《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》12月??日:裝備の強化は己の強化

「……【長せよ(Growing-up)】!」

深夜の樹海に響くの聲に呼応して、地面に埋め込まれた水晶の弾丸が急速に長を始める。

「わ、凄い凄い! 本當これいい武だね! ねっ? イスナちゃんもそう思うでしょ?」

樹海を構する決して細くはない大樹の幹に突き刺さった水晶柱を見てはしゃく……もとい、ヒイラギにゴルドゥニーネが一人「イスナ」は半目でその様子を眺めていた。

「いい拾い(・・・)しちゃったなぁ~、どうせならもっと派手にぶちまけてくれればよかったのにね? ね?」

「ま、あンたが多強クなるナらナンでもいイけどネ」

”臆病”で”卑劣”なゴルドゥニーネであるイスナにとって、その力の由來がなんであろうと知ったことではない。それが自分に牙を剝かず、それが自分の安全に貢獻するのであるならば殺人鬼とだって手を組む。それがイスナの人(蛇)生哲學であり、信念だった。

を言えば自分の存在を隠すほど悪目立ちするような人であることが理想であり、隠からの暗殺を主とするヒイラギに対してそこだけは改善を要求したい點であったが……それを差し引いても己を脅かしうる脅威に目敏いヒイラギは相方としては上等な部類であった。

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「うふふふふふ、こぉーんな凄いアイテムを誰にも言わずに隠し持ってたなんて、サンラクって卑怯だよね? ね?」

「あンたダって大概ズルイじゃナい」

「え? どこが?」

「……………」

全く心當たりがない、と言わんばかりの済んだ眼差しを向けられれば如何に人型なれど異形の本を持つゴルドゥニーネ(イスナ)とて「ああこいつには話が通じないんだな」と理解することは出來る。とはいえ前述の通り、イスナは相方の人間を重視しない。そして確かにヒイラギが手にれた二つのアイテムはまさしく「強化」と言ってよいだけの力をヒイラギに齎していた。

「最初スっ転んだときはバグかと思ったけど、挙を過剰にするなんて……格好も変態なら使うアイテムも変態なんだね、ね?」

封雷の撃鉄(レビントリガー)・災(ハザード)。

使用者の挙を過剰なまでに……一歩踏み出すだけでサマーソルトキックに変化しかねない程の過剰な挙強化をデメリットとして、様々な恩恵を備えたアクセサリー。いくつかの戦利品(アイテム)は既に売り払ったヒイラギであったが、煌蠍の籠手(ギルタ・ブリル)とこれだけは手元に殘していた。

ヒイラギのスタイルは隠形で接近してからの一撃必殺。凄まじい一撃を放つことが可能な煌蠍の籠手はこれまで苦手としていたタンクを仕留める際に大きく貢獻するし、封雷の撃鉄・災は挙過剰化にさえ慣れれば攻・防・逃のあらゆる狀況に役立つ萬能のアクセサリーとなるだろう。

とはいえ、能的な理由もあるがヒイラギがこの二つを手元に殘した理由はこれらが「オンリーワンであろう裝備」であると見抜いたからだ。ヒイラギの辭書に「自己を省みる」という概念は存在しない。ユニーク武を保有していたサンラクを卑怯とせせら笑うことはあっても自分が同じことをすることに対する躊躇いも葛藤も無い。

何事においても自分は例外、自分は特別………ともすれば社會に排斥されかねない傲慢さを振りまきながらも見目の良さと、スライムよりもで鋼鉄よりも強靭なメンタリティで乗り切ってきたこそがこのヒイラギであった。

そしてここはシャングリラ・フロンティア。つまるところただのゲーム(・・・・・・)である。百人暗殺して百回被害者の裝備を借りパクしたとしても、結局のところはゲームでしかないのだ。

それにシャングリラ・フロンティアではPKがシステム上許容されている、許されているならばしてはいけない道理は無い。そういう點ではPKそのものを楽しむアーサー・ペンシルゴンやサバイバアルに近いメンタリティでありつつも、PKによる利益を目的とするオルスロットにも近い、という阿修羅會に所屬していたプレイヤー達をカテゴライズする要素を全て濃したようなプレイヤーこそがヒイラギなのだ。

そんな當の本人であるヒイラギは、しばらく何かを考えこんでいたが薄暗い笑みを浮かべながらイスナへと問いかける。

「ねぇイスナちゃん」

「ナによ」

「そう遠くないうちに……あのゴルドゥニーネ? の大攻勢があるんだよね? ね?」

「そウネ、気配ガするノヨ………クラい、くラい、殺意の気配ガね……」

「別にイスナちゃんの気配とか悪寒とかはどうでもいいんだけどね? ね?」

「………………」

「多分あの時あのゴルドゥニーネと戦ってた人たちってぇ……その決戦にも參加するよね? ね?」

にやり、と笑みを浮かべるヒイラギにイスナは數秒ほど怪訝な表を浮かべ………まさか、と目を見開く。

「アンたまさカ……マた狙うツもり?」

「だってぇ~、まだまだいっぱいアイテム抱えてるんでしょ? だったらもっとつついてみたいよね? ね?」

ヒイラギのプレイヤービルドは一撃必殺型であり、それと同時に死を踏まえた上での生存型という特殊すぎるPK特化の構築だ。それはタネが割れるまでPKのリスクを実質的に無効化できるということだ。

ヒイラギの目に「」の一文字が浮かんでいるような笑みに、しかしイスナはそれを咎めるようなことは無い。結局のところ、イスナもイスナで自分さえ安全で無事ならば他の何がどうなってもいいのだ。

「早速準備しないとねっ、ねっ! 奇襲ポイントとセーブポイントを確保してぇー………うふふふふ、私の(・・)煌蠍の籠手なら一撃で消し飛ぶよね? ね? どうせ出狂の変態のままだろうし!」

我が世の絶頂、とばかりに再暗殺計畫を立てるヒイラギ。その顔はまるで夏休みの計畫を立てる小學生のように無邪気なものであった。

……

…………

………………

時に、「塞翁が馬」という故事語をご存じだろうか。

とある老人が飼っていた馬が逃げたと思えば、その馬が実に立派な別の馬を連れてきたり。その立派な馬に乗っていた息子が落馬して足を折ったかと思えば、そのおかげで戦爭に行かなくて済んだり…………要するに人生の吉兇は定めがたい、という意味の言葉であるがその由來を見れば同時にこうも思えないだろうか。

幸運は長続きしない(・・・・・・・・・)、と。

「…………へぇ?」

ヒイラギでも、イスナでもない第三者の聲。高い周辺探知能力を持つイスナの警戒を潛り抜ける隠形ので気配を殺し、羽織を樹海を吹き抜ける風に揺らしながら聞き耳を”立てる”人──────

その後ろ姿には、楽しげに揺れる狐の尾があった。

いやほら、だって天が…………

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