたんだよ」
私がそう言うと、ゆっくんは理解できないという風にポカンとしていた。ダニーズにるぐらいだから、周囲からかっこいいっていう評価しかされてなかったんだろうね。だからこんな風に自分に興味がないって、の子から面と向かって言われることなんてこれまでなかったんじゃないかな。
あだ名で呼んでくれたから、今日だって弁當作って応援に來てくれたからと好かれているだろう理由を必死に指折り挙げるゆっくんに、確かにそういう部分が勘違いさせてしまったのかなと反省する。つい転生前の覚で男の子同士のようなじだったのと、小學生の男の子って年下のなじみみたいに思ってしまって、ついつい気安く呼んでしまうんだよね。
じゃあこのお弁當は皆さんに食べてもらっても私は困らないし、呼び名もあだ名じゃなくて逢坂くんって呼ぼうかと提案すると、ゆっくんは嫌だと即答した。だったら付き合ってるなんても葉もない噓を広めないでとし強めに言ったら、し項垂れたようにしていたゆっくんがこくりと頷くのを見て、私もまた満足気に頷いた。こんな噓がゆっくんのファンの耳にったら怖いし、私もに覚えのないスキャンダルを抱えずに済んでよかったなと思う。
その後何故だかダニーズの先輩アイドル達が、ゆっくんの背中や肩を叩いてめていたのが印象的だった。ちゃんと仲間をいたわる気持ち、大事だよね。私も事務所で年下の後輩ができたり、現場で蕓歴が下の後輩ができたら同じようにしてあげたいな。
私の希をけれてくれたので、友達としてちゃんとゆっくんを応援したよ。お弁當も食べる頃には機嫌もだいぶ上向いていたから、自分が噓を責められたのがショックだった訳じゃなくて、単に今までこんな風に怒ったことがなかった私に叱られて凹んだだけだったのかも。
それから今日まで直接は會ってなかったのだけど、年明けぐらいから寮に電話を掛けてきたりして何度かは話をしたりした。なんか急に長したのか、この間までひしひしとじていた子供っぽさが鳴りを潛めてちょっと大人になった気がする。何がきっかけだったのかは知らないけど、そんなに急いで大人にならなくてもいいのにねと前世でおじさんだった私はちょっとだけそう考えている。でも思春期の子達って大人に憧れるものだしね、未年は々と制約があって保護者の許可が何にでも必要だから、そんな狀況から早く解放されたいという気持ちはわたしもすごくわかる。
「すみれは、今日は何の仕事なんだ?」
「わたしはドラマ撮影、と言ってもチョイ役だけどね。ゆっくんは?」
「オレは歌番組。デビューしてから同じ曲を何回も歌って踴ってるから、いい加減飽きてきた。そろそろ新曲來ねぇかな」
同じ振り付けで同じ歌詞を歌い続けると、きっとそんな気持ちにもなるんだろう。でもそんな意見を外にらしちゃダメだよと言うと、ゆっくんは何故か優しく微笑んだ後に『こんなことはすみれにしか言わねぇよ』と答えた。友達として信頼されているのはすごく嬉しいけど、王様の耳はロバの耳で床屋さんが掘ったみたいな役割を期待されてもちょっと困る。もちろん、他所に言いふらすつもりはないけれど。
「ゆっくんにとっては歌ったの何度目かわからないくらいでも、今日の収録の映像を初めて見る人だってテレビの向こう側にはきっといるんだから。既に聴いてくれて応援してくれるファンの人達にも謝しなきゃだけど、同じことの繰り返しでしんどくなってきた時はそういう新しく自分達を知ってくれた人達のために歌ったらどうかな?」
既存ファンも新規ファンも大事だよねと思いつつ、そんなことを提案してみた。するとゆっくんはきょとんとした後で、パァッと表を明るくして私の手を両手でぎゅっと握った。
「すげぇな、すみれ。オレそんなの全然考えたことなかったわ。次からは新しく歌を聴いてくれた人に向けて歌ってみる、ありがとうな」
誰だろう、この子。しばらく會ってなかったうちに、ゆっくんの神的な長がすごい。自分で長したいと思わないとこんな風に短期間で目に見える形で長しないだろうから、きっと先輩達に々と教わって努力したんだろうね。私の手だって、多分前だったら潰れちゃうんじゃないかっていうくらいに全力で握られていたと思うのだけど、今日は力はってるけれど私が痛く思わないようにすごく手加減してくれているのがわかる。
次に會った時はお茶でも飲みつつゆっくりとお話しようと約束して、ゆっくんと別れた。男子三日會わざれば刮目して見よなんて慣用句があるけれど、若い子が努力してる姿は前世アラフォーだった私には目を眇めるぐらい眩しく映る。是非ゆっくんにはもっと長してもらって、すごいアイドルになってもらいたいね。
そんなことを考えながら、私は洋子さんとはるかが待つ楽屋に歩みを進めるのだった。
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