《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》12月17日:メラメラ・ビートアップ Part.9
戦機球ボールメン、機名「屏風ノ虎(スクリーンティガー)」。
規格外戦機虎【白虎】のコンセプトを継承した「屏風ノ虎」は吸引及び排出する質を問わない白虎とは異なり、魔力のみをその対象とするダウングレード版と言える。だがそれだけ(・・・・)だ、白虎が可能とする吸引、圧、そして排出……攻撃や機に転用するだけではなく、魔力のみを干渉対象とするからこそのテクニカルなきは本家の【白虎】となんら遜はない。
それはまさしく、実在する虎を巧に描いた屏風の如く。真に迫った完度は本に限りなく等しい印象を與えるものだ。
「魔力圧(マナチャージ)!」
『了解(ラジャー)』
無機質な返答が強化裝甲(パワードスーツ)を通して機巧の虎からオイカッツォに返される。
外的質を吸引する白虎とは異なり、本に搭載されたリアクターチャージャー……本來は力源にエネルギーを供給することで活時間を延長するユニットからエネルギーを吸引して腕部で圧を開始する。
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「じゃあちょっと背中に行ってくるよ、ペッパーは顔レーザーに気をつけつつ下から顔面狙って!」
「分かったわ!」
魔力の圧作業を続けながらも、各部の駆系を唸らせながら走りだしたオイカッツォは焠がる大赤翅の手足に群がるプレイヤー達を跳び越えてその巨大な赤子の腕に「爪」を突き立てる。
「外付けならセーフセーフ………っと」
それは虎の”爪”(クロー)ではない。
それは虎の手を彩る外付けの”爪”(ネイル)。
白虎を模倣するために戦機球「屏風ノ虎」本には一切の武裝が搭載されていない、それ故にその機構(システム)以外で戦うためには戦機に依らない武裝が求められる。
今使っている「攀爪(ハグ・ネイル)」は爪による斬撃ではなく、対象に食い込み食いつくことで離れないようにする機能を持つ。即ち、己よりもはるかに巨大な困難にしがみつき登り詰め、そして乗り越えるための武だ。
らかな、しかし食い込みこそするが貫けない程度に度のある焠がる大赤翅の表皮に爪を突き立てながら勢いよく上を目指していたオイカッツォだったがふと気づく。
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───妙に左腳が重い、と。
戦機と合した狀態のプレイヤーは強化裝甲のアシストによって人間離れした膂力を発揮する。その上で左上にじる重さという違和、それは泥がついたとか足が攣ったとかそんな些末な問題ではなく………何か重いものが左腳部に加算された、ということに他ならない。
よもや焠がる大赤翅の表から何か雑魚敵でも湧いたか、と場合によってはチャージの途中ではあるが攻撃するか、と片腕で自重を支えつつももう片方の手を左足に向けて突き付ければ。
「相乗り良いか?」
「うわびっくりしたぁ!?」
そこには、ものすごくいい笑顔をした五歳児相當の見た目をした人男(エターナルゼロ)がさながら子泣き爺の如く左腳に抱き著いていた………思わず振り落としそうになったのを堪えきったのは奇跡に近いだろう。
「ちょっ、怖いんだけど!?」
「悪(ワリ)ィな。自力でよじ登るよか早そうだったんでな」
思わずきを止めたオイカッツォの左足からするすると背中まで登ってきたエターナルゼロは、そのままおんぶの形でしがみつくと真上……這い這いの狀態である焠がる大赤翅の背中を見據える。
「四肢を毆るのは耐崩しって面では有効かもしれねぇが所詮は末端、本的な打倒を目指すなら方面に行かなきゃならねぇ」
「まぁ、そうだね。これ(・・)に赤ちゃんの……っていうか人間の常識を當てはめていいのかは分からないけど、腕よりは心臓辺りとか頭を狙った方が効果がありそうだ」
シャングリラ・フロンティアは既に剣と魔法だけの世界ではない。たとえHPが盡きたならば自の財をその場にぶちまけてしまうとしても「だからこそやる」と言わんばかりに己の全力を持ち出す者はいる。
「戦機乗りがここぞとばかりに群がって來たぜ」
「ここぞ(・・・)までたどり著けたなら上等だよ。なくともレイド戦にラストアタック報酬は無い、だったら百人でも二百人でも増えれば増えるほど都合がいい……!」
誰が最後に攻撃してもいい、ただ倒せばいい。そういうところは良心的なんだこのゲーム……と心の中でつぶやきつつも、オイカッツォはエターナルゼロを背負って揺れる焠がる大赤翅の腕にしがみつきながら上を目指す。上空には遅參した……あるいは溫存していたそれを使うことに踏み切った戦機乗り、それも飛行能力を搭載した強化裝甲達が四つん這いの焠がる大赤翅の背中を、あるいは後頭部を攻撃する。
視線を橫に向ければ、遠距離砲撃型のレーザーが魔法に混ざって焠がる大赤翅に命中しているのが見えた………焠がる大赤翅がこの姿になったことはオイカッツォにとって想定外も想定外であったが、逆にこの規模になったからこそプレイヤー達の參加意が刺激されたのだ。
「よしよしよし……!いける、いけるぞ……!」
「フラグっぽいぜそういう言葉」
「ゲームにあるのはイベントフラグだけだよ!」
「いや…………」
強化裝甲のヘルムにさらに重ねる事の「屏風ノ虎」のヘッドパーツ。視覚アシストがあるとはいえ今まさに上を目指して猛進するオイカッツォはエターナルゼロの表を気にしてなどいない。故に、何故エターナルゼロが半信半疑、といった表をしていたのかを……聞かなかった。もし聞いていたなら、エターナルゼロはこう答えていただろう。
「焠がる大赤翅はそもそも力が盡きることがあるのか?」と
かつて神代における「天才」と謳われた科學者は量産型ではなく技の粋を一點に集中させることで生存競爭に勝利しようとしていた。それはなぜか…………怪は學び(・・)、慣れる(・・・)から。
この世界は………否、この時代は一人の男によって支えられた薄氷の時代だ。氷の下には……それ以前の時代の法則(ルール)そのものが死んで(眠って)いる。そして今、薄氷の上で暴れている怪たちはその怪から這い出て來た存在だ。それも、これが初めてではない。
「Daaaaaaaaa………Vuuuuuuuuuummmmmmmmmmm……………!」
結論から言おう。焠がる大赤翅という存在はほぼ完全な(・・・・・)不老不死である。
シンプル過ぎる思考能力は劣化せず、そして盡きせぬ力は滅びない。そもそも持つもの、力持つものの闘爭とはリソースの削り合いに他ならない。であれば焠がる大赤翅が敗北することなど萬が一にもあり得ない。
勝利とは、最善の結果を指した言葉だ。そして”結果”というものは素材を問わない。無であれ、味方九割損失であれ、世界の崩壊であれ。その結果に至った者にとって不都合であれば敗北であり、好都合であれば勝利なのだ。
シャングリラ・フロンティアは背景(バックボーン)をこそ重要視する。その権化こそがユニークモンスターであり、対してレイドモンスターは比較的シンプルな力比べによる勝利を目指すコンテンツだ。
だがそれはただ考えなしに攻撃すればいいというものではない。ただ毆りつければ勝てるというものでもない。
サードレマを襲撃した彷徨う大疫青が真の姿を曝した時、無限に強くなり続けると思われたその実態が「攻撃に対してそのワンランク上のカウンターを仕掛ける」という能力だと暴かれた時のように。
貪る大赤依の真の正が擬態する群であり、擬態した個を討つのではなく総を削りきる事こそが重要であったように。
人類(プレイヤー)は見つけ出さなければならないのだ。最善の結果を、この戦いにおける勝利條件を。
Q.HPが絶対盡きない敵Mobとか倒せないですよね?
A.”擬人相”ってつまりどういうことなのかよく考えてください、完全再現=完全無欠ではないのです。
彷徨う大疫青の第三形態は第一形態のレベルが高いほど減値が上がるHP上限削りの病結界と第二形態の攻病攻撃に加えて、攻撃対象のレベルに応じたカウンター能力を発現していたのですが対高レベルに特化していたのでレベルを下げてしまえばしょぼいカウンターしか飛んでこないんですね。
「自分を害せる者は強者である」という理念と強者を殺すことに特化しすぎて弱者の群れこそが彷徨う大疫青の天敵なのです
だから初心者向けレイドモンスターとしてサードレマに突撃させるね…………
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