《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》12月1?日:男と生まれたからには誰でも一生のうち一度は夢見る地上最強の───

……うん。イムロンから話だけは聞いていたんだ。話だけは。

───こと、防に於いては自分よりも上のプレイヤーである、と。

「素晴らしい…………鉱石を繊維化する技………そんなものが存在していたなんて………っ!」

………うん。サバイバアルから話だけは聞いていたんだ。話だけは。

───奴はたった一本(・・)だけの”癖(きば)”のみでこのゲームの最強防論爭を終わらせた男、と。

「技量(テクニック)にばかり目を向けて、現狀の素材に満足しているようでは………ふっ、まだまだ未という事か………やはり果ては遠い」

そしてそんな人が、ウィンプの為に防を作ってくれると聞いたとき俺は普通に思ったのだ。

───あ、じゃあせっかくキャッツェリアにいるんだし「寶石匠」のスキルで作られる鉱石製の布を持って行ってあげよう、と。仮にウィンプの防に使われなかったとしてもまぁ謝のしるし的なじで……と。

「ありがとう………言葉にすれば數千數萬を超えるようなを、この五文字に込めよう……っ!」

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その結果、現在俺は何故かメイド服を著たごついナイスガイに泣きつかれながら謝されていた。

うーん、分かってた! メイド服しか作らないのにイムロンより"上"って本人が認めるような執念と誰も呼んでないのにウィンプにメイド服作りにやって來た、って時點でああ多分エタゼロ的な出會いなんだろうなぁとは分かってた!!

だってこのゲーム、マトモな廃人の比率を7だとすると3くらいの確率で常人とは違う尺度の執念で廃人やってる奴がいるからな……このエリュシオン・オートクチュールなる人もその三割側だったということだ。

「寶石織!! 一見、布とは…繊維とは相反する存在である鉱石を手繰り、編み上げる……っ! なるほど盲點! シルクレット・ビーからの絹(シークレット・シルク)が生まれるように……っ!! 既存常識の埒外にこそ発見はある、それを失念していた………」

この手のタイプは厄介だ、自分の世界に浸ってるんじゃなくて「相手も自分の世界にいる前提」で浸っているのでいつ話しかけられるのか分かったものではない。ラブクロックとはまた異質な強襲型コミュニケーション……聴覚はひとまずこの彫刻のような顔付きに丸刈り+クラシックなメイド服という絶対に噛み合わないはずの屬が何故か噛み合っているエリュシオン氏を意識しつつ……視界はこの地下グラウンド? らしき場所で特訓をしていたという著せ替え隊のメンバーとその中心にいる者……ウィンプへと向ける。

「はい、うごきません。さいすんでからだをよじりません、にげません。おそいません。よくわからないけどあったかいふくがいいです……」

これゲームがゲームなら主人公キャラがブチ切れながら敵に突撃するタイプの狀況やぞ。

死んだ目をしてボソボソと何かを呟きながらマネキンに徹しているウィンプを半目で見た後に著せ替え隊の連中を更に細めた目で睨みつける。奴ら目を逸らしやがった。

サバイバアルとカローシスはまだキャッツェリアだし、ヤシロバードは嬉々としてリヴァイアサンに直行。十中八九ついてくるだろうなぁ……と思っていたディプスロは意外なことに「別件がある」とどこかへ転移していった。

ので、今ここにいるのは俺だけ………サバイバアルだけでも連れて(引きずって)くるべきだったかな。

「あー、まぁなんだ。ウィンプ用の裝備を作ってくれるって事ならありがたい話だし、折角だからと々持って來たんだけ、ど………」

「サンラク君」

「あっはい」

しまった、渡すもの渡してさっさと話題を変えようとしたのに好度が上振れ過ぎた(・・・・・・)。

俺が用意して來た鉱石織によって製されたレア寶石布のロールを震える手でけ取ったエリュシオン氏はそれを丁寧に(インベントリにしまえばいいのにわざわざ布を地面に敷いてその上にそっと置く丁寧ぶり)置くと、食獣が獲に飛びかかるが如き勢いで俺の両手を己が両手で握りしめた。

「私の、パトロン兼モデルにならないか………!?」

………………なんて?

パトロン、パトロン。要するにスポンサー的な? まぁ言わんとすることは分かる、要するに裝備作るから素材を用意してしいってことだろう。イムロンやビィラックに対するスタンスもパトロンと言えなくもない。

で、その上で今なんつった? 何と兼ねろって?

「君の噂はかねがね聞いている。數々のユニークモンスター討伐に関わり、ネカマの北極星であり、アイドルプロデューサーであると……」

「えっ、風評被害?」

いや、反的につぶやいてしまったがよくよく考えながら己の行いを省みるとそう呼ばれる心當たりがなきにしもあらず……いやネカマの北極星ってどういうこっちゃねん。あれか? 指標って意味か?

「より多くのプレイヤー……否、このゲームのAIならばNPCにすらメイド服の""を啓蒙するにはまさしく星の輝きの如きモデルが必須……そう、例えば征服人形の中でも屈指の人気を誇るエルマ型、さらにそのシンボルとも言える「サイナ」……そして、」

エリュシオン氏が表示したのは一枚のスクリーンショット。

そこには、R.I.P.を裝備した狀態のプレイヤーが墓標の剣の上に立つ姿があった。

「───神の最高傑作たるメイド服が似合わない生は存在しない。勿論、喪服が似合う君もだ」

たすけてうぃんぷさん! ごるどぅにーねぱわーでおれをたすけて!!

「どうにさすなら、はものはよこでさす……たてだとろっこつにひっかかるから……」

実戦的、の意味がアクションじゃなくてサスペンスじゃねーかそれ。

・最強防論爭

シャングリラ・フロンティアにおいて最強の防とは

レア鉱石を用いた防である

強力なモンスター素材から作られる防である

素材はなんでもいいから付與効果の優れた防である

の三派が生産職を巻き込んで起こしたサービス初期に発した大論爭。

この論爭に乗じて生産職にタダで防を作らせる、などの悪質な被害もあったが最終的に三派の提唱する「最強」の條件に合致するもの、合致しないもの、部分的に合致するものなど合計20著の「メイド服」をエリュシオン・オートクチュールが作ってみせたことで「結局のところ腕(ここ)が全て」と完全論破した。

「メイド服のやべーやつ」ことエリュシオン・オートクチュールの名はこの事件を機に広く知られることとなったが、戦級メイド服「武凜(たけりえ)」の発表を最後にその姿を消すことになる……

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