《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》剎那に想いを込めて 其の一

ようやくこの作品を書くにあたって最初に構想した部分まで來ることができました、皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。これからも拙作を宜しくお願いします。

自分でも柄ではないとは理解している。

「ははは……3桁とかめっちゃ久しぶりに見たかも。薬草買えるかな?」

最後に薬草を購したのはいつだったか、今の數萬倍はあったはずの所持金も今では素寒貧。だがそれに反比例するように限界まで詰め込まれたアイテムの數々が、計畫に対する彼の本気を示している。

「……例のアイテム(・・・・・・)も手の目処が立ったし、後は二人がけてくれるかだケド」

いつからだったろう、彼がこのゲームに飽き始めていたのは。

ままならないとはいえ、彼は現実に不満があるわけではない。ただ、彼(・)はそうではなかった。

彼が作ったというプレイヤーキラーのためのクラン、というものは彼にとってもプラスの多いものであった。

が求めるものは花火のようなスリル。ただの一瞬、されど記憶に刻むような派手な花火、そんなプレイングこそが彼本。

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「倒されて素寒貧になるまでが悪役の華だってのに、チキっちゃってさぁ……」

初めてそれ(・・)を見つけた時は、まだ全員が攻略の意思を、熱を抱いていた。だがあの日、プレイヤーキラーに多大なデメリットが追加されたあの日から、クランは変わってしまった。

危険を避け、安定を取る。かつてはほぼ全方位からヘイトを集めていても上等だかかって來いと笑っていたメンバー達も、かつての三位が賞金狩人相手に大馬鹿をやらかしながらも満足げに破産したのを皮切りに、一人また一人とクランを離れていった。

今ではクランにいるのは彼からすればド三流もいいとこの雑魚ばかり。

「さてさて、どう懐したものかな……」

には抜けていったメンバーの気持ちがわかる。彼らは別に、PKで得た栄華を保っていたい訳ではないのだ。それは結果に過ぎず、彼らがPKに及んだ何よりの理由は楽しむ為。

悪役ロールを好む者、己を狙う復讐者との戦いを楽しむ者、自へ向けられる恐怖の目も侮蔑の目も憎悪の目も笑顔でけ止める変態……現実ではできない「はっちゃけ」をこそ彼らは求めていたのであり、今のステータスのままでいる必要は無かった。

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「むー……普通に持ちかけるだけでもノッてくれそうではあるけど、死ぬ気でやってもらいたいし焚きつける必要があるかなぁ」

PKそのものをこそ楽しむ者達が抜け、代わりにPKによって得られるに群がる蝿ばかりになってしまったクラン。

それ故に、彼がアレ(・・)を半ば裝置のように使うと言いだした時は彼は半ば本気でこのゲームを引退する決意を固めかけたのだ。

ならば何故今もシャングリラ・フロンティアを続けているのか。そう問われれば彼はこう答える。

「どうしてもアレ(・・)倒したいから」

ゲームに本気でのめりこむ今の彼の姿は、彼のプレイスタイルを知る者が見ればひどく稽に映るだろう。

例えゲーム全で重要なNPCであっても、容赦なく罠のギミックにしてしまう彼が、たった一人のプレイヤーですらないNPCの為に全てを賭しているのだ。

「次の満月と、新月から逆算して……今日明日で協力を取り付けないと、間に合わない」

が描く未來という絵畫に足りなかった絵の、その最後の二つが見つかった。それが塗料であるのか、はたまたニトログリセリンであるのかは分からない……いや、多分ニトログリセリンだ。

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だからこそ、彼は失敗すれば引退も辭さない覚悟であらゆる手段を用意した。失敗すればなくとも彼をこのゲームにログインさせていた惰すらも失われるだろう。

の表に不安が過(よ)ぎる。狙うは前人未到の強敵、それをたった三人で倒せるのか? 自の計畫に支障を來す不安を叩き潰すかのように頬をバシバシと手で叩いた彼は、誰もいない彼岸花の絨毯に寢転がって月を見上げる。

「見てなよセッちゃん。勝つか負けるかの大博打、私の全部をベットしてでも勝ってやる」

俺は今、半に鳥頭のサンラクではない。そっちのサンラクはフォスフォシエのランドマーク更新してラビッツのベッドでセーブ&ログアウトだ。

そして今の俺はムキムキマッチョのヒゲダンディなボディを鎧で包んだレイピア使いのサンラクだ。

「久しぶりだなぁ……この空気」

フェアクソ挑戦前に一回ログインしたから本當に數ヶ月前だな。おっと危ない奇襲するならただ後ろに回るんじゃなくて角度も考えないとこんな風に迎撃されるぞ?

「ええと、待ち合わせは確かファランクス伯爵の邸宅だったか」

確か番兵のガードが王城よりいNPCの邸宅だったはずだ、確かにプレイヤーはそうそう近づかないだろうが……ならば何故奴が待ち合わせ場所にそこを指定できるのかという疑問が……まぁいいや、今更こっちで罠に嵌めるメリットもないだろうしなんとかしたんだろう。

ゴロツキプレイヤーを適當に一撃死(おちょくり)ながら俺はこの世界……ユナイト・ラウンズの道を進む。

「こんばんわ! 死ね!」

「はいこんばんわ、くたばれ」

「おぽぁ!」

悪いが手數で攻めるオワタ式のあっちと違ってこっちはカンストレイピアで急所一撃の暗殺特化だ、一手刺す隙があれば大一撃で殺せるぞ。

シャングリラ・フロンティアの消滅方式とは異なり、焚き火が燃え盡きるように灰となって消えた名も知れぬプレイヤーの裝備を漁る。

「ちっ……シケた裝備しかないな、まぁ盜賊崩れならこんなもんか」

プレイヤー全員がPKたるこのゲームにおいて、袋叩きはなんら恥じることではない。十人で一人を袋叩きにしたと思ったら三十人に包囲されてた、とかザラだからな。そしてその三十人も隙さえあれば敵ごと味方を巻き添えにする気マンマンというオチだ。

「おっと、こんなことしてる場合じゃない」

ついつい癖で剝ぎ取っていたが、そんなことしてる場合じゃないや。ええと確かこっちだったかな……

「やぁやぁいらっしゃいサンラク君! カッツォ君ももう來てるよ」

「あれ、俺がドベか」

ファランクス伯爵の邸宅に到著した俺は、NPCの番兵に止められることもなく中にることができた。いったいどんな手練手管を使ったのやら……まぁいい。

シャングリラ・フロンティアのペンシルゴンとほぼ同じ見た目の、強いていうなら若干ポリゴンが雑なアバター「鉛筆戦士」が笑みを浮かべて俺を出迎える。まるで我が家を行くかのようにNPCの屋敷を進む鉛筆戦士についていけば、応接間と思しき場所へと案される。

「やぁサンラク、々暴れてるらしいじゃん?」

「別に暴れてるわけじゃないんだけどなぁ、ユニークをすっぱ抜かれたのが痛かった」

「ネチケットがないって怖いよねぇ」

ああやっぱり、鉛筆戦士の口振りからして無斷スクショでも撮られてたのかな。まぁ過ぎたことだ、態々掘り返すまでもなかろう。

MMOはゲームだが現実だ、リセットもできなければタスクキルもできない。過ぎた時間を巻き戻すことが出來ないのならば今どうするかを考えなくてはならない。

「で? 本題に移ろうか。態々俺やサンラクを指名するってことは、ただ一緒にシャンフロしようぜってことじゃあないんだろ?」

「そだね、時間もあまりないし単刀直に言っちゃおうか」

まるで自宅であるかのような気軽さでオブジェクトとして最初から存在する茶菓子を口に放り込みながらのカッツォタタキ(モドルカッツォ)の問いに、鉛筆戦士はいつものように笑みを浮かべてなんでもないかのように弾を投下した。

「ユニークモンスター「墓守のウェザエモン」の討伐を三人でやらない?」

「ふぁ!?」

「ごふっ!?」

正直「三人でハイレベルプレイヤーのみで構されたクランにカチコミかけよう!」までは想定していたが、斜め遙か上をぶち抜くその単語に俺は素っ頓狂な聲を上げ、カッツォタタキはむせ返る。口の中に放り込んだ時點で茶菓子がオブジェクトとしては消失しているのが幸いだった。

もし現実だったら口の中の茶菓子がぶちまけられていただろう、汚ねぇ。

「待て待て待て待て、ユニークモンスター!?」

「そだよ。下手なボスよりヤバいシャンフロにも十といないエネミー、そのの一が墓守のウェザエモン」

「ふぅー……よし落ち著いた。とりあえず俺からは聞きたいことは三つ」

「はいよサンラク君、依頼者として質問には真摯に答えようじゃないか」

このリアクションは想定の範囲だったのだろう、俺の質問に対しても鉛筆戦士は余裕の笑みを崩さなかった。

「まぁシンプルに……何故? いつ? 勝算は?」

「シンプル過ぎない? まぁ順番に答えていこうか。まず一つ目、何故君達二人なのか……これはちょっと込みった事があるんだけど要約すると數を揃えれば勝てる奴でもないんだよねぇ、実際阿修羅會上位十五人で討伐隊組んだけどフルボッコにされたし」

「……プレイヤー數が増えると力攻撃力に補正がるタイプ?」

カッツォタタキの指摘は俺も考えていたものだ。マルチを前提としたゲームにおいて、人數に比例したボスの強化はお約束すぎるほどにお約束だ。

それもユニークモンスター……あの夜襲のリュカオーンと同じカテゴリに位置するモンスターであるならば、素のスペックが人數補正でさらに強化されればどれ程の極悪能になるのかは想像に難くない。

「それも(・)あるけどもうし厄介なんだよねぇ、まぁこれ以上の報は承諾してくれたら開示するよ。次にいつ、だけど……チャンスは一回きり、二週間後に実施される夏の大型アップデート直後の夜、それが決行の日」

二週間……長いようで短い、だが準備期間としてはそれなりに長い方だろう。カッツォタタキの方もそれは分かっているらしく、特に何も言うことはなかった。だが本題は三つ目だ。

「勝算は? 言っちゃなんだが俺はまだレベル30ちょいだぞ?」

「俺はレベル25」

「うわ雑魚っ、二人とも弱過ぎ……?」

ぶっ飛ばすぞてめー……は冗談だとして、実際リュカオーンの例からすれば俺らを選ぶ理由が分からない。

數が多いと強くなりすぎる、だから鋭で挑む……まぁここまでは分かる。だがそこに俺とカッツォを指定する意図が分からない。

確かに俺もカッツォもプレイヤースキルはある方だと自負しているが、ユニークモンスター相手に鋭組むなら俺たちよりももっと強い……それこそ廃人プレイヤー(サイガ-0)のようなレベルカンストしたプレイヤーで固めるべきじゃないか?

「いや、レベルに関してはどうとでもなるんだよ。あの鬼つよ武者を相手にするのに必要なのはレベルでも最強裝備でもなくて……純粋なプレイヤースキル。だからこそプロゲーマー(カッツォ君)とクソゲーマー(サンラク君)の力が必要なの」

「プロゲーマーとクソゲーマーって並べていいものじゃないよな」

「プロゲーマーの格が落ちそうだから離れてどうぞクソゲーマー」

悔しいがガチプロゲーマーのお言葉を否定できない……! 高級料理の隣に雑草が置いてあるような事実は否めないがクソゲーマーだってクソゲーでならプロゲーマーに三割勝てるんだよ!

「まぁまぁ……で、どうかな? 追加報酬がしいなら聞くけど」

「話が味すぎる、明らかになんらかの意図をじるけど……サンラクお前は?」

「俺? いいよ協力する」

「即決かよ」

カモがネギを背負ってやってくる、と言うが今の俺にとってはカモがネギと牛を引きずって來て態々すき焼きを作ってくれるかのような好機だ。

なにせ求めていたオワタ式の極みのような戦闘が向こうからやって來たのだ、それもユニークモンスター。元々素寒貧のの上、失って困るものもなければリカバリもそう難しくはない。

鉛筆戦士が提案した以上、何か裏があるのは確実なんだろうが……まぁ分かってても乗った方が楽しい(・・・)。

「はぁ……ちなみにもし仮にお前らだけでそのウェザなんたらを倒したとしたら……大どれくらい參加しなかった俺に自慢するわけ?」

「死ぬまでドヤ顔かます」

「會う度にネチっこく自慢するかな」

「こいつら……じゃあ俺も參加するしかないじゃん」

口ではそう言いつつも、その表に嫌々と言ったは無い。このツンデレさんめ、心ウッキウキだろうに。

「いやぁ、君達ならけてくれると思ったよ。八十人のプレイヤーで固めてた私の城に、たった二人で乗り込んでくるような馬鹿だしねぇ……」

遠い景を眺めるように笑みを浮かべる鉛筆戦士に、俺もカッツォタタキも苦笑いを浮かべる。そういえばあの時は俺が提案したんだっけな……「面白そうだし王様アサシンキルしようぜ」ってな。

「で、だ」

ここからが本題。

「まだ何か隠してるんだろう? 俺たちを一枚噛ませるならそこんとこも教えてくれよな」

俺のその言葉に、鉛筆戦士はその笑みをますます深くしたのだった。

三人のゲーマー的タイプ

サンラク:理論派に見えて実はアドリブマン、テンションとプレイヤースキルが連している

カッツォ:アドリブマンに見えて実は理論派、ちゃんと事前調査や練習は欠かさない

ペンシル:実際のところプレイヤースキル自はそこまで高くない、狀況と狀態を組み合わせて殺しにくる

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