《お薬、出します!~濡れを著せられて治療院から追放された薬師さんが辺境で薬屋を開きました。極めたポーションは萬能薬と呼ばれて回復魔法を超えるようです~【書籍化コミカライズ企畫進行中】》襲撃の後で

「ハッ!?」

「あ、よかったです。目が覚めましたね」

ニトが目を覚まして最初に見たのはメディだった。

ドクマークのドラゴンエナジーに対抗して同じような薬を販売していた薬師の

初日のわずかな間で客を次々と奪っていった景はニトも見ている。

ニトとパンサールは彼が調合できないよう、ドクマークに妨害を依頼されていたのだ。

ニトは隣で未だ目を覚まさないパンサールをちらりと見る。

「そちらの方も命に別狀はありませんよ。さすが獣人です」

「うちらを助けて何のつもりッスか。気絶しているうちに衛兵に突き出せばいいじゃないッスか」

「お二人の怪我を治すのが先です。治療しなかったら後癥が殘る可能がありました」

「は、はぁ……?」

とぼけて見せたが、ニトは自けたダメージはよくわかっている。

たった一撃でブラッドニュースを戦闘不能に追い込んだ者など、どの戦場にもいなかった。

ニトはアイリーンにやられる直前の景を思い出して、かすかに震いする。

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命の取り合いを生業としている戦闘のプロとやり合っていた彼でも、アイリーンは底が見えなかった。

「あの、極剣はどこッスか」

「寢ましたよ。エルメダさんと代で見張ってます」

「呑気なものッスね」

「それよりどうして倉庫を狙ったんですか?」

「それを言う必要はないッスね」

ニトは嫌味ったらしく言ったつもりだが、メディはじなかった。

アイリーンやエルメダと違い、メディに戦闘能力がないのは見抜いている。

もし自分が逆恨みして襲いかかったらどうするのかと、メディを見ながら心の中で問いかけていた。

それを含めて、メディからはどこか得の知れない雰囲気をじ取る。

「あんた、あの薬はどうやって調合したッスか。ドクマークのドラゴンエナジーの中毒をあっさり斷ち切ったッスね」

「それはですね……」

ニトは呆れた。

薬師があっさりと調合レシピを喋るなど、ニトには考えられない。

もし自分がそれをドクマークにらせば一気に瓦解する。

何も考えていないのか、それとも何かの策か。

ニトはメディを観察したが、何かを企んでいるようには見えなかった。

戦場では騙し合いも発生するため、視線の運びや所作を含めて常に相手の噓を見極めなければいけない。

ところがメディはあくまで自然だった。

「あんた、底抜けのアホッスね」

「そうなんですか?」

「うちがレシピをらせばあんた終わりッスよ」

「なぜです?」

「な、なぜってそうなったらドクマークは息を吹き返すッスよ。あんたの負けが決まるッス」

真実を突きつければ思い直すはずだとニトは確信していた。

ただのアホならここで慌てるはずだと期待していたが――。

「いい薬を調合して誰かが助かるならそれでいいですよ。私も安心してこの町を出られます」

「はぁ……?」

「私が嫌なのは、いい加減な薬で誰かの心が脅かされることです。もしドクマークさんが誰かを本當の意味で助けるなら、それでいいじゃないですか」

「……あんた本気で言ってるッスか?」

質問したところでメディは笑顔で頷くだけだ。

ニトはメディがドクマークに便乗して稼ぎにきた類だと思っていたのだ。

薬師としての腕がいいだけではなく、そこに私がほとんどないことに驚いた。

しかしニトはまだ納得していない。

「それであんたが稼げなくなってもいいッスか? あんただって生活があるはずッス」

「そうですねぇ。それは困りますね」

「ヘッ、そこまで考えてなかったようッスね。だったら」

「でも、私を必要としてくれる人達がいます。だからそれだけで十分です」

アイリーンやエルメダ、カノエ。カイナ村の住人。

彼らなら自分を必要としてくれるとメディは信じている。

ニトはまだ追求しようと思えば可能だった。

その連中が裏切らない保証などない、そこに新たに優秀な薬師がいたら?

數々の反論が思い浮かぶ。

戦場にを置いていた彼にとって、メディはあまりに愚直で純粋だったのだ。

戦場にも専屬の治癒師や薬師はいたが口に出すのも憚れる扱いをけたり、何らかの理由で姿を消した者もいる。

その影響で、メディのような人間を直視できないほどだった。

「あんたは綺麗な世界で生きてきたからそんなことが言えるッス。世の中には平気で他人を傷つけて裏切る人間だって」

「知ってますよ。そんな人から私を助けてくれた人達がいますから」

「……それがもしかして極剣とあのエルフッスか」

「他にもたくさんいます。そういった人達に支えられていなかったら、今の考えを持った私はいなかったかもしれません」

ニトはメディを世間知らずのだと思っていた。

酸いも甘いも知った上での発言であると知ったが、同時に羨ましく思っている。

自分も生まれた場所が違えば、そんな風に生きられたと考えずにはいられなかった。

「む……んん! ここはどこだぁ!」

「パンサール、今頃になって目が覚めたッスか」

「おぉぉ! ニト! 敵がいるんなら寢てる場合じゃねえだろぉ!?」

「やるんなら一人でやれッス。命が惜しくなければッスけどね」

「はぁん!? む!」

ニトの言葉の意味をパンサールはすぐに理解した。

直後、部屋にってきたのはアイリーンだ。

「お、お前はぁ!」

「惜しかったな。あとし早まっていたら、今度こそ容赦はしなかった」

「やっぱり寢てなかったッスね。途中から薄々気づいていたッスよ」

「メディを一人にさせておくわけがないだろう。メディには私は寢たと伝えておいてほしいと頼んでいた」

ニトにその気はなかったが、パンサールはあとしのところで死ぬところだった。

さすがにアイリーンとて、メディの命を狙うようであれば生かしておかない。

の目の前ではあるが、それでもそうするだろう。

「それで結局、うちらをどうするッスか」

「そうだな。ここは私に従ってもらう」

アイリーンの笑みがニトにはたまらなく恐ろしかった。

大人しく殺されておくか、衛兵に突き出されたほうがよかったかと半ば思う。

しかしそこは元傭兵、捕虜になったつもりで観念したのだった。

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