《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》剎那に想いを込めて 其の十三
「なんつーか、ゲームでログインし直した気分だ」
「あ、それ分かる」
ログイン時の意識がから離れて無重力空間に漂うようなあの覚を、ゲームで味わった俺達は大まかなマップの形狀こそ匿の花園と同じだが、目に映る景は真逆の場所に立っていた。
あの一面に咲き誇っていた彼岸花はの一片も殘すことなく全て消失し、土なのか石なのか曖昧な平坦な地面が広がっている。
空に至っては調反転してしまったかのごとく、白い夜空に(・・・・・)黒い星(・・・)が輝いている有様だ。それ故に夜空でありながら真晝間のように明るいと言う幻想的と言うには々不気味な景だ。
そして、「正位置」のエリアにポツンと生えていた枯れ木は、「逆位置」のこの場所……隠しフィールド「反転の墓標」においては全く別の姿を見せていた。
「枯れ木に花を咲かせましょう、ってか?」
命の気配の一切をじられなかった枯れ木には白銀に僅かに朱を帯びた花弁を、花弁そのものが重さに耐えきれず散ってしまうほどに咲きれる桜の花が。
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そしてその元には、簡素な墓標……そして何よりも。
「……あれか」
「……あれだろうね」
「……あれだよ」
錆があるわけでもない、ひび割れ風化しているわけでもない。だと言うのにそれ(・・)からひしひしと伝わる「年月」が、舞い散る花弁を押しのけ靜かに立ち上がる。
る程、ペンシルゴンの言う通り確かにロボ武者と形容するのが一番適切だろう。
「…………」
一切のを見せない全を覆う白と黒の機械裝甲、顔すらも覆い盡くしたそこにはヒロイックなロボ特有のツインアイカメラ。雙眸にが宿り、の各部が微かに駆音を立てながらも、それ(・・)は靜かに腰に裝備されていた刀を抜く。
立ち上がって初めて分かる全容、所々に日本の甲冑風の意匠が見えるその背丈はおおよそ二メートル半程か。
「さて……お手並み拝見と行こうか」
ペンシルゴンとオイカッツォを手で制し、俺はただ一人機械の鎧武者……NPC遠き日のセツナの人であり、ユニークモンスターであり、ヴァッシュ曰く「死に損ない」であるそれ(・・)と俺の距離は互いが一歩踏み出す度にまっていく。
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まるで西部劇の決闘だ、遠ざかるのではなく近づく辺りは真逆だがどちらが先手を打つのか、いつやる(・・)のか。モチベーションと張がアホみたいに高まっていくのが自覚できる。
「っ!」
そして互いの距離は一メートル、そこでそれ(・・)は居合の構えを取る。る程、いいぜ……開幕から飛ばしてくるならこっちも乗ってやる。
「墓守のウェザエモン、いざ尋常に……」
「斷風(タチカゼ)」
見た目とは逆に錆に錆きったような呟き、それと共に超速フレームの居合が放たれる。霞む墓守のウェザエモンの腕、線にしか見えないの筋、だが確かに俺の目はそこに刃の輝きと、即死の気配をじ取った。狙いは首か!!
「勝負!」
インファイト起、頭を屈めた瞬間頭上を青い水晶のような刃が通過し、それを確かめることなく俺は一気に墓守のウェザエモンに薄する。
そして俺とウェザエモンの長い長い戦いの火蓋は切って落とされた。
「マジで初見一発で避けたよサンラク君……」
「俺達はどうする?」
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暴風圏ならぬ暴刃圏(・・・)と化した墓守のウェザエモンに薄し、戦闘を開始したサンラクに目を向けつつオイカッツォは手短に問う。
笑みを浮かべながら墓守のウェザエモンに様々なアプローチを仕掛ける……例えば足払いは効くのか、的に裝甲は如何程なのか、隙間は、手指は、目は、駆部は……喰らえば即死は免れない刃の連撃を掻い潛りながら「もしや」の隙間を見出さんと試行錯誤を繰り返すサンラクの顔に浮かぶのは笑み。
だがそれが余裕のものではないとオイカッツォは知っている、あれは半ば引きつった顔であり、言うなればあまりの難易度に「笑うしかない」ものであると想を聞かずとも理解できる。
「私は「準備」を始めるから、カッツォ君はあらかじめ持たせたアイテム持ってスタンバってて」
「了解……!」
駆け出したオイカッツォから早々に目を離し、ペンシルゴンはその場でアイテムをインベントリから取り出す。
「頼むよ天秤ちゃん……! この戦いは君にかかってるんだからね……!」
余裕のない、されど勝利を諦めてはいない笑みを浮かべながら、ペンシルゴンが話しかけた先、そこには黃金の天秤がキラリと輝きを放った。
そしてそのタイミングで、サンラクが致命的な一太刀(ダメージ)をけてポリゴンと散った。
なんというか、これ作ったやつを一発毆りたい。ただただ「速い」「い」「強い」だけを追求したような能をした墓守のウェザエモンに切り捨てられ、ポリゴンと散った俺はそんなことを考えながら立ち上がる(・・・・・)。
「スイッチ! あと報!」
「無理ゲーだから避けろ!」
「了解……!」
後退しながら、非常に簡素に纏めた「墓守のウェザエモンに対してなんらかの有効打は存在するか?」という問いに答えを返す。
「ひぃぃ隙なさすぎ!」
「本當にな……!」
二、三分という短い間でしかないにも関わらず、既に耐久度が四割を切った帝蜂雙剣をインベントリにしまい、別の武を取り出しながら俺は必死に攻撃を避けるオイカッツォを見る。
「リスポン一回が400萬マーニもするとはな……」
俺がHPを全損させたにも関わらずここに立っている理由、それは散の間際にオイカッツォが俺に投げつけたアイテムが理由だ。
消費アイテムの中では貫祿の最高額、ポリゴンとなってから十秒以に投げるなり叩きつけるなりして接させる事で如何なるプレイヤーであろうと無條件で全回復して蘇生する言う所の完全蘇生アイテム「再誕の涙珠」。
「運命神の涙だかなんだか知らないが、ありがたいね……!」
どんな手を使ったのか、ペンシルゴンが買い占めた(・・・・・)その數なんと十二個。一人頭四個ずつ持った上で力半分で蘇生というライト版蘇生アイテム「生命の神薬」をさらに一人頭上限五個ずつ持った総合計二十七の追加殘機を以て俺達は墓守のウェザエモンに挑む。
まさしくゾンビ、墓守のウェザエモンとかいうロケットランチャーを頭に叩き込んでもケロッとしていそうな極大のデンジャラスモンスターに対抗するには、こっちもゾンビ戦法で立ち向かうしかないのだ。
間斷なく攻撃を繰り出しているように見えて、その実數秒もないが確かに攻撃と攻撃の間が存在する。
ビィラックの鍛治により、強化されその耐久力を大幅に増した湖沼の短剣【改二】を両手に俺はその僅かな間をってオイカッツォと切り替わる。
「オッケー、代わる!」
「死んだらまたけ持つ!」
「あい……よっ!」
もはや四つん這いに等しい程しゃがんで墓守のウェザエモンが放つ腰を斷たんとする一閃を回避する。
一応無駄だとは薄々づいているものの、腳を摑んでひっくり返せないか試すが……俺は電柱でも引っ張っているのか?
「うおっ!?」
一切の迷いなく頭を串刺しに來た上から下への突きを転がるように回避し、立ち上がる。
勝利條件も曖昧で、俺達が仮定する「時間経過説」も一どれだけの間戦い続ければいいのかさっぱり分からない。だが、ただ一つ言えることがある。
「道雲《ニュウドウグモ》」
「デス數は十以下で済めばいいが……」
何もかもを薙ぎ払わんと振り払われる雲の巨腕から逃れるを模索しつつも、そうポツリと呟かずにはいられなかった。
そして七分が経過した。
「雷鐘(ライショウ)」
「來るよ!」
「見りゃ分かる……!」
一秒で五発の即死ダメージ確実の落雷、それが五秒間。あまりにも狂った秒間火力(DPS)を叩き出しながら降り注ぐ落雷の豪雨を文字通り走を可能とする回避スキル、スケートフットで回避しきる。DPSが高すぎるからこそ全力で走れば避けることはできる、他二人も死んではいないようだ。
「ナメんな!」
スケートフットの効果が切れた瞬間に放たれた突きを、本來は攻撃を弾きその攻撃の5%のダメージを與えるカウンタースキル、パリングプロテクトでなんとか軌道をズラす。真っ向からけたら串刺しの未來しか見えないし、試すことすら余裕がない。
刀を背に隠すように構えてショルダータックル、俺が避けたところを狙う腰のひねりをれての袈裟斬り。を回転させるようにして肩から右腕を斬り落とす軌道のそれを回避し、刃を裏返しての斬り上げをバック転で跳び越える。
こんな曲蕓じみたきだが、余裕があってのことではない。普通にジャンプしたのでは著地狩りされるのだ、コンマ一秒でも地面に足が付く速度の速いバック転に……それが例えスタミナを削るきであってもやらざるを得ない。
「機関銃を避ける方がまだイージーだ……っ!」
「スイッチは!」
「頼む!」
オイカッツォと代し、超速居合「斷風」で首が飛んだオイカッツォに再誕の涙珠をぶん投げつつこんがらがった思考を丁寧に、しかし迅速に落ち著かせていく。間違ってもヘイトがこちらに向かないよう後方で何やら準備を続けているペンシルゴンの位置まで下がる。
「まだ十分も経過していないのか……」
「誰も落していない、という點では歴代最高記録だよ」
「一時間とかだったら流石に無理ゲーだぞ」
「それを踏まえて二十分……多く見積もって三十分間がリミットなんじゃないかと思ってるんだけど……」
これをあと2セット、さらに言えば難易度が段階的に上昇する殘り二十分か……
「クソゲー認定していい?」
「三人とかいう舐めプじみたことしてるしダメじゃない?」
そっかー……というか、ペンシルゴンは何をしているんだ? さっきから天秤とウィンドウを互に見て何かしているようだが。視線に気づいたのか、ペンシルゴンはニヤリと笑みを浮かべる。
「これは「対価の天秤」っていうユニークアイテムでね、ちょっと頑張って説得して借りて來たのさ。効果は……おっと不味い、十分経過だ」
「オイカッツォ! 時間だ代われ!」
ダメージが通らないことは百も承知、ヘイトを奪うことが目的だ。オイカッツォを追う背中に、ヒット數が上がった刺突スキルであるドリルピアッサーを叩き込み、オイカッツォの離を確認して墓守のウェザエモンへと視線を向ける。
「第二ラウンドだろ? 出せよお馬さんをよぉ、ウチのプロゲーマーがロデオの練習臺にするからよ」
「…………質量転送(エクスポート)・及び展開(サモンコール)、戦機馬【騏麟】」
あまり聞き続けたいものでもない錆び付いた聲がそう唱えると同時に、四人しかいないフィールドの空白に幾何學模様が展開される。
それは足元から3Dプリンターで質を形するかの如く、巨大質量をこの場へと転送(召喚)する。
「馬……?」
「形狀的にはそうとしか言いようがないし」
「足の生えたダンプカーだろどう見ても!」
「私それ言ったよねぇ!?」
召喚を終えると同時に墓守のウェザエモンが攻撃を再開した為にその姿をちらりと見ることしかできなかったが、それだけでも「足の生えたダンプカー」の例えが決して誇張ではないと理解できた。
なんだありゃ、五メートルは軽く越してるぞ。オイカッツォの奴、大丈夫か……?
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