《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》大義名分は有効活用
「おぉ、なんか明らかに強そうなビーが出てきたな」
「……あ、あれはクイーンの親衛隊、エンパイアビー・ナイツですわ」
「將軍(ジェネラル)とか宰相(ミニスター)もいるのかな?」
「……本當にやるんですわ?」
あからさまに嫌そうな……いやまぁ、目の前の景に突っ込む、と言われりゃ誰だって嫌がる……何人かノリノリで突っ込みそうな知り合いがいるから別におかしいことではないな、うん。
「プランは三つ、結果次第でどれを選ぶかは変わる」
まず一つ目はエンパイアビー達がカブトクワガタに勝利した場合、この場合はプラン1「ハイエナ大作戦」だ。
全力でドロップアイテムを拾ってトンズラする、既に無視できないダメージをけた巣を放置して俺を追ってくる可能は低いからな。
次に二つ目はカブトクワガタがエンパイアビー達に勝利した場合、この場合はプラン2「漁夫の利大作戦」だ。
カブトクワガタの損耗次第だが瀕死であるならば俺がトドメを刺す。無理そうなら適當に蜂のドロップアイテムだけ拾ってトンズラ。なくともエンパイアビーの巣という特大の貯蔵庫よりも俺を優先する理由はないだろう。
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そして最後に三つ目は相打ちでどちらも倒れた場合はプラン3「ラストスタンド大作戦」だ。
悠々と全部かっさらう、以上だ。
「というわけで個人的には壊滅するくらいエンパイアビーには頑張ってもらいたい」
「あ、悪魔ですわ……!」
そういやこのゲーム、「神」は存在するみたいだが天使悪魔っているんだろうか?
「よっしゃ行け行け、やれ! おいおいもうし踏ん張れよ甲蟲王者!」
カブトクワガタがその重量を攻撃力にフルに換算するには飛ぶことが必須條件であり、その為には堅牢な甲殻を開いて無防備な翅とをさらけ出さなければならない。
カブトクワガタが一度突進を敢行すれば、十數匹規模で蜂が砕け散る。だが、エンパイアビー達も負けじと針をミサイルの如く飛ばし、その殆どは高速でくカブトクワガタの翅に弾かれるものの何本かをカブトクワガタのに突き刺す事に功している。
巨大にして強力な個と矮小ながらも鋭たる群の戦いは、レイド戦に挑むプレイヤーのようで。蜂達は砕けた同胞のポリゴンの吹雪を浴びながらも、一切怯むことなくカブトクワガタを追い詰める。
だがカブトクワガタとてただ狩られる獲ではない。そのは強者として設定されたもの、幾本もの針をけてなお不沈。それは例えるなら暴れ狂う暴風、猛りぜる雷霆。
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一挙一が弱者を殺し得る必殺であるその顎が、角が、遂に蜂達の司令塔のさらにその上……大局的視點で蜂達に命令を下していた宰相(ミニスター)を砕く。
「おお、見ろエムル。ついに王が直々に出張ってきたぞ」
「はわあ……!」
命令系統が崩壊しかけたエンパイアビー達が規律を取り戻す、忠誠を思い出す。半壊した騎士団(ビー・ナイツ)が彼を守るように隊列を整える。狩人(ハンター)が、番兵(ガーダー)が、労働者(ワーカー)が鋭が如くカブトクワガタを取り囲む。
カブトクワガタもまた、己に楯突く弱者の首魁を見據えて顎をガチガチと鳴らす。全を薄く覆うはもしや魔法か?
「さぁ勝利の神は一どちらに微笑むのか、解説のエムルさんどう思いますか?」
「か、解説!? アタシそこまで詳しくないですわ!」
そこは適當に「いやぁ、もはや我々には推し量ることすらできませんねぇ」とか言っておけばいいんだよ……流石に無茶振りか。
思わず実況したくなるエンパイアビー・クイーンとカブトクワガタの相対……そして彼らは激突する。
その決著は。
ひび割れ、砕けた甲殻。左の大顎は半ばからへし折れ、右眼には巨大な針が突き刺さっている。だが……カブトクワガタは己の角に貫かれて絶命した王國の王蜂《エンパイアビー・クイーン》を雑に頭を振って引き剝がす。
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既に頂點を失ったビー達は方々に四散し、勝者が一誰なのかを如実に示している。
「お前の敗因(・・)は、強いて挙げるなら三つ」
エンパイアビー・クイーンのがポリゴンへと変換される。他の蜂達と比べても大柄であった王はその軀に相応しい散と共にポリゴンを撒き散らす。
「一つは安全策を取らなかったこと、一つは妥協せずに蜂との戦いを決著させたこと……」
降り注ぎ、消えていくポリゴンの中をゆっくりと近づいてくる影に、カブトクワガタはそれでもなお戦意を滾らせる。それは傲りであり、誇りなのだろう。だがそのプライドは、このMobから大事なデータをすっぽ抜かせてしまったらしい。
「最後に、目先のに気を取られて俺を見逃したこと」
これが闘技場の1vs1(タイマン)だったなら、カブトクワガタの選択は誇り高いものとして賞賛されただろう。だがこれは弱強食(サバイバル)、勝利とは打倒ではなく生還を指す。
満創痍でなお戦闘を選んだ時點で、それは最悪手だぜ。逃げるコマンドは恥じゃない、不退転プレイはHP管理をミスった時點でただのリスポン待ちだ。
「プラン2だ、誇りを抱えて俺の糧(EXP)となれ」
王はよくやってくれたよ。お様でこいつのモーションは力がない時の特殊行も含めて把握できた。
それじゃあ……全部まとめていただきます。
・クアッドビートルの勇角
クアッドビートルの撤退を知らぬ猛々しき角。非常に頑強なそれは武や防に非常に重寶する。
生まれついて好戦的な彼らの生涯は短く、それ故に永く生きた個は強い。
・クアッドビートルの凄顎
クアッドビートルの立ちふさがる困難を打ち砕く凄まじき大顎。驚異的膂力あっての斬れ味は人が十全に扱うことは不可能。
永く生きた、即ち永く勝ち続けた個は逃走を死よりもなお嫌う。
・クアッドビートルの重甲殻
クアッドビートルを強者たらしめる重厚な甲殻。重く、いそれはクアッドビートル以外が扱うことを考慮していない。
クアッドビートルの素材を使った武は古來より退卻知らずの破軍の象徴とされた。
・クアッドビートルの鱗扇翅
クアッドビートルのを浮遊させる強靭な翅。そのは鱗のように幾つもの「翅」が重なって一枚の翅を形している。
ただ戦い、ただ進み続ける彼らの死に場所は戦いの場の他にはない。
「いやぁ大量大量!」
「むむむ……なんだかズルい気がしますわ……」
「それは違うぞエムル。あのカブト……いや、クアッドビートルは逃げることだってできた。実際追ってまで倒すつもりはなかったし……だがあいつは逃げなかった、それが全ての答えだ」
「じゃあエンパイアビーは?」
俺はそっと目をそらし、口笛を吹いた。コラテラルダメージだよコラテラルダメージ。
「まぁなんだ、弱強食の世界じゃ生き殘った奴が正義ってことさ」
「うむむ、それを言われたら何も言い返せないですわ……」
隨分と懐が重くなってきた。第二インベントリ……げふん、もといエムルにも結構持たせているというのになお重いインベントリが、壊滅したエンパイアビーとクアッドビートルでどれだけ荒稼ぎしたかを如実に示している。経験値こそクアッドビートルの分、それも瀕死故にあまり多くない量しか稼げなかったが、それでもレベルアップまであとし。エリアボスに挑む前にどこかでレベルを上げておきたい。
「そういえばこのエリアのボスって確か蜘蛛なんだっけ?」
「そうですわ、クラウンスパイダーは糸をって々してくるんですわ! ぱーん! とかぼぼーん! とか!」
ほう、蜘蛛か……糸を使ってアクロバットするタイプと子蜘蛛を使うタイプ、単純に襲ってくるタイプ……蜘蛛型モンスターも大抵ありがちなモンスターだが、最早俺に油斷はない。ノーダメノーコンテのパーフェクトで攻略してやるぜ!
で、ぱーん! とかぼぼーん! って何だろう……?
と、まぁ意気込んだはいいが、俺達はボスエリア前というあとしの場所でありながら、目下木の上で隠れながら下を見ている狀況である。
「まぁそりゃプレイヤーがいても不思議でもなんでもないが……出鼻を挫かれたな」
「剣士、剣士、剣士……なんというか、偏ってますわ」
「分隊全員衛生兵よりかはマシなんじゃないかな」
あるFPSでの話だが、調整ミスで死んでも數秒は自分のをかせることから、自分を蘇生する事でゾンビが如く不死と化した衛生兵達が泥沼の陣取り合戦をする紛爭地帯はまさに不という言葉がぴったりだった。
それに全員前衛は必ずしも悪手ではない、火力で押し切るのなら下手に前衛後衛で分散させるよりもどちらか一方で固めた方が早く済むことはままあることだ。全員魔法職で超火力短期決戦とかクソゲーじゃなくてもよくある景だ。
それはともかく、俺達が隠れているのはこのエリアのボスに挑む先客がいたからだ。三人パーティを組んだ彼らは皆剣士、という偏った編ではあるものの、なくとも俺のようにほぼ裝備ではないし、損傷がないことからレベルもそれなりに高いことが窺える。
「……時折普通に服を著ることができているやつをどうしようもなく羨ましくじる」
「普通それは羨むようなことじゃないですわ……」
遠回しに俺が普通じゃないってか……普通じゃないな、うん。なくとも一般的なルーキープレイヤーは裝備欄潰れたりしてないわ。
彼らが大木のうろ(・・)の中へとっていくのを確認し、木から飛び降りる。薬草をもしゃってミリの落下ダメージを癒しつつ、俺は彼らがっていったうろへと歩いていく。
いや、他プレイヤー(パーティ)が挑戦中は當事者以外のプレイヤーは中にることはできないが、中を覗くことはできる。報収集という意味合いもあるにはあるが、単純に他のプレイヤーがどんな風に戦っているのかを見てみたい。他人のゲーム畫面覗き見現象とでもいうべきに特に抗うこともなく、俺はエムルを頭に乗せながらうろを進んだ先、エリアボスのフィールドを覗き込む。
「おお、エムルの言った通りだな」
やけに派手な柄をした……あある程、王冠(クラウン)じゃなくて道化の蜘蛛(クラウンスパイダー)か、クラウンスパイダーが中を繰り抜くようにして縦にびた円柱狀のエリアを時に糸をロープ代わりに、時に上空に張り巡らせた糸を綱渡りのように飛びっている。ああ、こっからじゃ見えない位置に行ってしまった。
三人のプレイヤー達は悲しきかな、見事に遠距離手段の乏しさを突きつけられているらしく、ただ一人魔法が使えるらしいプレイヤーがちまちまと火の玉を飛ばしているが、見た限り有効打とは程遠い。
「そこは無駄撃ちしないで降りてくるまで待ちだろ……!」
「ああっ、危ないですわ……!」
なんというか、ポップコーンとコーラがしくなる。あと椅子。
完全に観戦者モードになった俺とエムルをよそに、三人の剣士達はようやく待ち構えることを思いついたらしいが、その瞬間上から降ってきたのはクラウンスパイダーではなく、人が乗るタイプのバランスボール程はある巨大な糸の玉。
見事糸玉は三人のうちの魔法を使っていた一人に命中し、見た目の割に驚くほどらかく、そして粘っこいそれはトリモチよろしく魔法剣士のきを封じてしまった。
「うわえげつねぇ、上空からを落としてくるのか……」
きの取れない魔法剣士を助けようとしていたプレイヤー二人が上を見て突然慌てふためいて逃げ始める。
何事かと思えば次の瞬間、魔法剣士が上から降ってきた丸太に押し潰されて……あ、死んだ。
そこからはもうどうしようもない。遠距離攻撃手段を失った二人の剣士はジワジワと追い詰められていく。最後はきが取れない中、クラウンスパイダーに糸巻きにされてゲシゲシと腳で蹴られ続けた末にポリゴンとなって消えて行った。
途中、最後に殘ったプレイヤーが俺に気づいていたが、俺にできるのは報提供をを以て示してくれた彼らに合掌することくらいだった……南無南無。
「さて、彼らの尊い犠牲のおかげで大把握できた」
「切り替え早いですわ!?」
どうせサードレマでリスポーンしてるんだ、謝はすれど追悼なんてするわけないだろう。彼らのおかげで大のボスの特は理解できた、宣言通りノーダメノーコン行かせてもらおうか。
おっとその前にレベリングレベリング。
分かってはいましたがストックが溜まるのが目に見えて遅くなったので焦りますね……
エンパイアビー部の役職としては
王(エンパイアビーのトップ、全バフなどを使用する上に本も強い)
宰相(実質的なナンバーツー、宰相が生きている限りは全ての蜂は統率されたきを可能とする)
將軍(王を除けば配下の蜂の中で最も強い個、十數匹程度を対象に強力なバフを使用するため騎士団と組まれると極めて厄介)
騎士団(巣、ひいては王を守る蜂の群れ、王を第一とする鋭でありなかなかに厄介)
番兵(巣を守る防衛の蜂、耐久力が高めに設定されているが攻撃力は狩人に劣る)
狩人(労働階級、ではなく餌としてモンスターを狩るのが役目のため獲が汚染されないよう毒を持たない)
労働者(労働階級、や花を集めるのが役割だが他の生態ピラミッド上位からよく狙われる、救難信號持ち)
極々稀にエンパイアビー・プリンセスがいたりします。姫からドロップするアイテムがないと作れない武防があったりなかったり
たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)
【書籍版①発売中&②は6/25発売予定】【第8回オーバーラップ文庫大賞『銀賞』受賞】 夜で固定された世界。 陽光で魔力を生み出す人類は、宵闇で魔力を生み出す魔族との戦爭に敗北。 人類の生き殘りは城塞都市を建造し、そこに逃げ込んだ。 それからどれだけの時が流れたろう。 人工太陽によって魔力を生み出すことも出來ない人間は、壁の外に追放される時代。 ヤクモは五歳の時に放り出された。本來であれば、魔物に食われて終わり。 だが、ヤクモはそれから十年間も生き延びた。 自分を兄と慕う少女と共に戦い続けたヤクモに、ある日チャンスが降ってくる。 都市內で年に一度行われる大會に參加しないかという誘い。 優勝すれば、都市內で暮らせる。 兄妹は迷わず參加を決めた。自らの力で、幸福を摑もうと。 ※最高順位【アクション】日間1位、週間2位、月間3位※ ※カクヨムにも掲載※
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【カドカワBOOKS様より2022.11.10発売】 ※毎週、火、金更新 ▼書籍版は、登場人物やストーリーが増え、また時系列にも多少の差異があります。 どちらを読んでも楽しめるかと思いますが、二章以降は、書籍版のストーリーを踏襲したものになりますので、ご注意くださいませ。 下民の少女「月英」には秘密があった。秘密がバレたら粛正されてしまう。 だから彼女はひっそりと邑の片隅で、生きるために男裝をして姿を偽り、目立たぬように暮らしていた。 しかし、彼女の持つ「特別な術」に興味を持った皇太子に、無理矢理宮廷醫官に任じられてしまう! 自分以外全て男の中で、月英は姿も秘密も隠しながら任官された「三ヶ月」を生き抜く。 下民だからと侮られ、醫術の仕えない醫官としてのけ者にされ、それでも彼女の頑張りは少しずつ周囲を巻き込んで変えていく。 しかし、やっと居場所が出來たと思ったのも束の間――皇太子に秘密がバレてしまい!? あまつさえ、女だと気付かれる始末。 しかし色戀細胞死滅主人公は手強い。 皇太子のアピールも虛しく、主人公は今日も自分の野望の為に、不思議な術で周囲を巻き込む。
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