《じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出の魔導士、通訳兼相棒の新米回復士と一緒ずてツートな無詠唱魔で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】》ナボ・マダ・デッタラダ・クマ・ダンダベ(一どれだけ巨大なクマなのだろう)
「急げ! できるだけ奴から離れるんだ!」
ユキオが顔だけで背後を振り返ってんだ。もう相當の距離を走っているというのに、その表からは一向に焦燥のが消えない。
一何が起こっているのか知らされないまま、いまいま出會ったばかりの人間の指示でこれだけ走らされているこの狀況……流石に我慢がならなくなってきた。
息が上がり、足が重くなってきたタイミングで、レジーナは前をゆくユキオに向かってんだ。
「ちょ、ちょっとユキオ! どれだけ走るの!?」
「もっとだ……空を見ろ! あの月が見えなくなるまでだ!」
ユキオが空を仰いだ。まだそこには偽りの白い月が見える。あれが見えなくなるまで逃げる――? 世界中どこにいても空に輝く月からは逃げられないのに――逃げろというのか。
今の狀況にも、ユキオの言うことにも、ますます意味がわからなくなったその時、今度はギンシロウがユキオに向かってんだ。
「ユキオ! ダメだ、この人數では逃げ切れない! を隠した方が賢明だ!」
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はっ、とユキオが立ち止まってギンシロウを振り返った。
「くそっ、やっぱりダメか……! ギンシロウ、私たちはまだ風下にいるな!?」
「ああ、後は奴が気づかないでいることを祈るしかない……全員、あの巖山のへ!」
言うが早いか、ギンシロウは近くにあった小山ほどの巖山のへと飛び込んだ。続いてユキオが巖にを寄せ、レジーナたちに手招きした。
「急げ! 出來るだけ小さくまとまれ!」
一瞬、レジーナたちは三人と一匹で視線を錯させ――まずオーリンが巖に飛び込んだ。既に汗だくのイロハを真ん中に挾み、最後にレジーナが巖に寄って地面に座り込んだ。
「いいか、絶対に音は立てるな! 奴は聴覚も鋭い! 咳ひとつしたら全員お陀仏だと思え!」
ユキオが聲を潛めて、だが鬼気迫る表で厳命した。なまじ凄まじい人であるために、その言葉と表には凄まじい威圧があった。
「いいか、この巖山と同化したつもり、木化け石化けでを隠せ! いいか、絶対に聲を上げるな――!」
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木化け石化け? 人生で一度も聞いたことのない単語に妙にひっかかったが、ユキオはいち早く顔を伏せ、口を閉じてしまった。
全く狀況が飲み込めてはいないなりに――ユキオのそのただならぬ態度に、大人しく従った方がいいと判斷し、レジーナも口を閉じて巖になった。
四人とも押し黙ると、森深い山道に不意に沈黙が落ちた。
と――そのとき。
ヒヨヒヨ、と、名前のわからない鳥の鳴き聲がどこかから聞こえて、レジーナはやはり何かがおかしいと思い始めた。
晝行の鳥は夜中に鳴いたりはしない。ということは、やはりあの空に輝く白い月は偽――否、この突如として視界いっぱいに広がった「夜」そのものが偽なのだ。
一何が起こって、何がやってきたというのか。
今立っている地面が突如ぬかるみ始めたような違和と不安が頂點に達した時――不意に、ズシン……という凄い地響きがから全に伝わった。
え、何――!? とレジーナが空を仰いだ、その途端。
空に輝く月がき、ブルルル……という獣そのものの呼吸音が空震を伴って響き渡った。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
ズシン、ズシン……という地鳴り音と共に、周囲の木が踏み潰される耳障りな音までもが聞こえてくる。ま(・)る(・)で(・)こ(・)の(・)地(・)鳴(・)り(・)が(・)何(・)者(・)か(・)の(・)足(・)音(・)で(・)あ(・)る(・)と(・)い(・)う(・)か(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)。
途端に――空のが変わった。
白く輝いていた月が急に高度を増し、空高くへと引き上げられる。
代わりに、紅蓮に燃え盛る炎のような赤が青空に輝いた。
あ、と、レジーナはその景を見上げた。
「夜空」が、なんと二本足で立ち上がっていた。
あまりにも常識的ではないその景に、いつまで経ってもレジーナの理解が追いつかない。
これは……一なんだろう。視界いっぱいに広がったこの黒く艶やかな並み、に白く染め抜かれた月の模様、そして頭頂部から首筋にかけて生え揃った、赤黒いの一筋は。
これは――夜ではない。
形だけを見るなら、おそらくクマだ。
だが、その巨大なることは、もはや大グマという表現すら當てはまらない。
それひとつが山そのもの――否、山が生命を得てき出しているとしか言いようがない、それは常軌を逸し切ったバカでかさであった。
自分たちは今の今まで、この怪の腹の下にいたのだ。
そしてそのに染め抜かれた白い月の模様を、自分は本の月だと思いこんでいたのだ――。
ようやくそれを理解した途端、レジーナの下腹部が意志とは裏腹に急激に緩む覚がして、レジーナは人生で初めて、あわや失の無様を犯しそうになった。
ユキオが蒼白の顔で空を睨んだ。
イロハは汗だくになってぶるぶると震え、オーリンでさえ、偽りの月を見上げる顔からの気が引いている。
唯一――ワサオだけが虛空を睨み、ウウ~……と唸り聲を上げているだけだ。
「レオ――!」
と――ユキオがワサオに覆い被さり、その頭をでた。
飛び出しそうになるのを抑えている風にも、神に祈るとも知れない聲で、大丈夫、大丈夫――と小聲で繰り返すユキオの聲だけが、今すぐ発狂して喚き出しそうになるレジーナたちの正気を細い糸で繋ぎ止めていた。
おそらく、その巨獣の姿を見上げていた時間は、五分にも満たなかったのだろう。
だが、対峙の時間は一時間とも、永遠にも思われた。
不意に――怪が鼻面を後ろの方向に向け、くんくんと高鼻で臭いを取った。
何かの気が変わったと見える怪が、頭を巡らせ、前足を地面につけて四足歩行になった。
途端に、ズン……! という衝撃が地面を疾駆し、死ぬ気で失を回避しようとしているレジーナの膀胱を容赦なく衝き上げた。
ああ……! と恐怖とは違う理由で涙目になるレジーナに構わず、怪はそのまま、地鳴りの音を立ててどこかへと立ち去ってゆこうとする。
怪の赤い頭は、五分ほど経過しても、ヴリコの森の奧に見え続けた。
やがてその巨が山にり、完全に見えなくなったところで――ユキオが盛大に息を吐いた。
しい顔を汗びっしょりの有様にして、ユキオはしばらく呼吸を整えることだけに躍起になっているようだった。
「どうやら命拾いしたようだな、旅人よ。見たか、アレが我らが宿敵――兇獣【赤梵天(アカボンデン)】だ」
ギンシロウは満月のような瞳で怪が消えていった方向を睨んだ。
「推定長は約七十メートル、重は何萬貫目になろうものか最早検討もつかぬ。奴は一年ほど前からこのミヒラの莊周辺に舞い戻ってきた化けだ。だが十年も前、奴がこの山にいた時はあれほど狂いじみた巨ではなかったがな」
七十メートル――その単語を聞いただけで、既に限界まで下がっていた圧が更に低下した気がした。
気が遠くなり、目の前が暗くなって気分が悪くなるのを、レジーナは必死に歯を食いしばって堪えた。
「まるで梵天が如くに頭に生え揃った赤――それがその名の由來だ。奴はこのミヒラの莊周辺の山を己の縄張りとし、己を生態系の頂點とした牙城を築き上げる肚(はら)だ。あんな狂った化けの牙城が完すれば、ヴリコに生ける人間……いや、そこに生きとし生ける全ての生命など、もはや一方的に狩られる餌でしかなくなる――そうなる前に、なんとしても我々が奴を仕留めねば」
「仕留める、って――!?」
冗談も大概にしろ、と言いたげにオーリンが聲を荒らげた。
今まで一度も見たことのない取りした様子で、オーリンはズーズーと喚き散らした。
「な、何(なぬ)を喋ってらのやギンシロウさんよ! あったバゲモノ、いっくらマタギだヘンリルだって言っても(しゃべっても)仕留められるわげねぇべや! 何故(なして)逃げねぇ!? そ、そいどごろかあいづを仕留めるだぁ!? 正気なんだがよ!?」
「あんまりみっともなく喚くんじゃないよ、男だろうが」
鋭い叱責の聲が飛び、オーリンが、うっ、と口を閉じた。
ユキオはを失っているオーリンの顔を、鬼の眼差しでじっと睨みつけた。
レジーナと大して歳が変わらないと思えるのに、その視線の凄まじさには、どんな人間をも黙らせるだけの迫力があった。
しばらく、狼狽しきっているオーリンを叱るように睨みつけてから――不意にユキオはオーリンから視線を逸らした。
「それに、逃げようったって逃げられるわけがない。私たちマタギはこの山を捨てて生きていく気はない――いや、この山でしか生きられないんだよ」
この山でしか生きられない? どういう意味だろう。
こんな畑作も容易ではない山の中であんな怪に立ち向かうよりも、この山を捨てて平地に避難した方がよほど賢明な判斷に違いないのに。
だが、逃げる気はない、と言い切ったユキオには、やぶれかぶれの反論など一切聞きれなさそうな、既に固まりきった決意がじられた。
ユキオは立ち上がり、なにかの決意を固めるかのようにじっと俯いた。
俯いて、震えきっていた己を叱るかのようにじっと瞑目してから――ユキオは殺気を治めて振り返った。
「さぁ、アンタたちも立ちな。ミヒラの莊に行こう。あそこならまだいくらかここより安全だ。奴はいつ戻ってくるかもわからない……行こう」
そう促されて、レジーナたちはよろよろと立ち上がった。
今はもう、かくしゃくとした足取りで山道を歩いていってしまうユキオに従うしかなさそうだった。
あんな化けを、ミヒラの莊のマタギたちは一どうやって仕留めようというのか。
そして、それにワサオの力が必要だと言ったユキオの真意。あれは一どういう意味だったのか――。
レジーナは足元のワサオに視線を落とした。
ワサオだけが唯一、耳をピンと立て、怪が消えていった山向こうをいつまでも眺め続けていた。
秋田のクマは長70メートルぐらいあります。
「たげおもしぇ」
「続きば気になる」
「まっとまっと読まへ」
そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。
まんつよろすぐお願いするす。
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