《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》剎那に想いを込めて 其の十九

まず最初に、投げ捨てた兎月【上弦】と【下弦】の回収。湖沼の短剣【改二】や帝蜂雙剣では押し負ける、切り札になり得るのはアレしかない。

「タイミングは……今!」

火砕龍(かさいりゅう)から灰吹雪(はいふぶき)へと繋がるこの一瞬、完全に墓守のウェザエモンがその場に固定される技を最速で抜け出し、俺は地面に突き立った【上弦】へと走る。

「まずは一本回収!」

「大時化(オオシケ)」

「はっはぁ! 道雲(にゅうどうぐも)以外ならデレ行だぜ!」

墓守のウェザエモンの脇下を潛り抜け、下弦へと走る。背後を見ている時間はない、奴がご丁寧に宣言する技名から展開を予測しろ。

「雷鐘(らいしょう)」

「ありがとぉう!」

最高のデレ行だ、ノッてるよ今! 全力疾走する俺の背後を雷が連打で著弾し、その隙に俺は【下弦】の位置へと到達、回収する。とりあえず第一段階はクリアだ……よし、溜まってる(・・・・・)な。すぐさまインベントリに兎月をしまい込み、蘇生アイテムを握りながらスキルを確認する。

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(殘り百秒、殘機は四……へっ、結局耐久戦かよ、燃えてきた)

先の見える耐久戦ほど心躍るものはない。ボスキャラとの我慢比べ、ラストスパートにしてデッドヒート。表現はなんでもいい、今の俺はこのあと寢込むことになっても限界まで頭を酷使するぞ。

晴天大征(せいてんたいせい)は三十秒間のラッシュに天晴(てんせい)で〆る一連の流れを指す。技というより発狂モードと言うべきか……ともかく、限界まで時間を引きばして百秒を稼ぎ出す。

「覚悟しろ墓守のウェザエモン、死んでも(・・・・)俺に付き合ってもらうぜ」

「雷鐘(ライショウ)」

雷を避け、即死の居合をかわし、命を摑む掌をいなす。そして訪れた三十秒。ウェザエモンは俺の眼前へと迫り、太刀を振り上げる。

「來たな……!」

「我が窮極……【天晴(テンセイ)】」

ここで功する必要はない、來たるべき時の為の予行練習……遠慮なく死んでやろうじゃないか。セルフ蘇生の準備を終え、俺は素手のまま振り下ろされる太刀へのパリィを敢行する。真橫からフックの形で俺の拳を太刀へと重ねんとかす、このタイミングで拳がここならもうし早くかさなけれあばぁ

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「うおおリスポーン!」

「晴天大征(セイテンタイセイ)」

「別にそこまで頑張らなくてもいいのよ……おっと危ない」

さぁ次のセットだ、殘り九十秒!

サンラクとウェザエモンとの戦闘が佳境に突したと同時刻、オイカッツォとペンシルゴンによる騏驎甲冑との戦いもまたクライマックスを迎えていた。

「いやまさか腹を砕いたら中からビーム砲出てくるとは思わないよねぇ!?」

「お様で発狂モードだよどうすんのこれ!?」

ペンシルゴンによるダメージの積み重ねは騏驎甲冑の堅牢な裝甲をついに打ち破り、腹部の裝甲が隠していた中出した……のだが、現れたのは莫大量の熱を撒き散らすビーム砲であった。

さらにビーム砲の展開は騏驎甲冑自の切り札であったらしい、縄を引きちぎり、全の武裝をやたらめったらに開放し始めた騏驎甲冑。ミサイルとレーザーが吹き荒れる臺風の目と化した巨人を距離を離しながら眺めつつオイカッツォとペンシルゴンはさてどうしたものかと思案する。

「唯一の救いはヘイト関係なく暴れてるから距離さえ離せばこっちも休憩やら準備やらできる事だけど、下手したらサンラク君の方にしかねないね……」

「だとしたらやることは一つ、あの発狂アーマーが黙るまでやるよペンシルゴン」

「はいはい。で、何か策はあるわけ?」

オイカッツォほど表には出していないが、ペンシルゴンもまた同じ気持ちを抱いている。大局的に見ればウェザエモンさえなんとかすれば戦闘自は勝利と言える。だがここまで追い詰めたものを諦めろと言われ、ハイわかりましたとれられるほど諦めの良い二人ではない。そして二人が騏驎甲冑を倒すことを諦めない理由はもう一つ。

「俺の予想では「俺が一人でユニークモンスターの本を抑えていたのに高々でかいだけの機械の馬も倒せないんですかぁ?」と見た」

「私的には何も言わず鼻で笑う、かな」

恐らく相當腹の立つ顔をして鼻で笑うクソゲーマーの姿が二人の脳裏にありありと浮かぶ、なにせ自分が向こうの立場であれば同じ事をするという自信がある故に。

「時に閣下、わたくしめに名案がございまする」

「聞こうか軍師殿」

「とりあえず私が……」

ペンシルゴン発案の作戦とは、おふざけをれる隙間のない場合(今回の墓守のウェザエモン討伐戦のような)を除き、ほとんどの場合において「ロクデモナイ」が頭にくっつくものが殆どである。それ故に、ニマリといつもの笑顔を浮かべながら説明した「騏驎甲冑を一撃で屠る必殺の策」を聞いたオイカッツォは非常に複雑な表を浮かべつつも、それを承諾する。

「ちなみにカッツォ君、縄は殘ってる?」

「さっきの発狂で全部一撃破損だよ、元々耐久の低い武種とは分かってたけどもうし頑丈にしてほしいよ……」

「ネタバレだけどテンバートで現時點で最高耐久の縄武作れるよ」

「ははは、今使えないんじゃ絵に描いた餅より価値がないっての!」

最後の一つとなったMP回復のポーションを一気飲みしたオイカッツォは何度目かも分からない自己強化を行い、ペンシルゴンは殘りの槍のストックを確認し、その中から一本を取り出す。

「ああ勿無い勿無い、これ一本作るのにどれだけのお金がいるのやら……確か百萬は越えてたかな。まぁ私のお古だから使い潰すのに抵抗は…………ないよ! うん、ない!」

「葛藤が見えたねぇ……よっしゃ、やろう!」

そして最後の作戦が開始される。ミサイルとレーザーによって荒れ果てた地面、黒い月が白い夜空を照らしている中でも漆黒を維持している騏驎甲冑の影。その持ち主の大きさと同じく巨大なそれに投擲された槍が突き立てられる。

「汝、い留めしもの。我、繋ぎ止めしもの。萬象に寄り添い、しかして相容れぬ萬有の黒を穿つ。【黒楔の槍(シャドウ・ウェッジ)】!」

「フル詠唱だと威力に補正るんだっけ?」

「普段はやらないけど、今回は1%でも確率がしいからね……!」

ブロークン・シェルと同様に武そのものの耐久度を消費する魔法である黒楔の槍(シャドウ・ウェッジ)、その効果は敵の影に刺すという制限こそあれど、影の持ち主のきを文字通り完全に封じる、というものだ。

とはいえ、実裝當初はゴブリンだろうがワイバーンだろうが問答無用で縛る効果があまりにも強力であったために弱化が施されたという過去もある。

「このサイズだと、保って五秒! チャンスはこの一度だけだよ!」

「オーケー! タイミングはこっちで合わせるから、外すなよ!」

騏驎甲冑の狂奔が完全に停止した數秒、二人は同じ目的のために異なるきを取る。オイカッツォは騏驎甲冑へと薄し、ペンシルゴンは逆に距離を離す。

「こいつで私の武は盡きる……最後に殘ったのがこれとはまた何とも運命的というかなんというか」

ペンシルゴンのインベントリに殘った最後の槍、必要素材の全てがプレイヤーよりも巨大なモンスター由來という銘通りの素材を要求する異なる武種なれど同じ名を持つシリーズの一つ……その名も「巨人殺し(ジャイアントキリング)・串刺し(スキューア)」。

名前の通り、プレイヤーよりも巨大なを持つモンスターに対してダメージに補正のる槍である。

「頼むよ巨人殺し(ジャイアントキリング)……お前に託すよ!」

右手で巨人殺し(ジャイアントキリング)・串刺し(スキューア)を振りかぶり、狙うは騏驎甲冑の出した腹部砲塔。

「ほんと、何もかもドラマティックだなぁ……「乾坤一擲」!」

それはまさしくペンシルゴンの今の心そのものであり、投擲スキルの名前でもある。持ちうるすべての力を込めてペンシルゴンが放った重厚な槍がエフェクトの尾を引きながら空を裂き、騏驎甲冑へと飛翔する。

そして投げ放たれた巨人殺し(ジャイアントキリング)・串刺し(スキューア)の穂先が著弾する寸前、それに追隨する影一つ。

「赤、青、黃……三混合【拳気・過重黒衝】!」

ほぼ同時に起きた複數の出來事を順番に並べたならば、このようになる。

まず、最初に黒楔の槍(シャドウ・ウェッジ)に用いられた槍が砕け散り、騏驎甲冑の拘束が解ける。

次に拘束が解除され、攻撃に転じようとした騏驎甲冑に投げた槍が命中。しかしながらその攻撃は決定打には至らない。

そして槍の著弾とほぼ同時、オイカッツォが持ちうる最高火力が巨人殺しの石突きを毆りつける。

「名付けて人力パイルバンカー!」

「いい加減……沈め伽藍堂(ガランドウ)!」

本來はペンシルゴンのSTRを參照し、貫通力を得る筈の槍はオイカッツォという二段目のブーストをけてさらに奧へ奧へと騏驎甲冑を穿つ。無理な運用、裝甲ほどではないにしろ堅牢な騏驎甲冑のを進む負荷に槍全に亀裂が走る。しかしながら確かに巨人殺しはその名の通りの結果を遂行した。

騏驎甲冑の背よりひび割れた穂先が顔を覗かせ、騏驎甲冑のきが停止する。そして発。巨人殺しは砕け散るが、明らかに許容できるレベルではない発に、二、三度痙攣するかのようにを震わせた騏驎甲冑は最期に手をばし……崩れ落ちた。

「……疲れ、たぁ」

過重黒衝の反により戦闘不能な狀態までが弛緩したオイカッツォが地面にへたり込み、大きく息を吐く。ペンシルゴンもまた肩から力を抜くが、本命が終わっていないと気を引き締めてサンラクの方へと向かう。

(サンラク君はまだ生きてるけど……逃げている? 何故、時間稼ぎ……そうか)

間斷なく猛攻を仕掛ける墓守のウェザエモン、そしてそれを避ける……否、逃げて(・・・)いるサンラクを見たペンシルゴンは數秒の思考を経て、彼が今最も求めているであろう問いを投げかける。

「サンラク君! 何秒要る(・・・・)!?」

それに対してサンラクの答えは単純、しかし明確なものだった。

「あと五十……いや二十秒!」

「スイッチ!」

「できるのか!?」

「やるんだよ!」

次でウェザエモン戦は決著です。

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